• NHS England主催のDeveloping English for Clinical Practiceというコースに先日参加した。このところ英語力が頭打ちだと感じており現状の打開策があればと思い参加したものの、目新しいことは特になかった。でも私がNHSで働いた3年半でなんとなく体得した英語が実はコミュニケーションを円滑にする上で大事な表現だと判明したので、ブログに記録しておきたい。

    Adjusting language to context

    言葉遣いは、Relationship, Level of imposition (high, medium, low), Sensitivity (personal, private), Level of urgency で決める。

    日本語と同じでイギリス英語では、直接的な物言いは避ける:

    Making polite requests:

    DirectPolite / softened
    1I have to examine you nowI’d like to examine you. Is that all right?
    2I will see you again in two weeks.I’d like to see you again in two weeks. How does that sound?
    3Breathe deeply, please.Could you just take some deep breaths for me?
    4Look at the light, please.Can I just ask you to look at the light for me, please?
    5I’m going to look at your mastectomy scar now.Would it be OK for me to have a quick look at your mastectomy scar?
    6The policy of the surgery is that you wear a maskI’m afraid I need to ask you to wear a mask.
    7Please wait outside while I speak to your mother.I wonder if I could ask you to wait outside while I speak to your mother?
    8You need to sign the formIf you’re OK with that, can I just ask you to sign the form.
    9Lift up your shirtIf you could just lift up your shirt a moment.
    • ‘would’ ‘could’ ‘might’
    • Minimisers
      • Can I have a quick look? → quick が minimiser として働いており、会話を和らげる効果がある
      • Can I just take your name please?
      • その他の例:for me, a moment, a bit
      • Pop (イギリス英語では pop を非常によく使う)
    • 医療英語と日常英語との違い
      • Positive – “The test is positive” と言われると患者さんは「癌じゃなかった」など好意的に解釈してしまうことがある。
      • Pee/Poo – faecesやurineの代わりに使うdown-to-earth language. NHSのサイトでも数年前の大幅な改訂以降 pee/poo と平易な単語を用いることが多いが、10人に1人の割合でこれを侮辱的だ(patronising, simplistic, vulgar)と感じる人がいるそうで、その辺は使い分けが大事だ。余談だが一緒に講習を受けていたウクライナ人医師曰く、ウクライナでは医師は患者さんの理解できない難解な単語を使うことが推奨されており、さもなくば医師としての資質や知性を疑われてしまうらしい。患者さんもそれを求めているというのだから、文化の違いは面白いなと思う。
      • Low health literacy を甘く見てはいけない。食事としてのdiet を、”on a diet”のいわゆる日本語のダイエットと同じ意味でしか理解しない人たちがいたり、fibre(食物繊維)が何を意味するのか知らない人たちがいたりする。
      • Chronic – 医療英語では「慢性的な」だが、日常英語では “very bad” の類語として用いられることがある。
      • Treat it locally – 三次医療機関まで行かないでここで治療しますよ、くらいの意味なのに、”Treat it locally – at my GP surgery down the road?” と local の意味を医師が意図するより限定的に捉える人がいる。
      • Trauma – 医師が「外傷」の意味で使っていても患者さんはいわゆる日本語のトラウマとして捉えることがある。
      • Aggressive treatment/ Conservative treatment – これも医師と患者さんとで理解が食い違うことがある。

    • I will see you in two weeks v I’ll see you in two weeks → I will を I’ll に短縮しないと口語では権威的に聞こえてしまう。
    • I’ll see you in two weeks v We will see you in two weeks → Weは inpersonalなので I を使う方が良い(もちろん時と場合によるが)。

    Observed differences in UK practice identified by IMG focus group

    UK doctors are expected to:

    • Spend more time on explanation
    • try to persuade, rather than instruct patient
    • be less categorical in conveying diagnosis and treatment
    • be more confident about conveying uncertainty

    Source: Roberts and Atwell, Words in Action

    Examples of being less categorical in giving a diagnosis and treatment

    • Your headaches are caused by stress
      I wonder if your headaches might be caused by stress?
    • Further tests won’t help
      I’m not sure that further tests are going to help
    • You’re overweight, you should do more exercise and change your diet
      Have you thought about ways in which you could do more exercise or make changes in your diet to lose weight?
    • I will refer you for counselling
      What are your thoughts about trying some counselling?
    • You need to go to hospital now
      I think the safest thing would be to get you to the hospital as soon as possible

    このへんも働いていると自然と身に付く表現だし日本語とそう大差ないように思うのだが、インド人とパキスタン人の参加者によるとこのような表現を使うと患者さんの信頼を失うそうだ。

    Language of certainty and uncertainty

    Examples of language of certainty and uncertainty

    • It’s highly unlikely that this is cancer
    • The examination was completely normal
    • That condition is extremely rare
    • The referral will very probably take several months, unfortunately
    • It’s almost certainly a much less serious condition
    • I’m not entirely sure what’s causing this
    • Your increased blood pressure is possibly due to high levels of stress at work

    Language techniques that provide structure

    • Signposting language and transitions
      • So, let’s see what we can do about this.
        (indicate transition to mgmt. phase of consultation)
      • Just to recap, …
        (indicate you will summarise what has just been said)
      • Just a few questions about the medications you’re taking
    • Headlining with sentence starters
      • The likely cause of this is, …
      • The key thing to remember is, …
    • Rhetorical questions
      • So, what other options are there? Well, ….
    • Linking language
      • however / although / but
        (indicate a contrast between 2 ideas or points)

    勉強方法

    どれもNHSで働き出した頃から実践していることだったので拍子抜けして特にメモも取っていないが、

    1. 家事をしながらの聞き流し(ポッドキャストやニュースなど)
    2. 同僚が使っていた良い表現をメモして自分のものにする
    3. 英語での読書や映画鑑賞
    4. Lexical approach; コロケーションで覚える

    などが推奨されていた。ちなみに私の最近のお気に入り表現は “Barking up the wrong tree” と “bleak” (シフトの表現として)だ。イディオムが好きな同僚と働くと今でも新しい表現にいろいろ出会えて楽しい。

  • IMT2年目の2期目はIntensive Care Medicineをローテーションしている。日本だと ICU (=Intensive Care Unit) と呼ばれる病棟は、イギリスでは ITU(=Intensive Therapy Unit)と呼ばれることが多い。そろそろローテーションも終わりに近づいてきたので、経験したことをいくつか記録しておきたい。

    治療中止

    イギリスのITUで働いていると、生命維持装置の中断の現場によく出くわす。

    例えば、重大な脳出血でITUに入院した場合、脳死判定の要件を満たし、かつ臓器移植提供の対象にならない場合には、家族に神経学的予後が悪いことを説明した上で、家族立ち合いのもとで人工呼吸器のチューブを外す。大きな基礎疾患がなく臓器移植のドナーになれる可能性がある場合には、抜管前にSpecialist Nurses-Organ Donation (SNOD) と呼ばれる看護師が患者さんをレビューし、ドナーに適切と判断された場合のみ家族に承諾を得た上で手術室で抜管・臓器摘出をする。ちなみにイギリスの臓器提供は、数年前に法律が変わって以降、オプトアウトの方針となっているため、GPなどで明確に臓器移植をしたくない旨を記録しておかない限りは、基本的に全員が臓器移植ドナーの対象者である。

    脳死状態でなくとも、神経予後が悪い場合には、one-way extubationといって、そのままお看取りになる可能性も視野に抜管することがある。

    透析中止も抜管ほどではないが何例か見かけた。ITUで見かける透析中止は、多発外傷や急性膵炎などで急性腎不全となり突然透析が必要となった人たちのケースが多い。多臓器不全で腎臓だけ救ってもどうにも状況が改善しない、という場合に、すべての治療の中止の一環として透析を中止する。

    患者さんの既往や入院理由疾患によっては「Vasopressorのみ。挿管やNIVなし。CPRなし。透析なし。」というTEP (Treatment Escalation Plan) でITUにやってくる。ITUにいると、最初は昇圧剤のみでもどんどん自動的に治療がエスカレートしがちなので、それを防ぐためのTEPだ。

    NHSの一般病棟で働いていると、For Best Supportive Care と治療方針が変わったらその回診直後から症状緩和に関係のない薬は一気に中止するのが普通だが、ICUだとそこまで大胆な方針転換は気が引けるようで、例えば血液がんや臓器がんの治療や治療の副作用の治療のために入院している人の場合、最大限の治療から数日かけてゆるやかに薬を中断してゆくコンサルタントが多い。

    ドラッグ・アルコール

    私の住む地域の土地柄、ITUの1/4くらいは常にドラッグ・アルコール関連疾患による入院が占めている(アルコール関連疾患は当地に限らずイギリス中どこのITUでも結構多いと思う)。感染性心内膜炎、上部消化管出血、意図的な・意図しない違法ドラッグのオーバードース、重傷膵炎、Intoxicationによる外傷(喧嘩、転落、交通事故など様々)のほか、定まった住所がなく生活が安定せず適切な薬の内服が難しいために悪化した既往症での入院もそんなに珍しくない。

    オアシスのシガレット&アルコールという曲が私は好きで、You gotta make it happen!と自分を鼓舞するために日本にいた頃はよく聴いていたのだが、なんというか歌に出てくる状況の現実はとても悲惨だ。きっと私が病院で出会う人の何十倍、何百倍もの人がカジュアルなドラッグをやっていて特に問題なく生活していると思うのだが、カジュアルなドラッグからハードなドラッグまですべて地続きなので、ドラッグは手に出さないに越したことはないなと病院で働いているとしみじみと思う。

    ACCP

    Acute Critical Care Practitionerという職種がある。元々ITUで働くシニアナースがACCPになるための修士課程を卒業するとACCPになることができて、ACCPはほぼ医師のように働いている。処方もできるし、挿管やPICCライン挿入もできる。北の方にACCPのみで運営するITUができるらしいという記事を数年前に書いたが、小規模な・レベル2ケアくらいのところならACCPのみで仕事を回すのも十分に想像がつく。イギリスの医師は相変わらず実存の危機に陥っている…(これは現在進行形で起こっている5日間のストと関連づけていずれ記事を書こうと思う)。 

    Martha’s Rule

    確か去年くらいにできた、Martha’s ruleという規則がある。治療内容や患者さんの容態に懸念があって、かつ主チームが懸念を取りあってくれないと感じた場合に、患者さんや家族が直接の医療チームをスキップして別のチームにセカンドオピニオン目的に状況を相談できる制度で、当院ではITUコンサルタントおよびスタッフであるCCOT (Critical Care Outreach Team) ナースがこれを運用しているらしい。

