救急科は普段はコンサルタントから研修医まで少なくとも一度に10人以上が働いているのだが、スト中は5人程度となっている。私も小雨が降る中ストに参加した(その後雪になり、最後は快晴となったーとてもイギリスらしい天気だ)。ストに応援のクラクションを鳴らす車がたくさん通過した。昨日は1-2人ほど、Go back to your work!と叫ぶ人や、否定的なジェスチャーで応対する人がいたりしたようだが、今日は見かけなかった。ストの主旨に賛同する人が何人も差し入れを持ってきてくれた。
数年前は、呼吸器内科で毎週水曜日の回診後にコンサルタントがbunを持ってきてティータイムがあったそうだ。bunというのはドーナツみたいな食感の細長い生地に砂糖がかかった食べ物で、ドーナツでも通じないことはないが、伝統的な呼び方が好きな人はそれをbunと呼ぶらしい。参考にBBC Good Foodの bunの写真を貼る:
A v unwell pt needed an urgent echo today. I chased the report at 4pm and realised it hadn’t been done. A colleague asked the cardiology consultant if he wouldn’t mind doing it and he said he would if I got the machine from CCU
内科のon callだったときに目が回るほど忙しく 20 patients to be seenだったこともあったのだが、それの鍵を握るのはレジストラ(以下レジ)らしい。レジが強気だと「それはうちじゃない」「その人は帰宅させて」と入院を大量に断るらしく、その下の研修医の仕事が経るようだ。もちろんその反対は、しょうがないか内科だもんなと全例受けるレジで、そういう人がメインのレジだったりコントローラー(忙しい日は入院依頼・受診依頼を受けるだけが仕事のレジがいる)だったりすると研修医も大変みたいだ。最近コンサルタントになったレジの中でもかなり位の高かった元レジのことを研修医が褒め称えていて、自分が内科にいた頃には気がつかなかった視点を得た。
It was like an old-school night. とある日の朝の引き継ぎで夜勤の医師が言っていた(この表現を知らなかったので勉強になった、英国人と働いていると新しい語彙を学ぶ機会が時々ある)。この頃はニュースでNHSの崩壊ぶりを熱心に報道している影響があるのか、患者さんの数がクリスマス前後よりも少なくて、待ち時間も1-2時間程度になっている。相変わらず廊下に寝ている人はいるし、救急車の列もあるにはあるのだが、救急科勤務を始めた頃の最初の数週間とは比べものにならない。仕事にも慣れてきて、仕事中に「まだ6時間もある…」と思うことは無くなりあっという間に時間が過ぎるようになった。最近shop floorという呼び方も学んだ。診察室などを指すのだが、この表現を疑問に思っている研修医も多いみたいで、敢えて使う必要はなさそうだなと感じた。
外国人医師との外国人同士でのコミュニケーションが難しいのはやはり数週間経っても変わらない。最近だと、とあるレジに You should see him. Paeds. You should see him. と言われて、私は「もう診たけど?別の子のこと?1時間後再診予定だけどそのこと?」と混乱していたのだが、彼の意図するところはI will review the child with you. だった。We should see him. と言ってくれればまだ推測が簡単だったと思うのだが、You should see him. から I will review the child with you. を推測するのは難しすぎる。こういう小さなコミュニケーションのズレを毎回繰り返すので結構疲れる。
当院の non-traumatic limp の小児に関するガイドラインがとても保守的で(全例小児科と整形外科にコンサルト、採血の閾値も非常に低い)、その存在を知らなかったレジがとてもびっくりしていた。数年前に当院でseptic arthritisで子どもが亡くなったらしく、どうもトラストの院内ガイドラインは国や学会の指針だけでなくそういう悲しい個別ケースにも基づいて作られているらしい。そういえば、病院で普通に出くわすあらゆる症状や疾患に院内ガイドラインがあることに勤務当初はびっくりしていたが、今では困ったら機械的に院内ガイドラインを参照するようになった。
