• 先日最後の救急科勤務を終えた。この時期は多くのスタッフが休暇に行くのも理由なのか、また待ち時間が9-12時間になっていて、最後の勤務も大変だった。

    その後3日間の内科当直(Take)をした。私が救急を去って以降に大幅な人員配置の変更があったようで、私がいた頃には10時以降はレジストラ2人とSHO2人の4人で、救急車も外来も診るシステムだったのだが、今は、コンサルタントが0時までいる代わりにレジストラ1人とSHO2人の3人で働いているらしい。効率が悪いように思うのでそのうちまた元に戻ると思うが、このおかげで私の内科当直時は内科入院がほとんどなくて、2週間の休暇後のリハビリにちょうどよかった。冬場の救急は本当に過酷だったので心身の健康を壊しそうだったが、圧倒的に成長したのでいい経験にはなったと思う。もう英語での問診も慣れたものだし、当初は聞きながら次の質問を考える作業が英語でできなくてラップトップに聞いた内容を記載しつつ質問を考えていたのだが、今は問題ないので先に問診も診察も全部終わらせてから記憶に沿ってカルテ記載できるようになった。

    それでも、研修医時代の同期が遊びにきてくれた時に1日中日本語を話した直後の勤務では、英語に混じって突然日本語が紛れ込むことがあって、自分でも驚いた。友達と話していて日本語がもはや出てこないことが何度かあって、英語は英語が母語の人に遠く及ばないのに日本語も不自由になってきて少し先行きを心配している。

    英国ではdrink possibly spikedといった主訴の人が定期的にくる。クラブで飲み物に薬物を入れられるのはよくあることのようだ。日本では見たことないように思うが私が繁華街の近くで勤務してなかったからだろうか。以前に多発性硬化症の人をよく見かけると書いたが、潰瘍性大腸炎の人もよく見かけるので、もしかして有病率が高いのだろうかと調べてみたら、案の定非常に高かった。何も考えないで診療していても気が付くくらい日本とは遭遇の頻度が違う。

    そういえば救急科には時々囚人が来ていて、州内に刑務所があるのだろうと思ってはいたのだが、実際徒歩圏内にあるようで驚いた。歴史ある刑務所で、かつてはハンガーストライキをするサフラジェットの女性が無理やり摂食させられその経験を本にしたなど特に女性の著名人が複数収容されていたことがあるらしい。日本と関係のある人もいたようだ。あまり美しくない平凡な田舎町と思っていたけれど町の歴史に興味が湧いた。ちなみに英国の全ての刑務所はHM地名、という名前で、HMはQueenの頃はHer Majesty、今はHis Majestyの略称らしい。

    ついにこのタトゥーも見かけた。囚人は常に護衛2-3名と一緒に行動し両手を鎖で繋がれていて、いかつい形相だが、感じのいい人が多い。護衛はだいたい静かでいい人たちだが、冬の12時間待ちのA&Eでは「いつ頃診てくれるんだ!」とコンサルタントに圧をかける人も見かけた。刑務所には精神科医は常駐しているようだが検査が必要になると当院へ来院するらしい。

    また就活を始めて、今度はロンドンも視野に入れているのだが、同期に「ロンドンの知り合いの研修医はみんなバーンアウト寸前か鬱病になっている」と言われて恐れ慄いている。冬のA&Eみたいな感じなのかもしれない。就活が終わったら、誰かの役に立つかもしれないので面接のことなどもまとめてブログに書きたいと思う。

    英国では日本よりも病欠が普通なのだが、突然の病欠の場合には残された人数で仕事をカバーしなければならない。ところがニュージーランドには、欠員補充専門の医師がいるそうで、その存在のおかげで、いつでも好きな時に休暇が取れるし病欠で休んでも同僚の負担が大きくならないらしい。仕事も英国よりはゆっくりしているらしく、英国で燃え尽きた医師がニュージーランドに移住するのも頷ける(同じ免許で働ける)。何度か触れているが、どうしても英国がいい理由(英国が好きだとか、地理的ヨーロッパに住みたいだとか、家族がこっちにいるだとか)がなければオーストラリアとニュージーランドがおすすめだ。ただ、英国を介してこの二国に行く場合と比べて、直接行く場合には、医師免許試験の準備がより大変でお金もかかると聞くのでその辺は自分で調べて欲しい。

  • 政府が交渉の要求に応じなかったため、今週は研修医(コンサルタント以下全員を指す)による二度目のストライキが起きている。政府は「ストをやめたら交渉に応じる」「35%の pay rise (pay restoration) は不当だ」としてストライキ3日目の今、まだ交渉に応じていない。結果として、350,000件もの診察予定や手術がキャンセルされたようだが、ストが効力を発揮しそうな気配はまだない。

    嘘の情報の流布や、研修医を非倫理的だと非難するコンサルタントのエッセイを掲載する(ちなみにこの医師はNHSのほかにプライベートの病院にも勤務して高収入を得ている外科医なので研修医から猛烈に批判を浴びた)、などタブロイドによる情報操作がひどく、タブロイドの読者や記者はpay erosionに伴う医師数の減少やパンデミックで悪化した長い待ち時間についてどう解決するつもりなのか非常に気になるし、考え方が全く異なる人々がいることに驚く。BBCも前回のストライキ1日目はそれに全く触れなかったなど政府の息がかかっているためこの件についてはあまり信用ならない。

    2回目のストはイースター休暇直後のため、イースター休暇で既にマネジメントが苦しいところにさらに追い討ちをかける形で実施されており、4日にわたるストの影響は甚大だと思われる。

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  • かなり前になるがGP Taster Weekを経験したので雑多な感想だが記録しておきたい。Taster Weekでは、興味のある科を1週間ローテートできる。同期はロンドンの循環器内科でローテートしていたので、必ずしも同一トラスト内でなくても良いようだが、調整が簡単だったので私は近くのGP surgeries (複数・Surgeryという名前だが内科である)を1週間にわたって見学させてもらった。

    怠惰でブログ更新を怠っているうちに救急外来での経験もさらに増えたので、GP  Tasterの話に加えて少し救急外来での話も書こうと思う。

    ※このブログはとりとめのない感想を書くところなので、まとめた方が人の役に立ちそうな内容でもまとめず思いつくままにつらつら書いている。何か特定の事柄について興味のある人は、タグ機能や検索ボックスを利用してうまく探してほしい。

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  • ストライキ

    昨日から3日間、研修医のストライキがイングランドで起こっている。2008年ごろと比べて研修医の給与が26%低下しており、離職(同じ免許で働けるカナダやオーストラリアへの移住や臨床以外の仕事に転職)に伴う医師不足及び燃え尽き症候群や過労が大きな問題となっているからだ。昨今のインフレも相まって、実質の給与削減は26%以上であり、学生ローンの支払いがある1年目研修医だと家賃のやりくりにも苦労すると聞く。学生ローンは給与から天引きされるシステムなので、人によってはスーパーマーケットやカフェの店員よりも安い時給で働いており、BMA(British Medical Association) 史上最高の投票率・支持率を誇ったBMA 主導のイングランド全土でのストは当然の帰結とも言える。今回我々が求めているのはインフレ率も加味した35%のpayriseだ。これを我々はpay restorationと呼んでいる。