    導入の背景には、マーサという少女が適切なエスカレーションを受けられずに亡くなった医療事故がある。かいつまんで話すと、マーサはイングランドの田舎で家族旅行をしていて、サイクリング中に転んでハンドルで胸部を強く打撲した。最初は近医で痛みどめ処方で帰宅となったが、マーサの様子がおかしいので夜間に両親はマーサを別の病院に連れていき、確かそこで外傷性膵炎の診断がついて、小児の膵炎ということで経過観察目的に専門センターであるロンドンのキングスカレッジ病院に搬送となった。数日後、腹痛の増悪や敗血症のサインがあり家族が再三にわたって医師や看護師に訴えたにもかかわらず対応されず、遅すぎるITUへのエスカレーションの末にマーサは亡くなってしまった。どうもこの病院のとある医師とITUは仲が悪く、この医師がITUに頭を下げたくないために患者さんをギリギリまで病棟に置いて粘るというのがよくあることだったようで、不幸にもマーサが亡くなる数日前に彼女を担当していたのがこの医師で、レジストラがマーサの病状について懸念を伝えたにもかかわらず無視した経過があるようだ。マーサの母はガーディアン上層部の仕事に就いているらしく、彼女の書いたガーディアンの記事が詳しいので、とても悲しい記事だが興味のある人は読んでみるといいと思う。

    いざマーサのルールの運用が始まって蓋を開けると、治療内容や容態悪化の懸念についての相談は極めて稀で、担当チームへの苦情が主なのでPALSのような働きをしているそうだ。ベッドの居心地が悪いと言っているのにベッドを替えてもらえない!という苦情には新しいマットレスを手配して対応するなど、仕事内容は当初予想していたより多岐に渡るらしい。

    こういう誰かの名前を冠した制度やmandatory training modulesはNHSにはいろいろあって、その一つ一つにこうして亡くなった患者さんがいる。

    Staff leaving abroad

    ここ数年、医師も看護師も海外へ移住するケースが相次いでいるらしい。私がきいた話では、コンサルタントは1名がカナダへ、もう1名がニュージーランドへ移住し、ナースは2名がカナダへ、1名がオーストラリアへ移住したらしい。とても親切で優しい私のお気に入りのシニアナースも、来年にはカナダへ移住することを決めているそうだし、別のシニアナースもボランティアとホリデーをかねてマダガスカルに1年ほど行くそうで、トレーニングを積んだスタッフの流出は止まらない。

  • 4日間のPASS PACESコースを受けてきた。

    PACESとは、Royal Colleges of Physiciansのメンバーシップ試験で、内科後期研修に進む前に合格しなければならない。試験には実際の患者さんが登場して、その人たちから病歴聴取をしたり、身体所見から疾患を推測してコンサルタントにプレゼンテーションをしたりする。

    ロンドンで有名なコースはPASS PACES と PACES AHEAD らしく、前者は指導医の厳格さ、後者はフレンドリーさで有名なようだ。こういう評判を知らずに、最近PACESに合格した友人に言われるままに私は前者に参加した。参加費は£1650と高額なのだが、トレーニング期間中の医師(F1, F2, IMT 1-3)はNHS Englandが全額負担してくれる。

    コース参加者は主にIMT(内科中期研修医)だったが、IMGで後期研修医同等ポストに就いている人たちや、外国からきている人たちがいた。シンガポールやオマーンやマルタといったコモンウェルズの国々では、PACESに合格してMRCPを取得することが箔付けになるのだと聞いた。ちなみにこれらの国々にはPACESと似たような試験があって、2人いる試験官の1人はイギリスから派遣されるらしい。

    毎日1.5-2時間ずつのスケジュールが組まれていて、100人ほどの参加者が6人ずつのグループに分けられ、6人全員で病歴聴取やコミュニケーションのステーションに参加したり、身体所見のステーションではそこからさらに2人ずつのチームに分かれて各患者さんのブースを5分ごとに回る感じで進んでいく。

    評判通り、コース代表はいかにもold school consultantsという感じの厳格な先生だった。服装に厳しく、かつては運動靴やチノパンを履いてきた参加者たちが近くのショッピングモールまで革靴を買いに走らされたり、家に追い返されたりしたらしい。また、以前は患者さんの前で “What’s wrong with him? Does he look normal to you?” と参加者を挑発したコンサルタントが患者さんの気分を害して、患者さんが二度と来てくれなくなったケースもあったそうで、こういうところもold school consultantという感じがする(ちなみにこのコンサルタントは解雇されてコースには来なくなったらしい)。身体診察のステーションの前には、講師自らが患者さんを前に身体所見の取り方を見せる時間があって、100人超で1人の患者さんを囲んで見つめるところが、ヴィクトリア朝時代の医学を彷彿とさせる、と一緒に参加したイギリス人の友達が話していた。

    この4日間はかなりのストレスを感じたが、勉強にはなった。恥ずかしながら今まで大動脈弁狭窄症以外のheart murmurを聴診できたことがなかったし聴診器のベル型も使ったことがなかったが、コース後は日常的に異常心音が聞こえるようになった。幸い仲良しの友達と、話したことのある同期と、それから8月にロンドンの病院へ移動した別の同期も同じ回に参加していて、ストレスがある中でも見知った存在があるのはありがたかった。

    身体所見は、これまで聞いたことがない症候群の患者さんや、変化球の所見をもつ患者さんがたくさんいた。PACESの患者役をしたことがある人もいて、この人が試験にやってきたら私は試験に落ちるだろうなあと思った。(試験では、症候群の名前を挙げる必要はなく、正しく所見を取って正しく言及することが大切なので、症候群は知らなくても良い。)変化球事例の例えを挙げると、私がプレゼンテーションをした、右側にthoracotomy scarがあるのに左肺底部で肺音がdullの患者さん。私はこの所見は正しく取れたのだが理由がわからないので自信がなかった。この自信のなさに負けて、目にみえる身体所見(right thoracotomy)に合わせて聴診所見を改変する(dullness in the right lower lobe)のがよくあるPACESの落とし穴らしい。実はこの患者さんは、食道がん→食道破裂の手術で緊急手術を受け、手術の合併症として左側の横隔膜がうまく機能せず、本来肺があるところに腸などの腹腔内臓器がめりこんでいるので、手術痕は右側だが肺の音は左側に異常所見がある。この人に会うまでは、thoracotomyは肺の手術…と思い込んでいたので、そうでない例が記憶に焼きついた。

    日本の医学部出身だと口頭試問があるケースは珍しいと思うので、第二言語の英語+ストレス下で口頭で質問に答える、というのがかなり大変だと思う(私はかなり大変に感じる)。コースに参加して、全然うまく答えられず恥ずかしい思いをして、それで覚えたことがたくさんあったので、必要以上に厳格に感じる講師たちのアプローチにはこういう意図があるのかもしれない。私の最終試問の講師はケンブリッジの病院に勤めている医師で、発音や立ち振る舞いがいかにオックスフォード/ケンブリッジの医師という感じで、ああ私は今イギリスで働いててイギリスの試験を受けるんだなあと感慨深かった。

    当面は日常の仕事の中で異常所見だけをピンポイントで集めながら、試験を控えている同期たちと身体所見をとる一連の流れの復習をしつつ、家ではフラッシュカードで口頭試問に備える、という形で練習しようと思う。試験の日程が決まったら、他の医師たちがやっているように病院中を所見を求めて歩き回る日々になりそうだ。


    2日目と4日目の後に同期たちと飲みにいって、4日目はマルタから参加していた人も加わり、マルタの医療事情を色々聞いた。マルタは小さな島国なので、マルタで働くと必ず近隣の国へのヘリ搬送の仕事があるらしい。医師同士は大体知り合いなのだそう。それからかなり厳格なカトリックの国なので、避妊方法を学校で教育せず、避妊方法もそんなに選択肢がなく、結果としてティーンエイジャーの妊娠がかなり多いそうだ。こういう国ではもちろん中絶はできないので、出産に至るのだが、ティーンで妊娠出産すると、村八分のような感じで地域社会から白い目で見られ後ろ指をさされながら生きていくことになるので、かなり大変らしい。

    あと彼女がぼやいていたのが、空港での滞在時間。マルタ語はアラビア語に似ているので(以前はイタリア語に似ていると聞いたのだが…)、女性一人で飛行機に乗ろうとするとテロリストだと思われて別室に連れて行かれることが結構あるのだそうだ。

    NHSイングランドは多国籍だがマルタ人はなかなか見かけないので面白い話が聞けた。

  • お知らせ:

    Noteを始めました。今後は段階的にブログをそちらへ移行する予定です。また、日本語話者の日英医師のためのグループをDiscordで作りました。現在のメンバーは、日本の医学部を卒業してGMC登録した医師、英国の医学部を卒業して英国で働く医師、日本の勤務を希望している医師などさまざまです。今後イギリスで働くことを検討されている方は、情報交換の場としてぜひご参加ください。

    MRCP PART2

    MRCP Part2に合格した。7月のは去年の10月に続く2度目の試験で、Part2のことがIMT1の間中ずっと頭の片隅にあったので結果にホッと一安心している。

    1度目の頃は毎月のように重症の風邪をひいていて勉強時間がほとんどなく、Pastestを1周もできないまま試験に臨んだ。今回は、試験前に2ヶ月ほどかけてPastestを1周したのち、間違えた問題だけもう1周、そして模試も2-3個ほど解くことで合格したので、1度目の頃も勉強時間と体力さえあれば合格したのにと悔やまれる。

    勉強方法はPart1と同じで、とりあえず間違えた問題・覚えるべきことを簡単に付箋に書いて、各科目終了のタイミングで付箋内容をノートに整理し必要に応じてそこに肉付けをした。付箋は持ち歩いて、通勤時や散歩中にちらちら見ることにしていた。ちなみに1度目のPart2では、間違えた内容はただひたすら間違えた順にノートに書いていた。

    1度目のPart2に落ちたのがショックで、NHS England公式の「試験勉強の仕方」というような講習に参加してみて感じたのは、この「付箋を自分でまとめ直す作業」が記憶の定着に一役買っていたことだった。Q bankをひたすら解くのは落ちる勉強法らしい。

    Part1に合格した人なら同じように勉強すればPart2は合格できるので、何だかここで無駄に足踏みしたように感じている。通常はPart1から半年以内にPart2を受けるのに(リンクする内容がある)、そこを1年も開けてしまったことも後悔している。残るは実技試験のPACESで、こちらは試験代も£750くらいと高額なので、一度で受かるよう万全の対策をして臨みたい。

    ストライキ

    7月の5日間にわたるストライキ以降、ストライキの話が全く出ておらず、スト賛成派はやきもきしている。たまにアップデートのメールが届くが、特に内容はない。一度のストライキ投票で結果が有効なのは6ヶ月なので、このままでは追加のストをしないまま期限が来てしまうと焦る声も増えてきた。

