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NHSの制度について日本と違うところ

  • 在宅医療及び訪問看護を受けていた高齢患者が衰弱して死亡したことにつき、担当医師及び訪問看護師らに、患者の容体に応じた適切な医療上の処置を行わなかった過失があるなどとして損害賠償を求めた事例 91歳、体重24kg。食事に何時間もかかり、1食の半分も終わらない。訪問診療医が訴えられ、高裁は「昼頃に肺炎と診断する義務を怠った」として約220万円を認めた記事。… https://t.co/tHMNR4VdFV pic.twitter.com/6Y3iPi9Qvp— 中田賢一郎/さくらライフグループ代表/医師x僧侶x経営者/ (@n_kata) September 6, 2026 この記事を読んだときに自分が感じたことを省みて、ああ私はNHS Englandで働く医師なのだな、と、しみじみ思った。(なんて酷い!!と思った。) 患者さんがイングランドにいたとしたら、どのような流れになるのか、少し書いてみたい。 この法律事務所の記事によると、この患者さんは亡くなる7か月前から在宅医療サービスを利用していたようだ。90代で要介護5の患者さんが在宅医療に紹介された時点で、記事にもある通り、Advance Care Planning(ACP)やReSPECT discussionは行われるべきだっただろう。11月に誤嚥性肺炎を起こした時など、まさにその話し合いをする絶好のタイミングだったのではないだろうか。 もしこの患者さんがイングランドにいたなら、DNACPR (Do Not Attempt Cardio-Pulmonary Resuscitation: 心臓が止まった場合に心肺蘇生を受けないで死ぬこと)についてだけではなく、 といったことについて、医師や看護師と患者さんや家族が納得のいく結論に辿り着くまで繰り返し話し合う機会が持たれる。 そして、例えば11月の誤嚥性肺炎の時には、こんな話をするだろう: 「〇〇さんの今の状態を考えると、これから徐々に食べられなくなり、意識が低下して眠るように亡くなるという経過もあります。一方で、今回のような誤嚥性肺炎を繰り返し、肺炎が原因で亡くなる可能性もあります。〇〇さんは飲み込む力が弱っているので、食べ物も水も自分の唾すらも、誤って肺に入って肺炎になりやすい状態です。 今回の肺炎については治療してみましょう。ただ、抗菌薬や吸引などの治療をしても完全に元の状態に戻るとは限りませんし、場合によっては、治療そのものが本人にとって苦痛を長引かせることにもなります。 もし今後、同じようなことが起きたら、その時点で治療の目標を『病気を治すこと』から『できるだけ苦痛なく穏やかに過ごしてもらうこと』へ移行する、という選択肢もあります。〇〇さんご本人はどう思われますか?(あるいは、〇〇さんが自分の意見を言えるとしたら何と仰ると思いますか?)」 (※こういう事案で日本だとたまに議題に上がる胃瘻はそもそも俎上に載らない。治療としての絶食は少し触れることがあっても、”Eating and drinking with acknowledged risk (EDAR)”を推奨して患者さんが食べたいだけ食べるのを補助するよう勧める。) そして、もし実際に呼吸苦が出てきたら、モルヒネやオキシコドンなどのオピオイド、気道分泌物による苦痛を軽減するためのブスコパン、不安や苦痛を和らげるためのミダゾラムなどを皮下注射で使用する、といった具体的な症状緩和方法についても、あらかじめ説明しておく。 そうすると、いざ状態が悪化したときに「救急車を呼ぶべきか」「病院に搬送するべきか」「抗菌薬を使うべきか」「CPRをするのか」といったことを、家族がその場の切迫した状況の中で初めて考える必要がなくなるし、患者さんも望んだ通りの最期が迎えられる。 もちろん、患者さんが「できる限り治療を受けたい」「肺炎になったら毎回病院で治療してほしい」と希望するのであれば、それも当然尊重されるべきだと思う。けれど、今回の患者さんはどうだったのだろう。 何より、このようなベースラインにsevere frailtyがある方にCPRを施すことは、もはや医療行為ではなく、医療の名を借りた暴力なのではないかと感じる。 医療者なら、このような患者さんにCPRを施しても、多発肋骨骨折や血気胸が必発の一方で、蘇生に至る可能性は極めて低い・心拍は再開しても低酸素脳症で会話もできないまま数時間〜数日後に亡くなることを知っている。それでも、医療者が事前にDNACPRについて取り決めをしていなければ、救急隊は目の前の患者さんに対して全力でCPRを実施しなくてはならない。そのことが救急隊員に与えるトラウマたるや、いかほどかと思った。 大切なのは、患者さんが何を望んでいるのかを、元気なうちに家族や医療者と一緒に言語化しておくことなのだと思う。 この記事を読んで最初に私が感じたのは、「この患者さんに必要だったのは、肺炎を何時何分に診断できたかという議論だけなのだろうか」ということと、「90年以上も生きてきたこの患者さんが望んでいた残りの人生の過ごし方は、本当に、1日でも1秒でも肉体的に長く生きることだったのだろうか」ということだった。それを患者さんや家族と話し合う能力のない医師は在宅医療には関わるべきではないだろう。 そして、そのことについて考えているうちに、私はすっかりNHS Englandの医師の思考回路になっているんだなと思った。イングランドで緩和医療に携われるのはとてもありがたいことだ。 参考 ReSPECT for healthcare professionals Clinical Frailty Scale

