• 日本の医学生や研修医のみなさんが時々連絡をくれる。すでにPLAB1/2の準備をしているなど具体的な方向性が定まっているならあとは突き進むだけだが、まだ低学年で、どうしようかなという人は、とりあえず具体的な戦略は置いておいて、医学と英語と人間らしい生活・好きなことを頑張るといいと思う。

    医学は、英語の教科書を読むのでも、Youtubeを観るのでも、なんでもいいので、とりあえず日本語で話せる/読める/書けることは英語でも話せる/読める/書けるという状態を目指すといいと思う。自分の語学学習(英語、イタリア語)を振り返ると、週末にたくさん勉強するより、毎日5分でもいいから継続して触れ続けることが大事だと感じる。

    またPLAB pathwayでもMRCP pathwayでも、英国で医師として認定されるための試験の受験にまずIELTSで一定以上の点数を取得しなければならないが、基礎の英語力があれば、短期間でそれに特化した勉強(特にライティング)をすることですぐに目標点に到達できるので、まだ低学年であれば、IELTSに集中しないで全体的な英語力向上に役立つことをするのがおすすめだ。それは英語で定期的に映画を観ることかもしれないし、英語で日記や手帳を書くことかもしれないし、英会話教室に行くことかもしれない。その辺はそれを専門に発信している専門家がたくさんいると思うので、専門家の意見を参考にしてほしい。

    英語そのものは手段に過ぎないので、英語ができても話す内容がないと本末転倒だ。なので、色々な本を読んで(旅行でも映画鑑賞でもいい)、バックグラウンドの異なる人と会話が続くような知識の引き出しも学生で時間のあるうちにたくさん作っておくといいと思う。イギリスではあらゆる文化や階層や地域出身の人と出会う可能性があるのでどんな知識も宝の持ち腐れにならない。

    英国での臨床医を目指すのに米国試験のSTEP1は役に立つかという質問も受けた。私は実はSTEP1受験歴があって(点数が低いながら無事合格した)、MRCP Part1という内科専門医研修に進むための試験準備で出くわす内容がかなりSTEP1と被ることを確認しているので、臨床(マイナー科含む)にとどまらず基礎の分野でも英語でやっておくと未来の自分に随分と感謝されると思う。外科のMRCSについては詳しくないので自分で調べてほしい。

    せっかく試験をパスしてもCVが良くなければ採用されない。イギリスは米国ほど競争率が高くないが、それでも学会発表歴や論文が採用された経歴があると採用率が上がるので、この記事に書いてあるようなことは学生で時間があるうちに取り組んでおくといいと思う。

    その他生活の話だと、遠くの国に一人で来て孤独なこともあると思うので、人と繋がれるような趣味もあると良さそうだ。私はこちらで大学院に通っていた時の友達が今も仲良くしてくれているが、働き出してから友達を作るのは学生の時より難しいなあと感じる。特に前勤務先では、4ヶ月ごとに勤務科が変わる・オンコールや夜勤で同期と都合のいい日がなかなか被らない・遠方から通勤している研修医が結構いるなどの理由で難しく、時々飲みに行く他は、編み物教室の集まりと学生時代の友達との集まりに顔を出すことで交友関係を広げて・維持していた。現勤務先は1年間同じ科で同じメンバーと働くこともあって、定期的にご飯に行く同期がいるが、トレーニングジョブ(正式な研修)を始めると数ヶ月おきに病院を超えて科を転々とするのがデフォルトなので、病院の外に友達を作る手段があるといいと思う。あまりにバックグラウンドの違う何も共通点のない人と会話を続かせる・興味を持ってもらうためには何か話すことが必要なので、その点で上述の知識の引き出しがあると役立つ。私はあいにく集団スポーツが嫌いだが、多分集団でのスポーツのできる人だとそれも友達作りに一役買うと思う。

    何度かこのブログで述べている、健康的なストレス解消方法も早いうちに見つけておくと良い。

    ひとと違う道を選ぶと不安になることもあるが、私の場合は貯金(と日本に帰ればいつでも仕事が見つかるという事実)が精神の安定に寄与していた。渡英には何かとお金がかかるので、貯金もできればやっておくといいと思う。奨学金給付が終わったころに私は一時帰国していわゆる「地域医療」を提供する地方の病院で働かせてもらい、その期間にできた貯金がその後イギリスで就職するまでの自分を精神的に支えてくれた。異国の地でひとりで生きていくにはお金が何よりの安心につながる。

    凡庸な感想だけれど、イギリスにきてアイデンティティの大きな揺らぎを経て、私は人間的にとても成長できたと思う。渡英後の経験というよりもしかしたら単に加齢の影響かもしれないが、自分を欠点も含めて「とても人間らしくて良い」と受け入れられるようになった。生活が不安定な時期や先の見えない時期に、イギリスにきて良かったのか迷うこともあったけれど、生活が安定し新たな目標を見つけた今は、イギリスにきて本当に良かったと思っている(ブログにはNHSの悪口ばかり書いているけれど)。日本みたいな清潔で治安のいい国で育った人がイギリスにくるのは、人によってはデメリットの方が大きいかもしれない。でも、うまくいかなかったり思っていたのと違ってイギリスが嫌になったりしても、日本に帰れば仕事はあるので、やってみたいなら頑張ってみることをおすすめする。

  • NHSでの最初の1ヶ月を生き抜く方法という記事を書いてからしばらく経つので、仕事を見つけてから最初の半年くらいで意識しておきたいこと(私が知りたかったこと)について色々追加しておきたい。