    今回のストでは話題にのぼった争点が複数あり、Full Pay Restorationをスローガンに一丸となって戦った前回とは雰囲気もだいぶ異なっている。

    例を挙げると、

    1. トレーニングのボトルネック:Foundation TrainingからCore Training, Core TrainingからHigher Speciality Trainingに入るためのボトルネックが年々悪化しており、若手医師が過度に競争的な環境に置かれている。これの改善策として、政府にトレーニングポストの増加を要求している。ここは誰もが同意するところだが…
    2. IMG制限の是非:上記を増悪させているのがIMGと言われていて、去年度に至ってはGMC登録したIMGがGMC登録したUKMG (UK Medical Graduate)を上回ったようだ。それで、IMGの数は今後制限すべき、UKMGを優先すべき、という声が大きい。
    3. IMG制限の方法に関する意見の相違:「NHSで2年働いたIMGはUKMGと同等に扱うべき」という人もいれば、「IMGは永遠にIMGである、あらゆるポストの分配はUKMGのあとだ」という人もいる。また少し脇道にそれた意見として「ILR(永住権みたいなもの)があればIMGでもUKMGと同等に扱うべき」という人もいる。BMA幹部内には2年の勤務でIMG=UKMGの意見が多いようで、実際に政府への提出案にもUK-grad prioritisationの要項に加えてgrandfathering of IMG(既存のIMGを保護しUK-gradと同等に扱う) & 2-year rule(2年働けばIMGはトレーニングジョブにUKMGと同じ基準で応募できる)が盛り込まれたのだが、ツイッターやRedditではIMGとUKMGは永遠に対等にはなり得ないという人が結構いて、かなり対立を生むトピックだ。
    4. UKMGのunemployment:今年のFY2の就活事情はかなり厳しく、トレーニング・ノントレーニングポストに就いたのは優秀なごく一握りで、残りはローカムで不安定な生活をしたりオーストラリアに移住したりしているようだ。そういう状況に置かれている人は、医師のFull Pay Restorationが達成されたところで自分はその恩恵に預かれないので、ストなんてどうでもいい・むしろ直近の収入がストによって減るならストはしたくない、という人もいた。
    5. IMGのMohitという医師が、自らBMA representativeの一人でありながら(=本来ならストを決起する立場)、ポイント3のIMGの扱いについてBMAが信用ならないとして、なんとストに反対票を投じるようIMGに呼びかけていた。私個人の感想を言うと、信頼できないのはBMAより政府なのだが…。

    こんな事情で、結局ストに賛成票が多数だったこともストが決行されたことも私は驚いたのだが、複雑な状況なのでおそらくなかなか次のストにも踏み切れないのだろう。

    労働環境

    ちなみに現在の医師の待遇だが、私の現在務める病院・診療科・レベル(SHO)では、週2-5勤務(シフト制)だ。8月に5%の賃金上昇があったほか、1度の勤務時間が9-12時間と長く時間外手当が多いので、私がNHSで働き出した頃の給料を思うと随分と貰えている気がするが、これでもインフレ上昇率には足りず、Full Pay Restorationには程遠いらしい。

    労働環境と待遇は病院によってまちまちのようで、今の病院はかなり良いので、冬の診療科以降は、たとえ一度の勤務時間が長く濃くてもその分しっかり休みがあってバーンアウトとは縁遠い生活をさせてもらえていてありがたく思う。

  • 以前イングランド中部に住んでいたというレズビアンの同僚から、彼女が受けたひどい差別の話を聞いた。

    彼女が住んでいた都市レスターはバーミンガム近郊にある。私は行ったことがないが、調べてみるとまあまあ大きな町のようだ。統計上はおよそ43%がアジア人(イギリスではアジア人というと主に南アジア系を指す)で、白人も40%と同じくらい存在するはずなのだが、彼女は「ブラウンしかいない」と形容していた。

    彼女に聞いた直接的・間接的な差別の数々はそれはもうすごかった。

    スーダン出身のレジストラが夜勤中に1時間に渡り、神の存在を信じろ・こちら側に戻ってこい、と説教してきたことがあったらしい。彼女が同性愛者だと知って、「地獄に落ちる」と彼女の先行きを心配して涙していたそうだ。彼女や私とはまったく違う枠組みで生きている人たちがいるんだとまざまざと思い知らされる。また別同僚に週末の予定を聞かれて「パートナーと過ごす…彼女は…で…」と答えたら、代名詞を出した瞬間に同僚の表情が陰り、それ以降は話しかけられなくなることもあったとか。同性愛者と分かった瞬間から態度を変える医師は一人や二人ではなかったので、途中からは言及しないようにしていたとも言っていた。

    Clinical Supervisorもまた差別的で、ある日の面談で「パートナーが越してくるのが楽しみ」と伝えた際に恋人の職業を聞かれたので「彼女は…」と答えたところ、そこでCSが露骨に嫌な顔をして、次の面談(多分4ヶ月後)では「そうそう、友達が引っ越してきたのよね」とコメントしたそう。彼女のポートフォリオを横から盗み見た別のコンサルタントが「ええっ、すごい…!」とツッコミを入れるほど申し分ないポートフォリオができていたにも関わらず週1でのリフレクションを要求されるなど、嫌がらせとしか思えないことをされたと言っていた。

    彼女は育ちはリベラルな国だが出身はパキスタンで、名前も見た目もそれらしい。それ故か、容赦なく値踏みし、バウンダリーを無視した振る舞いをする人が結構いるみたいだ。私も信仰心の厚い国からきた同僚や敬虔な同僚と働いたことは幾度とあるけれど、一度もこういう説教をされたことがないのは、私が異教徒・異分子であると一目でわかるからなのかもしれない。


    数ヶ月前に見かけたRedditのこの記事の状況は、地域によってはあまり特殊なことでもないのかもしれないと思った:How to escalate homophobia from colleagues?

    このポストをした人は、同僚が経験したのと似たようなことを経験して困っていたようだ。かいつまんで書くと、

    • 小児科のトレイニー。レズビアンで、安定した非医師のガールフレンドがいて、みるからにクィアな見た目をしている(短髪、たくさんの耳鼻ピアス、男性っぽい服装)。
    • 差別用語の使用といったあからさまな差別はないが、もっとじわじわとしたレベルの差別に困っている。
    • パートナーについての話が話題に上るとき以外に自分のセクシュアリティについて言及することはない。パートナーについて聞かれた時だけ、ガールフレンド/パートナー、She/Herを用いる。異性愛者がボーイフレンド/パートナー、He/Hisを用いるように。
    • 私にガールフレンドがいると知っているにも関わらず、一部の人は執拗に、パートナーを「夫」He/His で言及する。これはただ忘れているんじゃなくて、私がパートナーに言及した直後にこういうことをする。(例: ‘got any plans for this evening?’ ‘Yes my girlfriend is cooking dinner for us both’ ‘oh is your husband a good cook?’ ‘Yes my girlfriend is a good cook’ ‘oh what is HE cooking’ and so on…). 私が同性愛の関係にあることを認めるのを拒否しているように思える。
    • 他の例では、上司とそれぞれの母国の話をしている時の会話で(私たちはどちらもイングランド出身じゃない)、「あなたに家族はいるの?」「パートナーだけ」「彼は何をしてるの(別にこれには苛立たない、彼女と一緒に働いたことがそれまであまりなかったので、私がゲイだと知らないのは普通)」「彼女はソフトウェアエンジニアしてる」ーここで上司は静かになり、返事をしなくなり、一日中そっけなくされた。これ以来上司の私への態度は一変したまま。上司は私に直接話しかけないし、アドミンの仕事しかよこさない一方で、同期の異性愛者の男のトレイニーにはトレーニングの機会を与えている。私がゲイだと知る前と後とで態度が本当に一変した。
    • 私の科はあんまりサポートしてくれない。ESは私が(他の病院でやったように)LGBT+の家族についてのティーチングをすることに否定的で、「この地域のほとんどの人口はムスリムなので不適切なティーチングだ」という理由を挙げた。確かにこの地域の人口のほとんどはムスリムだが、一方で私たちはたくさんのLGBT家族やクィアな子ども・ティーンエイジャーを診るのに!
    • 上記の行動をする同僚のほとんどはムスリムで、この問題をエスカレートするとイスラモフォビアとして却下されるんじゃないかと恐れている。私はただ公平に扱われたいだけなのに。

    このポストはコメント一覧も非常に興味深くて、一番多くの賛同を集めていたポストのこれらに私の立場は近い:

    たとえムスリムの人口が存在するとしても、イギリスはさまざまな性的指向を受け入れるリベラルな国です。

    悪魔の代弁者として考えてみると、もしムスリムの同僚が、ムスリム文化や習慣に関する意識向上のセッションを教えることを拒否され、「ここはキリスト教の国だから適切ではない」と言われたらどうなるでしょうか?

    このような状況で人々の権利を守るために、私たちは法律を持っています。あなたの性的指向によって学習の機会が制限されることはあってはなりません。あなたには平等な機会を受ける権利があります。

    私があなたの立場であれば、カミングアウトの前後で学習の機会や学習時間がどのように変化したか、できるだけ多くの証拠を集めるでしょう。そして、人事部にこの件をエスカレートさせます。なぜなら、性的指向のせいでこのような気持ちにさせられたり、不利益を被ることは、決して許されるべきことではないからです。

    もし同僚に対してこのような態度を取っているのだとしたら、LGBTの患者さんにはどのように接しているのか、想像するだけでも恐ろしいことです。

    あなたのパートナーのことを「夫」と繰り返し呼ぶ同僚に対しては、「あ、すみません。夫ではなく、彼女です」とはっきり言って良いと思います。それでも繰り返すようであれば、優しく、しかしはっきりと注意を促しましょう。それでも改善されない場合は、Guardian of Safe Workingに報告・相談すべきです。

    なぜ、私たちは極端な信念を持つ人たちには気を遣って接しなければならないのに、彼らは私たちに対して同じように敬意を払わなくてもよいのでしょうか?

    ムスリムの親が、LGBT+の子どもを持たないという「魔法の免疫」を持っているわけではありません。私は、同僚や患者が宗教を理由に不当な扱いを受けているとき、真っ先に擁護する立場です。でも「ムスリムの患者が多いからクィア・ファミリーについて教えない」というのは、クィアフォビアであると同時に、ムスリムに対する偏見でもあります(「期待値の低さという名の偏見」――現実からこの少数派を守らなければいけないかのように扱うこと)。

    あなたがその教育を行うのは正しいことだと思いますが、それによってキャリアにリスクが生じる可能性があるのなら、無理にやるべきだとは言いません。それはあなた自身が決めるべきことですし、その判断には重みがあります。

    ムスリムの医師たちもこの投稿者の状況に怒りのリプライを送っているのが頼もしい。

    あなたのESが何を言っているのか正直よく分かりませんが、私としては、ムスリムだからこそこの講演をする意義があると思います。というのも、私自身ムスリムであり、この話題は私たちのコミュニティの中でとてもタブー視されているからです。まるで「クィアであることは西洋の流行」みたいな扱いをしていて、本当に腹立たしいです!