  • ついに、当院の救急外来でも電子カルテで処方ができるようになった(病棟ではもともと電子カルテ処方)。 関連病院のDGH (district general hospital) では数か月前からすでに電子カルテ処方へ移行していたが、ほぼ三次医療を担っているにもかかわらず当院救外ではいまだに紙ドラッグチャート文化が残っていた。そのため、患者受け入れ時には、DGHの電子カルテで処方された内容を救急外来でわざわざ医師が紙ドラッグチャートに書き写し、さらにベッドに空きが出て病棟へ上がる際には、今度はそれを再び電子カルテへ入力し直すという、かなり非効率な作業が発生していた。診療とは直接関係のないところで時間と労力を取られ、地味に大きなストレスだった。 紙から電子カルテへの移行は先週の月曜日。初日はかなり混乱していたらしい。 「処方したいのに空いているパソコンがない」「パソコンに慣れていない医師が処方できない/看護師が投薬できない」が予想されていた問題だったのでそれを解決するために追加で20台(!)のラップトップと複数のITスタッフが配置されていたようで、実際に起きたのは、 「パソコンはあるけれど、台数が多すぎてWi-Fiにつながらない」 だったそうだ。いかにもNHSらしくて笑ってしまった。 それでも、1週間ほど経った今では大きな混乱もなく、かなり円滑に回り始めている。人間は意外とすぐ慣れる。 おまけ 入院時サマリーの一部、内服薬一覧の箇所に書かれた6つの薬剤。いくつ読めるか試してほしい。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 正解: 私は手描き文字の判読は慣れたもので、もう困ることはあまりないが、これからNHSで働く人には難しいかもしれない。薬剤名を読むコツは、「最初のアルファベットと最後のアルファベットから薬剤名を推測する」「薬の容量から薬剤名を推測する」「既往歴から内服薬を推測する」「読める薬から併用している可能性の高い薬を推測する」こと。 2は [S]と[tone]がかろうじて読めるのと他の薬剤との整合性から、Spironolactone?と思いながら読むと、 28mg… に見える数字が25mgだとわかる。 3はGrennに見えるが、容量 25000 なので Creon に違いないとすぐにわかる。 5は[M]から始まっているようにも見えるが、[zole]の語尾と 20mg で Omeprazole だとわかる。Metronidazoleと一瞬迷うが、20mgからOmeprazoleで決まりだ。 6は D…g…zin と 10mg で Dapagliflozin だとわかる。Doxazosinと迷うところではあるが、10mgが決め手となる。 これは薬剤の部分だが、紙カルテもコツは同じで、1年も働くとだんだんと文脈から出てくるキーワードが判読できるようになる。

  • NHS England主催のDeveloping English for Clinical Practiceというコースに先日参加した。このところ英語力が頭打ちだと感じており現状の打開策があればと思い参加したものの、目新しいことは特になかった。でも私がNHSで働いた3年半でなんとなく体得した英語が実はコミュニケーションを円滑にする上で大事な表現だと判明したので、ブログに記録しておきたい。 Adjusting language to context 言葉遣いは、Relationship, Level of imposition (high, medium, low), Sensitivity (personal, private), Level of urgency で決める。 日本語と同じでイギリス英語では、直接的な物言いは避ける: Making polite requests: Direct Polite / softened 1 I have to examine you now I’d like to examine you. Is that all right? 2 I will see you again in…

  • IMT2年目の2期目はIntensive Care Medicineをローテーションしている。日本だと ICU (=Intensive Care Unit) と呼ばれる病棟は、イギリスでは ITU(=Intensive Therapy Unit)と呼ばれることが多い。そろそろローテーションも終わりに近づいてきたので、経験したことをいくつか記録しておきたい。 治療中止 イギリスのITUで働いていると、生命維持装置の中断の現場によく出くわす。 例えば、重大な脳出血でITUに入院した場合、脳死判定の要件を満たし、かつ臓器移植提供の対象にならない場合には、家族に神経学的予後が悪いことを説明した上で、家族立ち合いのもとで人工呼吸器のチューブを外す。大きな基礎疾患がなく臓器移植のドナーになれる可能性がある場合には、抜管前にSpecialist Nurses-Organ Donation (SNOD) と呼ばれる看護師が患者さんをレビューし、ドナーに適切と判断された場合のみ家族に承諾を得た上で手術室で抜管・臓器摘出をする。ちなみにイギリスの臓器提供は、数年前に法律が変わって以降、オプトアウトの方針となっているため、GPなどで明確に臓器移植をしたくない旨を記録しておかない限りは、基本的に全員が臓器移植ドナーの対象者である。 脳死状態でなくとも、神経予後が悪い場合には、one-way extubationといって、そのままお看取りになる可能性も視野に抜管することがある。 透析中止も抜管ほどではないが何例か見かけた。ITUで見かける透析中止は、多発外傷や急性膵炎などで急性腎不全となり突然透析が必要となった人たちのケースが多い。多臓器不全で腎臓だけ救ってもどうにも状況が改善しない、という場合に、すべての治療の中止の一環として透析を中止する。 患者さんの既往や入院理由疾患によっては「Vasopressorのみ。挿管やNIVなし。CPRなし。透析なし。」というTEP (Treatment Escalation Plan) でITUにやってくる。ITUにいると、最初は昇圧剤のみでもどんどん自動的に治療がエスカレートしがちなので、それを防ぐためのTEPだ。 NHSの一般病棟で働いていると、For Best Supportive Care と治療方針が変わったらその回診直後から症状緩和に関係のない薬は一気に中止するのが普通だが、ICUだとそこまで大胆な方針転換は気が引けるようで、例えば血液がんや臓器がんの治療や治療の副作用の治療のために入院している人の場合、最大限の治療から数日かけてゆるやかに薬を中断してゆくコンサルタントが多い。 