    生活の知恵

    次年度の進路

    • GPST1に進むにせよ、IMT1 (Internal Medical Training) やCST1 (Core Surgical Training)やその他ST1 (Speciality Training) に進むにせよ、外国の医学部出身者にCREST formは必須なので、次年度のポスト募集が締め切る11月末までにはCRESTの項目全てにチェックしてもらえるよう必須経験を積んでおきたい。ちなみに私はAuditsを11月末までに済ませておらず応募締め切りまでにsign offしてもらえなかったため、NHS1年目はトレーニングポストへの応募を見送った。私は当時はGPを考えていたが今は気が変わってIMTを目指しているので、これはこれで良かったのだが、トレーニングポスト応募のチャンスは1年に1回ー2回なので進路が決まっている人は早いうちから行動した方が良いと思う。
    • Taster Sessionは将来就きたい科で早いうちに組んでおくと良い(先方とのタイミング調整に結構時間がかかることがあるし、トレーニングポスト応募の前に一応イギリスでのその科の状況をTasterを通じて知っておいた方がいいと思う)。
    • ポートフォリオには上司からのフィードバックが必要な項目(DOPS, Mini CEXなど)がいくつかあるので、その辺もポートフォリオをトレーニングポストの医師同様に仕上げたいなら締切を意識しつつ早めに取り組む必要がある。
    • MRCPなど各種試験は生活に慣れてからで良い。あれもこれも頑張ると大変なので、↑のような締め切りがあることには留意しつつ仕事に慣れることが先決だと思う。

    健康

    イギリスの住環境改善グッズ

    • 除湿機:床暖房の寮に住んでいたときは逆に乾燥で困っていたのだが、普通の家に引っ越してからは常に湿度に悩まされていた。現在の家に引っ越してからは特に湿度がひどく(Grade2の重要文化財みたいな建物に住んでいる)洗濯物が乾かない上に窓際にカビも出現しはじめたので、友達に勧められて除湿機を買ったら、部屋も暖かくなったし、カビも発生しなくなったし、湿度のせいで出現・増悪していた脂漏性湿疹も治った。
    • squeegee:お風呂の仕切りガラスに水垢が付くのが嫌だったのだが、Squeegeeで水切りをすることで解決した。
    • limescale remover:石灰質の水垢がケトルや加湿器(床暖房の寮に住んでいた時は乾燥に困っていたので加湿器を使っていた)の底に溜まったり水回りに溜まったりするのを仕方がないことでどうにもならないと思っていたが、ライムスケールリムーバーというスプレーを使うときれいになくなることがわかった。
  • イギリスの歯医者さんで歯根管治療をした話に検索で辿り着く人が多いようなので、患者としての歯医者の経験と、NHS勤務の医療従事者としての歯医者の経験を書きたい。

    NHSが崩壊している話はしばしばブログに書いているが、歯科は中でも飛び抜けて崩壊している。

    NHSでカバーされる治療

    NHSでカバーされる治療は基本的に、緊急治療、Band1、Band2、Band3の4種類がある。緊急治療は、鎮痛や一時的な詰め物などの処置で、Band1は基本的な診断や放射線検査など、Band2は歯根管治療など、Band3は入れ歯やブリッジなど大規模な処置を含む。何が保険適応で何がそうでないかはこちらのページを見てもらうと良い。Band1だと25.80ポンド、Band2でも70.70ポンドとかなり良心的な値段で提供されている。

    歯科医療崩壊

    ところが、イギリスの歯科における医療崩壊はその他診療科に輪をかけてひどいので、NHSで治療を受けようと思ったら数ヶ月から1年に近い単位で診察を待たなければならないことがしばしばだ。保険診療の歯科治療を提供している歯医者はFind a dentistから見つけられるが、私の住む地域だと、Only taking new NHS patients for specialist dentist care by referral だとか Not accepting new NHS patientsだとかが延々と続く。特に患者受け入れの可否を指定していない病院に試しに電話しても、私が試した歯科はこれまでのところ全件で新規受入を中止していた。Guardianによると、イングランドの歯科のうち83%が大人の新規患者受け入れを中止しており、71%でこどもの新規受け入れも中止しているそうだ。NHSの歯科治療へのFundingがどんどん削られているためだそうで、NHSでカバーされる治療の提供に疲弊した歯科がプライベートに移行する流れが年々加速しているようだ。

    イタリアでは金銭的に余裕のある人は基本的にプライベートの歯科にかかるそうなのだが、イギリスもこの頃はそういう傾向にある。お金のない人はどうするかというと、自分で抜歯を試みたり、歯科治療が重要な疾患(感染性心内膜炎とか、がんの骨転移の治療にビスフォスフォネートを使いたいとか)を発症して病院勤務の歯科口腔外科医が対応したりする。口腔がん患者さんの死亡率の上昇は歯科へのアクセス困難と関連があるとされているようだ。

    会社によっては歯科治療をカバーするような医療保険が社員に提供されているそうで、そういうのがあればプライベートの歯科でも問題ないのだろうが、自費でプライベートの歯科にかかると診察だけで60ポンド、放射線検査もすると120ポンドもの費用がかかる。私はもう慣れてしまったので「歯科治療とはこういうものだ」と思って支払いを済ませているけれど、日本から来たばかりの人には信じられない額だろう。

    このような事情で、病棟でビスフォスフォネート開始のために歯科治療歴を聞くと「もう何年も行っていない」という人がかなりいる。救急外来でバイトをした時に、歯のほぼ全てが歯科医でない私の目にも明らかな虫歯という中年女性を診たこともある(その人は痛みで来院していて、こんなに虫歯があったらそれは痛いはずだと思った;残念ながら救急外来では特にできることがなかったので111に電話するよう勧めて鎮痛剤処方して帰宅とした)。その人は「ずっと前からNHSの歯科にかかろうとしているが予約が取れない」と言っていて、不憫だなと思った。

    大規模な治療が必要な人はトルコに旅行するという話も聞いたことがある。旅費を含めてもその方が安上がりらしい。

    余談だが、日本では「外国では歯並びが大切」と聞いていたもののイギリスではアメリカほど歯並びが重要視されているように感じない。フランスでは前歯のすきっ歯をdents du bonheur(lucky teeth)というようだし、ナイジェリアでは前歯のすきっ歯が美しさと優秀さの証と見られるようなので、結構国による違いがあるのかもしれない。

    予防

    これからイギリスにくる人は、日本で歯科問題を解決してから万全の状態で来てほしい。すでにイギリスにいる人も、私の歯科医が勧めていた以下の口腔ケアを検討してみてほしい:

    • 電動歯ブラシで1日2回磨く(3回以上は磨きすぎ;磨く力が強すぎる場合にライトが点滅して教えてくれるような電動歯ブラシが良い)
    • 歯磨き粉は高濃度フッ素入りのもので(日本には高濃度フッ素入りの歯磨き粉が少ないがイギリスの大人向け歯磨き粉は基本的に1450ppmのフッ素が入っている)
    • 電動歯ブラシの前に歯間ブラシと歯間糸を使う。歯間ブラシには歯磨き粉をつけて使う。歯間ブラシは無理しないで入る範囲でできるだけ太いものが良い。
    • マウスウォッシュは使わなくて良い。歯磨きの後に使うとむしろ逆効果なので、どうしても口が気持ち悪いが歯磨きができない時にアルコールなしのを使うのは良いかもしれないがおすすめはしない。
  • 合格報告をくれた3人目のひとがPLAB2の体験を書いてくれました。合格おめでとうございます👏

    日本生まれの日本育ちで常に英語で苦労してきました。自分と同じ様な境遇の人に少しでも役立てる様に自分の経験をシェアしたいと思います。

    私は2023の2月に受験して失敗し、同年の11月に再度受験してPassしています。

    予備校

    予備校はMo Sobhyの学校に通いました。予備校は、ロンドンから電車で約2時間の距離にあるCorkという小さな田舎町に位置しています。予備校とその宿泊施設は駅から徒歩15分ほどの距離にあり、Tescoやスタバなど生活に必要な施設も比較的近くにあるため、数週間の滞在にはあまり不便しませんでした。ここの予備校にした理由はその教材です。単純に他の予備校の教材よりもここの教材のほうが見やすかったからです。

     予備校では基本週に3−4日程度はテーマが決まった授業が行われています。予備校で行われる授業に関しては、Facebookのページを見てください。授業はとにかく長く、午前中から夜まで続くことがほとんどでした。教師の質もピンからキリだったので、早い段階で見切りをつけたほうが良いと思います。

     授業以外の日はGhalaba mock という練習日になっています。具体的には大体午前10―12時まで予備校に集まった受験生がそれぞれランダムにペアを作って練習するというものです。ここで練習した相手のレベルや性格などもわかります。相性が良かったり、お互いの試験日が近ければ、練習相手も探せる機会になりました。

     僕はそれほど授業には出ず、ひたすら練習パートナーと練習していました。その他の良かった点は以下に挙げる通りです。悪い点は予備校の劣悪なインフラと衛生面が全てでしょうか。

    (良かった点)

    ・模試

    この予備校の一番良かったところ。模擬患者役は過去にPLAB2に受かった人がやっています。なので、本番での患者の振る舞いの再現性が高く、本番の感覚を掴む上でも受けて良かったと思っています。特に、Simman、Examination、Procedureなどを実際の試験の雰囲気で練習できたのは良かったです。 Feedbackは評価者によってピンからキリです。11月に受けた模試のFeedbackは2月時よりも、より丁寧になっていました。徐々に質も改善している?のかもしれません。

    ・Whatsapp のグループ

    試験日が決まると、試験の週の受験者ごとにWhatsapp上でグループが作られます。直近数ヶ月分の過去問のまとめや試験直前に出題された問題などを共有されます。練習相手を見つけるのに役立ちました。一回、試験で落ちたとしても、その後もお願いすれば再受験時に再度グループに無料で追加してもらえます。過去問もシェアしてもらえたのでとても助かりました。

    ・宿

    予備校の近くに大学の寮の様な宿舎があります。キッチンは共用で、ベッド、机、シャワー、トイレは部屋についています。一泊15£(2023年11月時点)とイギリスにしてはとてもリーズナブルな価格でした。

    準備期間

    2月に受験した際は2ヶ月ほどテキストを読んで、直前の1ヶ月前から現地の予備校に通っていました。11月の受験の際はSimmanやExaminationでマネキンを利用したい時だけ数日、ロンドンから通っていました。

    失敗点と再受験時に改善したこと

    誰もが言われている通り、良い練習相手を見つけることが鍵です。僕は初めて受験した時に見つけた練習相手は皆、試験に落ちていました。要点を得ていないフィードバックや、自身のこだわりに近い点を自信満々に他人に押し付けてくる輩もちらほらいたので気をつけたほうがいいです。

    まとめ

    他の予備校と比べることはできませんが、試験情報の豊富さや効率的に練習相手を見つけることができる点で、Mo Sobhyの予備校はおすすめできるかもしれません。日本の清潔で整った生活環境に慣れ親しんでいる人にとって、予備校に足を踏み入れた瞬間の絶望感は甚だしいかもしれません。しばらく慣れるのに時間はかかると思いますが頑張ってください。

  • Evidence of your internship or experience

    GMC登録の際に必須の書類のひとつに、Evidence of your internship or experienceがある。最近PLAB2に合格した人に書式について聞かれた。別の誰かの役にも立つかもしれないので、ここにも載せようと思う。インドやパキスタンの医師のブログを頼りに手探りで作った書類ではあるが、私はこれで無事受理されたので、困っている人はぜひ参考にしてほしい。

    病院の秘書さんとやり取りをしたPDFのスクリーンショットで少し画質は悪いが、雰囲気は伝わると思う。自分の日記帳をもとに(海外渡航歴などもそうだが、まめにGoogleカレンダーにいろんな記録をつけておくと後でとても役に立つ)日付やローテートした科を記載し、日本語の臨床研修修了証を参考に書類の体裁を整えて、秘書さんにヘッダーの挿入および院長・プログラムディレクターの署名をもらうようお願いした。Signature上の黒枠には署名日、Signature横の黒枠には手書きの署名、そしてSignatureの下には院長・プログラムディレクターの名前と肩書きが記してある。

    私は2016が2017にかわるところを打ち間違えていて、秘書さんに余計な迷惑をかけたので、単純作業のようではあるが細かいところまで確認するよう気をつけてほしい。

    地域医療の訳語としてRural Medicineが適切なのかちょっと疑問なので適切な訳があればぜひ教えてほしい。

  • NHS勤務18ヶ月目ともなるとさまざまなことに慣れ、NHSのあれこれにあまり新鮮味を感じなくなってきた。なので「ブログのネタ」も、NHSらしい何かを見つけるのが段々と難しくなってきているように感じる。過去の記事を見返すと、自分は1-2年前はこんなふうに感じていたのか、と驚くが、今やNHSが私にとっての標準で、日本のことはほとんど思い出せない。