    その他、削除されてしまったようだが、医学生時代を振り返り、consciencious objectionとしてアルコール性肝炎その他アルコール関係のあらゆる授業に出席することを拒否したムスリムの医学生複数について言及している人もいた。


    私の同僚に話を戻すと、ブライトンに来て彼女の生活は格段に良くなったそうでほっと一安心だが、別の同僚は、とある”old-school consultant”に彼の見た目から推測されるセクシュアリティについて嫌味を言われたらしいので、この素晴らしい街でも相手によっては心のガードを上げて接さないといけないのかもしれない。

    ちなみにまた話は随分逸れるが、このコンサルタントは複数の患者さんから名指しで「もう会いたくない」と苦情があったり、複数の研修医を泣かせたりしていて、かなり評判が悪い。私も以前、どうしてイングランドにいるのかと聞かれて彼に身の上話をしたことがある。そういう時私はイングランドを褒めることしか言わないのでその場は丸く収まったのだが、事件はお昼のティーチングで同僚が「逆に日本の方が優れているところは?」と聞いてきた時に起きた。彼女は日本大好きなカナダ人で、英語話者なのに結構はっきりものをいう。少し考えて「うーんアクセスが良いとか…?内視鏡や循内の手技系は世界でも有名だと思うしすぐ専門医に診てもらえる。当院で使ってる心カテも幾つかは日本で開発されたものだし」という私に、コンサルタントはすごい形相で「循内のカテが救える病気なんでごく一部。ほとんどは心臓血管の美容整形みたいなものだ」云々と否定を始めた。その豹変ぶりに驚いた私は、一刻も早く話題を切り替えたかったのだが、日本大好きなカナダ人の同僚がはっきりと「NHSはだめ」から始めて「私は旅行中に日本で皮膚科にかからないといけなくなったけど、その日に診てもらえて本当にびっくりした!日本最高!!!」と話を広げたものだから、彼がさらにヒートアップしてしまって、大切でない話題で軋轢を起こしたくない私は居た堪れなくなった。その後もコンサルタントからの日本へのダメ出しとUKが世界一系の話が続き、日本にも色々良いところがあるのにこの人はなんでそこまでこき下ろすのか…と純粋に疑問が湧いた。

    これまでの経験では、出身を聞いてくる人に日本と伝えるとポジティブなことを言われるのが普通だ。若い世代と高齢世代で褒めるポイントは少し違うが、日本が好調だった頃を知っているこのコンサルタント世代の人、特に裕福な層は、イギリスが世界の頂点だと思っていても、日本にも良いところがあることを知っていて、それを認めているのが一般的だと思う。なので、ここまで感情をむき出しにしながら反論するモチベーションが気になった。


    話が逸れすぎたので戻すが、今はリベラルな国を標榜するイギリスだってほんの十年前は同性愛者を笑いのネタにするような国だったし、プロテスタント教会(それも全てではない)が性的少数者に寛容な姿勢を見せ始めたのもほんの最近のことだし、日本の状況を振り返ってみてもイギリスと似たような状況だったので、同性愛者への偏見や差別はイスラームという宗教に限ったことではないのだが、それでも現代のイギリスにおいてこういうあからさまに態度を一変させたり同僚に同性のパートナーがいることについて全く認めない態度を取ったりする人にムスリムの傾向が強いというのは、ムスリムの国出身である私の同僚自身が言及していたことである。

    これは私が過去にPLAB2予備校で経験したことを彷彿とさせた。このカルチャーショックについては PLAB2に合格したで触れたほか、寛容さ、多様性、絶対に相入れない価値観カルチャーショックについての長い雑記でダラダラと日記を書いた。

    この箇所が今回の件とすごく重なる部分だろう:

    移民1世のしかも本国から来たばかり・まだ英国に住んでもいない(その点では彼らを移民と呼ぶのも不適切かもしれない)、というひとたちに囲まれて過ごす英国での数ヶ月はたぶん後にも先にもこのときだけなので、このとき以上のカルチャーショックをうけることはもうないと思う。

    移民2世や3世だと本当にいろいろなのだけれど、移民1世のしかも移住したてのひと・英語力が母語に圧倒的に及ばないひとはまだ母国の文化や慣習や考え方を色濃く引きずっていて、それが私のそれと合わないと結構しんどいなあと思うことは今もたまにある。

    その後、NHS勤務16日目の日記で書いたこの部分が私の基本的な姿勢となっている:

    PLAB2予備校でムスリムの人たちと接してカルチャーショックが大きすぎて寝込んだ話をいつか書いたと思うが、もうなんとも思わなくなった。というか、イギリス育ちのムスリム、イギリス育ちだけど閉じた社会で育ったムスリム、親がムスリムだから一応ムスリムと思っているが全然religiousじゃない人、UKにきたばかりで本国の慣習を強く引きずっている人、息子についてUKに来たがムスリムコミュニティ外と関わりがなく英語も話せない人、UKにきて長いので普通に関わる分には宗教の違いを全く意識させない人、家族は全員ムスリムだが宗教的にちょっと迷っている人など、本当にバラエティに富んでいるので、イギリスにおけるムスリムは一言でこうだと言い表せず、結局は「同僚のXさん」「患者さんのYさん」というように個別に認識することになる。

    この基本姿勢はNHS勤務16日目から今まで変わりないのだが、同僚が受けてきた扱いを直接聞くに、すぐ身近に存在しているかもしれない絶対的に相容れない価値観を持つ人たちとの関わり方は今後も何度も直面する問題になるだろうと思った。ブライトンでは少なくともセクシャルマイノリティに関してはこの問題を感じることがごくごく稀であることにはホッとする。

  • Local Election 2025:Reformの躍進とNHSへの影響

    今日はイングランド地方選挙の日だった。基本的には4年ごとに行われる地方選、2025年はなんとリフォーム党が躍進した。

    リフォーム党はナイジェルファラージが率いるポピュリストな比較的新しい政党で、キーワードは反グローバリズム、アンチヨーロッパ、陰謀論、あたりだろうか。NHSを弱体化したい(アメリカ式の医療保険をイギリスに持ち込みたい)のを隠さないところも有名だ。去年の下院総選挙では、Brexitの嘘やその後のゴタゴタにうんざりした保守党支持者がリフォーム党に鞍替えしたことで初議席を獲得するなど緩やかに支持を拡大していたが、まさかここまでの拡大を見せるとはと地方選の結果に誰もが驚愕している。

    もし総選挙が明日開かれるなら、を表現した以下の図から分かるように、0から半数を占めるほどにまで議席を拡大した。あと3選挙区ほど結果が出ていないところがあるが、あわいブルーに染まったイングランドが悲しい。私の住む(大好きな)ブライトン&ホーヴがぶれずに労働党とグリーン党支持なのはせめてもの救いだ。

    Mapped: Reform largest party if General Election were held tomorrow based on national swing

    リフォーム党の公約

    ここでChat GPTに訳してもらったリフォーム党の主な公約を掲載する:

    1. 「大量移民」ではなく、「スマートな移民政策」を想像してみてください
      • 賃金の引き上げ、公的サービスの保護、住宅危機の解消、犯罪の削減を目的として、必要不可欠でない移民は一時停止します。
    2. 「イギリス海峡の小型ボート問題」がなくなる未来を想像してみてください
      • イギリスに不法入国した移民は拘束・送還されます。必要であれば、小型ボートの移民は収容され、フランスへ送り返されます。
    3. NHS(国民保健サービス)の待機リストが存在しない世界を想像してみてくださ
      • 引き続き無料で提供される医療ですが、成果を向上させ、待機リストをゼロにするための改革が必要です。管理部門の無駄を削減し、現場への資金投入を強化します。医師や看護師への税制優遇措置により人材不足を解消します。
    4. 働いた分、しっかり稼げる社会を想像してみてください
      • 所得税の課税開始ラインを2万ポンドまで引き上げ、低所得者の税負担を年間1,500ポンド軽減します。これにより、700万人が所得税の対象から外れ、労働の価値を高め、福祉依存からの脱却を促します。
    5. 安価で安定したエネルギー料金を想像してみてください
      • エネルギー課徴金とネット・ゼロ政策を廃止し、年間500ポンドの節約を実現します。イギリス国内の豊富な石油・ガス資源を活用し、生活費危機を打破し、実質的な経済成長を促進します。

    以下に、リフォーム党の公約を、私(外国人、非白人、NHS勤務医)の立場から気になる点だけかいつまんで見ていく。大量の地方議席を獲得したとはいえ総選挙で多数派を占めたわけではないので、もちろん現段階では非現実的な国の法政に関わる政策が多いのだが、リフォーム党がどういう政党なのか、NHSにどのように影響をもたらしうるのか、このブログの読者なら気になると思う。以下、「万が一リフォーム党が将来的に与党になったとした」場合の仮定として書いていく。

    移民政策

    いわゆる「悪い移民」「歓迎されない移民」についてかなり厳しい態度をとるようだ。ボートでやってきた難民を対岸のフランスに送り返すなどニュースでよく目にする公約はもちろんのこと、二重国籍の犯罪者からUK citizenshipを剥奪する、外国人犯罪者は刑務所収容期間が終わり次第母国に送還する、すべての違法な移民を拘束する、など「移民=悪」のような表現が目につく。

    おそらくリフォーム党の公約の中で最も支持を集めていたのが難民の扱いで、リフォーム党は難民(asylum seeker – refugeeとの定義の違いはこちらを参照)のホテル収容の廃止をすると公言していた。「難民にはテントで十分」といったReformのいち議員は大きな批判を浴びていたが、地方議会に裁量がある範囲では難民にホテルの代わりにテントが提供されるようになるのかもしれない。

    そんななか、公約には「必要不可欠な移民」として “mainly around healthcare, must be the only exception” と言及があるので、万が一リフォーム党が将来的に与党になったとしても医師、看護師、介護士などは今後も制限なく渡英できるようだ。(しつこいが、万が一リフォーム党が将来的に与党になったとした場合の仮定の話。)医療従事者への優遇はビザの発給にとどまらず、National Insuranceの面でも通常の外国人労働者からは20%徴収するところを外国人医療者の場合はイギリス人労働者と同じく13.8%にとどめるつもりのようだ。

    NHS

    医師と看護師の不足を終わらせるとして、最初の3年は医師と看護師からは税金を徴収しないとしている。また離職率を下げるためにNHSで10年働けば学費免除という政策も打ち出している(膨大な額になるが費用はどこからくるのか?)。

    また医学生の数の制限を撤廃するとも言っているがこれは昨今の医師過剰の現実を知らないからだろう。政治家は医師の人生に興味がないようだ!