ドラッグ・アルコール 私の住む地域の土地柄、ITUの1/4くらいは常にドラッグ・アルコール関連疾患による入院が占めている(アルコール関連疾患は当地に限らずイギリス中どこのITUでも結構多いと思う)。感染性心内膜炎、上部消化管出血、意図的な・意図しない違法ドラッグのオーバードース、重傷膵炎、Intoxicationによる外傷(喧嘩、転落、交通事故など様々)のほか、定まった住所がなく生活が安定せず適切な薬の内服が難しいために悪化した既往症での入院もそんなに珍しくない。 オアシスのシガレット&アルコールという曲が私は好きで、You gotta make it happen!と自分を鼓舞するために日本にいた頃はよく聴いていたのだが、なんというか歌に出てくる状況の現実はとても悲惨だ。きっと私が病院で出会う人の何十倍、何百倍もの人がカジュアルなドラッグをやっていて特に問題なく生活していると思うのだが、カジュアルなドラッグからハードなドラッグまですべて地続きなので、ドラッグは手に出さないに越したことはないなと病院で働いているとしみじみと思う。 ACCP Acute Critical Care Practitionerという職種がある。元々ITUで働くシニアナースがACCPになるための修士課程を卒業するとACCPになることができて、ACCPはほぼ医師のように働いている。処方もできるし、挿管やPICCライン挿入もできる。北の方にACCPのみで運営するITUができるらしいという記事を数年前に書いたが、小規模な・レベル2ケアくらいのところならACCPのみで仕事を回すのも十分に想像がつく。イギリスの医師は相変わらず実存の危機に陥っている…(これは現在進行形で起こっている5日間のストと関連づけていずれ記事を書こうと思う)。  Martha’s Rule 確か去年くらいにできた、Martha’s ruleという規則がある。治療内容や患者さんの容態に懸念があって、かつ主チームが懸念を取りあってくれないと感じた場合に、患者さんや家族が直接の医療チームをスキップして別のチームにセカンドオピニオン目的に状況を相談できる制度で、当院ではITUコンサルタントおよびスタッフであるCCOT (Critical Care Outreach Team) ナースがこれを運用しているらしい。 導入の背景には、マーサという少女が適切なエスカレーションを受けられずに亡くなった医療事故がある。かいつまんで話すと、マーサはイングランドの田舎で家族旅行をしていて、サイクリング中に転んでハンドルで胸部を強く打撲した。最初は近医で痛みどめ処方で帰宅となったが、マーサの様子がおかしいので夜間に両親はマーサを別の病院に連れていき、確かそこで外傷性膵炎の診断がついて、小児の膵炎ということで経過観察目的に専門センターであるロンドンのキングスカレッジ病院に搬送となった。数日後、腹痛の増悪や敗血症のサインがあり家族が再三にわたって医師や看護師に訴えたにもかかわらず対応されず、遅すぎるITUへのエスカレーションの末にマーサは亡くなってしまった。どうもこの病院のとある医師とITUは仲が悪く、この医師がITUに頭を下げたくないために患者さんをギリギリまで病棟に置いて粘るというのがよくあることだったようで、不幸にもマーサが亡くなる数日前に彼女を担当していたのがこの医師で、レジストラがマーサの病状について懸念を伝えたにもかかわらず無視した経過があるようだ。マーサの母はガーディアン上層部の仕事に就いているらしく、彼女の書いたガーディアンの記事が詳しいので、とても悲しい記事だが興味のある人は読んでみるといいと思う。 いざマーサのルールの運用が始まって蓋を開けると、治療内容や容態悪化の懸念についての相談は極めて稀で、担当チームへの苦情が主なのでPALSのような働きをしているそうだ。ベッドの居心地が悪いと言っているのにベッドを替えてもらえない!という苦情には新しいマットレスを手配して対応するなど、仕事内容は当初予想していたより多岐に渡るらしい。 こういう誰かの名前を冠した制度やmandatory…

  • Local Election 2025:Reformの躍進とNHSへの影響

    今日はイングランド地方選挙の日だった。基本的には4年ごとに行われる地方選、2025年はなんとリフォーム党が躍進した。 リフォーム党はナイジェルファラージが率いるポピュリストな比較的新しい政党で、キーワードは反グローバリズム、アンチヨーロッパ、陰謀論、あたりだろうか。NHSを弱体化したい(アメリカ式の医療保険をイギリスに持ち込みたい)のを隠さないところも有名だ。去年の下院総選挙では、Brexitの嘘やその後のゴタゴタにうんざりした保守党支持者がリフォーム党に鞍替えしたことで初議席を獲得するなど緩やかに支持を拡大していたが、まさかここまでの拡大を見せるとはと地方選の結果に誰もが驚愕している。 もし総選挙が明日開かれるなら、を表現した以下の図から分かるように、0から半数を占めるほどにまで議席を拡大した。あと3選挙区ほど結果が出ていないところがあるが、あわいブルーに染まったイングランドが悲しい。私の住む(大好きな)ブライトン&ホーヴがぶれずに労働党とグリーン党支持なのはせめてもの救いだ。 リフォーム党の公約 ここでChat GPTに訳してもらったリフォーム党の主な公約を掲載する: 以下に、リフォーム党の公約を、私(外国人、非白人、NHS勤務医)の立場から気になる点だけかいつまんで見ていく。大量の地方議席を獲得したとはいえ総選挙で多数派を占めたわけではないので、もちろん現段階では非現実的な国の法政に関わる政策が多いのだが、リフォーム党がどういう政党なのか、NHSにどのように影響をもたらしうるのか、このブログの読者なら気になると思う。以下、「万が一リフォーム党が将来的に与党になったとした」場合の仮定として書いていく。 移民政策 いわゆる「悪い移民」「歓迎されない移民」についてかなり厳しい態度をとるようだ。ボートでやってきた難民を対岸のフランスに送り返すなどニュースでよく目にする公約はもちろんのこと、二重国籍の犯罪者からUK citizenshipを剥奪する、外国人犯罪者は刑務所収容期間が終わり次第母国に送還する、すべての違法な移民を拘束する、など「移民=悪」のような表現が目につく。 