    ちなみに英国の研修医はコンサルタント(指導医レベル)以下全員を指し、NHSの医師の60%近くを占めるようだ。

    Tory党はBrexitの口実に「BrexitをすればNHSへの資金が増える」と言っていたのだが、実際のところNHSへの予算は減る一方である。狙いはNHSの解体と医療のprivatisationと言われていて、今冬のA&Eにおける8-12時間待ちが常態化した状況を見れば予算増は喫緊の課題のように思われるのだが、2日目の今、まだ大臣は交渉の姿勢を見せていない。

    救急科は普段はコンサルタントから研修医まで少なくとも一度に10人以上が働いているのだが、スト中は5人程度となっている。私も小雨が降る中ストに参加した(その後雪になり、最後は快晴となったーとてもイギリスらしい天気だ)。ストに応援のクラクションを鳴らす車がたくさん通過した。昨日は1-2人ほど、Go back to your work!と叫ぶ人や、否定的なジェスチャーで応対する人がいたりしたようだが、今日は見かけなかった。ストの主旨に賛同する人が何人も差し入れを持ってきてくれた。

    NHSは危機的状況なのでなんとか賃上げ(というか賃金を15年前の水準に戻すこと)に成功してスタッフが増えるといいなと思う。

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  • 6ヶ月目の日記

    呼吸器内科にいた時のコンサルタントたちがお疲れ会を開いてくれた。参加者は思ったより少なかったけれど、職場の人との飲み会はとても楽しかった。日本では職場の飲み会は悪く言われがちな気がするが、私は結構好きだったので、イギリスでも参加できて嬉しい(パンデミック以前は病棟ごとの飲み会が時々あったようだが、パンデミック後はその文化はほとんど消滅してしまい、私より少し上の研修医もこんなことは初めてだと言っていた)。

    パンデミックまでは、5年間毎年人工呼吸器を新調してくれと頼んでも聞いてくれなかった病院が、COVIDが始まるやいなや「何台欲しい?」とコンサルタントに聞いてきて、「20台」と言ったら翌日に35台の人工呼吸器が届いたと言っていた。当時話題になっていたロンドンのナイチンゲール病院のことも聞いたのだが、これがひどくて、「人工呼吸器が必要な患者に限る」「ただし患者と一緒に看護師も連れてくること」「昇圧剤使用なし、腎機能のサポート不要の患者に限る」とかなり搬送条件が厳しかったそう。作ったものの使用されずに税金が無駄になったと当時大きく批判を浴びていたが、今あの病院はどうなっているのだろう?

    数年前は、呼吸器内科で毎週水曜日の回診後にコンサルタントがbunを持ってきてティータイムがあったそうだ。bunというのはドーナツみたいな食感の細長い生地に砂糖がかかった食べ物で、ドーナツでも通じないことはないが、伝統的な呼び方が好きな人はそれをbunと呼ぶらしい。参考にBBC Good Foodの bunの写真を貼る:

    コンサルタントの金銭的負担が大きいため・研修医の仕事量が多くティータイムの時間が取れないためいつの間にか中止になったそうなのだが、町の高齢者憩いのカフェや患者さんの様子をみていると、ティータイムがいかに英国人にとって大事な時間なのかがわかる。

    患者さん家族が火葬を希望する場合、その書類を書いた医師に82ポンドの臨時収入があるのだが、それをash cashと呼ぶらしい。呼吸器内科、老年内科あたりはash cashの臨時収入が多く、とあるコンサルタントが研修医の頃は、これらの科を回る研修医が、外科などash cashのない科を回る研修医をパブに招いでash cashで奢る文化があり、「これはMr Williamsへの乾杯」「これはMrs Evansへの乾杯」と患者さんへ感謝しながら飲んでいたらしい。ちなみにパンデミックが一番酷かった時期に呼吸器内科を回っていた研修医は、ash cashが給与よりも高かったそう。大変さが窺われる。

    コンサルタントは患者さんと会わないように勤務地から少し遠くに住んで通うことが多いらしい。

    私の病院はとても大きいと感じていたのだが、英国的にはまだまだ序の口の「田舎の小さめの病院」という存在で、ロンドンでは規模がさらに大きいらしい。この規模でも色々なことがギリギリ回っていると感じるので、これ以上大きな組織になったらうまくいかないことが頻発しそうだと思った。参考:

    内科のon callだったときに目が回るほど忙しく 20 patients to be seenだったこともあったのだが、それの鍵を握るのはレジストラ(以下レジ)らしい。レジが強気だと「それはうちじゃない」「その人は帰宅させて」と入院を大量に断るらしく、その下の研修医の仕事が経るようだ。もちろんその反対は、しょうがないか内科だもんなと全例受けるレジで、そういう人がメインのレジだったりコントローラー(忙しい日は入院依頼・受診依頼を受けるだけが仕事のレジがいる)だったりすると研修医も大変みたいだ。最近コンサルタントになったレジの中でもかなり位の高かった元レジのことを研修医が褒め称えていて、自分が内科にいた頃には気がつかなかった視点を得た。

    コンサルタントの元部下で、オーストラリアの都心部のプライベート病院で内視鏡をしている医師は、年間300,000 ポンドの収入があるらしい。オーストラリアは収入もワークライフバランスもイギリスより良いようなので、どこでもいいから外国に住んでみたいという日本出身の医師はオーストラリアがおすすめだ。私はイギリスやヨーロッパが好きだし縁あってイギリスにいるので引っ越すつもりはないが、英国人でもオーストラリア移住を考えている人がたくさんいるし、特に地域的な好みがないなら人にはオーストラリアを勧めたい。古い記事になってしまうが、2011年にはGPの13%とスペシャリストの22%がオーストラリアに行ったようで、今その数はさらに膨れ上がっていることと思う。イギリスで1年働くとオーストラリアでも働けるようになるので、将来的にオーストラリアに行くことを見据えてイギリスに来るのもいいかもしれない(オーストラリアのPLABに相当する試験は受験費用の高さや難易度がネックらしい)。

    妊婦さんが胸部レントゲンをとるときに、昔は鉛の腹巻をしていたそうだが、数年前にそれがむしろ腹部への放射線吸収を高めることが判明して、使わなくなったらしい。そもそも日本にいたときに妊婦さんをレントゲンに送ったことがないので意識したことがなかったが、新しいことを学んだ。