    プライベートなヘルスケアや保険で20%の税制優遇をするそうで、これでNHSの抱えるプレッシャーを和らげNHSが迅速でより良いケアを提供できるようにするそうだが、これもまた現実が見えていない。プライベート病院のコンサルタントはどこからくるのか(すでに人手不足のNHSから引き抜くのか?)という疑問のほか、労働党もすでにプライベート病院に仕事を分散しようと試みたものの効率が悪く思ったほどNHSのwaiting listが改善しなかったという話もどこかで読んだので、プライベート病院の増加はファラージが巨額の富を築くほか国民へのメリットはそんなにないと思う。

    他にも無料のVaucherがどうのと書いてあるので興味のある人は読んでほしいが、アメリカのような医療制度をイギリスに導入するための方便としか思えない。

    また無断で病院のアポイントメントを欠席した人に罰金を課すと言っているが、DNA (Did Not Attend)の人の中にはvulnerableな人たちも含まれるので(GP recordにDNAが続いている人は大体そう)、そういう人たちをさらに医療から遠ざけてどうしたいのかと思う。が、ファラージはvulnerableな人たちが嫌い(公約の端々から読み取れる)なので何も考えていないのかもしれない。

    人種的な不平等を研究し政策を提案するNHS Race and Health Observatoryも廃止したいらしい。ファラージはトランプに続けと唱え、政府の支出を減らすことを約束していて、不要な存在の筆頭として挙げていたのがdiversity and inclusivity programmesだったので、万が一リフォーム党が与党になれば市役所に限らずこういう取り組みがアメリカのようにイングランド全体で廃止されることになるんだろう。

    雑感

    NHSに関する公約はどれもアメリカのような医療制度をイングランドに導入するための方便としか思えない内容で、万が一リフォーム党が与党になったら今度こそ本当にNHSの終わりだと思う(じわじわと終わりに向かっているような話はよくブログに書いているがまだ決定打はない)。

    イングランドはBrexitの痛い経験や現在の米国での惨状から学んだものとばかり思っていたのだがそうではなかったようだ。

    選挙結果はショックだがとりあえず今すぐに生活に変化が起こるわけではないし、これでリフォーム党員が馬脚を現せば国民はBrexitの時の保守党の体たらくを思い出して総選挙でのリフォーム党の躍進は避けられるに違いないので、あまり落胆しないようにしたい。私はイギリス育ちではないけれどNHSの理念は好きだしできれば存続してほしい。イングランドのことは大好きだけれどアメリカ式の医療制度に変わってしまったらそれは本帰国を考える十分な材料になるなあと思っている。

    ちなみに今日、5月27日からストライキの可否を問う投票が行われることになったとBMAから通達があった。ネットでは意見が割れているが個人的にはまたストライキになりそうな予感がしている。政権交代の時には医師の待遇改善を図ることを少し期待されていた労働党だが、今となっては労働党も保守党も医師にとっては大した違いはない政敵といった存在になっている。

    今後分析記事がたくさん出てくると思うのでNHSと関連ある事柄は随時追記していこうと思う。

  • IMT9ヶ月目の日記

    やっと長時間労働とスタッフ不足による過剰業務でつらかった前の科が終了した。終わってみると、最初の週に一緒に働いたコンサルタントとレジストラが理不尽だっただけで、私は(少なくとも私目線では)他のコンサルタント・レジストラとは基本的にうまくやれていたし、好感を持てるような上司が多かったように思う。でも一緒に働いたF1の一人はとあるレジストラに露骨に嫌われていて嫌がらせを受けていた。集中治療をやりたいという彼女は1年生とは思えないほどデキるしっかりもので、彼女の完璧主義と徹底した仕事ぶりを私は尊敬している。話を聞くとF1の彼女に理があり、ことをエスカレートした先のコンサルタントも「F1が悪いのではなく、性格のぶつかり合いだ。レジには私から言っておく」と言っていたそうで、一応事態は収束したが側からみていて肝を冷やした。一緒に働いたIMT1の一人はまた別のレジストラから、患者さんの前で叫び声で叱責されたそうで、なんとも恐ろしい。この件はまたぎきなので状況や内容については把握していないが、このIMT1は一緒に働いていて問題を感じる行動が色々あったので(他者に仕事を押し付けすぎる、毎日15ー20分ほど遅刻するなど)彼についてはレジを怒らせる何かをしたと聞いてもそこに驚きはないのだが、大声での叱責というのにはびっくりした。まあレジも、自分で選んだ専攻科とはいえSHO/F1に負けず劣らず多忙なので、感情をコントロールできなくなるほど追い詰められることもあるんだろう。

    今度は老年内科に移動した。老年内科自体はまだ1日しか経験しておらず、転科早々にオンコール業務に就いていたのでまだ全体像は掴めていないが、日中は忙しくても基本的に定時に帰ることができると聞いているし、43時間/週のキャップがあることもあって生活の質は既に大幅に改善している。

    3月は8連休があったのでアイスランドに行った。あいにく楽しみにしていたオーロラは見えなかったが、毎日ホテルのビュッフェでおいしい朝食を食べ、多い時では1日2回サウナと温泉に行くような生活をして、随分とリフレッシュできた。

    このブログの更新頻度からわかるように(?)、だいたい2年も働くと仕事にもNHSにも慣れて日常の驚き(=ブログに書くこと)がなくなる。働き始めの頃なんて、ブログを日単位・週単位で更新していたのものだが、今や3ヶ月ぶりの記事でも特に書くことはない。相変わらず政府とレジデントドクターとの対立はあるし(そろそろスト決行を問うBMA投票が開かれそうだ)、レジデントドクターとACP/PAの対立も深まるばかりだし、トレーニングポストの倍率が高くなる一方なのに伴ってIMG排除の動きはますます加速しているし、積極的安楽死法案は激しい討論の末に施行が数年延期となる見通しなのでこのまま立ち消えになりそうな予感がするなど、以前ブログに書いた記事の続報は色々とあるのだが、記事にするほどのモチベーションもなくなってしまった。

    最近のイングランドはいかにも春という感じで、日差しが暖かくずっと晴れている。3月上旬にセールでwelliesを買ったのだが、未だ使う機会がないほどずっと天気が良い。それに転科も伴って、日々の幸福度は高い。自転車を少し改良したので、快適に色々なところに出かけている。

  • ブライトンの話

    ブライトン&ホーヴはとてもいい街だ。

    やっぱり海があると生活が楽しくなる。別に何をするというわけでもないが、散歩をしたり、通りかかったり、眺めたり、写真を撮ったり、春から秋にかけてはピクニックをしたり、身近に海があるとそれだけで楽しい。

    人がおおらかでロンドンほど忙しそうでない(院外)。これはロンドンに10年住んでからブライトンに越してきた友達のパートナーも言っていた。彼は引っ越し前は「またロンドナーがきた!」と否定的に受け止められることを心配していたそうなのだが、そんなことは一切なくすぐに近所の人とも打ち解けられて嬉しかったと言っていた。心に余裕があるからか、ロンドンより周りに気を遣ってそうな人も多い。バスの運転手にThank youとかCheersとか言って乗車・降車するのもロンドンではまず見かけないがブライトンでは普通だ。

    ほんの十年前ですら苛烈な差別に遭っていたLGBTQの人たちが集まって発展した町なので、さまざまな点でリベラルな人が多い。多分それもあって、これまでイングランドで住んだ街の中では一番、自分が外国人であることを感じない。病院で働いていると、パートナーや配偶者が同性の同僚や患者さんがよくいて、別に隠す様子もない(それだけ市民の間に偏見がない)のも良いなあと思う。日本もいつかブライトンのようになる日が来るんだろうか。

    徒歩圏内に、インド・タイ・中国・日本・韓国・イタリア・ギリシャ・ヴィーガンのスーパーマーケットやファーマーズマーケットがあって、和食の材料を手に入れるのに困ることはほとんどないし、新しい料理を作ってみるのにも最適の環境が揃っている(まだ足を踏み入れてないけれどブラジルの食品店も見かけたし、ほかにも色々ありそうだ)。

    美味しいおしゃれなカフェやレストランやパブがたくさんあって、次はここ、その次はあそこ、と友達と予定を立てるのも楽しい。行きたいところにフラッグを立てすぎて、3年住んでも全制覇できるかわからない。

    個人経営の店が多いのも魅力だ。個人経営の店がオリジナリティを出すために手軽な手段が日本のものを置くことなのか、どこに行っても日本のものが目につく。この間2日間かけてNorth LaneとLaneのお店を見て回った時には、カメラ屋(カメラ以外のアイテム)、ポスター屋、おもちゃ屋(高級そうなところも手頃な価格のところも)、本屋(本以外のアイテム)、雑貨屋、文房具屋、観葉植物屋、スケボー屋、漫画屋、で日本のものをみた。今パッと思い出せないだけでほかにもあったかもしれない。メジャーなもの(ジブリなど)はもちろん、すみっこぐらしやガチャポンの景品のような、ターゲット層がそんなに多くなさそうなアイテムも陳列されていて驚く。

    今ローテしている科のせいで仕事は大変なのだが、町は大好きなのでやっぱりここに住んでよかったと思う。

  • IMT 5ヶ月目の日記

    書き溜めていた下書き。12月から新しい科に移籍した。IMTでは基本的に4ヶ月に一度、転科する。日本の初期研修医が毎月転科するのよりはマシだが、それでも仕事に慣れたと思った頃に新しい科に移動するのは大変だ。

    以前に会ったオックスフォードのIMTが、「仕事が忙しくてバーンアウト寸前だ。休養の時間がなく常にストレスに晒されているので、ホリデーのたびに感染症にかかって寝ている。試験に続く試験で、試験勉強の他にジムとか行ってたらもう他に使える時間がない。Higher Speciality Trainingに進む前に仕事を辞めてダラダラしたい。というかもう医師すら辞めたい。」と言っていた。いつかのブログにも書いたかもしれない。私はその気持ちがわかるような科に移籍してしまったので、日々バーンアウト寸前のように感じている。F1の一人はあまりの仕事量とレジの態度に泣いていたことがある。

    当院内科は他院と比べるとIMTの福利厚生に力を入れているので、前の科では週2-3休がデフォルトで、夜勤前後は週3-4休の時もあった。これくらい休みがあると、一回一回の勤務が激務でも心身の健康を害さずに働くことができる。これは全ての内科に適応されるとばかり思っていたのだが、少なくとも私が現在ローテしている某科はHealth Rotaというロータアプリに参加していないため、内科オンコールも夜勤もなく、4ヶ月ひたすら当科で働き続ける。内科系なのに内科ではない扱いらしい。当科に移動した最初の週なんて7日間連続で働かされた。これが合法だと知らなかった!と同じ憂き目にあった同僚たちと話していた。勤務日はお昼ご飯もろくに食べられないほど仕事があるし、慢性的にスタッフ不足である。年末年始に6連休をとったのに、仕事のことを思い出して嫌な気持ちになっている。