おそらくリフォーム党の公約の中で最も支持を集めていたのが難民の扱いで、リフォーム党は難民(asylum seeker – refugeeとの定義の違いはこちらを参照)のホテル収容の廃止をすると公言していた。「難民にはテントで十分」といったReformのいち議員は大きな批判を浴びていたが、地方議会に裁量がある範囲では難民にホテルの代わりにテントが提供されるようになるのかもしれない。 そんななか、公約には「必要不可欠な移民」として “mainly around healthcare, must be the only exception” と言及があるので、万が一リフォーム党が将来的に与党になったとしても医師、看護師、介護士などは今後も制限なく渡英できるようだ。(しつこいが、万が一リフォーム党が将来的に与党になったとした場合の仮定の話。)医療従事者への優遇はビザの発給にとどまらず、National Insuranceの面でも通常の外国人労働者からは20%徴収するところを外国人医療者の場合はイギリス人労働者と同じく13.8%にとどめるつもりのようだ。 NHS 医師と看護師の不足を終わらせるとして、最初の3年は医師と看護師からは税金を徴収しないとしている。また離職率を下げるためにNHSで10年働けば学費免除という政策も打ち出している(膨大な額になるが費用はどこからくるのか?)。 また医学生の数の制限を撤廃するとも言っているがこれは昨今の医師過剰の現実を知らないからだろう。政治家は医師の人生に興味がないようだ! プライベートなヘルスケアや保険で20%の税制優遇をするそうで、これでNHSの抱えるプレッシャーを和らげNHSが迅速でより良いケアを提供できるようにするそうだが、これもまた現実が見えていない。プライベート病院のコンサルタントはどこからくるのか(すでに人手不足のNHSから引き抜くのか?)という疑問のほか、労働党もすでにプライベート病院に仕事を分散しようと試みたものの効率が悪く思ったほどNHSのwaiting listが改善しなかったという話もどこかで読んだので、プライベート病院の増加はファラージが巨額の富を築くほか国民へのメリットはそんなにないと思う。 他にも無料のVaucherがどうのと書いてあるので興味のある人は読んでほしいが、アメリカのような医療制度をイギリスに導入するための方便としか思えない。 また無断で病院のアポイントメントを欠席した人に罰金を課すと言っているが、DNA (Did Not Attend)の人の中にはvulnerableな人たちも含まれるので(GP recordにDNAが続いている人は大体そう)、そういう人たちをさらに医療から遠ざけてどうしたいのかと思う。が、ファラージはvulnerableな人たちが嫌い(公約の端々から読み取れる)なので何も考えていないのかもしれない。 人種的な不平等を研究し政策を提案するNHS Race and Health Observatoryも廃止したいらしい。ファラージはトランプに続けと唱え、政府の支出を減らすことを約束していて、不要な存在の筆頭として挙げていたのがdiversity and inclusivity programmesだったので、万が一リフォーム党が与党になれば市役所に限らずこういう取り組みがアメリカのようにイングランド全体で廃止されることになるんだろう。 雑感 NHSに関する公約はどれもアメリカのような医療制度をイングランドに導入するための方便としか思えない内容で、万が一リフォーム党が与党になったら今度こそ本当にNHSの終わりだと思う(じわじわと終わりに向かっているような話はよくブログに書いているがまだ決定打はない)。 イングランドはBrexitの痛い経験や現在の米国での惨状から学んだものとばかり思っていたのだがそうではなかったようだ。 選挙結果はショックだがとりあえず今すぐに生活に変化が起こるわけではないし、これでリフォーム党員が馬脚を現せば国民はBrexitの時の保守党の体たらくを思い出して総選挙でのリフォーム党の躍進は避けられるに違いないので、あまり落胆しないようにしたい。私はイギリス育ちではないけれどNHSの理念は好きだしできれば存続してほしい。イングランドのことは大好きだけれどアメリカ式の医療制度に変わってしまったらそれは本帰国を考える十分な材料になるなあと思っている。 ちなみに今日、5月27日からストライキの可否を問う投票が行われることになったとBMAから通達があった。ネットでは意見が割れているが個人的にはまたストライキになりそうな予感がしている。政権交代の時には医師の待遇改善を図ることを少し期待されていた労働党だが、今となっては労働党も保守党も医師にとっては大した違いはない政敵といった存在になっている。 今後分析記事がたくさん出てくると思うのでNHSと関連ある事柄は随時追記していこうと思う。

  • イングランドでは10年ぶりに積極的安楽死の法制化に関する議論が活発化している(法案が成立すれば、イングランド・ウェールズ・北アイルランドで施行されるのだが、私がイングランドに住んでいるので以下イングランドのみ記載する)。 直近の投票は2015年で、その時は法改正反対派が賛成派を3倍ほど上回り法改正に至らなかった。その前の投票はここからさらに20年遡るらしい。 前回の議論活性化の裏には、自らが積極的安楽死を受ける権利を主張するアクティビストや、家族(すでに亡くなっている場合も含む)の意思を実現するために活動するアクティビストの存在があった。 今回の議論活性化には、Esther RantzenというBBCテレビのアナウンサーが大きく関わっている。彼女は積極的安楽死法制化に関わる前には、子ども向けヘルプラインや孤独を感じる高齢者をサポートするヘルプラインの設立をしたことで知られている。彼女は自らがステージIVの肺がんを患ったことにより、かねてより賛成していた積極的安楽死への思いがより強くなり、がんと戦いながらも積極的安楽死法制化への政治的活動を続けてきたようだ。彼女が、労働党党首キア・スターマ、保守党党首リシ・スナクの二人と、7月の選挙が落ち着いたら積極的安楽死法案について議会で話し合うことへの約束を取り付けていたことから、今回10年ぶりに法制化に向けた議論が起こることになった。 消極的安楽死と積極的安楽死 ここで少し用語について説明しておくと、安楽死は大きく消極的安楽死と積極的安楽死に分けられる。 