BPDはmood swing (depressed, anxious, irritable) がなんと数時間から2週間にわたって起こるようで、これを抑うつと誤診しないようにと釘を刺された。他の見落とさないポイントは、sudden and intense feelings of anger – difficult to control, long-term feelings of emptiness/loneliness, develops paranoia or dissociation in stressful situations, comes from poor attachment あたりで、これを疑ったら、抗うつ剤を処方してはいけないし、双極性障害と誤診してはいけないし、放置してはいけないし、カウンセラーにリファラルをかいてはいけない(!)らしい。個人的にはカウンセラーのことを薬物療法がメインでない精神科領域の問題にはなんでも対応できる魔法の存在のように思っていたので驚いた。
では何をするかだが、GPとしてBPDを疑う場合には診断のために精神科医にレファラルを書いたり、患者さんにcomplex needs service にself-refer を勧めたり、教育したりするのが大事らしい。NHSのウェブサイトも参考になる。コツは“sing from the same hymn sheet”だそう。
イギリスはアルコール依存症や薬物中毒の人と接する機会が日本とは桁違いに多いなあと思う。GPでの記録を読むことができる care centricというアプリ(政府のサイトに説明がある)には、予約に現れなかった・死別を経験した、といった病気とはいえないがケアに関係する記録も載っていることがあって、アルコールや薬物依存のある人は大抵度重なる予約キャンセルの記録が載っている。最近も、COPD増悪でICU管理になった(挿管はされていない)が薬物摂取のためにICUから自主退院をして、数日後に再度来院、再入院の翌日にまた自主退院という人を担当したのだが、この人もGPが頑張ってコンタクトを取ろうとした形跡が読み取れた。
入院が長引く原因にしばしばPackage of Care (POC) の導入の遅れがある。これは所得に関わらず無料で使える看護・介護サービスのことで、人によってはQDS(1日4回)このサービスを受けている。この間初めて知ったのだが、自宅で生活していた人のADLが入院生活の間に急激に落ちてしまったとしても、そのまま施設入所はできないそうだ。こういう場合には、Community Hospitalにリハビリ転院するか、一旦POC導入で自宅に戻った後やっぱり自宅では暮らせないのを確認して、施設探しに移るらしい。(遠い記憶を辿れば、確かに日本でも、大型の急性期病院に勤めていたときは患者さんが直接施設入所することはほとんどなくて一旦リハビリ転院を挟んでいたような気がする。なので似たようなものか。)
イギリスの医師間でやりとりする手紙は日本のと比べると非常に簡素で、「いつも大変お世話になっております」みたいな文言は一切なく、冒頭から来院時の主訴や診断に至った検査などを述べる。She is now medically fit for discharge. で終わっている手紙も多いのだが、手紙のコピーが患者さんの手に渡ると知ってからは、私は英国人同期が書いていた If she becomes unwell again, we are happy to see her. で締めるようにしている(フォローアップは別枠で記載欄があるので本文中に書かなくて良いのだ)。最近はお看取りのために施設に戻ることになった人の手紙を書いていて、この私がいつも使っているフレーズが使えなくて少し切なく思った。
ちなみにこのコンサルタントは回診時に研修医を名前で紹介するのだが、しばらく私の存在を省いていたし、患者さんが私の方をみている時には She is.. E.. … と違う名前で私を紹介していた。研修医を紹介するのはappreciationを示すためだと思うのだが、それなら名前を間違えたり一人だけ省いたりしないでほしいし、他のコンサルタントのようにmy teamとかmy colleaguesとか言ってくれたらいいのになと思った。覚えてもらいやすいように西洋風の名前を使うことも考えたのだけど、やっぱり名前はアイデンティティに直結している大事な自分の一部だし、馴染むことを第一にそれを変えてしまうことは私にはできないなと思って、結局本当の名前を使っている。