    イギリス在住者はあまりマスクをせず、ひどい咳をしながら働いたり病院に来たりするので、イギリスに住んでいると日本にいた時より呼吸器感染症にかかる機会が多いと感じる。IMTを始めてからは2回、ものすごい風邪でいずれも1週間ずつ寝込んでいたし、COVIDとインフルエンザのワクチンを打ったあとにも関わらず、今も治りかけの鼻汁と咽頭痛に苦しんでいる(3度目のひどい感染症)。IMTが感染症にかかりやすいのはストレスのほかにこういう社会背景と、院内を歩き回る仕事が多いことが関係していそうに思う。

    ブライトンの街は大好きなのだが、これだけ忙しいと、最初にオファーのあった隣町の小規模病院の仕事をaccept with upgradeではなくacceptしていれば良かったかもなあと思う。


    AMU (Acute Medical Unit)という、入院から数日で退院見込みの人が行く病棟がある。Short Stay Wardと呼ばれることもあり、かなり回転率の高い(=退院にかかる事務作業が多い)病棟だ。基本的にここでバイト医をしているというポストIMT3の医師によると、患者さんの数25-30人に対して、レジ2人、SHO/F1 3人の5人体制で病棟が機能しているらしい。当科のshort stayにあたるチームはといえば、一昨日なんて45人の患者さんがいたのに、SHO/F1は2人だけ、レジ1人も午前中のコンサルタント回診が終わると外来で抜けるという具合で、人手不足もいいところだ。勤務当初にスタッフレベルについて何度も上司に直談判したF1は「あなたの仕事が遅いから」というようなことを言われたそうで、私も最初の頃は自分の仕事についてそんなふうに思っていたのだが、ガスライティングもいい加減にしてほしい。

    私は粛々とエクセプションレポートを出すのみで、特に上司にメールなどはしていないのだが、私が一緒に働いているSHO/F1複数人が何度も状況を上司に報告していたので、最近上司と我々の間で話し合いの機会がもたれた。そこでいくつか労働環境改善に関する提案があったので(例えばプリンターと繋がっているパソコンのある作業部屋を与えられるとか)、今後少しだけ状況は良くなるんじゃないかと思うが、とにかく労働時間が長くて(週50-60時間がデフォルト。ヘルスロタ科では週43時間以内がデフォルトだったので、甘やかされた私にはかなり厳しい。)大変なので次の科に移るのが待ちきれない。

  • 初期研修で同期だった友人がUKMLA (PLAB2) に合格したので合格体験記を書いてくれました。最新かつ大作です!高得点の合格おめでとう👏👏👏そして寄稿ありがとう!


    1. はじめに
    2. PLAB2とは、試験の構造・試験範囲
      1. ■Medical/Ethical/Social/Counselling cases
      2. ■Clinical stations (実際に体を動かすタイプのStations)
    3. 採点基準
    4. 心構え
      1. ■情報戦である
      2. ■正しい方向に努力を行う必要がある
    5. 分野別傾向
      1. ◾️Medical/Ethical/Social/Counselling cases
        1. Counselling
        2. Ethical scenarios
        3. Non accidental injury
        4. Breaking bad news
        5. Medical error
        6. LGBTQ
        7. Learning disability
        8. Angry patient
        9. Colleague related scenarios
      2. ■Clinical stations
        1. Simman(Talking mannequins)
        2. Examination
        3. Teaching
        4. Prescription
        5. Procedures
    6. 教材
      1. ■Dr Lovaan’s Masterclass
      2. ■Dr Mo Sobhy’s academy
      3. ■Dr BOSEの模試
      4. ■Geeky medics
    7. まとめ

    はじめに

    簡単に自己紹介します。初期研修後は整形外科の専攻医研修を修了し、現在卒後9年目になります。整形外科医として致命的な手荒れ悪化があり、キャリア変更を考える中でイギリスでの医師生活を目指すこととしました。このBlogでもあるように、NHSの全体的な状況は芳しくはなく、アメリカのように経済的にも恵まれるわけではないですが、中高時代2年ほどイギリスに住んでいた経験があり、イギリスでの挑戦を思い立った次第です。

    渡英に際しいくつかPathwayはあるようですが、OET/IELTS→PLAB1→PLAB2→Job interviewという過程を考える日本人は多く無く孤独で大変です。僕は多くの人の助けを得ながらPLAB2までの過程をなんとか一回でPassすることができました。OET/IELTSやPLAB1は情報が豊富ですが、PLAB2は情報が少なく異質な試験であり(特に日本人にとって)、この記事では特に大変だったPLAB2について書こうと思います。

    僕がPLAB2を受けたのは2024年7月上旬で、ちょうどタイムリーにUKMLAになった直後でした。試験範囲は若干の拡大はあるようですが、基本的に旧PLAB2と出題形式に変化はありません。変更後も皆UKMLA2とは呼ばず、PLAB2と呼んでいたのでここではPLAB2と書きます。

    一応簡単なTimelineですが

    2022年12月OET受験

    2023年11月PLAB1 受験

    2024年7月 PLAB2(UKMLA変更後)受験

    です。

    PLAB2の準備として、少し余裕を持って4〜5ヶ月前からノートを読み始め(子育てもあり)、試験5週前に渡英しDr MoのAcademyで勉強を行いました。結果は運良く14/15 stations(1 stationは新規出題で削除問題)をpass、130点(合格最低点94)でした。色々な人の助けを得ながら後述の情報戦で多くを得られたことがPassの要因として大きいと思います。日本にいた際に情報面で色々困っていた所、ここのサイトを教えてもらい非常に助けられました。

    一般にPLAB2の合格率は63%程度と決して高くなく、今後PLAB2を受けられる方の役に僕もなんとか立てればと思い、可能な限りここで伝えます。長文で大変恐縮ですがもしご興味あればお付き合いください。

    PLAB2とは、試験の構造・試験範囲

    PLAB2は基本的にOSCEの試験ですが、日本のOSCEのように診察技法が重点的に評価されるものとは全く異なり、どのように患者対応を行うかのコミュニケーション能力、安全なManagementができるかが問われる試験です。

    試験はPLAB1合格後にGeneral medical council(以下GMC)のサイトで申し込みできます。試験申込時にManchesterのHardman squareまたはstreetの二会場のいずれかランダムに振り分けがされ、現地に受けに行くことになります。どちらの試験会場が有利/不利等色々言われることはあるようですが、気にしなくて良いと思います。ちなみに試験は平日ほぼ毎日午前/午後やっており、日本の国試のような一年に一発勝負ということは全くありません。

    会場では色々案内があった後に、PLAB2専門のエリアに案内され試験開始となります。個室ブースの前にある試験問題を1分30秒で読み、合図があったら入室し8分の制限時間内で終わった後は、次のブースに移ると言うことを繰り返します。こなすケースの数は18 stations; そのうち2つはrest stations で休憩のためなので、実際は16 stationsをこなす必要があります。GMCのPLAB2公式動画があるので、それを見るとイメージしやすいです。それぞれのケースは実際の模擬患者と対面で話す場合もあれば、電話・ビデオ通話・マネキンの診察等のバリエーションが存在します。

    試験範囲は一応GMC公表のBlue printなるものが存在しますが、この通りに全て一からやる必要は無く、後述のAcademyがカバーする範囲を勉強すれば十分だと思います。勉強前〜やり始めの頃はケース/シナリオのバリエーションが無限にあるように感じられますが、PLAB2のケースは実は400ケース程度がシナリオのパターンとして存在し、無限にあるわけではありません。

    StationsのカテゴリーはAcademyによって呼称は異なるようですが、ここでは大まかにClinical stationsとそれ以外に分けてみます。概ね下記のような感じでしょうか。詳細は後述の分野別で書きます。

    ■Medical/Ethical/Social/Counselling cases

    • Counselling(Obesity, Smoking cessation, Pre-operative assessment等), Ethical scenarios (Patient refusal等), Non-accidental injury, Breaking bad news, Medical error, LGBTQ, Learning disability, Angry patient, Colleague related scenarios等です。

    上記に加え分野別のStationが出題されます。

    ■Clinical stations (実際に体を動かすタイプのStations)

    • Simman (Talking mannequins)
    • Examination
    • Teaching
    • Prescription
    • Procedures

    上記を踏まえ実際の試験の流れ、時間の配分イメージとしてはMedical/Ethical/Social/CounsellingのStationsでは8分の時間内で、大体Data gatheringに4〜5分、ExaminationとManagementに3分程度というイメージでしょうか(Clinical stationsの時間配分は後述します)。

    診察はExaminationのstation以外は実際に診察する必要はなくData gathering後に診察内容について言及することで、模擬患者から所見の紙を渡されます(言及しないと所見の紙を渡してくれないことがあります)

    ケースによっては早く終わる可能性はありますが、早く終わったからといって落ちるわけではないようで、ポイントをついていれば問題無いようです。(ケースによっては4分で終わったけどpassした人もいたというのを聞きました)。

    採点基準

    PLAB2の採点基準は3項目ありData gathering, Interpersonal skills(IPS), Managementとそれぞれ4点満点です。大体Passとなる最低点は6点か7点です(かつては小数点刻みでしたが)。全体の流れがスムーズで時間内にManagementまで完結し、決定的ミスをせずに各項目でバランスよく得点することが求められます。決定的なManagementのミス等をすると、どんなにそこまでIPSが良くてもData gathering 1点、IPS 1点、Management 1点となることがあります。IPS4, Data gathering 1点, Management 1点という得点パターンでpassとなることはまず無いようです。

    後述のDr Lovaan曰くPeople fail for three reasonsで次の3点を強調しています。

    1. Missing criteria questions 
    2. Improper explanations
    3. Management

    1はData gathering, 2はIPS, Management , 3はManagement に関連すると考えて良いと思います。

    それぞれの項目を見ていきます。

    Data gatheringはそれぞれの主訴に応じて疼痛に関連するものならSOCRATES, それ以外の主訴ならODIPARA等のゴロを用いながら聴取を行った後に必要な鑑別(DDx)→PMH, Med, Allergy, FH, Social, ICE(Idea, concerns, expectations)を聞くのが基本型です。必要に応じてOccupation, Driving, Sexual history, Period, Impact等も聴取が必要となります。その他で言うと、分野別毎に必要な質問は変わり、例えば精神科ならODIPARAの後にMood, Suicide, Insight, Support(Family, Friends, ±Finance)を聴くことが重要です。

    また、基本型のみの聴取では点数が得られないこともあり、Criteria questions; それぞれのScenarioに応じてKeyとなる質問をすることも大事です。(例えばADHDのケースならinattentive symptoms とhyperactive symptomsについて聞くといった具合です)