消極的安楽死とはいわゆる治療の差し控えや中断で、これはイングランドでも認められている。日本と違って、人工呼吸器の抜管や胃ろうからの栄養中止も状況によっては認められていて、日本よりも適応や実施の範囲が広い。 たとえば短期間で増悪を繰り返すCOPDで本人がBiPAPの使用を望まない場合などは、「再入院なし」の方針で緩和ケア薬を処方で退院とし、次にCOPDが増悪した場合には自宅看取りの方針で症状緩和薬を投与することもある。症状緩和薬;Just in case Medsとか Anticipatory medsと呼ばれる薬には基本的に、(1)疼痛、(2)せん妄や落ち着きのなさや呼吸苦、(3)嘔気嘔吐、(4)気管分泌物 に対する皮下注射の薬各1剤ずつが含まれる。これらを退院時に「事前処方」しておいて、その時がきたら患者さんや家族がDistrict NurseやCommunity Palliative Care Nurseに連絡をして、薬の投与を受ける。 がんで予後3ヶ月以下の見込みの場合や、複数の重大な既往があって入院加療をしてもさほどQOLの改善の見込みがなく本人も入院を嫌がっている場合などにも、本人と家族に説明した上で、Anticipatory Meds処方で自宅または介護施設に退院となることがある。病院に来たくないこと以外にも、内服薬ならどうか、などおおまかに希望を聞いておいて、自宅や介護施設でできる範囲の治療なら実施するという場合もある。 積極的安楽死とは、死にいたる薬物の投与により直接的に死をもたらすやり方で、これはイングランドでは認められていない。日本でももちろん認められていない。 現在の状況 イングランド在住者が積極的安楽死を受けたい場合は、今のところはスイスに旅行をする。ただし、家族を連れて行くと、本人の死後に家族が「自殺幇助」として警察に捜査される場合もあるので、基本的に一人旅行となる。イングランドで緩和ケアに関わっている医師や看護師に聞くと、必ず過去にスイスでの積極的安楽死を選んだ患者さんと関わった経験があるので、少数派ではあろうがどこの地域にも一定の割合で積極的安楽死を選ぶ人がいそうだ。 ただ積極的安楽死を希望する患者さんをスイスへ旅行させることの問題点はもちろん多い。積極的安楽死はかなり高額な処置なので、裕福な人しかこれを選べない。予後が短い状況にありながら、身体の自由が効く状況でなければならない(介助者を連れて行くと「自殺幇助」とみなされる場合があるので)ため、window of opportunityが限られている。それから、家族に見守られながら死にたいと思っていても、これは叶わない。 法制化反対なのは、宗教家のほか、積極的安楽死はslippery slopeで次は障害者が対象となると考えるDisability Rightsのアクティビストや、その他NHSの現状を知っている医療者が主だろう。現在の逼迫したNHSでは不十分な緩和ケアにより積極的安楽死が「選択」ではなく「強制」となってしまう人が一定数存在するに違いない、という理由で法制化に懸念を示す声がある。積極的安楽死を導入した他国の失敗を検討する前に導入するのは時期尚早だという声もある。 個人的には今回は法制化しそうな気がしている。動向を注視したい。 Assisted Dying for Terminally Ill Adults Bill [HL] :議会での法案議論の進捗 MPs to get historic vote on England and Wales assisted dying bill MPs to get first…

  • 潮目が変わったPA事情

    PAの情勢に変化が出てきてさらなる明るい兆しが見えはじめた(PAやその他略称について知らない人は、右のコラムにある略称一覧を参照してほしい)。 Anaesthetists UnitedによるGMC訴訟 Anaesthetists United という有志の麻酔科団体がGMCを相手取る訴訟を起こすことを発表し、募金を開始した(Stop misleading patients – Physician Associates cannot replace doctors)。これは英国の医学史史上最も重要な歴史的訴訟になると言われている。 General Medical Council(GMC)は、1983年の医療法に基づき、医師を規制し、資格がないにもかかわらず資格を有するかのように偽っている者から市民を保護する権限を与えられました。しかし、実際には、私たちは医師が密かに「アソシエイト」に置き換えられているのを憂いながら見ています。さらに悪いことに、GMCはこれを積極的に奨励しています。 (Anaesthetists Unitedの上記ウェブサイトより) 医師とPA/AAの境界が故意に曖昧にされていることは法律違反であり、また患者安全というGMC設立の趣旨に反するとして、Anaesthetists Unitedは以下の要求をしている: このところのPA制度に対する医師の怒りは相当なものなので、当初目標としていた£15000は開始4時間ほどで達成してしまい、現在は£100,000を目指して募金活動を継続している。この訴訟がインフルエンサーにも取り上げられたため、医師以外にもPAの問題が認知されるようになってきた。 Royal College of Physiciansのトップに退任を迫る署名の提出 RCPとは英国内科医が所属しなければならない3つある学会の一つで、Royal College of Physicians of Londonの別称である。ヘンリー8世が創立したそうで、内科医学会の中で最も古い。その学会の80名以上のメンバー(20人以上の教授と3人の評議員を含む)が合同で、学会員の意見を無視したPAの拡大に懸念を表明し、トップに退任を迫る意見書を提出した。 RCPトップであるSarah Clarke医師はPA拡大に大きく加担している。安くて(というのはレジやコンサルタントをPAで置換するつもりなら、という条件付き;政府はそのつもりでPAを拡大しているのだろう。何度も言うがPAはストレートでトレーニングを受けた5年目の医師より良い労働環境で高い給与をもらっている)経験の少ないPAで医師を置き換えるという政府のプロジェクトを可能にしたのは、彼女をはじめとするRCPトップ層に他ならない。