    腫瘍内科と緩和ケア科

    業務は外来から病棟に移った。全部で25床くらいの病棟を血液内科と腫瘍内科で共有している。血液疾患は血液内科でしか治療できない症状・疾患が多いため、患者さんが多い時にはどうしても病棟は血液内科の人を優先して受け入れることとなり、私が病棟勤務を開始してからは腫瘍内科の患者さんは常に1人ー4人程度の日が続いている(血液内科のせいで腫瘍内科のベッドがない、と小言を言った腫瘍内科のコンサルタントが、血液内科のコンサルタントから「CNS Lymphomaが4件!信じられるか!?昔はこんなことなかったのに。あー忙しい、入院患者が減って腫瘍内科にベッド譲れたら良いのに」と逆にちょっと小言?を言われていてピリピリした雰囲気に緊張した)。病棟から溢れた患者さんは病院中のさまざまな病棟に散らばっており、腫瘍内科の別部署(Acute Oncology Service; AOSー以前の記事に書いた)の医師が往診に行く。あくまで私は腫瘍内科のこの病棟内の患者さんのみの担当だ。

    病床数が限られる中、優先的に病棟にやってくる人は、緊急ケモが必要な人(肺小細胞癌の人や、癌再発に関係する症状で入院・外来ケモ室の予約がいっぱいで次回外来まで待てない人など)のほか、主には積極的治療からBest Supportive Care(BSC)に移行しつつある人で、緩和ケア医になりたい私としては日々大変やりがいのある病棟となっている。こういう人は緩和ケア科の医師や看護師が定期的に様子をみにくるので、その会話に同席させてもらったり、アセスメントの理由を教えてもらったりしていて非常に勉強になる。

    腫瘍内科に入院しているBSCの患者さんは、ホスピスに勤務していた時とはまた少し雰囲気が違っている。ホスピスにいた頃は、ホスピスにやってくる大体の患者さんや家族は諦めがついているというか状況を受け入れつつあるような感じだった。病棟だと、つい先日まで積極的治療をしていたのにがんの転移・再発の速度が早すぎて、診断から4ヶ月で余命数日〜数週間を告げられる人など、展開が早すぎて患者さん本人も家族も受け入れが追いついていないような感じの人が時々いる。患者さんが若い(+ー子どもがいる)となおさらこの傾向があるように思う。

    退院調整も、余命幾ばくかでホスピスに来る人だと、ホスピスで最期を迎えることを目的としてやってくる場合がほとんどなのだが、病棟で余命数日から数週間の状況だと、自宅退院・ホスピス退院・病棟で最期までの3つの選択肢があり、本人と家族の希望に加えて、日々変化する本人の病状に合わせて最適解が刻一刻と変化する。Continuing Healthcare Fast-Track(CHCFT)を通じてPackage of Care (POC);訪問介護士や訪問看護師をどれだけ迅速に導入できるか・電動ベッドなどの必要な器具をどれだけ迅速に設置できるかも鍵となる。例えば本人も家族もどうしても自宅退院を希望していて介護看護にさほど専門知識が必要ない場合には、器具だけを導入してPOCを待たずに家族だけで介助することもありうるが、家族がすごく不安の強い人や介助に専門知識が要求されるような人なんかだと、医療者がちょっと強めに病院やホスピスを勧めるのが本人・家族にとって一番良いことだったりする。本人や家族の性格や希望に加えて社会的状況(例えばすごく田舎に住んでいる人だとそれだけでPOC導入がちょっと大変)も総合的に勘案していい塩梅を決める緩和ケアの医師・看護師は本当にすごいなあと思う。

    緩和ケアナースの話し方を聞いていると、優しいのに実用的で支持的で、相槌のタイミングや内容が素晴らしすぎて、心から尊敬する。自分の家族が終末期になったらこういうナースに支えてほしいなあと思う。最近だと、自宅退院したいと希望していた患者さんがPOC・器具導入を待てずに病状悪化したケースがあった。患者さんは意思疎通困難で、パートナーは患者さんが意思疎通できていた頃の希望(自宅退院)に固執して、それを実現できない自分を責めてしまうというような状況で、緩和ケアナースが「もうお話しできない状況になってるけど、XXにとって大切なのは家族といること。意思疎通はできないけれど家族がそばにいることはわかっているはずだし、家族がいるなら家でも病院でもどちらでもいいってきっと言うと思いますよ」と言うような表現をしていて良いなあと思った。自宅看護のための器具が届く日に患者さんの病状が悪化して危篤状況となったので器具を受け取っている場合ではなく早く病院にきて患者さんと過ごすべきだということについて、話の内容は今起こっていることをそのまま表現しているにすぎないのに、複雑すぎず率直で、でも直接的すぎず支持的で、私も早くあんな話し方ができるようになりたいなあと思った。

    緩和ケアのコンサルタントは、面会のあとに患者さんのキャラクターを一言でぼそっと表現することがあって、とある患者さんに「なんかalpha-maleって感じなのに、それとは真逆の全然頼りない弱気な一面も共存させていて不思議な人だ」みたいな表現をしたのが言い得て妙だなと思って印象に残っている。先生が私のことをなんと表現するのか少し興味がある。この先生は10分くらいの会話でも患者さんの信頼を得る先生で、毎日会っている私なんかより入院中に1-2度会うだけの先生の方が頼りにされている印象で、私もいつかああなりたいなあと思う。

    ある日学生さん2人が、「症例レポートを作るため過去に入院していたXXさんの経過を知りたい」「病棟に症例レポートに最適な患者さんはいないか」と質問してきたとき、患者さんたちのがんに関するこれまでの治療・これからのメインの治療や既往歴や退院時に使っていた主な鎮痛薬はもちろん、趣味や日々の楽しみ、家族、キャラクターや雰囲気まで全部話せることに自分でも驚いた。もしかしたら全員覚えているかもしれないと思って、あとで病棟で2ヶ月間のうちに関わった患者さんを一言でまとめて過去のPatient Listと照らし合わせてみたら、やはり全員覚えていた(まあ日々1ー4人くらいしか担当していなかったら当然と言えば当然かもしれないが…)。ひとりひとりとの関わりが濃い上にホスピス勤務時よりも自分の裁量が大きいため、仕事がかつてなく楽しい。