    It was like an old-school night. とある日の朝の引き継ぎで夜勤の医師が言っていた(この表現を知らなかったので勉強になった、英国人と働いていると新しい語彙を学ぶ機会が時々ある)。この頃はニュースでNHSの崩壊ぶりを熱心に報道している影響があるのか、患者さんの数がクリスマス前後よりも少なくて、待ち時間も1-2時間程度になっている。相変わらず廊下に寝ている人はいるし、救急車の列もあるにはあるのだが、救急科勤務を始めた頃の最初の数週間とは比べものにならない。仕事にも慣れてきて、仕事中に「まだ6時間もある…」と思うことは無くなりあっという間に時間が過ぎるようになった。最近shop floorという呼び方も学んだ。診察室などを指すのだが、この表現を疑問に思っている研修医も多いみたいで、敢えて使う必要はなさそうだなと感じた。

    イギリスは抗菌薬の処方に厳しいと聞いていたのに、救急科だと上級医によってはバンバン出している。発熱2日目でとてもウイルスめいた症状のこどもにも抗菌薬を出す。それでも各医師の中で明確な処方基準があれば良いのだが、レジによっては気分で同じ症状の人に抗菌薬を処方したりしなかったりするので、患者さんに説明する立場の私は少しモヤモヤする。

    外国人医師との外国人同士でのコミュニケーションが難しいのはやはり数週間経っても変わらない。最近だと、とあるレジに You should see him. Paeds. You should see him. と言われて、私は「もう診たけど?別の子のこと?1時間後再診予定だけどそのこと?」と混乱していたのだが、彼の意図するところはI will review the child with you. だった。We should see him. と言ってくれればまだ推測が簡単だったと思うのだが、You should see him. から I will review the child with you. を推測するのは難しすぎる。こういう小さなコミュニケーションのズレを毎回繰り返すので結構疲れる。

    当院の non-traumatic limp の小児に関するガイドラインがとても保守的で(全例小児科と整形外科にコンサルト、採血の閾値も非常に低い)、その存在を知らなかったレジがとてもびっくりしていた。数年前に当院でseptic arthritisで子どもが亡くなったらしく、どうもトラストの院内ガイドラインは国や学会の指針だけでなくそういう悲しい個別ケースにも基づいて作られているらしい。そういえば、病院で普通に出くわすあらゆる症状や疾患に院内ガイドラインがあることに勤務当初はびっくりしていたが、今では困ったら機械的に院内ガイドラインを参照するようになった。

    PLAB準備などで英語での診察はある程度訓練しているものの、カルテをかく訓練はしていないので、救急科勤務でカルテを書いているといまだに日本語が浮かんでくる。例えば三角形の形に負傷した人の傷を表現するのに「いっぺんの長さ」を英語でなんというのだろうとか、食塊が食道に詰まったことをなんと表現すればいいのだろうとか(これはfood bolusというらしい、ボーラス投与のボーラスと同じ単語だ)、そんな具合だ。

    小児を診るようになって、称号がMasterの男の子が時々いて、こんなに小さいのにマスターなのか〜おうちが地主で既に土地を所有してたりするのかな?などと思っていたのだが、実はMasterは小さい男の子に使う肩書きらしい。男の子はMisterになる前にみんなMasterを経るようだ。

    英国に来て多発性硬化症の人をよく見るようになって、英国での有病率が気になって調べてみたら、やはり日本よりも多いようだ。しかも日本では英国より症状が軽いことが多いらしい。日本と英国の違いはたくさんあるけれど、特に多発性硬化症の人をよく診ること、ドラッグ・アルコールの問題が非常に多いことと、それから痛み止めにモルヒネをかなり閾値低く使うことが(制度の違いなどを除いて)これまでで一番驚いたことかもしれない。

  • 車を買った。2450ポンドのトヨタの中古車にした。車を買うに当たって、「中古車 イギリス」「10万マイル 中古車」などのキーワードで調べて出てきた上位5つくらいの個人ブログを参考にした。

    イギリスの研修医(ロンドンを除く)にとって車は生活必需品のような存在らしい。というのも、日本と違って英国では3-4ヶ月おきに同じ地域の異なる病院に勤務することが多く、移動手段に困るからだ。GPの後期研修の応募に際しては自動車免許が必須となっているし、仕事によっては車を有することが勤務条件の一つに挙げられていることもあるので、イギリスにくるつもりなら日本で自動車免許をとっておくと良いと思う。

    研修医何人かとコンサルタントに、初めは1Lの小型車がおすすめと言われた。高速道路を走るには1.2Lは欲しいという日本語のブログも見かけたのだが、イギリスでは1Lかそれより大きいかで保険料や税金が大きく変わるので、初めての車に1L以下を選ぶ人は多いらしい。1Lの車を持っている同期たちは、急な坂道が少し大変なくらいで1Lでも全然困ることはないと言っていた。

    車に関して全く知識がなかったのだが、車種に目星をつけてその車種・年の車で検索を続けていると、だいたい相場感がわかってくる。研修医の一人は購入時に知識がありそうな素振りが上手な友人を連れて行って値段交渉をして500ポンド値引きしたと言っていたので、そういうハッタリが得意な、または車についてよく知っている知り合いがいると一緒に車を探してもらうといいと思う。

    私は日本でマニュアル車の免許をとっていた(初めはオートマのみだったが、「外国でレンタカーをする時はマニュアル車が多い」という話を聞いてから、日本で初期研修をしている間に追加で取得した)けれど、マニュアル車はほとんど運転したことがなかったので、個人経営の自動車学校で3-4回くらいレッスンを受けた。イギリスには車の教習所はないようで驚いた。一緒に働いた研修医の1人は、免許をとる前に車を買って、ごく基本的な運転について講師の車(コントローラーがついている)で学んだ後は、自分の車を使って公道で自動車学校講師と練習をしたと言っていた。無免許の人が普通に公道を走っているのは少し怖いなと思ったけれど、免許があってもひどい運転をする人はいるので実際のところ免許の有無はそんなに問題ではないのかも知れない。

    今の時代にマニュアルの技術が必要なのか微妙だが、コンサルタントの一人は、「今後はオートマが主流になるだろうけど、安い中古車は今もマニュアル車が主流だし、マニュアルも現時点ではまだ必要だろうと思うから、自分の娘にはマニュアルで講習を受けさせている」と言っていた。

    イギリスでは、ロンドン以外では交通の便が悪いことが多く、自動車で30分の距離でもバスや電車で2時間かかるということがざらにある。車があると自由度がぐんと高くなるので、来週の車引き取りの日をとても楽しみにしている。

  • 5ヶ月目・救急科

    最初の4ヶ月のローテーションが終わり、12月中旬からは救急科をローテーションし始めた。あまりの変化に心が疲れてしまってブログどころではなかったけれど、1ヶ月経った今、徐々にペースをつかみつつある。この1ヶ月で思ったことを色々書いてみようと思う。

    医療崩壊

    救急科はイギリスの医療崩壊の最前線だ。現在の保守党が政権を握って以来、NHSの予算が大幅に減少したそうで、10年前には世界一と評されていたイギリスの素晴らしい制度は今や存続の危機を迎えている。