    Data gatheringの核となるICEですが、さらっと聞くこともあれば、カウンセリングやSocialなケース等によっては質問を変えながら細やかにIdea/Concernsを引き出していくことが重要です。

    次にIPSとはInterpersonal skillsの略で、対人Communication力を見られる項目で、試験ブースに入った瞬間の挨拶から退室までの全てを見られていると言われております。いい人、傾聴するだけではPassとはなりません。相手の反応を見ずに一方的に話し続けたり(この匙加減は難しい所ですが)、Eye contactをしない等は減点対象です。

    Managementは基本的に暫定診断を伝えた上で、検査、治療等の説明、ICEで聴取したことを反映させる必要があります。診断名はほぼ全てのケースで言及します。万が一診断名間違っていたとしても、その後大枠が外れていなければPassとなることもあるようですが、正しく診断できるに越したことはないでしょう。また、Managementを考える上で、問題文のSettingが何処なのかGPか,A&EかWardかによって変わるのでSettingは常に意識しなければなりません。

    その上で、下記のような点をManagementに織り込む必要があります。

    • Test: 今後どのような検査が必要になるか
    • Treatment: どのような治療があるのか
    • Admission: 入院が必要なのか、電話の面談であればすぐに来院してもらう必要があるのか
    • Referral: どこに紹介するのか、どれくらいの期間•急いで紹介するのか
    • 緊急の場合、紹介先には車で行くのか、救急車を呼ぶのか、特殊なチームを送るのか(crisis resolution home treatment team等)
    • Senior: Seniorに言及しないといけないのか
    • Safety net: red flagsの症状があったらすぐに再診するようにと伝える
    • Follow-up:再診が必要ならいつにするか
    • Leaflet: 僕は診断をつけたケースに関してはほぼ全て言及していました。

    上記はケースによって順番等を変えながら臨機応変に伝えることになります。

    心構え

    情報戦である

    どの試験も当たり前ですが、PLAB2は情報戦です。ネットの情報は様々な情報(サクラの投稿、デマ、古い情報が多々あり)が混在し、大事なことがわかりづらいのが現況です。ここではPLAB2で仕入れるべき情報、私が主に用いた情報源について書きます。

    情報収集の第一段階としてはどんなAcademy•教材が良いのかに関してが最重要です。絶対の正解は無いですが、有益でないAcademy・教材は残念ながら多く、それだけで合否を分けてしまう可能性があります。当たり前ですがこれに関しては刻々と変化する可能性があり、後述のAcademy・教材が必ずしも正しいという訳ではなく、受ける時期によっては情報が遅れている可能性があるため注意が必要です。

    Academy等の情報が得られたあとは、試験全体の概要を掴みつつ、それぞれのケースのポイント(Criteria questions, Managementのツボは何か)、最近のトレンドや新作のシナリオは何か?といった情報を仕入れ続ける必要があります。

    僕個人としての主な情報収集源は①Whatsappのgroupと②PLAB forum、③練習Partner 達と情報交換を行ってましたが、Partner達から得られる情報が最も有用でした。

    ①Whatsappは日本にいると馴染みが無いですが、海外版Lineというべき存在で無ければダウンロードしましょう。PLAB2のGroupに入って情報を得ることになりますがで、後述のDr LovaanやMo SobhyのAcademyに申し込むとすぐにgroupに入れてくれます(他のAcademyについては未確認ですが、恐らく存在すると思います)。必要でない情報であることも多々ありますが、より生き生きとした情報が入ります。

    ②PLAB forum

    会員登録が必要ですが、Recalls(過去問)がチェックできます。試験内容、トレンドのScenarioが必ずあるので、Recallsのチェックは必須です。Academyの情報も出ているので、そちらも参考にするといいかもしれません。

    ③良いPartnerに当たればとても勉強になりますが、Partnerによっては間違った方向に努力を進めている可能性があるので、リスクヘッジとして複数のPartner、または情報交換の機会を得られるようにした方が良いと思います。

    正しい方向に努力を行う必要がある

    • 練習相手と可能な限り毎日練習する

    やはりアウトプットの試験なので可能な限り毎日の練習が重要です。全てのケースは困難かもしれませんが、重要scenarioや難しいケースは重点的に練習するようにしました。僕は後述のacademyで幸運にもフィーリングが合うインド人の友人に出会うことが出来たため、とにかく練習しました。Partnerとの練習時間以外は録画したり、鏡の前で喋って練習するようにしました。一人の練習も意外に効果的で侮れませんが、Partnerは必須です。タイマーをセットして6:30-7:00前後で終わるように練習してました。

    • Scenario/Managementを覚え、Structureを叩き込む

    後述のDr Lovaanも言っておりますが、Scenarioを一つ一つ覚える勢いで頭に叩き込み、ケースを十分に習熟した状態のレベルに持っていくことが重要です。ただし、注意が必要なのはscriptedという状態で、シナリオを事前に知ってるかのような流れを無視した質問や、鑑別疾患に関連した質問を怠ったり、覚えた文章を機械的に話すとFailとなるためこの点は十分注意です。

    Scenarioをしっかり把握した上で、自分の流れを反復練習で叩き込むことが重要です。例えばData Gatheringにおいて SOCRATES, ODIPARA→DDx→PMH, Med, Allergy, FH, Social→ICE 等は言い淀まずスラスラと言えることが重要です。細かいかもしれませんがSOCRATES等は順番に言えた方が良いと思います。パートナーとの練習時・模試等で順番に言わないで何回かやっていたところ、順番に言えた方が良いと数人から指摘を受けました。試験官も人間であり、順番通りに聞くcandidatesが多い中で、順番がごちゃごちゃになっていると聞き落とすからです(聞いたのに聞いてないと採点される可能性があります)。

    Managementはケースに応じて適宜順番を変えながら話しておりましたが、所々立ち止まって模擬患者に質問を促すようにしていました。また、重要なポイントを漏らさないように(前述の採点基準を)、繰り返し練習することが重要です。大体僕は下記の流れで説明していました。あくまで一例で、臨機応変に変える必要があります。

    Diagnosis→Explanation→(±Admission/Referral, Senior) →Test→Treatment→Follow-up→Safetynet→Leaflet→Questions

    少し漠然として分かりづらいかもしれません。具体例としてMeningitisのケースを見てみましょう。設定として、30代男性がGPにHeadacheで来院したとします。

    Data gatheringは下記を漏らさずに聞くようにします。

    PainなのでSOCRATES

    DDx (Fever, neck stiffness, Skin rash, red eyes, any weakness in your body, any changes in your vision?, any pain while chewing or combing your hair?)

    PMH, Med, Allergy, FH, Social, Travel history

    Contact (Girlfriendがいると答えるとします)

    Examination: バイタルサインへ言及、Neurological examinationとNeckの診察、皮疹のチェックも忘れずに

    Examination後のManagementはイメージしづらいかもしれないので解答例を書いてみます。

    Thank you for answering my questions. From what you have told me, this could be a condition called meningitis.Have you heard of this before?

    It is the infection of the area surrounding the brain and spinal cord. Now, because this is potentially life-threatening, I’m afraid we have to call an ambulance, and you will be admitted to the hospital. I also need to inform my senior about your condition so that we can work as a team.

    When we suspect meningitis, we have to start the treatment immediately. We will give you an antibiotic called Benzylpenicillin here in the GP. 

    After arriving at the hospital, they will do the tests like blood tests, blood cultures to see the infection within your blood, and a lumbar puncture test, which involves inserting a thin needle from your back to confirm the diagnosis. We might need to take a CT scan to assess other lesions as well.

    Any questions so far?

    As for treatment, they will give an antibiotic called penicillin and steroids to minimise the inflammation. You will also receive painkillers to relieve your headache.

    Now, the risk of spreading meningitis is generally low, but we also have to inform your girlfriend so that she can receive antibiotics called Rifampicin as a precautionary measure.

    Also, because this is a notifiable condition, this needs to be reported to the relevant department. 

    I’ll give you a leaflet about this condition.

    Any other questions or concerns?

    (Safety netはなくても良いかもしれませんが敢えて言うならば、If you feel unwell and notice some changes to your condition at any point, please let one of the medical staff knowのような感じでしょうか)

    上記は一例ですが、このような流れで一つ一つのケースについてManagementのツボを外さないように繰り返し練習し、自分なりの流れを持つことが重要です。

    分野別傾向

    それぞれについて見ていこうと思います。ケースは無限に存在するように見えますが、実際は400程度のシナリオがパターンとして存在します。

    Medical/Ethical/Social/Counselling cases

    Counselling

    ObesityやSmoking cessationやPre-operative assessment, Follow upのケース等があります。Data gathering途中でも質問が来たりするので、これらに答えながら流れを臨機応変に変えます。ICEに関する質問はData gatheringの要です。Impact等の質問も重要です。

    Ethical scenarios

    基本的には必要のない検査/治療を不要であると説明したり、治療拒否する患者を説得したりします。例えば不必要な扁桃摘出をしなくていいと説明するケース、診断書の記載変更を断るケースがあります。論理的な説明、繊細な言い回しも多く求められ、IPS, Management が問われるケースだと思います。

    Non accidental injury

    虐待を見た場合に関しどのような対応を行うかに関するstationです。Medicalと言うよりはSocialな側面が濃いです。虐待を見た場合どこに連絡しないといけないのか、どのサポートグループを紹介するか等が重要です。

    Breaking bad news

    癌の告知、終末期の病状説明等を行います。相手の反応を見ながら、適度に止まりながら話すことが求められます。

    Medical error

    診断や処方の間違いを患者に説明します。模擬患者に怒りをぶつけられるケースもあります。言い訳なく、事実を歪めず正しく患者に説明することが求められます。

    LGBTQ

    トランスジェンダーのケース、homosexualの思春期少年、lesbianカップルの妊娠等の対応があります。問題文に明示されているケースの方が多いですが、明示されてないこともあります。黙秘を貫く場合の対応等も見られます。

    Learning disability

    どのようなdisabilityがあるのか聞いた上で、相手の理解を見ながらわかりやすく話す必要があります。ただし時間内には完了させないといけないので時間配分は注意です。

    Angry patient

    病状が伝わっておらず怒る家族、ミスに対して怒る患者の対応が求められます。少しMedical errorとも重複します。模擬患者は迫真の演技で怒鳴ったりしますが、冷静に落ち着いて返答することが必要です。

    問題行動のある同僚医師•医学生(酒、ドラッグ等)に対応します。どのような説明を行うか、上に報告しないといけないのか、報告する場合はどこに報告するかがManagementのポイントです。

    上記のシナリオは頻出する印象です。上記に加え分野別•症候別のStationが登場します。産婦人科、小児科、精神科はどの日もほぼ必ず登場し、それに加え皮膚科、耳鼻科等が頻出します。他は出たり出なかったりです。