    自分がメインで病棟管理しているため、ナースやOT/PTや退院調整のスタッフとも仲良くなれて、知っている人の多い中で働くのは居心地も良い。日本にいたときはなんとなく志望科を決めきれず、同期がもう専門医を取得している頃なのに私はというと(国を変えたこともあって)いまだに専門科を選ぶスタート地点に立っているのだが、やっとずっと関わっていたい科を見つけられてよかった。同期よりも随分と余計に時間がかかったけれど。

    自分にもこれができる日が来るだろうか、と不安になる時、緩和ケアのコンサルタントになるまで少なくともあと最低7年はかかる(私の能力だと10年くらいかかるかも)という事実が少し励みになる。去年の今頃だと、長いトレーニング期間をネックに感じていたことがブログ記事から読み取れるのだが、今はトレーニングが長いことが「それなら自分にもできるかもしれない、これから頑張ろう」と逆に希望を生んでいる。

    言語

    日本語が不自由になってきた。IMTの面接の準備をしていて、どちらの言語で考えたらいいのかわからない。局所的に「計画の定期的な見直し」「被疑薬」など日本語が出てくる一方で、フォーマルな文章全てを日本語で構築するだけの日本語力がもう失くなってしまったように感じる。年末年始に日本人の友達と過ごした時は、ずっと日本語で話していたのに、Whatsappで英語のチャットをした直後には、目の前の(さっきまで日本語で話していた)友達には英語で話しかけていた。自分が普段どちらの言語で考えているのかそんなに意識していないが、どうも考えていることや話したい内容に応じて頭が勝手に切り替わっているようだ。日本語が不自由になったぶん英語力が少し向上しているとは思うのだが、不自由になる前の日本語ほど英語が流暢なわけではないので、先行きに不安を感じる。

    医学英語は英国人にも難しいのだという話をいつか書いたと思う。秘書さんはdiarrhoeaやanaemiaの綴りを聞いてきたしこの仕事に就くまではその単語を知らなかったなんて言っていた(「じゃあdiarrhoeaを一般の人はなんと表現するのか?」という私の質問に、横で聞いていた英国人ナースが「Shit…!」といって大爆笑が起こった)が、最近面白かったのは、SNT (Soft, Non-Tender)という下腿についての典型的なカルテ表現についの仲良しOTのコメント「Soft’n’Tenderかと思った」。それ以来SNTと書くときに微妙にマスクの下で笑ってしまってよくない。

    退院可という表現はいくつかあって、基本形はMFFD (Medically Fit For Discharge)だが、私は好んでMOFD(Medically Optimised For Discharge)を使っている。Fitじゃない人も薬剤調整や社会調整が済んだら退院可なので、そういう意味でFitの代わりにOptimisedを使っている。これをみたレジが意味を聞いてきて、「へえーそういう表現もあるのね。MFFDの他にはMRFD(Medically Ready For Discharge)しか知らなかった。」と驚いていた。前勤務先ではMOFDがよく使われていたので地域差もあるのかもしれない。

  • もう3年も前のものだが、下書きに以下の記事が残っていた。生活に支障が出るほどのカルチャーショックは乗り越えたけれど、この経験で「自分はこんな人間である」という自己認識が根底から変わってしまったと思う。関連記事はこれこれ

    移民1世のしかも本国から来たばかり・まだ英国に住んでもいない(その点では彼らを移民と呼ぶのも不適切かもしれない)、というひとたちに囲まれて過ごす英国での数ヶ月はたぶん後にも先にもこのときだけなので、このとき以上のカルチャーショックをうけることはもうないと思う。

    移民2世や3世だと本当にいろいろなのだけれど、移民1世のしかも移住したてのひと・英語力が母語に圧倒的に及ばないひとはまだ母国の文化や慣習や考え方を色濃く引きずっていて、それが私のそれと合わないと結構しんどいなあと思うことは今もたまにある。

    PLAB2の授業がはじまってからカルチャーショックを日々感じていてもう何も考えたくないほど疲れてしまった。私は私が思ってたよりうんと不寛容でもやもやしている。

    西洋を中心に考えて他(母国の日本を含む)を辺縁に追いやるのはよくないし自分はそうじゃないと思っていたのに、ムスリム文化に触れて自分が西洋にどっぷり浸かっているのを再確認して、ショックで、考えがまとまらなくなった。