学会員の意見を「声の大きい少数派」「いじめ」として大っぴらに退けることもあったようだ。この不信任意見書提出以前には、1000人以上もの学会員が持ちうる限りの権力を行使してPA拡大を止めるように投票したにもかかわらず、それも一切のアクションが起こされないまま政府のアジェンダに沿う行動がなされてきた経緯がある。 それにうんざりする学会員が声をあげてくれたのは素晴らしい。Royal College of Physicians of Edinburghからは1ヶ月ほど遅い動きだが、それでもないよりは良い。 問題は、不信任の意見書にもかかわらずClarke医師が現在も権力の座に居座っていることである。何か利益相反があるに違いないと言われていて、そのうち何かリーク文書が出てくるかもしれない。この件は方々からリーク文書や匿名・実名での内部告発が出ていて、話題に事欠かない。 一般市民もPAの存在に気がつき始めた It’s a GP practice thing というとある地域のキャンペーンが大炎上し、一般の人にPAの存在が大きく知れ渡ることとなった。 The point is that your role descriptions…

  • 以前とあるナースに「『抗菌薬を止めるタイミングのプロトコル』がないからどうしたらいいかわからない」と言われたことがある。当時私は、「5日、7日、などキリのいいタイミングと患者さんの状況と培養結果などを総合して判断する」と答え、なぜそんな自明なことを聞くんだろうと疑問に思っていた。 しばらくして同じひとに、今度は「他科の依頼で対診した時は何をみているのか。プロトコルがないからわからない。」と聞かれた。また質問に少し困惑しつつ、「まずは対診理由を確認して、患者さんの現在治療中のがんと治療内容と抗がん剤なら最後に抗がん剤治療を受けた日を確認して、それから主訴と現病歴とその他既往歴と入院時の診断をみて、既往が複雑そうなら一応外来カルテも参照して、それからバイタルサインと採血結果と画像検査結果と培養各種結果を確認して、入院後に処方されている抗菌薬や定期薬などを確認して、それから患者さんを診察して考える」と答えた。 この質問に答えながら、もしかしたら私たちは同じ業務をしていても結果に至る過程が違うのかもしれないと思った。SHOレベルの医師が下す「臨床判断」には、最低でも5年の医学部と1年の初期研修の下積みがある。一方で、医学部を出ていないスタッフの「臨床判断」は、かなりプロトコルに依っているところがあるのだと思う。 NHSの病院は院内ガイドラインが充実している。院内イントラネットに接続すると、日常で遭遇するあらゆる疾患を網羅しマネジメントが簡潔に記されたフローチャートやガイドラインが出てくる。こういうのを彼女はプロトコルと呼んでいるのだと思う。 プロトコルの良い点は質の担保だろう。誰がやってもフローチャートの矢印に従ってさえいれば同じ結果に至る。最近、八雲の病院で高血圧女性に経口避妊薬を処方し続けて重大な副作用を合併したとして裁判になった例を読んだが、こういうのはイギリスではまず起こらない。イギリスのGPが経口避妊薬を処方する時にはまずチェックリストにある項目を全て確認され、その後も半年から1年に一回ごとにチェックリストの内容に変更がないか再確認をされる。これは口頭ではなくオンラインの質問表で確認されることもある。この一連の流れが「プロトコル」としてGeneral Practiceでは浸透しているので、経口避妊薬の処方は正直医師がやる必要はないようにも思える。 これと同じことが、プライマリケア(GP)でもセカンダリーケア(病院)でも、あらゆるコモンな疾患に起きているのがイギリスの現状だ。 おそらくこういうプロトコルやフローチャートにより、NHSでは「医師ができることはトレーニングを積んだ〇〇(任意の医療職)でもできる」という認識になっていて、これが医師と他職種の境界を曖昧にしていると思う。 これを突き詰めた結果が、スコットランドでナースが腹腔鏡下胆嚢摘出術をしていたケースだろう(Non-surgeon removed gall bladders at hospital)。外科医が医師でなかった時代の再来である(イギリスでは手先が器用で刃物の扱いに慣れているということで昔は理髪師が手術をしていた。その伝統で今でも外科医はDrではなくMr/Missと呼ばれ、「苦労してDrをやめた」というのが外科医のジョークになっている)。 この考えについて知り合いの医師に話すと、その医師はプロトコル化の弊害を直接経験したひとで、個人的な経験を話してくれた。先生のお父さんがお風呂で意識を失った時に、お母さんがパニックで電話をした先がプロトコル化されたヘルプライン(たぶん111)だったようで、「夫がお風呂場で倒れました!」という高齢の女性に、「唇は青いですか?」と聞きお風呂場まで確認させに行き、「痛み刺激に反応しますか?」(これは一般の人にはもちろんわからないので「どうやって痛み刺激を与えるんですか?」という質問もついてくる) と質問してまたお風呂場まで確認させに行き、これを何度か繰り返した末にやっと救急搬送となったようだ。999に電話していればすぐに搬送となる案件だが、一般のひとでは999に電話するのは敷居が高いのだろう。 最近ニュースになった、虫垂炎からの敗血症で9歳の子どもが亡くなった事件もまた、プロトコル化の弊害とも言えるように思う。111のスタッフがチェックボックスに「間違えて記録」したのが、他のいかにもNHSらしい複数のミスと重なって起こったことで子どもは最終的に死んでしまったのだが、111のスタッフに医学的知識があれば、または999に電話していれば、チェックボックスの記載ミスなくすぐに救急車が必要だと判断された案件だと思う。 ⚫︎ 医師の就職難はやはり変わらず、この頃はなんと夏から研修医をはじめる予定の英国大卒医学生ですら職がないことが結構話題になっている。医学生に職を与えられていないDenearyが、なんとPA学生には職を与えており、しかもカリキュラムが医師のそれと同等ということで大炎上していたのだが、1ヶ月経った今も状況は変わっていない。 医師の就職難を引き起こしている原因として今一番問題視されているのはPAで、PA雇用拡大にかんする大規模なバックラッシュが起きている。