    12月中旬からクリスマスにかけては特に忙しく、救急科なのに4-12時間待ちということもざらにあった。これだけ待つならば本当に生命の危機にある人しか来ないのかと思いきや、NHSが全体的に逼迫している影響もあり、GPの予約が取れないという理由で本来ならばGPで診てもらうべき疾患(「血圧が心配」「眠れない」等)で来院する人もいた。

    Twitterを見ていると、英国で何十年も働いている救急科のコンサルタントたちが「過去最悪」と言っているので、本当に過去最悪の状況にあるのだと思う。

    医師も足りないが看護師も足りないので、患者さんを診察したのはいいものの採血や心電図が2時間経っても行われないということもしばしばあって、私は時に診察も検査も処方も投薬も全て自分でこなした。また診察に使える個室数も限られていて、数室を外来患者さんの問診・検査や、入院患者さん(後述のように廊下で寝ている)の尿とりパッド交換などに使うので、部屋の確保も一苦労だ。

    初めはあらゆることに申し訳なさや不憫さを感じていて、自分の責任でないことにも何度も謝ったりして私は疲弊していた。忙しいのでスタッフの誰にも余裕がないし、患者さんも待ちくたびれて少しイライラしている。英国人の患者さんはそれでも礼儀正しく丁寧に感謝してくれる人が多いのだが、外国人だとあまりNHS崩壊のニュースを知らないのか文化的な理由なのか言葉の問題なのか激しい怒りをぶつけてくる人もいて、他人の感情の機微に振り回されて精神的に辛い日が続いた。

    救急科の構造上、患者さん(個室の・廊下の)が仕事中に用事で話しかけてくることが多いのだが、看護師にしかできないことを頼まれることもよくある。これも初めの頃は「私にはできない、ごめんなさい、看護師さんに言ってください」と平謝りをしていたのだが、繰り返していると「さっきもそれ言われた!」「じゃあ看護師を連れてきてよ!」と怒られることがあって、既に自分のことで余裕がないのにそこに忙しい看護師さんを捕まえるという仕事が入ってきて限界だと感じた日もあった(看護師さんも忙しいのでお願いしてもすぐにやってくれるわけじゃないし、嫌そうな顔をしたりするので、患者さんと看護師さんの板挟みになったりする)。スクラブを着て働いているためか、私服で病棟で働いていた時と比べて圧倒的に看護師に間違われるようになったので、見た目の面で私は他のー例えば白人男性のー医師よりこういうお願いされることが多いと思う。

    でも2週間もすると、だんだんassertivenessが出てきて、淡々とこなせるようになったし、「私にはできない、看護師さんにお願いして」「看護師さんを探すこともできない」「見つけたらお願いしておくけどどのくらいかかるとか約束はできない」と自分の仕事じゃないことを引き受けるのはやめられるようになった。これが徳のある振る舞いなのか微妙だが、こうしないと仕事にならない。日本で働いていた頃から自分にはassertivenessが足りないと思っていたので、それを身につけるいい機会かもしれない。assertivenessは少なくとも今後NHSで働いていく上では必須のスキルと思われる。

    廊下に寝る

    廊下に寝ている人がたくさんいる。12月から廊下や病室をどのように使うか試行錯誤があったようで、毎日と言っていいほどの頻度で部屋や廊下の名前や役割が変わっていて、それも私のストレスの原因だったのだが、この頃は一定している。今存在しているのは、Ambulance Corridor, Ward 10 Corridor, RAT corridor1, RAT, RAT corridor2, Theatre Corridorである。救急車できた人はまずAmbulance corridorに並ぶ。多い日だと反対側が見えないくらい長蛇の列ができていて、救急隊がうろうろしている。救急隊にも勤務時間があるので、時には救急隊から別の救急隊へ引き継ぎをして、そこから当院スタッフに引き継ぎ、ということもあるようで、危険なエリアだ。看護師が基本的に1人しかいないので、全員のバイタル測定をしているうちに他の人が急変ということも十分にありうる。とりあえずここで順番を待って、Ward 10 corridor, RAT corridor 1 と進んでいき、RAT (rapid assessment & treatment)に着くと、やっと採血や心電図など各種検査が行われる(スタッフに余裕のある時は廊下にいるうちに採血済みのこともある)。RATで必要な検査が終わると、RAT corridor 2かtheatre corridorに移動する。ここで退院か入院かの決定がなされ、入院の場合にはこの廊下で1-2日を過ごすことになる。病床が満杯なので、廊下で入院待機せざるを得ないのだ。これも勤務始めの頃は、患者さんが不憫で廊下を通るたびに申し訳なく思っていたのだが、救急科でずっと働いていると感覚が麻痺してきて、特に何も感じなくなった。人間性が少し失われているような気がするが、繰り返すようにそうでないとやっていけないほどNHSの医療崩壊は凄まじい。

    ものがない

    以前から時々ブログに書いているが、NHSは物品の面で非常に不便だと感じることが多い。Majorsというエリアにある電話4台のうち2台が壊れている時もあったし、使える2台のうち1台はBleepできるのに返信を受話できないというとんだ代物で、研修医たちの間にどれだけのfrustrationを生んだか知れない(今は親切な誰かが注意書きを貼ってくれているので不幸は起こっていないと思う)。救急科のプリンターが3台全て壊れていてオーダー用紙が印刷できない日もあった。ENT cartという耳鼻科関連のものが全て詰まっているはずのカートがあるのだが、それもいつも空っぽなので、少し遠方の倉庫まで取りにいかなければならない。倉庫には専属のスタッフがいて必要なものを一緒に探してくれるのだが、この作業だけで10-15分はかかってしまう。

    外国人スタッフ

    外国人スタッフとのコミュニケーションが結構しんどいなあと感じている。それでもだいぶスタッフの顔ぶれや雰囲気にも慣れてきたので接し方がわかってきたので初めの頃よりは楽にはなった。

    例えば、看護師のひとりは文化の問題なのか英語力の問題なのか、丁寧にお願いしても全然伝わらないので、普段は使わないようなはっきりした口調でお願いする必要がある。HELP ME.NOW.PLEASE. のような感じに身振り手振りをつける。初めはこういう口調を使う自分が嫌だったけれど、この人には仕方ないので必要があればこうやってお願いするし、他の場面で名前で話しかけてsmall talkをするなどして自分の無礼さを補っている。

    医師も病棟で働いていたときと比べて英語力低めの人や母国の文化を色濃く漂わせている人が多くて、それも最初はしんどかった。例えばコンサルタントの一人について、私は初め「なんて無礼な人なんだろう!」と鼻白んでしまったのだが、インド出身の同期は「あの先生は本当はいい人だよ。私も最初はびっくりしたけど、私はインド出身だからああいうの慣れてる。インドでは普通だよ。ていうか20年くらいイギリスにいるのに未だにめちゃくちゃインド風で逆にすごい。」と言っていて、一旦こういう見方をしてみると確かに良い先生だと思えるようになった。パキスタン出身の医師たち(以前パキスタンの医師の在り方についてブログで軽く触れたことがあったと思う)も、なんて冷たい人なのかと思ったり患者さんやコメディカルの意向をこんなに無視するのかとびっくりしたけれど、そういう文化からきた人だし多分医療崩壊の救急科ではこのくらいの感じじゃないと生き残れないんだろうなと思ったりして、心穏やかに接することができるようになった。閉じられた職場で何時間も一緒に過ごすという接触効果も好感の背景にあるかも知れない。