    週末はロンドンでオンラインコースを受けたクラスメイトたちと対面での授業に参加した。カルチャーショックは主に(1)講師、(2)街、(3)クラスメイトについて。


    (1) 講師に対する色々な不信感は皆が共通して抱いてて、安心した。コース直前に授業がオンラインになることを電話で告げられたけど実はパンデミックが始まってからずっとオンラインだったことも知った(もう2年近くこの運用なのに生徒に直前まで一切知らせないで優先ビザまで申請させて英国に来させて自分の宿舎に泊まらせてお金を儲ける作戦で、インドやパキスタンやジョージアから来た人たちはすっごく怒ってた)。講師はものすごく時間にルーズで、土曜日なんて、絶対8時に来いと言ったから4時半に起きて用意して行ったのに授業が始まったのは10時過ぎだった!他にも必ず授業時間超過するとか授業が系統立ってないとか、メールの返事が遅いとか、差出人がadminX(Xは番号)とか、都合の悪い質問は絶対に無視するとか、covidに関する問診票の最初の質問が結婚ステイタスで次が身長と体重とか、写真や名前のデータに関するプライバシーを捨てる同意書にサインさせられるとか、日本/英国基準で言うと有り得ないことが多くて、講師にはひどく腹を立てていたし困惑していたので、とりあえず一緒に愚痴れる相手がたくさんいて良かった。唯一対面授業をしてる予備校だからここにしたのにという人もいて、こんな詐欺まがいのことが許されるのかと不信感でいっぱいだけど、どうもネットにレビューを投稿するや否や消されたり執拗に電話がかかってきたりするようなので、試験が終わったら一刻も早く関係を断ち切りたい講師だと思った。
    日本でいう’いじり’の激しいのを講師は特定の生徒に対してずっとしてたんだけど、UAEで働いてるインド人のクラスメイトにあれはアラブ人だと普通だよむしろ礼儀正しい方って言われて、講師はイラン出身だけどアラブ人なんだなとか、あれがデフォルトのコミュニケーションの世界では私は生きていけないなとか、ぐるぐると考えていた。ジョークが昭和なのもいただけないと思った。
    (2) 街はムスリムの街で、アラビア語の看板で溢れていた。皆オリーブや濃い肌の色で、街行く女性の多くがヒジャブやジルバーブを身につけており、私の住む街とはまるで別の国だった。街を歩くときに緊張して荷物を気にする自分がとても嫌だった。ジルバーブをイギリスで見るのがショックで、まじまじと見つめてしまっていたところ、その女性の連れている小学生くらいの女の子と目があった。とても可愛い笑顔でにこにこしながらこちらを見ていた。もしかして母親に不審な目を向けられるのに慣れていて敵意がないことを示すための笑顔なのかなと解釈して、見た目でjudgementalになっていた自分を恥じた。女の子には微笑み返したけどマスクをしていたので通じたかわからない。
    以前の投稿にも書いた通り授業中にムスリム文化や国の様子について聞く機会があって、ムスリム文化は私には激烈にしんどいなと思った。ホモフォビアやシングルマザー差別はだめだと生徒に伝えるのに相当な時間を割かれたことへのショックは前に書いたけど、他にも例えばDVに関するトピックでは、英国で生まれた男性に親が本国から女性を連れてきて結婚させる(女性は英語が話せないし社会との繋がりもない)、夫が嫌でも妻は社会や家族からの復讐が怖くて離婚できないみたいなのが比較的よくあると講師が小話をしていて移民一世のムスリム女性は超ハイリスク群だと感じた。
    (3) クラスメイトはボツワナや南アフリカやバングラデッシュなど色々な地域から来ていたけど、主にインドとパキスタン出身だった。パキスタン訛りがわかるようになった。インドでもパキスタンでも未だに親が結婚相手を連れてくるのがデフォルトのようで、無意識に医者はそんなことないだろうなんて思っていたけれど、医者も例外ではないらしい。あるクラスメイトたちは「25歳までに結婚させられるのは良い文化だと思う、夫が協力的な人である限り」「私の親はある程度私の意向を汲んで夫を連れてきた」(最近はお見合いからの恋愛婚も少し許されてるらしい)といい、また別のクラスメイトたちは「結婚したら全部終わる。絶対結婚したくない。本当はインド人の女性の大半がそう思ってるけど、親や社会が怖くて言えなかったり実行に移せなかったりするだけ。医者でも結婚したら辞めさせられる。こどもを産むことが大事だから。」みたいに言っていて、空恐ろしくなった。
    お昼ご飯を食べに行ったレストランでは私がベジタリアンがあるかソワソワする一方でムスリムの子はハラルがあるかソワソワしていた(ハラルの殺し方が私の倫理観に反するので少し複雑な思いだった)。
    パキスタンの人たちは、自己紹介なく「あんたテストいつ」と聞いてきたり、英国人や日本人なら絶対Thank youを忘れない場面でも人に感謝しなかったりして、時に私は使用人のように扱われて、少し鼻白んだ。パキスタンで医師になるような家系の人は、家に何人もお手伝いさんのいるようなお家が多いらしいので、そういうのも関係あって一般のパキスタン人とPLAB2予備校に来ているパキスタン人は雰囲気に少し乖離もあるのかもしれない。あと人が話すところに被せて全然別のこと話し始める人も結構いてそれもびっくりした。何か日本人がステレオタイプ的に優しいとか礼儀正しいとか言われる理由がわかる気がした…。
    2週間休みなく9時から21時までオンライン授業で疲弊してたところに、予想外のトラブルとかストレスがどんどん降ってきたので、色んなことにひどく体力と精神を消耗してしまった。私は自分で思ってたより簡単に不寛容な差別主義者になってしまいそうでそれもすごく怖くなった。

  • KKさんにご親切にPLAB2の記事のコメント欄に最新の情報をいただいたので、記事として改めてここに投稿しておきます。KKさんは連絡をくださった方の中で4人目の合格者です!

    ⚫︎

    2023年12月にPLAB2を3回目の挑戦でパスした者です。
    PLAB2の試験内容、および対策が日々アップデートされておりますので自身の経験を参考までに残させていただきます。

    予備校:
    管理人さまと同様、Common Stationsに通いました。パンデミック後は10日間のオンライン講義(外国から受講可)+5日間のFace-to-faceの講義のフォーマットとなっております。個人的には2023年末時点においてはCSは積極的におすすめできません。一番の理由は取り扱っているシナリオが最低1年半はアップデートされておらず新しい試験問題に対応していないということにあります。PLAB2は絶えずシナリオが入れ替わっているので直近の出題傾向を抑えておくことは重要だと感じました。また管理人さまも指摘されている通り、使用しているシナリオブックもかなり冗長な記述でポイントがつかみにくいのも難点です。他大手予備校(Samson, Aspire, Mo Sobhy)のテキストを見ると定期的に内容がアップデートされているので、他の予備校のほうが良いと感じました。

    使用教材:
    主にMo Sobhyのテキストを使用しました。特に実技(Manniquans, procedure, Simman, teaching)に関しては他の予備校のテキストよりもよくまとまっていると感じました。実技についてはさらにGeeky medicsとAspire AcademyのYoutube動画も参照し、PrescriptionについてはWhatsAppで提供していたDr. AZTのworkshopの資料を使用しました。

    新規シナリオ:
    WhatsAppのPLAB2に関するstudy groupから新しいシナリオを入手しました。WhatsApp上にはstudy groupが絶えず現れまた消えていくのでその時々で活発なgroupを見つけていく必要があります。私はDr Lovaanのstudy groupを主に見ていました。Dr Lovaanは2週間毎にオンライン講義を提供しているのでそちらを受講してもいいかもしれません(長時間なので録画できる手段があるといいと思います)。また、Plab Forumと呼ばれるサイトがあり、要登録ですがそこで新しい試験問題が参照できます(これもいつまで存在するか分かりませんが)。

    練習:
    FacebookおよびWhatsAppのstudy groupからパートナーを見つけ主にオンラインで練習しました。毎日練習することが重要だと思ったので常に3−4人の練習相手を確保し途切れないようにしました。またWhatsAppでオンラインで模擬試験を提供するDrがいるので、それを積極的に受けるようにしました。

    本番:
    Hardman SquareとHardman Streetの2つの会場がありますが、私はHardman Squareしか経験しておりません。試験は午前と午後に行われ、どちらかに割り振られます(午前組は8:30集合、午後組は11:30集合)。Hardman Squareの場合1階がロビーになっており集合時間より早く行っても中で座って待っていられますので早めに行くことをおすすめします。8階のGMCのフロアまで誘導され身分証明証の提出、顔写真撮影をし、手荷物をすべて指定されたロッカーに入れます。服装についてはジーンズ・スニーカーはほぼ見かけなかったので、ある程度フォーマルな格好をすることをおすすめします。男性であれば上は襟付きシャツを着ていれば大丈夫だと思います。ネクタイは不要です。荷物を預けたあと試験開始まで1時間から1時間半程度待合室で待たされます。

    ⚫︎

    KKさん、合格おめでとうございます!👏 情報ありがとうございました。

  • 移民に厳しくなる英国

    不法移民をルワンダに送るという国際法違反の驚きの政策を発表してから数ヶ月、ついに政府は合法移民の縮小にも乗り出した。

    今月初めに、来年施行される移民法の概要が明らかになった。主な変更は以下の通り:

    • Skilled Worker Visa (Tier2) 申請の最低賃金基準が£38700に上昇
    • 外国人配偶者を英国へ連れてくるには英国在住側のパートナーが単独で£38700の収入を証明しなくてはならない
    • 人手不足の分野リストを撤回
    • ケアワーカーは家族を帯同することができない
    • 学生ビザを一部の大学を優先的に発行
    • 学生の家族帯同に関する制限
    • 医師と看護師は上記ルール変更から除外(家族も帯同できるし給与が基準以下でもビザ申請可)

    この£38700というのはイギリス全体の平均年収よりも高く、人口の73%がこの収入に到達しないようだ。ロンドン近郊以外の地域(特に北部イングランド)と若者が特にこの法改正の影響を受けることが指摘されている。新たなルールが施行されると、これから来たい人はもちろんのこと、既に英国在住で家族で生活しているような人でも永住権がなければ次のビザ更新時に国外退去を迫られることになる。ある程度収入がなければ外国人を好きになることもできない時代が到来する。

    また個人的に気になっているのは、日英同性カップルが今後置かれうる状況だ。同性カップルの場合は、日本が同性婚を認めておらず配偶者ビザを英国側のパートナーに発給しない関係で、これまで英国に住むしか選択肢がなかったと思うが、今回の法改正でこの選択肢すらも奪われてしまう。

    ポスドクの給与も£38700に届かないが、今後UKRIや各大学は移民法改正に合わせてポスドクへの給与を増やすのだろうか?

    医師の職種に限っていうと、この変更で個々人が不利益を被ることは特にない。FY1,FY2(医師2年目まで)はこの給与に届かないものの、3年目以降のポジションで渡英する場合にはこの給与より高いし、そもそも医師は給与に関係なくビザが発給されるし従来通り家族も帯同できる。しかしながらこの移民への対応を見ていると、明日は我が身と身につまされる思いで、自らの立場の不安定さを再認識した。

    そもそもBrexitを国民が支持した理由の一つに移民の増加が挙げられていたのに、現状英国への移民は過去最高を記録しており(また帯同する配偶者が家庭外で労働していないにも関わらず公共の福利厚生は利用する)そのせいで公共サービスが逼迫している・Housing crisisが起きている、というのが今回の法改正を促進しているようだ。労働党ですら移民が多いと言っているので、まあ本当に国が回らないくらい多いのだとは思うが、NHSの状況も悪化の一途をたどり、移民はかつてない水準まで増え、Brexitの口実としていた事柄をひとつも実現できていないToryの体たらくには呆れてしまう。まったく何のためのBrexitだったんだ。今すぐにでもEUに再加盟してほしい(とはいえフランスも最近イギリスに負けない反移民政策を発表したしオランダもイタリアも極右政府なので今後世界はどんどん内向きになっていきEUみたいな概念は廃れていくのかもしれない)。

    ダークユーモアだが気に入っている

    競争が激化する医師の研修

    IMT(内科基礎研修)応募者が去年より43%増加し今年は倍率が4:1、つまり1つのポストに4人が応募する状況となっている。例年はどれだけ応募書類のポイントが低くても面接で挽回可能だったそうなのだが、今年はポイントが低すぎる人は足切りに合ってしまい、大きな不満の声が上がっている。英国医学部卒の医師たちの中には、自国でトレーニングに就けないのはおかしい、自国民を優先しないのは世界で英国だけだ、IMGsを規制すべきだ、との声もあり、そのうちIMGsも平等に選考する英国の制度が変わってしまうかもしれない。

    医師不足が言われて久しいが、IMGsも含めると英国にはたくさんのmiddle-gradeの医師(将来のコンサルタント・GP)がいるので、実際の問題は医師の数ではなくトレーニングポスト数のようだ。十分なトレーニングポストさえ用意すれば毎年より多くの専門医を輩出できるのにもかかわらず、現在国は予算をPhysicians Associates 育成に割いており近々医師のトレーニングポストが増えそうな様子はない。

    トレーニングポストから漏れた医師は外国へ行く選択肢のほか、現在私が就いているようなnon-training jobをしたり定職につかずバイト(locum)で生活したりするのだが、今後そういう人たちが増える中で後述のPAがポストを奪ってゆくので行き場のない医師も増えるかもしれない。

    Physicians Associates(PA)/ Anaesthesia Associates (AA)

    度々ブログに出てくるPAだがこの頃は医師たちとのオンラインでの対立が激化している。PAは元々はPhysician’s Assistantsと呼ばれていた業種で、理系学部を出た後に2年のPA修士を卒業すると資格が得られる(無資格でPAとして働くこともできるようだが基本的には修士課程を卒業しなければならない)。理系学部はなんでもいいので、たとえば植物の研究をする学部にいたような人だと医療系の勉強は2年だけということになる。AAはそれの麻酔科に特化した業種の人だちだと思ってほしい。

    国の政策で現在PAやAAが大幅に増えている。ACP(Advanced Care Practitioner – 看護師出身で更なる教育を受けた人たち)/PA/AAで仕事を回す方がコストが安いので今後NHSは主にACP/PA/AAで回されて、医師の診察を受けたい人はプライベートの病院に行かなくてはならないようになるかもしれないと言われている。

    ただし問題点は山積みだ。

    まず一番の懸念は安全性だろう。5年間医学を勉強し、2年間の初期研修を終えた医師たちでも間違える。間違いは誰にでもあるが、最低7年間も勉強している医師と、2年しか勉強していないPAが同じSHOのポジションで働くことは果たして適切なのだろうか?

    PAは一応、医師の監督下で働くことになっているのだが、それは守られていないことが多い。PAは処方や検査オーダーができないので、病棟や救急科で働く研修医はPAのために処方や検査をオーダーさせられることになる(そしてその処方・オーダー責任は全て研修医が請け負う)。AAは初めから終わりまで一人で麻酔をすることもあるようだ(医師は複数のオペ室を監督する)。

    国が特に推進しているのはPAのGP surgeryでの雇用で、現在はなんとPAをGPにする案まで検討されている。医学部を出ていない人を医師にするという前代未聞の政策に医師もACP(医師同様、PAより勉強期間も実践期間も長い)も大激怒しているが、国の政策なのでこのまま実施に至りそうな気がしている。

    すでに割と単純な症例での重大な医療事故が複数報告されている。特に有名なのは、若い女性の深部静脈血栓が2度見逃されて死亡に至った例だ。呼吸苦とふくらはぎ痛でGPを受診した女性に、PAは一度目は「Long COVID+アキレス腱痛」という診断をつけ痛み止めで帰宅とした。二度目の受診時には「不安症」という診断でβブロッカーを処方して帰宅とし、その数日後に女性は肺塞栓症で死亡した。呼吸苦+ふくらはぎ痛で肺塞栓症を考慮するのは医学部生でも当たり前の知識だと思うがPAはこれを二度も見逃してしまった。女性は医師の診察を受けたと亡くなるまでずっと思っていたそうだが(メッセージ記録などから)、実は一度も医師の診察を受けていなかった。

    PAにはその他医療職が受けるような規制がないので、このPEを見逃したPAは今もどこか別のGPでPAをしているそうだ。

    また別の例では、妊娠中の女性が胸のしこりでGP受診した際にPAは「乳腺炎」の診断で「出産後に来院するように」というような助言をし、結局乳がんが見つかった時には全身転移しており女性は乳児を残して亡くなった。GPでは胸のしこりは2WW referral として2週間以内にエコー検査と専門医診察を組まなければならないのだが、PAはそれを知らなかったようだ。

    背部痛とPSA検査希望で来院した人にPSA検査をしたはいいものの、上昇しているPSAの意味がわからなかったのか結果説明の予定を組まず、再度患者さんが背部痛で受診した際にも特に説明をせず、専門医へのレファラルも組まず、結局診断がついたのは患者さんがMSCCで救急受診したときだった、というような例もあった。

    上記3例は医師が診ていたら予後が変わっていたと思われる。そのため、PAが何をして良い・してはいけないかの規制が整備されるまではGP surgeryでのPA雇用は禁止すべきとの提言をしている団体もあるが今もPAは普通にGP surgeryや病院で働いている。

    政府は規制に向けて動き出しているが、政府のリクエストによりPAがGMC(医籍管理する団体)によって管理されることにも医師たちは非常に不満を抱えている。医師とPAの境界の曖昧さが持続するのでは、という懸念からだ。

    PAは勉強期間もトレーニング期間も医師より少ないのに1年目のPAはすでに5年目の医師と同等の給与を支給される。医師はトレーニング期間中複数の病院を転々としなくてはならないのに、PAは一つの病院でずっと仕事ができる。このへんの待遇の違いは若手医師が怒っている理由の大きな一部だ。

    また外科系だと、PAは処方ができないので、処方ができる外科専門医になりたい後期研修医が病棟に残らされて処方など担当しその間にPAがオペ室でオペの手伝いをするということで、PAが外科後期研修医のアシスタントというよりむしろ手術の機会を奪っているとして大変評判が悪い。PAがオペのアシスタントどころか一人で扁桃摘出中をしていた病院の話も明るみにでて問題になっている。

    内科系だと、北部の三次病院で小児科の肝障害について入院受けいれ・電話でアドバイスをするレジストラの立場の仕事にPAが就いていたことが最近では大きなスキャンダルとなった。アシスタントのはずのPAに医師たちはいつの間にか監督される立場になっていたのだ。

    ストライキ

    政府はついに交渉のテーブルに着いたので10月、11月はストが一旦休止状態だったのだが、政府のオファーがあまりにも馬鹿げているのでJunior Doctor(コンサルタント以下ほぼ全員なので実質Juniorでない医師も含む)は12月と1月に史上最長のストライキを発表した(今日はストライキ1日目で、私は相も変わらず車を修理に出しに行ったー車がいつも故障するのでストのたびに修理に出している)。

    Pay Restrationの要求もいまだに通っておらず、英国の研修医事情は先行きが暗い。

  • MRCP Part1 合格していた🌞

    540点足切りで544点とぎりぎりだったが、滑り込みでも合格は合格なので良かった。落ちたとばかり思っていたので、PASSの文字が信じられず何度も確認した。

    緩和ケア科は100%の得点率、得意な分野は軒並み70%台なのに対して、苦手な科目の例えば眼科は驚きの0%の得点率だった。

    MRCP Part2、PACESをこれから7年以内に受験しなくてはならないが、とりあえずひとつの山を乗り越えて一安心だ。Part1からPACESまで全てをトレーニング期間中にやるのはしんどいなと思っていたので、2つに減って嬉しい。要領がわかったので、Part2はもう少し勉強に計画性と余裕を持って取り組めそうだ。できればPart2もnon-training jobに就いている今のうちに終わらせられたらいいなあと思う。

    試験前は日に日に短くなる日照時間やら試験勉強やら日常のトラブルやら色々で随分と気持ちが落ちていたのだが、試験も終わり一時帰国で家族や友達や恩師と会って元気を取り戻してイギリスに戻ってきたので、今は天気にも負けずに小康状態を保てている。

    下の写真は、たまに晴れた日の近所の写真と、たまに晴れた日のウェールズ日帰り旅行の写真。