PAと医師の政治的な闘争は日に日に激化しているがこの頃は状況に少し希望がみえはじめたようにも思う。 トレーニング中の外科医の団体ASiTは非医師が手術をすることに反対する声明を出したし、UKの内科医が所属しなくてはならないRoyal CollegeのひとつRoyal Colleges of Physicians Edinburgh もまた、PAの拡大に強く反対する声明を出した。RCPEdinのはかなりパワフルで、PAが医師のトレーニングの機会を奪っていること、医療安全を蔑ろにしていること、などに加えて、Physican’s Associatesという名前をPhysician’s Assistants というかつての呼称に戻すことなども推奨している。PAが医療安全への危機であることに警鐘を鳴らした医師が、PA団体のトップから嫌がらせで警察とGMCに通報されたケース(最終的に無罪と判定されたものの一連のプロセスが非常にストレスフルだったそう。イギリスでは過失がないのに嫌がらせ目的で医師をGMCに通報することはよくある)では、昨日からこの医師がこのPAを訴訟するための募金集めを開始し、1日も経たないうちに目標金額を集めることができた。 BMAはPAができること・できないことについてのガイドラインを作成し、またPAには常に監督する医師がいなくてはならないことや、若手医師はPAを指導しなくて良いこと、PAを雇うコンサルタントは医師賠償保険の保険金納付先にPAを雇っている旨を知らせなくてはならないこと、などを明記した追加のガイダンスも発表した。これを受けて病院単位ではPAのトレーニングや雇用を一律中止するところも出てきた。 メディアにPAが取り上げられることも少しずつ増えてきている。この調子で状況が一転すれば良いのになあと思う。 参考:イギリスでは医学部を出ていなくても誰もが「医師のように」働くことができる↓。手術はもちろん、乳幼児の挿管をするのにも医師である必要はないし、なんならとある病院では2040年にはICUを全て専門看護師だけで運用する話も出ているようだ。ACPやACCPは看護師出身なのでPAとは比べ物にならないほど知識や専門性がある存在で、診療に必要不可欠な存在ではあるのだが、それにしても入試から卒業までずっと大変な学部での勉強や卒後トレーニングや合格するのが大変な卒後も次々とやってくる試験をくぐり抜けてきた医師が就職難で困っている中で、(国の政策で)病院が医師ではなく彼らを優先して採用しているのがなんとも悲しい。

  • この記事を書いた時から、医師とPhysician Associates (PA) / Anaesthesia Associates (AA) との対立はさらに深刻さを増している。あまりの理不尽に医学部志望者が減る始末である。このブログにはイギリスで臨床医として働く上で良いことも悪いことも書いているが、今回の話はこれまでに書き散らしたNHSの悪いところを凌駕する内容なので、心して読んでほしい。問題があまりに山積していてどこから書いたら良いかわからないくらいで、読みづらいところもあり申し訳ないが、英国で臨床に従事することを考えている医師には必読の内容だと思う。英国で患者さんになる予定のある人も自分の身を守るためにぜひ読んで欲しい。できるだけツイッターから引っ張ってきた医師たちの証言を載せるようにした。 Physician Associates (PA)とは 英国医学会 (Royal College of Physicians) はPAを以下のように説明している: PAは、コンサルタントまたはGPの指導のもと、多職種チームの一員として働くhealthcare professionalsで、一次、二次、およびコミュニティケアの環境で患者にケアを提供します。PAは、政府のMedical associate professions(MAPs)グループの一部であり、イギリスで2003年から働いています。 Who are physician associates? PAは3年制の理系学部を卒業したのちに、2年制のPA修士課程を修了することで得られる資格だ(無資格で働いているPAもいる)。AAはそれの麻酔科に特化した業種の人だちだと思ってほしい。 政府の医療コスト削減策 現在PAやAAが大幅に増えているのは国の政策だ。 NHS Long Term Workforce Plan は、パンデミックからいまだに立ち直れておらずWaiting listが伸び続けるNHSを建て直す策として考案されたもので、そこにはPA/AAの積極的な活用が明記されている。 国が特に推進しているのはPAのGP surgeryでの雇用拡大・AAの麻酔科での雇用拡大で、現在はなんとPAをGPにする案まで検討されている。医学部を出ていない人を医師にするという前代未聞の政策に医師もACP(Advanced Care Practitioner – 看護師出身で特定分野において更なる教育を受けた人たちで、医師同様、PAより勉強期間も実践期間も長く知識もある)も大激怒しているが、国の政策なのでこのまま実施に至りそうな気がしている。 ACP/PA/AAで仕事を回す方がコストが安いので今後NHSは主にACP/PA/AAで回されて、医師の診察を受けたい人はプライベートの病院に行かなくてはならないようになるかもしれないと言われている。歯科医療はその好例で、1990年代には6%だったプライベートの歯科医院は、NHS資金の減少で今や全体の75%にまで膨れ上がっており、金銭的にある程度余裕のある人はプライベートの歯科にかかるようになっている(これは別の記事で触れたのでそちらを参照してほしい)。 RCGPの見方 驚くことに、RCGP(Royal College of General Practitioners);英国GP学会は、PA拡大に賛成しているらしい。RCGPのトップの一人は息子がPAらしく、利益相反もありそうだ。RCGPとは裏腹に、一般のGPたちはPAに反対する声が大きい。仕事も奪われているので当然だろうが、RCGPがメンバーである一般のGPたちの総意を反映していないと怒っている。GP不足にも関わらず、PAのせいでGPが仕事にありつけないと嘆いているのがにわかには信じられない。