    名前を聞いた後に突然「どこに住んでるの」と聞いてくる医師がいて、アイスブレーキングのつもりなのかも知れないけど聞き方が脈絡なく率直すぎてびっくりすることもあった。医師1が「Xしろ」と私に言っている横で捲し立てるように「Xしろ〜Xしろ〜」と言ってくる医師2にも結構な文化の違いを感じた。私の持つ彼のアクセントへの偏見もあるかも知れないと思ってその辺の自分と向き合う作業も少ししんどかった。ボディタッチの多い医師もいて腕や背中を触られるのが嫌だったのだがだいぶ慣れてきた。

    上に書いたことが本当に文化の違いなのか個人の問題なのか微妙なところだが文化の影響が大きいように思われるのでまとめて書いてみた。一方で同期はというと前ローテと同じく素敵な人ばかりで、会って話すと元気が出る。

    他科レファラル

    他科コンサルトは日本と同じく英国でも悩みの種だ。「うちじゃない」と言われ続けて複数科の板挟みになることがあるし、他院の非常に繋がりづらい科に何十分も電話をし続けなければならないこともある。

    どうでも良いけれどある日の整形外科レジは、「どこでトレーニングしたの」と聞いてきたので「日本」と答えたら「同じ!」と目をキラキラさせて言うので、おっもしかして日本出身者なのかとびっくり動揺していたら「僕も中国で初期研修したんだ」と言われてガックリきてしまった。中国で初期研修したにしては東アジアの解像度が低すぎる。

    ストライキ

    看護師がストライキを行ったことは日本でも報道されたと聞いた。看護師の他に、救急隊も実は12月にストライキをした。研修医も近日中に投票があって、それによってはストライキをすることになっている。みんな一杯一杯だ。

    ちょっと希望のないことばかりかいてしまったが、英国の救急科は現在文字どおり史上最悪の状態なので仕方がない。

  • イギリスでは毎週1時間のレクチャーがprotected timeとして研修医に義務化されていて、どれだけ病棟が忙しくてもこれには参加しなければならない。

    先日は精神科医からのうつ病と処方に関するレクチャーで、「うつ病と不安障害〜薬を処方する前にABCDを考慮せよ」というタイトルだった。

    AはAlcohol、BはBipolar Disorderかと思いきやBorderline Personality Disorder (BPD ー 双極性障害と同じ略称)、CはChange (Adjustment Disorder)、Dは (illicit) Drugsのことだった。以下、感想と勉強になった話を書く。

    A

    気分の落ち込みにアルコールが関係している場合は、アルコールは抗うつ剤よりも精神への働きかけが強いので、抗うつ剤のことは忘れて断酒を勧めるのが良いらしい。GPは、州のサポート団体やアルコールアノニマスにレファラルをしたり、患者さんと相談して「この1週間はワインボトルから1グラス分だけ捨てて飲む。来週は2グラス分捨てて飲む。」というように減酒を「処方」したりするそう(断酒の方が減酒より簡単だが)。あまりに酷いと専門病院でデトックスもする。

    B

    働きだしてから、既往に境界性人格障害と診断されている人が結構いて、びっくりする。名前が侮辱的だということで、emotionally unstable personality disorder (EUPD) という別名もあり、こちらの名前でGPに登録されている人もいる。日本でもきっと診断された人を診察したことがあったはずなのだが、日常診療では多分一度も見かけなかった(内科や救急を受診している時に、既往を問われて人格障害を告げる人はいないような気がする、病気じゃないし)。GPがたくさんの情報を握っていて、救急外来受診時にその記録が参照される国、というのがこれに関係しているのだろうか。それとも英国では人格障害の診断が日本より積極的になされるのだろうか(診断がつくとサポートグループにアクセスできるので)。

    BPDはmood swing (depressed, anxious, irritable) がなんと数時間から2週間にわたって起こるようで、これを抑うつと誤診しないようにと釘を刺された。他の見落とさないポイントは、sudden and intense feelings of anger – difficult to control, long-term feelings of emptiness/loneliness, develops paranoia or dissociation in stressful situations, comes from poor attachment あたりで、これを疑ったら、抗うつ剤を処方してはいけないし、双極性障害と誤診してはいけないし、放置してはいけないし、カウンセラーにリファラルをかいてはいけない(!)らしい。個人的にはカウンセラーのことを薬物療法がメインでない精神科領域の問題にはなんでも対応できる魔法の存在のように思っていたので驚いた。

    では何をするかだが、GPとしてBPDを疑う場合には診断のために精神科医にレファラルを書いたり、患者さんにcomplex needs service にself-refer を勧めたり、教育したりするのが大事らしい。NHSのウェブサイトも参考になる。コツは“sing from the same hymn sheet”だそう。

    GPになったらこういう知識はあっても日本では馴染みのなかった疾患(?) も診て鑑別にあげないといけないのか大変だなと思った。BPDの診断に自信がないのでGPが診断するのでなくてほっとしたのだが、それならなぜこんな話を精神科志望者がほとんどいないランチタイムのレクチャーでやるのかと思ったら、informed referralの方がいいに決まっているから、と精神科医は言っていた。「『お腹っぽいのでよろしく』って外科にレファラルしないでしょ?」

    C

    適応障害の人は変化を好まず前に進みたくないので状況をフリーズさせるのだそう。フリーズの仕方で最もコモンなのは飲酒と聞いた。

    私はイギリスでの勤務開始当初の1ヶ月は、飲酒は良くないなあと思いながらほぼ毎晩コーピングのために晩酌していて(といってもビール1本、ジントニック1杯など少量だけど)、仕事に慣れるにつれて自然に飲酒量が減って、今はまた外での機会飲酒だけに戻った。私も最初の頃は適応障害かその傾向があったのかもしれない。

    これも薬は効かないのでカウンセリングに送るのがいいらしい。

    D

    イギリスはDrugの問題が本当に多い。精神科医は「われわれ医師は患者さんに根掘り葉掘り、同居人やら便通やら性交渉の有無やら聞けるんだから、Drugのことも単刀直入にはっきり聞きなさいね」と言っていた。

  • 4ヶ月目に突入した。せっかく仲良くなった研修医仲間ともあと1ヶ月でお別れだ。

    イギリスはアルコール依存症や薬物中毒の人と接する機会が日本とは桁違いに多いなあと思う。GPでの記録を読むことができる care centricというアプリ(政府のサイトに説明がある)には、予約に現れなかった・死別を経験した、といった病気とはいえないがケアに関係する記録も載っていることがあって、アルコールや薬物依存のある人は大抵度重なる予約キャンセルの記録が載っている。最近も、COPD増悪でICU管理になった(挿管はされていない)が薬物摂取のためにICUから自主退院をして、数日後に再度来院、再入院の翌日にまた自主退院という人を担当したのだが、この人もGPが頑張ってコンタクトを取ろうとした形跡が読み取れた。

    ちなみにこのアプリはopt out方式で、登録がデフォルトになっているのだが、たまに病歴が複雑な人にかぎって登録していないことがあって(たくさん病気をしている分、そのデータの扱いなどに敏感で、制度が始まった時点で考える機会があったのかもしれない)そういう時は情報を集めるのが大変だ。「青色のインヘイラー」「Gから始まる病気」などさながらクイズのようであるし、薬の容量まで細かく聞くのは本当に疲れる(入院に際して定期薬を処方しないといけないので)。この辺の病院名も全部知っているわけではないので、治療した病院が他院の場合には、耳で聞いた音からスペルを推測してメモを取り後でGoogleで調べる。

    数年前から、患者さんの権利としてGPが握っているデータをそのまま患者さんがアクセスできるようにしようという動きがあるようで、ついにこの11月1日にそれが施行されたようなのだが、その一方で、GPの記録が完全に患者さんの手に渡ると訴訟になりかねないという話もあって、興味深く動向を見守っている。

    入院が長引く原因にしばしばPackage of Care (POC) の導入の遅れがある。これは所得に関わらず無料で使える看護・介護サービスのことで、人によってはQDS(1日4回)このサービスを受けている。この間初めて知ったのだが、自宅で生活していた人のADLが入院生活の間に急激に落ちてしまったとしても、そのまま施設入所はできないそうだ。こういう場合には、Community Hospitalにリハビリ転院するか、一旦POC導入で自宅に戻った後やっぱり自宅では暮らせないのを確認して、施設探しに移るらしい。(遠い記憶を辿れば、確かに日本でも、大型の急性期病院に勤めていたときは患者さんが直接施設入所することはほとんどなくて一旦リハビリ転院を挟んでいたような気がする。なので似たようなものか。)

    イギリスの医師間でやりとりする手紙は日本のと比べると非常に簡素で、「いつも大変お世話になっております」みたいな文言は一切なく、冒頭から来院時の主訴や診断に至った検査などを述べる。She is now medically fit for discharge. で終わっている手紙も多いのだが、手紙のコピーが患者さんの手に渡ると知ってからは、私は英国人同期が書いていた If she becomes unwell again, we are happy to see her. で締めるようにしている(フォローアップは別枠で記載欄があるので本文中に書かなくて良いのだ)。最近はお看取りのために施設に戻ることになった人の手紙を書いていて、この私がいつも使っているフレーズが使えなくて少し切なく思った。

    レファラルの手紙などで いつも男性の患者さんをジェントルマンと呼ぶ医師がいるので、今日は思い切って「あなたは男性全員をジェントルマンと呼ぶのか、マンとジェントルマンに何か線引きがあるのか」と聞いてみた。少し考えてから「基本的に皆ジェントルマンで、私がマンって呼ぶときはpassive aggressiveに振る舞いたいとき」と教えてくれた。

    もちろんイギリス人にも色々あるが、一緒に働いている人の何人かは、話し方や単語の選び方やジョークのセンスがThe How to be British Collection に出てきそうないかにもイギリス人というような感じなので、ローテが被った日には細々とした文化や言葉遣いについて教えてもらっている。

    PLAB予備校に行った時の感覚と少し似ているかもしれないが、私は外国に住んでいると自分自身が外国人なのを傍に置いて簡単に国籍や文化背景で排他的に振る舞う人になってしまいそうで、それがこわくていつも自分の無意識の考え(といっても本当の無意識は意識できないから、誰かと会って最初や最後に自動的に浮かぶ感想のようなもの)を振り返るようにしている。

    日本では女性で医師というだけでも、マジョリティ性とマイノリティ性のねじれがあるように感じていたけど、英国ではそこに東アジア系・移民(でも英国と文化的に似たところもある裕福な先進国からの・自ら進んでの・高技能労働者としての)・母語が英語でない、などが流れ込んできて複雑極まりなく、私の価値判断や経験を杓子定規に会う人全員に当てるわけにはいかないのだが、私も人間なので特に心に余裕のない時は別の移民に「ここはイギリスなのだから、郷に入っては郷に従いなさい」と思ってしまうときもあって、日本にいた時の方が外国人に寛容だったなと思う。日本の医師界では、単に人数の問題に限らず、制度自体が心身健康で家に子育てや家事をしてくれる存在のある男性医師を想定しているようなところが、女性かつ医師という点にマイノリティ性を見出す理由だった。でも今振り返ると、それでも私は日本で生まれ育った日本人で日本語が堪能で高い教育を受けていて、圧倒的なマジョリティ側の人間だったなあと思う。

    ある週のコンサルタントは、明確に高齢者差別を口にする人で(たった半日ずつの2日で片手に収まらないほど聞いた)、その嫌悪といっては言い過ぎかもしれないが無関心な感じが回診にも現れていて、英語が母語の英国人の患者さんですら聞き取れないような早口で患者さんに話しかけていた(私も最初は苦労したが慣れたら聞き取れるようになった)。聞き返されても、表現を平易に変えたり(言い回しを変えるけどそんなに簡単な表現にはなっていないので患者さんが理解できていないのが明らか)速度を落としたりすることがなくて、ああこの先生は「ゆっくり話してもらえますか」と他人にお願いする状況になったことがきっと人生で一度もないのだなと思った。

    ちなみにこのコンサルタントは回診時に研修医を名前で紹介するのだが、しばらく私の存在を省いていたし、患者さんが私の方をみている時には She is.. E.. … と違う名前で私を紹介していた。研修医を紹介するのはappreciationを示すためだと思うのだが、それなら名前を間違えたり一人だけ省いたりしないでほしいし、他のコンサルタントのようにmy teamとかmy colleaguesとか言ってくれたらいいのになと思った。覚えてもらいやすいように西洋風の名前を使うことも考えたのだけど、やっぱり名前はアイデンティティに直結している大事な自分の一部だし、馴染むことを第一にそれを変えてしまうことは私にはできないなと思って、結局本当の名前を使っている。

    日常的に英語を使っていると「英語枠の英語」と「自分語枠としての英語」があるような気がする。後者は親しい友達と使う英語で、アクセントやテンポや会話の内容に慣れているぶん神経をすり減らさないで英語を使える。日本語で話しているような感じ?一方で、前者は患者さんの家族に説明する時や早口すぎる研修医と話すときの英語。ある日3連休の後に出勤して、前者の能力が急激に衰えていてびっくりした。気のせいかもしれないけど。慣れてきたとはいえやはり一日中外国語で過ごすのは(語学を向上させる上ではいい意味での・精神的には悪いかもしれない意味での)かなりの負荷なんだなと思った。

  • イギリスでは研修医が必要不可欠なので、勤務当日の朝になって突然人手不足の科に派遣されることがあることは何度かブログで触れたと思う。病欠や年休、Study Leaveなどの影響で人員配置はどうしても計画通りにはいかないようだ。仮に運よく派遣されないとしても、コンサルタントによって回診のスタイルがまちまちなのだが、大体以下のパターンがあると知っておくと安心かもしれない。

    このブログを読んでくれているイギリスで働きたい人が働く病院では紙カルテのような時代遅れのものは使っていないことを願うが、そういう病院に勤務が決まった時にはぜひ参考にしてほしい。

    0 そもそも回診準備とは

    コンサルタントに患者さんのバックグラウンドや入院理由、治療中の疾患、検査結果、当日のバイタルサインなどを伝える仕事だ。

    現在の治療経過はもちろん、治療中の疾患に関連する既往や、ご高齢の方なら普段の生活状況などを把握しておく必要がある。その辺は日本と同じだと思うが、イギリスの難しいところは、日本と違って「担当性」ではないので、あったこともない・これまでに一度も治療に関わっていない患者さんについての情報を朝の限られた時間でカルテから読み取ってコンサルタントにプレゼンテーションをするところだ(早めに出勤して準備するのは燃え尽きにつながるのでやめた方がいいとされている・他の研修医との兼ね合いもあるので絶対に自分の希望する病室を担当できるとは限らない)。

    例えば当院の場合は、朝の短い時間で、 Clnical Vitals (バイタルサイン)、ICE(採血結果)、InSight(画像)、EVOLVE(GPとの手紙や心エコー・呼吸機能検査結果など)、ドラッグチャート(物理的な冊子;どこにあるかわからないことが多いので見つけるのに苦労する)、必要があれば紙の看護記録にある体重変化やIn/Outを確認しておいて、必要があればコンサルタントにすぐ見せられるようにしておかなければならない。

    1 すぐに回診開始型

    午後一番に外せない用事があるとかで、9時に病棟に来るなり有無を言わさず回診を始めるコンサルタントがいる。

    こういう時は大抵、研修医全員が回診に駆り出されるので、バイタルサイン読み上げ担当、ICE・InSight・Evolve担当、筆記担当、ドラッグチャート担当、というように複数人で役割を分担して1枚のカルテを完成させ回診をサポートしてコンサルタントの要求に応える。

    別に午後一の用事はないけれどGrand Roundが好きで教育目的にこの回診をする医師もいる(その場合は疾患や背景の生理学について研修医に矢継ぎ早に質問を浴びせる)。

    ばたばたするものの準備の責任は自分一人に降りかかってこない。

    2 新規入院・重症者から診る型

    このタイプだと、安定した患者さんの準備をする研修医はたっぷり時間があるのだが、新規入院や急変した人を担当する研修医はとにかく時間がない。

    コンサルタントと一緒に画面上でバイタルや採血結果を確認して、それらを紙に転記する時間もなくそのまま患者さんを診察、ということが多い。新しい人や急変した人は、これまでのバイタルサインの経過が見たいと言われることもあって、せっかく転記した紙が手元にあっても、画面上で確認させろと言われることがある。

    なので、今日はこのタイプだと判断したら、転記に拘らずとにかく画面上で色々確認できるようにすることが最優先だ。しつこいようだが、イギリスのカルテは複数アプリで運用されており、毎回患者さんのIDを打ち込むような作業があるので、「色々確認できるようにしておく」とは、全てのアプリでその患者さんの情報が開かれているような状態にしておくことを指している。

    3 Bay1から順に診る型

    1研修医1-2病室を担当するやり方で、準備中は穏やかに時間が流れる。安定した人が多いBayだと準備も早いので、転記が3/4または4/4全て終わったというような病室から順に研修医1人とコンサルタントの2人で回診していく。

    私はいつも、まず紙の左上に病室とベッド番号(1-1,1-2,1-3,1-4など)を書き、一番上列の日付、病棟名、コンサルタント名を全ての紙に記載したのち、続いてバイタルサインを記載する。バイタルサインのアプリが重いことがあるので、アプリの反応を待ちつつ紙のカルテをめくってバーコードを貼り付けたり入院理由や治療中の病名を一日前のカルテから書き写したりする。これを4人に繰り返して、それが終わると今度は採血のアプリを開いて、その日の検査オーダー一覧を確認する。

    日本では、例えばFBC, LFTs, U&Eをオーダーした場合には、FBCの結果がいち早く帰着したとしてもLFTsとU&Eも検査中であることを示すために***と記載されていたような気がするのだが、当院のアプリはボロなのでFBCがいち早く帰着した場合にはFBCしか表示されない。なので、貧血パネルなどちょっといつもと違う項目をリクエストした日には見逃す恐れがあるので、朝のうちに何が帰ってくる予定なのか確認しておくのが結構大事だ。ちなみに何がどうなればこんなことになるのか理解できないが、朝9時に検査室に届いた採血結果が夕方4時に明らかになるということも時々あって、採血のリクエストは早朝にしておくのに越したことはないが、早朝にリクエストしたにもかかわらず結果が届かないこともそれなりの頻度であるので、こういう時には Chase today’s bloods という結果が帰着したか何度も確認する作業が待っている。うんざりしたときは検査室に電話すると大体の予想結果帰着時刻を教えてくれることがある。

    勤務し始めた頃は違いがわからなかったのだが、Bloods today は「これからあなたがオーダーしてください」という意味で使われることが多く、一方で Chase today’s bloodsは既にオーダー済みの採血結果を確認しろ(仕事としては確認するだけ)という意味で使われる。バリエーションは、CXR today、Chase ECHO(エコーは英国では心エコーを指すようだ)、Chase CT CAP (=CT Chest, Abdo, & Pelvis)、Chase neuro r/v (r/v = review) など。

    ちなみにいつかの記事に書いたので蛇足かもしれないが、英語で話している時はオーダーしましたではなくリクエストしましたという言い方が丁寧で良い。

    4 自分で回診・報告型

    自分一人で回診して、何か異変・治療方針に変更したいことがあればコンサルタントに話すタイプもある。これも自分のペースで記録作成ができてストレスが少ないし、患者さんともお話しできるので、自分が秘書ではなく研修医であることを思い出すタイプの回診だ。

    タイプ2とタイプ4は同時に起こることもある。タイプ2や何かの手技や家族への病状説明に時間がかかっている時は、安定した人は主に研修医だけで診ることが多い。

    5 コンサルタントが全員把握型

    私が派遣された2科ではコンサルタントがいつもの科ほどは頻繁に変わらないようで、コンサルタントが患者さん全員を既に把握していた。その場合は、入院理由や既往歴の箇所はそんなに重要ではないので、とにかくバイタルや検査結果を埋めるのが最重要である。

    またコンサルタントの多くは、当日に採血をしていなくても一番新しい結果を日付とともに記載するように、と希望することが多いのも知っておくと良いかもしれない(カルテをめくれば昨日の採血結果は書いてあるのに、なぜ研修医の手間をまたひとつ増やすのか、と思ってしまうけれど…)

    6 回診が終わったら

    1の時は一枚の大きな紙に全ての仕事を書いてみんなで潰していく。2-5の場合には、自分の担当病室のことだけわかっていれば良いので、私たちの病棟では、自分の患者さんリストに自分用の仕事リストを書く。あまりに仕事量に偏りがある時は、早く終わった研修医が他の研修医の仕事を手伝う。

    私が主に勤務している病棟では前任者からの送りで3種類の記号を使い分けている:

    左は未完タスク、真ん中は「リクエストした」「レファラルした」など自分からアクションを起こしたが結果が未着のもの、右は完了したタスクだ。そういえば全員で1枚の紙の仕事を分担する時は□に斜め線1本だけ引くことがあり、これは「取り掛かっている」を意味する。

    優先順位の高い仕事から順にこなしていく。基本的には、当日の検査オーダーやどうしても同日に診て欲しい他科コンサルトが最優先だが、退院時間が差し迫っている・新しい患者さんがすぐにその部屋に入室するというような場合には、TTOという退院時のGP宛手紙が優先度の上位に食い込んでくる。処方は回診中にその場でしてしまうことが多いが、何らかの事情でできなかった場合にはこれも場合によっては優先度が高いかもしれない。その辺は自分で考える必要がある。

    仕事中に調べ物をする時間はほとんどないことが多いので、疑問点や新しく学んだ英単語は患者さんリストの下端に箇条書きしておいて、退勤前にそれをiPhoneのリストや後述のエクセルに転記するなどして、仕事外の時間やたまに余裕がある日にそれを一つ一つ潰していくようにしている。

    6 ハンドオーバーシート

    1日の終わりにはハンドオーバーシート(患者さんリスト)を更新することも大事だ。病棟によってスタイルは異なるようだが、私が主に勤務している病棟では、日付をかいてその下に箇条書きでその日に起こった主なイベント・チェイスすべきオーダー項目を書いている。 私の病棟ではTTO ✅ など絵文字を使っているのだが(時々常識の範囲内でどうでもいい絵文字がついていたりして可愛い)、他の病棟では[] [\] [X] と上に示した図の記号版を使っているところもある。初めは[/] [X]の違いは打ち込んだ人の個人的な好みの違いと思っていたのだが、実は chaseあるいは ongoing と completed という違いが込めてあることがあるので、一応心に留めておくといいと思う。

    7 エクセルファイル

    参考になるレファレンスの書き方、カルテの書き方、新しく覚えた英単語や言い回し、よく綴りを間違える薬の名前、医学用語、病棟のカルテ庫のロック番号、よく使う電話番号、Takeで一緒になった同僚やレジストラやコンサルタントの名前などを、Takeで診たその後が知りたい患者さんリストと一緒にエクセルファイルに記録している。

    初めはワードファイルで、TTO用、他科コンサルト用、新規単語用、などと分けて作っていたのだが、全部一つのエクセルファイルにまとめておくとタブの切り替えだけで必要な情報に素早くたどり着けて便利なので、全てエクセルで管理するのに落ち着いた。

    8 おまけ

    イギリスの電子カルテの悪口ばかり言っているが言葉ではどれくらいひどいか伝わってないかもしれないので、インターネットで見つけた当院の採血オーダー・確認アプリを日本の皆さんにぜひみてほしい(検索結果を見るとどうもいろんなトラストで使われているようなのでイギリスで働きたい人はこれを使う可能性が大いにある):

    まずこの画面にたどり着くまでに小さな窓に患者さんリストに記載の8桁の院内番号または12桁のNHS番号を打ち込む(院内マップのような素晴らしいものはない)。このサンプル画面では何故かRoutine Chem/HaemとMicrobiologyしかないが、実際は15個くらいある水平タブと10個くらいある垂直タブから適切なものを選択しなければならない。困ったらSearchを使うのだが、例えば痰培養はSputum Cultureでは出てこず、LRTC(Lower Respiratory Tract Culture)を入力・選択しなければならないなど、検索以前に知っておかなければならない情報が時々ある。

    8個以上選択するとそれ以上選択できないと言われてしまうので、検査したい項目が膨大な時は複数回に分けてオーダーしなくてはならない。

    Continue with Requestを押すとこの画面に進む。毎回毎回、Bleep number(病棟の内線番号を書く)とConsultantの名前を打ち込まなければならないし、採血理由を書かなければならない。放射線検査と違って採血では理由がダメで採血してもらえないということはないようなのだが、それでもまあ面倒くさい。この画面に辿り着いた時点で「あ!あれを加えるの忘れた!」と思って前の場所に戻ると今までクリックしたものが消えるので全て最初からやり直しである。最後に、PriorityをUrgentにして、Collect Nowまたは未来の日付・時間を選択して、Accept Requestボタンを押せば終了と思いきや、そこからさらに3-4つくらいpop-up windowsが出現していちいちYes/Noをクリックしなければならない。

    もう慣れたけれど、初めの頃は、なぜ依頼ボタンの名前が Accept Requestなのかとか(「Acceptするのは検査室の人ではないのか?」)、NormalとPriorityで何か違いがあるのかとか、色々直感的でないところにやや困惑した。

    オーダーはこの画面で確認する。Sample Collectionはオーダー時に打ち込んだ時間を表示しているに過ぎないので、時に当日の日付で翌日の採血をオーダーしている研修医がいてあんまり参考にならなかったりする(その場合、本来ならSample Collectionが翌日の日付のはずなのに当日の日付になっている。実際に採血がいつ行われるかはプリントアウトされた用紙の採血予定日に手書きする日付次第)。StatusのSPCはSpecimen Collectedの略らしいが、実際のところはただ「依頼用紙が印刷された」を指すに過ぎない。REC (=received) とかVET (=vetted – 画像検査が予定されている、という意味)とか他にも色々ある。もう遠い記憶になっているのでやや脚色があるかもしれないが、日本のカルテの方が断然よかった気がする。

    「継時的に確認」画面の採血結果はABC順に表示されるのでFBCで最初にくるのは Basophilsである。Basophilsが一番に気になる医師がどこかにいるだろうか。おそらくこれが理由で、コンサルタントは「継時的に確認」よりもその日の結果だけが見られる画面を好む人が多い(その日の結果だけが見られる画面だとHb,WBC,Pltが一番上にくる)。結果を紙に記載する我々は、直近の採血とその1つ前の採血が気になるのだが、どちらの画面にせよ継時的な変化を確認するのはたくさんのクリックまたは目をさらにしてペンなどで数値と名前を照らし合わせることを要する面倒くさい作業だ。

    ともあれ備えあれば憂なし、このブログを読んでくれている人はイギリスに来ても「ブログでみたあれだな」と動揺しないで楽しめると思う。

    21/3/24追記:バースのRoyal United Hospitalではこの病院とは比べ物にならないほどITが整備されているので、検査結果は基本的にほぼ全てPower Chartで確認することができる。ITがだめだとかなりストレスなので、就活の時はその辺も一応少し気にしておくと良い。