    Clinical stations

    一つずつ見ていきます。上記のcasesと比較し、パターン数はそれぞれ多くなく、それぞれ出たら絶対に落とさないと言う気概が必要だと思います。

    Simman(Talking mannequins)

    必ず1題出ます。Scenario数は20程度なので、それぞれのケースを覚えていきましょう。いずれのケースも友人とABCDEに沿って練習を行いました。マネキンがなくても一人で枕を使って練習を行なっておりました。

    最初にData gatheringを1〜2分程度で簡単に済ませ、ABCDEに行きます。

    ABCDEそれぞれで診察を行い、その都度治療介入・Actionをしていくという流れです。例えばAの段階でSpO2下がっていたら、酸素投与のマスクをカートからとり、マネキンに装着してBにいくというような感じです。Eまで行ったあとは、最後にManagementをこれまた1分程度で簡潔に話します。Simmanのケースは重症なケースなのでSeniorやConsultantに必ず言及するべきでしょう。

    僕個人、絶対に落とせないと思い練習を行いました。模試でも得点できていたので、自信を持っていたつもりですが、本番はなぜか問診に少し時間をかけてしまったのと、器具が中々カートから見つからなかったのとで、Managementに辿り着かずFailとなってしまいました。カートの中に物品がたくさん入っておりますが、冷静に何があるか探せば通常は大丈夫と思います。

    Examination

    日によりますが、出ない日は0題、出る日は2題出題されることもあるようです。どうやってExaminationのstationと判断するかですが、問題文に診察しなさいと明記されているか、他は部屋に入った瞬間にマネキンが置いてある場合もExaminationです(過去には部屋の隅に置いてあるマネキンに気づかず、Failとなる人がいたと聞きます。まさかと思うかもしれませんが、注意しましょう。)

    範囲は全ての診察という訳ではなく、Eye, Ear, Abdoman, Orthopedic(shoulder, ankle), Urologyの分野に限定されます。それぞれに決まったScenarioがあるので、それを叩き込む必要があります。最初に2分程度でData gathering後、4分のExamination、2分でManagementという時間戦略をAcademyでは教えられました。診察前/中の声がけ等注意すべきポイントはたくさんあります。

    Teaching

    出題されたりされなかったりです。出ても1題でしょうか。Medical Student、患者の親に対してお題に沿ってTeaching (例えばEpipen, BLS, ECG等)を行うというものです。簡単にData gatheringを行った後に教えることになります。教えて欲しいという内容以外を喋り続けると点が得られないようです。

    Prescription

    必ず1 station出題されます。なんてことは無いのですが、勉強すればほぼ満点を狙えますので絶対に落とせません。合否を分けるといっても過言では無いと思います。最初に問題文を読んでから、処方箋を手書きするStationです。これもケースはそんなに多くなく、全てのパターンを頭に入れておく必要があります。長文のこともありますが、問題は一緒なので全く初見ということはありません。(Doseを変えられるということは無いようですが、今後変わる可能性もゼロではありません)

    BNF(今日の治療薬的な存在)が部屋に入ると置いてあり(実は全部屋に置いてあるようですが、使うのはPrescriptionのケースのみと考えて良いです)、BNFを調べながら処方箋を書くというものです。基本的には部屋には模擬患者はおらず、試験官しかいません。模擬患者と話す必要のない唯一のStationですが、ごく稀に患者と話しながら処方箋を書くというCaseもあるようです。CaseによってはBNFでDoseを調べる時間など無いくらい、書く量が多い場合があるため、いくつかの薬剤はDose等を覚えていきました(周りの友人たちは皆暗記しておりました)。

    Data gatheringは長文のAllergyの情報を見落とさない、発熱患者にはhidden taskとしてParacetamolを処方する等が見られるようです。IPSは何で見られるかというと、入室時の挨拶、部屋内にあるボールペンや椅子をちゃんと片付けるか、片付けきれなければ試験官に謝意を伝えられるかということのようです。

    個人的には直前10日間はほぼ毎日、印刷したPrescription paperで練習を行いました。あとどうでもいいかもしれませんが、会場に置いてあるペンは細くて安いペンなので、それを使って練習しました。

    Procedures

    出題されたりされなかったりです。過去問を見ていると数日に1回登場するという印象でしょうか。内容は採血類、尿カテ等の基本手技ですが、日本でやったからと思うと足元を掬われます。器具の違い等あるのでAcademyで実物に触れた方が良いです。それ以外にもData gatheringをいかに簡潔にかつ要点を得て済ませるか、声かけ方法、採血に失敗したらどう説明するか等Pitfallは沢山あるので、全く一から学び直すという意気でやった方が良いでしょう。

    教材

    たくさんの教材、予備校が溢れていますが僕はDr Lovaan’s MasterclassとDr Mo Sobhyを主に利用しました。PLAB forumの予備校・教材選びのランキングではここ最近常に上位(1〜3位)であり、しばらくこのトレンドは続くかもしれません。

    準備段階として私個人のお勧めとしては下記です。

    まずDr Lovaanの講義を全て受ける(録画する)。ノートをまとめ、Partnerを複数確保し練習を行う。

    可能であれば試験数週前より現地入りして、Dr MoのAcademy等でClinical stationsを練習・模試を受験する

    Dr Lovaan’s Masterclass

    かつてSamson academy(たしか業界初のPLAB2予備校)でMentorとして働いていたミャンマー人医師のOnline講義(Zoom)です。IMGの中では最近のGold-standardというべき存在で、下記の通りハードルの高さを感じるかもしれませんが、受けることをお勧めします。(後述のDr MoのAcademy内で会ったIMGの大多数は受けている印象でした)

    上述のClinical stationsや一部のケースはカバーしませんが、Medical/Ethical/Social/Counselling casesの9割以上をカバーします。PLAB自体の試験構造、重要シナリオをクリアカットに説明してくれます。授業日程の案内は4日間ですが、大体伸び伸びになって5~6日間、しかも朝の9時から夜の21〜22時までという気合いのいる講義です(休憩も少しありますが)。公式ノート等はなく彼が口頭で言う内容を自分でノートに取るというスタイルです。試験直前になるとRevision classという試験のヤマとなるケースだけを集めた1日の集中講義もあり、これは大変有益です。

    日本にいながら全て聞き切るのは難しいと思うので、何かしら録画の手段を持った方が良いと思います。Groupに入ると誰かが作ったノートが出回っているので、それを使うのも良いでしょう。

    僕は試験の数ヶ月前より存在に気づいてはいたものの、これを受ける時間はないと思い、受けずにいたところ友人に絶対受けろと説得され、慌てて試験3週間前に受けました。内容は素晴らしく3週間かかり切りでノートを読み込んだところ、一部のカウンセリングケースで満点近く取れました。もっと早く受けておけば良かったととても後悔しました。

    Lovaan先生は英語ネイティブではありませんが、微妙な英語ニュアンスの言い回しもしっかり練られており、大変勉強になります。

    また、Dr LovaanのコースではSeniorは必ずしも全例で言及しなくていいと教えられます。Life-threateningなCase (Simman等)では言及するように言われます。Seniorの言及に関しては指導者(Dr LovaanやDr Bose)によって少し変わるようです。私はDr Lovaanに倣って必ずしも全ケースでは言及しておりませんでした。

    Dr Mo Sobhy’s academy

    Dr Moのノートと現地のAcademyの二つが特色です。ネットでは時折ネガティブなコメントも見かけますが、総合的にはお勧めです。

    渡英前は特にノートを利用して勉強しました。Dialogueになっているため、試験のイメージは掴みやすいのですが、最近のノートは情報が少し過多で、重要ポイントがわかりづらい印象です。言い回しは上手い時もあれば、不十分なこともあります。アップデートされ続けているのと、カバー範囲が十分であるという点で優れており、僕は辞書的な使い方をしておりました。

    Academyには試験5週間前に渡英し通いました。Academyは主催のDr Mo不在のことが多いですが、彼の教え子のMentor達によって運営されています。①Clinical stationsに関連したLectures、②Mock(模試+Ghalaba Mock), ③Recalls(過去問), ④Academy近くにBoothhallという宿舎があることが良かった点です。

    ①LecturesはClinical stationsの講義がMentor達によって毎日行われております。最初一週出れば、あとは基本的に同じです。講師の当たり外れはあるようですが、個人的には非常に有用でした。

    ②Mock(模試)は6分30秒で制限時間よりも短めに設定され、本番さながらの緊張感を持って臨めます。試験官は皆PLAB2を合格した人達なので勝手を理解しています。フィードバックはまちまちで採点も辛口ですが、大変お勧めです。僕は3回受験しました。その他にも、Ghalaba mockというランダムなパートナーと次々に練習を行うという機会が提供されているのも特徴的です。練習後にフィードバックし合うのですが、いかんせんパートナーによってフィードバックの質が違うのと、シナリオをちゃんと理解していないパートナーがいるので途中から出るのを辞めました。ただ取っ掛かりを掴む上では良かったのと、フィーリングの合うパートナーを見つける機会として利用しました。

    ③Recalls専用のファイルは現地のAcademyに行くとWhatsappのグループに入れてくれ、入手できます。問題文に加え解答例付きですが、複数のmentorによって書かれているので質のバラツキは多少あります。

    ④BoothhallはAcademyから徒歩5分程度の所にある学生寮です。共用部分でフィーリングの合うインド人パートナーと練習を繰り返し行いました。決まったパートナー以外にも共用部分で勉強している人は多いので、情報交換の場にもなります。

    Dr BOSEの模試

    管理人さんや他の方も勧めており、Zoomを使ってClinical stations以外シナリオの模試を受けられます。演技も本番さながらですし、フィードバックを即日に送ってくれるのも嬉しい所です。フィードバックは比較的本番よりか、もしかすると多少甘めかもしれません。ManagementではSeniorに必ず言及するという点が上記のDr Lovaanと異なります。日本にいながら模試を受験する場合は特にお勧めです。録画して受験すると特に有意義でしょう。

    Geeky medics

    必ずしもPLAB2と沿った内容ではないですが、ネイティブがどのように面接を行うのか勉強になります。言い回しをちょこちょこ盗むようにしてました。診察の動画も役に立ちます(その通り全てやる時間は無いですが)。

    まとめ

    出題のトレンドの変化等はあると思いますが、PLAB2の本質は①コミニュケーション能力②安全なManagementができるか、この2つに集約されると思います。最短で受かる確率を上げるには、Recallsを1〜2ヶ月分カバーする、Clinical stationsを落とさないと言う気概が重要と思います。

    日本では受けることのないタイプの試験ですし、非常にストレス・プレッシャーがかかりますが、Passの字を見ると大きな達成感がある試験です。これを読んだ日本人受験生に少しでもお役に立てたら幸いです!

    長文大変失礼しました(管理人さんありがとうございます)。