「PAは医師を置換するための存在ではない」という言葉の空虚さをおもう。 PAの現状 現状PAには規制もRegistryもない。 先ほどPAは2年の修士だと説明したが、実は資格がなくてもPAになれるようだ。ちなみにPA課程に入学するのに必要な成績は医学部のそれとは難易度が天と地ほど違うし、修士中の試験と最後に受ける認定試験は誰も落ちない試験で、合格基準は正答率40%以上という試験の意味があるのか謎な代物で、合格率100%だそうだ。これを指摘すると「医師はエリート主義だ」と反論するPAがいるが、難易度の高い試験を(入試から卒業までずっと)くぐり抜け続けた学生が5-6年間かけて医学を学んだ結果と、平凡な学力の学生が誰も落ちない試験を受けて2年間で“医学を学んだ”結果が同じだと本気で信じられる人はどうかしていると思う。 PAは一応、医師の監督下で働くことになっているのだが、それは守られていないことが多い。 Undifferentiated Patientsを診察する危険なPA すでに割と単純な症例でのPAによる重大な医療事故が複数報告されている。特に有名なのは、若い女性の深部静脈血栓が2度見逃されて死亡に至った例だ。呼吸苦とふくらはぎ痛でGPを受診した女性に、PAは一度目は「Long COVID+アキレス腱痛」という診断をつけ痛み止めで帰宅とした。二度目の受診時には「不安症」という診断でβブロッカーを処方して帰宅とし、その数日後に女性は肺塞栓症で死亡した。呼吸苦+ふくらはぎ痛で肺塞栓症を考慮するのは医学部生でも当たり前の知識だと思うがPAはこれを二度も見逃してしまった。女性は医師の診察を受けたと亡くなるまでずっと思っていたそうだが(メッセージ記録などから)、実は一度も医師の診察を受けていなかった。PAにはその他医療職が受けるような規制がないので、このPEを見逃したPAは今もどこか別のGPでPAをしているそうだ。PAは処方できないはずだが、このような結果になってしまったのは、「医師の監督」がうまく機能していない証拠である。…

  • イギリスの歯医者さんで歯根管治療をした話に検索で辿り着く人が多いようなので、患者としての歯医者の経験と、NHS勤務の医療従事者としての歯医者の経験を書きたい。 NHSが崩壊している話はしばしばブログに書いているが、歯科は中でも飛び抜けて崩壊している。 NHSでカバーされる治療 NHSでカバーされる治療は基本的に、緊急治療、Band1、Band2、Band3の4種類がある。緊急治療は、鎮痛や一時的な詰め物などの処置で、Band1は基本的な診断や放射線検査など、Band2は歯根管治療など、Band3は入れ歯やブリッジなど大規模な処置を含む。何が保険適応で何がそうでないかはこちらのページを見てもらうと良い。Band1だと25.80ポンド、Band2でも70.70ポンドとかなり良心的な値段で提供されている。 歯科医療崩壊 ところが、イギリスの歯科における医療崩壊はその他診療科に輪をかけてひどいので、NHSで治療を受けようと思ったら数ヶ月から1年に近い単位で診察を待たなければならないことがしばしばだ。保険診療の歯科治療を提供している歯医者はFind a dentistから見つけられるが、私の住む地域だと、Only taking new NHS patients for specialist dentist care by referral だとか Not accepting new NHS patientsだとかが延々と続く。特に患者受け入れの可否を指定していない病院に試しに電話しても、私が試した歯科はこれまでのところ全件で新規受入を中止していた。Guardianによると、イングランドの歯科のうち83%が大人の新規患者受け入れを中止しており、71%でこどもの新規受け入れも中止しているそうだ。NHSの歯科治療へのFundingがどんどん削られているためだそうで、NHSでカバーされる治療の提供に疲弊した歯科がプライベートに移行する流れが年々加速しているようだ。 イタリアでは金銭的に余裕のある人は基本的にプライベートの歯科にかかるそうなのだが、イギリスもこの頃はそういう傾向にある。お金のない人はどうするかというと、自分で抜歯を試みたり、歯科治療が重要な疾患(感染性心内膜炎とか、がんの骨転移の治療にビスフォスフォネートを使いたいとか)を発症して病院勤務の歯科口腔外科医が対応したりする。口腔がん患者さんの死亡率の上昇は歯科へのアクセス困難と関連があるとされているようだ。 会社によっては歯科治療をカバーするような医療保険が社員に提供されているそうで、そういうのがあればプライベートの歯科でも問題ないのだろうが、自費でプライベートの歯科にかかると診察だけで60ポンド、放射線検査もすると120ポンドもの費用がかかる。私はもう慣れてしまったので「歯科治療とはこういうものだ」と思って支払いを済ませているけれど、日本から来たばかりの人には信じられない額だろう。 このような事情で、病棟でビスフォスフォネート開始のために歯科治療歴を聞くと「もう何年も行っていない」という人がかなりいる。救急外来でバイトをした時に、歯のほぼ全てが歯科医でない私の目にも明らかな虫歯という中年女性を診たこともある(その人は痛みで来院していて、こんなに虫歯があったらそれは痛いはずだと思った;残念ながら救急外来では特にできることがなかったので111に電話するよう勧めて鎮痛剤処方して帰宅とした)。その人は「ずっと前からNHSの歯科にかかろうとしているが予約が取れない」と言っていて、不憫だなと思った。 大規模な治療が必要な人はトルコに旅行するという話も聞いたことがある。旅費を含めてもその方が安上がりらしい。 余談だが、日本では「外国では歯並びが大切」と聞いていたもののイギリスではアメリカほど歯並びが重要視されているように感じない。フランスでは前歯のすきっ歯をdents du bonheur(lucky teeth)というようだし、ナイジェリアでは前歯のすきっ歯が美しさと優秀さの証と見られるようなので、結構国による違いがあるのかもしれない。 予防 これからイギリスにくる人は、日本で歯科問題を解決してから万全の状態で来てほしい。すでにイギリスにいる人も、私の歯科医が勧めていた以下の口腔ケアを検討してみてほしい: