• PLAB2に合格した!2回目の挑戦は基準を20点以上も上回る高得点だった。とても嬉しい。誰かの役に立つといいので、私がやったことを記録しておこうと思う。

    1. PLAB2とは
    2. 1回目の挑戦
    3. 失敗の理由
    4. 2回目の挑戦
    5. 合格の理由
    6. 私のおすすめ
    7. Take Home Message
    8. 参考サイト

    1. PLAB2とは

    PLAB1、PLAB2は外国の大学を卒業した医師が受ける英国の医師国家試験で、IELTS 7.5 (各最低7)・PLAB1の筆記試験に合格した後に、PLAB2の受験ができる*。

    PLAB2では、コミュニケーション能力、医学的・社会的マネジメント能力、そして実技が試される。英国医学生の身体診察・医療面接試験にマネジメントを加えたような試験だ。PLAB1の勉強は学生時代を彷彿とさせるものだったが、PLAB2の勉強は実際に働く上で非常に役立つコミュニケーションのあれこれを学ぶ良い機会になった。

    制限時間内に医学的に必要な情報を得るのはもちろん、患者さん(役の役者さん)がこぼすヒントを拾いながら、気がかりやライフスタイルも勘案して方針を相談しながら決めることが標準であるところに、家庭医制度の浸透した国の医療を見た。怒った人、不要で有害な検査を強く要求する人、あまり多くを語らない人や治療を拒否する人への対応なども学んだのだが、これらの知識なく場当たり的に働いていた頃を思い出して真っ青になる。

    • PLAB1,2は数年のうちに廃止されて、UKMLAという試験になるらしい

    2. 1回目の挑戦

    PLAB1は2020年3月に受験して、合格した。合格してすぐにPLAB2の予約をして、右も左もわからない状況から、手探りにネットで情報を集めた(残念ながらPLAB2向けの教科書は売っていない)。寮生のインド出身の友達にAspireという予備校の「ノート」(過去問集のようなものをPLAB界隈ではnotesという)をもらって、それとYoutubeの動画で勉強をして、時々ネットで知り合った受験生とオンラインで練習をしていた。

    パンデミックのため予定がキャンセル→1ヶ月後に予約、という予期しない変更があったけど、大体5月から8月は1日1-2時間程度、8月から試験(9月)までの1ヶ月ははほぼ1日中勉強という感じだった。

    一度目は残念ながら3点足りず不合格だった。

    3. 失敗の理由

    敗因は、(1)塾に行かなかったこと、(2)マネジメントを甘く見ていたこと、(3)練習不足、そして(4)悪運 だと思う。

    3-1.予備校

    Facebookのグループを見ていると、PLAB2準備コース(2-3週間にわたる塾みたいなもの)に参加した後に最低1ヶ月の自習を勧める人が多い印象だった。受験生の多くは、仕事を休んで、英語の練習も兼ねて半年くらいマンチェスターやロンドンに住んで通塾・受験をする人が多いようだ。ちょうどパンデミックが始まったばかりで、英国人がやっていると思われる予備校や模試は新規受付を中止していた。訛りの強い英語と文法的間違いの多い教科書で学ぶと英語力が落ちてしまいそうだという警戒があって、ピンとくる予備校がなかったので、独学を選んでしまった。ちなみに、<2回目の挑戦>に記載の予備校へ行った時は、授業後の自習期間6週間〜8週間が一番多いグループで、わずかながら2〜4週間の人もいた。後述するように、予備校は必ずしも必要ではないと考えているが、独学するにしても外せないポイントを押さえつつ方向性の確認のために何度か模試を受けるのが良いと思う。

    3-2.マネジメント

    マネジメントを甘く見ていた。医学生向けのTHE OSCE RIVISION GUIDEで勉強していたこと(問診や身体診察についてはよくまとまった本だがPLAB向けではない)、感じよく親身になって話せばそれで受かる試験だというネットの嘘を信じてしまったせいもある。対人スキル、問診力に加えてマネジメント(医学的・社会的)も三大評価項目の一つなので、絶対に甘く見てはいけなかったのに、独学の落とし穴でそれに気がつけなかった。

    Interpersonal Skillsについては、Dr Aman Aroraの1日コミュニケーションコース(オンライン)を受講したのだけれど、これもまたInterpersonal Skillsを重要視しすぎてマネジメントが疎かになる原因となったと思う。

    3-3.練習不足

    練習が圧倒的に足りなかった。時々一緒に練習していたエジプト人のお医者さんも予備校に行ってない人で、二人とも何が大事なのかわかっていなかった(彼女も落ちた)。PLAB2は3人に1人が落ちる試験なのに英語力にあぐらをかいて練習を甘く見ていた。

    3-4.運が悪かった

    パンデミックが始まってからは、16ステーション中だいたい10ステーション+最低点以上を取れば合格、ということになっている。その日ごとに合格点や必要なステーションの数は変化するし、新規出題のステーションについては受験生の様子を伺うために結果にカウントされない。私の場合は点数にカウントされるのは13ステーションだった。返ってきた結果をみて、うまくできたと思われるステーションたちは実は新規出題で結果にカウントされないものだったと知った。あれがカウントされていれば合格したかもしれないのにとがっかりした。

    4. 2回目の挑戦

    心が折れてしまって、立ち直るのに時間がかかった。でも同じ轍は踏むまいとすがる思いで評判のいいコモンステーションというアカデミーに登録をした。

    コモンステーション(CS)に対する不満は尽きない(以下CSへの悪口なので興味がない人は読み飛ばして欲しい)。何があっても絶対に返金されないお金を払った後に、不必要な多くの個人情報を抜き取られそれへの権利を放棄するという誓約書にサインさせられる。授業開始の数日前に「パンデミックのため授業は全てオンラインへ移行する。これは昨日決定した。」と講師から連絡があるのだが、訛りの強い英語で捲し立てるように話され、反論は一切許されない。Interpersonal Skillsを教えている講師とは思えない横暴である。実はパンデミックが始まってからずっとオンライン授業なのに、それを隠蔽している(CS運営の宿舎に泊まる人を確保するためだと思う)。同級生の中には、インドから高額な優先ビザで隔離期間を経てやってきて授業前日にオンライン移行を告げられた人や、in-person courseと聞かされていたからここを選んだ人、本国にコンピューターを置いてきてしまったためオンラインコースをスマホの小さい画面で受けなくてはならなかった人などがいて、皆強い不満を持っていた。授業は9時に始まり19時に終わるはずなのに絶対に21時までかかる、暴言・個人への集中攻撃がひどい、などの理由でかなり心身に悪影響だった。知り合いはパニック発作が出たといっていた。質問に答えられない受講生には、「タリバンにお前を殺させる」「今すぐタリバンをお前の元に派遣する、なぶり殺しにさせる」みたいに怒鳴るんだけど、アフガニスタンで同胞が殺されているのにそんな冗談が言えるんだなとびっくりした。シングルマザーやゲイの人々も我々と同じ人間なので同じように扱わなければならない、という話を何十分もかけて説明する様子にカルチャーショックも大きかった(講師や受講生の多くはムスリム。試験で模擬患者さんが性的指向を明らかにすると準備のできていないムスリムはあからさまに顔をしかめて落第するそうで、そのための数十分だったのだろう)。ムスリムの国の中にはゲイだと死刑になる国があることは知っていたけど、その雰囲気に直接触れるのはこれが初めてで、本当にしんどかった。

    マネキンを使った実技の授業で予備校に行くことがあったのだが、それもまた非常に苦痛だった。Hammersmith & Circle line の最終駅まで、片道2時間以上かけて9時に間に合うように到着したのに授業は11時まで始まらないし、運営のスタッフが信じられないくらい無礼だった。日本人だからそう感じるのかと思ったが、出身地にかかわらずスタッフの無礼さに怒っている人をたくさん見た。しまいには最近のケース80問を(基準は不明だが)選択的に受験生に渡していることが判明して、優しいインド人のクラスメイトがPDFをくれたが講師への不信感と嫌悪はこの上ないレベルに達した。

    また2回模試が実施されるのだが、講師の質が悪く試験の1週間前なのにできる点を全くacknowledgeしないで出来なかったことだけを並べ立てるような模擬患者(元受験生)や、スマホを見ていてこちらに集中していなかったくせにフィードバックで「アイコンタクトがない」というような模擬患者(元受験生)がいて、これを理由に(‘demoralising’)同級生の何人かは2回ある模試のうち1回しか行かなかったと言っていた。

    フェイスブックでは時々CSへの批判を見かけるが、翌日には削除されている。どうもBlackmailが常套手段のようで、個人情報を多く握られている手前、受講生は削除せざるをえないようだ。唯一の利点とも言えるnotesは、全ての過去問が手に入る一方で(問題の再現性がかなり高い)、マネジメントがとても長いので、何が大事なのか自分で考えて「まとめ付箋」みたいな要点チェックリストを300ケースに作る必要がある。ちなみにこれだけ嫌な思いをしても、CS出身者の合格率はクラスメイトを見ていると50%切るくらいなので、これを読んだ人たちには是非とも別の予備校を選んで欲しい。

    ともあれ、CSで過去問集のようなものを手に入れたので、あとはひたすらブラジル人の友達と練習をした。BTS 11時-2時, 5時-8/9時というのがいつものスケジュールで(ブラジル時間に合わせてスカイプ)、毎日6-7時間一緒に朝から晩まで練習をした。お昼休憩の3時間と夕食後の1時間を過去問を読み進める時間に充てた。勉強期間は12月の試験まで、約5週間だった。

    5. 合格の理由

    何が大事なのかわかっている友達とひたすら練習したのが良かったと思う。 一緒に練習していた3人のうち2人は一度試験に落ちた人たちで、皆勝手がわかっていた。私たちは実際の8分ではなく7分で練習した。練習の時はいつもPLAB2タイマーを使っていたので、本番のスタート音もとても馴染みあるものだったし、「いつも7分で終わらせていたので8分あれば大丈夫」と心に余裕があった。自信満々、というわけではなかったけれど、それなりに落ち着いて試験に臨めたと思う。

    1回目でうまくできなかったマネジメントは、2回目に向けて、Diagnosis, Senior, Explanation, Admission, Referral, Medication, Intervention, Follow-up, Red flagsの流れを頭に叩き込んだ。(カウンセリングのケースではRed Flagsに辿り着く前にタイムオーバーになるので、Red FlagsはExplanationの後・Lifestyle modification/Medicationの前に話すとか、Follow-upの前にサポートグループについて言及するとか、ケースごとに時々流れを変える必要はあるけれど、2-3分で全てカバーするには自分なりの流れを持っていることが大事。) Be a safe doctorが重要なようなので、1回目の受験ではDr Aroraのアドバイス(「Seniorにいつも言及するのは得策でない」)に従ったけれど、2回目はDr Bose(後述)のアドバイス(「必ずSeniorに言及すること」)に従って、診断名→見落としがないようSeniorにも相談しますが→これはこういう病気で理由はこうで・・・ と流れに組み込んだ。脱水に対する補液、痛み止め、嘔気どめなど主訴や関連症状に対する症状緩和への介入も言及するのが大切なようなので、いつも忘れず伝えた(→脱水の程度に関する質問を最初の4分でしておくのも大事)。

    結果は基準点を20点以上上回っていた。落としたステーションも、0.01, 0.17, 0.69点差で落ちていて、大きな失敗はなかったようなので、とても嬉しい。

    6. 私のおすすめ

    私が実際にやっていないことも含むけれど、信頼できる友人からの情報も合わせて私がおすすめするのは以下の通りである。日本の医学部を卒業した人は英国の制度に馴染みが薄いので、医学的知識以外にも、GPで出来ること・できないことやReferralの制度について学ぶ必要がある。

    • 有料
      • Dr Boseの模試
        • 主にWhatsappでクチコミの営業をしているお医者さん。点数付きのかなり詳細なフィードバックをくれる。早口で本物の模擬患者さんのように話すし、かなり役に立つ模試を提供してくれる。初回は一般論の授業付きで、大切なポイントを押さえられる。たくさん予約するとその分割引もある。私も大変お世話になった。興味があればWhatsappで連絡してみてほしい:+44 7425 055579
        • 友達にnotesを譲ってもらうなど何らかの方法で過去問集が手に入るなら、Dr Boseの模試(に加えて、マネキン・SIMMAN対策)だけでも十分合格レベルに達しそうな印象。
      • 予備校
        • 何らかのコースを受講するなら、Dr MO SOBHYの予備校が良いかもしれない。これは最近できた予備校で、PLAB界隈には珍しく、講師がとても親身で優しくて生徒想いらしい。彼のFacebookのページには、Dr Sobhyが子守りをしてくれたので合格したという報告や、高得点での合格の報告がたくさんある(でも一部は有償のコメントだとか)。彼のノートは簡潔で大事なことしか書いておらずとてもわかりやすい(私も確認した)し、CSと違って学校のSIMMANをいつでも使わせてくれるらしい。事情をよく知っている人によると、他の予備校と比べると比較できないほど良いが、宣伝を鵜呑みにしてはいけないとのこと。
        • 上にCSの私見をだらだらと書いたが、同じくらい古い有名な別の予備校は受講生への罵倒がCSよりひどいと元受講生から聞いた。有名な古い予備校が4校あるが、どれも受講生からは悪い話しか聞かない。
        • 最近はTelegramやFacebookを中心に活動している講師がたくさんいるので、Dr Sobhy以外にも、その中から自分にあう講師を見つけるのが良さそう。例えばDr Elseidyは有料・無料で簡潔なチェックリストを配布している。Dr Rabia Nurも良い講師で、100ケースのコースを運営していると聞いた。
        • 他にもSIM MANやマネキンを使ったケースだけに焦点を当てた1日コースを運営している講師が何人かいるので、それを組み合わせると良いかもしれない。
      • Oxford Handbook of General Practice:Referral Criteriaや治療方針、Red Flagsなどが簡潔にまとまっていて、とても役にたった。
    • 無料
      • Dr Nigel Miranda 公開模試
        • 私も1度公開模試を受けた。週1くらいのペースで無料公開模試・有料模試をやっている。彼はいいことしか言わないのでフィードバックは役に立たないと言う知り合いもいるが、CSで他人が罵倒されたり泣いたりするのに疲れていた私には彼の模試は安心して観ていられる癒しの時間だった。
        • 模試の最後にチェックリストを配っていて、それが結構役に立つ。
      • TelegramやFaebookのPLAB2のグループ
        • いろんな公開模試の情報などを得たり練習相手を探したりするのに便利。時々、不正に出回っている他校のnotesや録画や有料ポッドキャストが手に入ることもある。私はあまり参加していなかったけど、友達は出来るだけ多くのグループに参加することを勧めていた。
    • Youtube
      • Geeky Medics : OSCEのチェックリストなども配布していてとても役に立つ。ただし実際のPLAB2はただの実技ではなく、問診+実技+マネジメントを8分で終わらせるタイプが非常に多いので、試験ではGeeky Medicsの早送りを実演しなければならないことに注意。
      • Dr Aman Arora
      • Hippocratix
      • GPs behind closed doors :看護師のカウンセリングはそのままPLAB2に使えるものが多い(asthmaのfollow upなど)。医師のはPLAB2に使うには簡略化され過ぎているものが多いけれど、試験対策でない本物のコミュニケーションが観られてとても勉強になる。
      • Communication skills for medical training (Uinversity of Nottingham)

    7. Take Home Message

    1. インターネットの情報を鵜呑みにしてはいけない
      • PLAB2界隈のネットの情報は驚くほど未発達だ。数年前に書かれた有名なブログが多くの被害を生み出しているし(私も騙された1人だしクラスメイトにも文句を言っている人が複数いた)、Facebookに時々上がっている合格報告は金銭授受のある元塾生が書いていることがある。FacebookやGoogle Reviewで評判の良い高額な予備校に登録する前に、その予備校に行ったことのある人から直接話を聞いた方が良いし、過度に楽観的な情報は信じてはいけない。この記事に書いたことも、数ヶ月のうちに古くなってしまうと思われるので、信頼できるソースから最新の情報を得ることが大事。
    2. 良い友達を見つけること
      • 私の合格は同じ目標に向かって一緒に頑張ったブラジルのお医者さんたちのおかげといっても過言ではない。何を試されているのかきちんとわかっていて、適切なアドバイスをくれる、同じペースで頑張れる人と練習するべき。色んな文化の人と練習した方がいいというアドバイスもあるが、私は英国を目指す理由や価値観が似ているブラジルのお医者さん達だけとかなり過密なスケジュールで一定して練習して良かったなと思う。前述の7分タイマーもおすすめ。1対1でやっていると大事な点を見落とす可能性があるので、3-4人くらいのグループで練習するのが良いかもしれない。CSには強い不満があるけれど、CSを通してずっとコンタクトを取り続けたい言わば戦友に会えたのは不幸中の幸いだった。
    3. 医学知識も忘れずに
      • 感じよければ受かる、というのは嘘で、NICE CKS、NHS、Patient、などをみて細かなマネジメントも勉強する必要がある(治療薬、副作用、使い方、referralのpathway、などに加えて、主な待機手術の後どのくらいで運転・職場復帰できるか等の知識)。GPとかA&Eというセッティングもマネジメントを決める上で非常に重要。Oxford Handbook of General Practiceもとても役に立った。ただ一回目の挑戦の私のように、知識を得ることに必死になって練習を怠っては本末転倒なので、時間がないなら練習を優先すべき。
    4. マネキンとSIM MANは「捨て問」じゃない
      • ABCDEだけでしょうと思ってSIMMANの準備をしないで臨んだ1回目は、SIMMANの各項目で0や1を取ってしまった。GMCの公式文書にもある通り、マネキンには話しかけてはいけないが、SIMMANには話しかけなければならない。SIMMANさえ<平均どおり>できていれば合格していたので、2回目は結構準備をした。

    落ちた反動から合格への想いが強すぎて、通知がくるはずの1週間は毎晩合格の夢を見ていた。大学受験や日本の医師国家試験でもこれほどの執着はなかったと思う。2回目のPLAB2が終わった日には、張り詰めた糸がプツッと切れたように、ホテルのベジタリアン・イングリッシュ・ブレックファストを食べながら涙が出てきたし、合格した日にもPASSの四文字においおい泣いた。ついに英国で働くためのスタートラインに立てる日がやってきた。合格してもこれからまたGMC登録とか卒論とか就活とか大変なことが色々待ち受けているけれど、とりあえず一旦2年越しの目標を達成できたことに安堵している。

    7. Useful Websites

    以下は1回試験に落ちた元受験生として同意できるアドバイスを記したサイト

    PLAB2 Holy Grail

    Top Tips for Passing the PLAB2

    11 High Power Tips to Pass your PLAB 2 Exam

    追記

    21/3/24: ご本人から許可を得たのでDr Boseの電話番号を追加しました

  • 私は論文やオンライン図書館の本を読むのにBOOXを使っている。BOOXはE-inkのタブレットで、目に優しいとされている。確かにパソコンを長時間眺めていると目が疲れるけれど、BOOXだとずっと見ていられる(ような気がする)。

    これまではMendeley派だったのだけど、卒論作成に向けてZOTEROに移行した。ZOTEROとBOOXは相性が悪くハイライトしか同期されない等の書き込みを色々見かけて、iPadにしなかったことを後悔したりもしたけれど、ついにZOTEROの書き込みの全て(ハイライト、手書きの文字、コメント)を同期する方法を知った。日本語で書いたら誰かの役に立つかもしれないので、記録しておこうと思う。

    ZOTEROとBOOXの同期

    私は同期にはOne Drive、OneSyncを使っている。

    1. ZOTEROをコンピューターにダウンロードする
    2. ZotFileをコンピューターにダウンロードする
      • 私はここで躓いた;ダウンロードしたファイルは直接開くことができない
      • ファイルはZOTEROのアプリから、Tools > Add-ons > Zotfileをクリックすると開くことができる
      • ZotFileがうまくダウンロードされると、PDFの上で右クリックをした時に’Manage attachment’ > ‘Send to /Get from tablet’のボタンが出てくるようになる
    3. One Drive, Dropbox, Google Drivenなど複数のデバイスでフォルダを共有できるクラウドストレージをコンピューターにダウンロードする
      • 私は大学が提供しているOne Driveを使っている
      • 容量はほとんど必要ないのでDropboxやGoogle Driveの無料版でも大丈夫だと思う
    4. 同じクラウドストレージのアプリをBOOXにダウンロードする
    5. 同じクラウドストレージのアプリで、デバイスにストレージできるアプリをBOOXにダウンロードする
      • 私はこれを知らなかった
      • 私はOne DriveでOneSyncを使っているけれど他にも色々ある
        • OneSyncの場合、BOOXにダウンロードした後に「ファイルを作成する」というボタンが出てくるので指示に沿ってやっていくと、One Driveの中に自動的に’OneSyncFiles’という名前のフォルダが作成される
    6. Zotfileの設定で’Send to/Get from Tablet’で使うファイルを指定する
      • Tools > ZotFile Preferences… > Tablet Settings
      • タブレット設定のページで、先ほど作成した’OneSyncFiles’を選ぶように変更する (スクリーンショット参照)
    7. これで完成!タブレットで読みたいファイルはコンピュータで右クリックして’Send to Tablet’→タブレットのOneSyncFilesというフォルダ(※アプリ内フォルダではなく内臓フォルダ)をクリックして好きなだけ書き込み→終わったらコンピュータから’Get from Tablet’でコンピュータ側でも書き込みを読むことができる
    タブレットの設定画面

    上記の流れを説明してくれているありがたいYoutube動画

  • ちょっと「ブログっぽい」ことを書いてみようかな。イギリスの歯医者さんについて。

    イギリスの歯医者には、NHSの歯科とプライベートの歯科がある。どちらも兼任しているところもあれば、どちらか一方だけの診療をしているところもある。

    NHSの歯科でも日本と比較すると決して安くはないが、プライベートだと驚くほど高い(検診だけで£100-200くらいかかる)。でも、NHSの歯科は予約がいっぱいでなかなか取れない上に、うまく歯科を選ばないとあまりいい治療をしてもらえないとのことで、金銭的余裕があればプライベートが良いと言う人もいる。

    NHSの歯科はNHSの医療同様、崩壊の危機にあるようで、費用も年々上がっている上に、特に田舎では、NHSの歯科にかかるのに遠方まで行かないといけないとか、緊急の治療すら予約が取れず自分で抜歯しなければならなかった人もいるとかいう問題もあるみたいだ。負担が大きすぎるので、NHSをやめて完全プライベートに移行する歯科も多いようで、歯科1の歯科は私が受診した頃にはNHSもやっていたけれど今は完全にプライベートになってしまった。

    歯科1

    イギリスで初めて歯医者さんに行ったのは2年前だった。NHSとプライベート兼任の歯科で、NHSの価格帯で検診をしてもらうと、本当に検診だけで£30くらいかかった。衛生士さんのクリーニングもあると思い込んでいたので、歯を見るだけで£30は少し高いなと思った。

    二度目にそこにいたのは、ロックダウンの直後くらい。歯の被せ物が取れてしまったので予約をした。今度はレントゲンを取られて、専門医による根管治療が必要だと言われた。

    普通の歯科医でもいいけれどendodontistにやってもらった方が成功率が高いという説明を受けた。どういう質問をしても、おすすめはendodontistとしか言われず、「日本に帰国してからの治療でもいいか?」と訊くと「良いけど専門医に診てもらうように」と言うので、近くに専門医がいないかもしれない・・・とひどく不安になって、 英国で専門医に根管治療をしてもらうことにした。応急処置的に被せものをしてもらって、この日は帰宅した。

    その数日後に応急処置の被せ物が取れてしまったので、急いで予約をとったけれど、それでも診てもらうまでに数日かかってしまった。その間、被せ物がないと困るので、Bootsで歯の被せ物の接着剤を買った。こんなの日本ではみたことない。こういうのが必要ないほど迅速に診てくれる日本の歯医者さんはすごいなあと思った。

    根管治療

    根管治療は、週に1回ロンドンから契約で通勤しているという専門医に、同じ歯科でやってもらった。

    「専門医じゃないと」という一辺倒の返事や歯の被せ物が取れたこと・予約が取れないことのストレスで相当不安になっていたところに、根管治療当日に顕微鏡のライトがつかないというトラブルがあった。ライトのつかない顕微鏡で根管治療ができるのかと抗議をしたけれど、プロなので大丈夫となだめられて、結局ライトのつかないまま治療を受けた。ものすごく不安だったけれど1年経ってもまだ綺麗に根管が保たれているので、きっとあの専門医はきちんと治療をしてくれたのだと思う。根管治療は全部で£1000くらいかかった。高かった・・・。

    歯科2

    こういうことがあったので、歯科選びに結構神経質になっていて、結局日本では再渡英の直前になるまで歯科受診を先延ばしにしてしまった。そのせいでいくつも虫歯が見つかり(!)、結局治療が終了せず、英国に着いてすぐ続きの治療を受ける必要が出てきた。

    次は別の歯科にしようと思って、ずっとここに住んでいる知り合いに訊くと、3箇所を勧められた。NHS+プライベートが1箇所、プライベートが2箇所だった。まずはNHS+プライベートのところに連絡をして予約をしたのだけど、一番早い予約が6週間先だった。日本の歯科で歯の神経が死にかけていると言われて、食べ物で痛みが簡単に誘発される状態だったので、6週間も待っていられないと思って腹を括ってプライベートの歯科で予約を取ることにした。

    ちなみに受付で日本から持ってきた手紙を見せたところ、中国語は読めないと言われたので、私が翻訳するつもりで持ってきた・病名は英語で書いてある・これは日本語、と説明すると、(中国語でも日本語でも)どちらも同じ、と言われてしまった。中国語でもギリシャ語でも自分には読めないという意味で違いはない、という意味の「どちらも同じ」だったと思うけれど、大学のコミュニティではこういうことは言われない。きっとこれが「普通の英国人の」反応なんだろうと思った。

    歯科3

    Oakthorpe dentalは、なんとGoogleで★5という医療機関としては考えられない高評価を得ているところだった。連絡すると何と2日後には診てくれるとのこと!初診は検診だけなので、追加の治療はいつになるかわからない、と電話で念押しされたけれど、2日後に行くと、検診の後とても丁寧な説明とともに、翌日に追加の治療の予約をしてくれた。ちなみに受付の人もとても感じ良かった。日本の歯科での受付ほど丁寧すぎず、フレンドリーで、話していて居心地が良かった。

    日本の歯科で歯に充填した素材がスポンジみたいで柔らかいのでそのせいで染みるのかもしれない、痛みの性状を聞いていると神経は残せるかもしれない、一か八かで永久の詰め物にしてみるのはどうかと言われて、永久の詰め物にしてもらった。診察と詰め物で£300くらい。高い・・・。

    痛みが続くので、ものすごく心配になって(神経は突然死ぬのか徐々に死ぬのか、神経が死ぬと痛みが出るのかそれとも無くなるのか、死んだ神経を早期に発見しなくて良いのか、もし神経が死んで膿瘍ができた場合膿瘍は根管治療で必ず改善するのか、ここの病院は根管治療をしているのか、専門医の方が良いか、など)メールをしてみた。すると今度は説明のための予約を入れてくれて(これは無料だった)、とても丁寧に私の心配事に答えてくれた。もう神経は死んでそうと言われたけれど、冷たいジェルを歯に当てると飛び上がるように痛かったので、まだなんとか生きていそうとのことだった。現時点ではWait and seeしか方法がないので、また半年後に、と言われて終わった。

    ちなみに少し話はそれるが、イギリスではイブプロフェンやパラセタモール(アセトアミノフェン)が薬局でものすごく安価に手に入る。イブプロフェンだと16錠で£1くらい。日本の病院でまとめて処方してもらって持ってくることも考えてたけど、そうしなくて良かった。

    このプライベートの歯科は高額だけれどその分早く診てくれるし診察も丁寧なので、初期治療が終わったらNHS兼任の歯科に移ることも考えていたけれど、ここに通うことにした。信頼できる歯医者さんと会えて良かった。

    NHSは素晴らしいことがたくさんあるけれど崩壊の危機にあるどころかもう崩壊しているとも言える状態なので、この国で老いていくのは少し不安を感じる。

    21/3/24 追記:歯科に関するこのポストはアクセスが多いので、改めてイギリスの歯科について書きました:イギリスの歯科医事情

  • ついに私の論文が発表された。アクセプトのメールの下の方に、オープンアクセスに関する説明と、支払いなどについて追って連絡しますという記載があった。

    雑誌の購読をしていない人でも読めるようにするのがオープンアクセスで、それに関する費用(APC;Article Processing Charge)は信じられないくらい高い。私の投稿した雑誌だと30万円くらい払う必要があるようだったし、この話をした友人は、50万円払ったことがあると言っていた。

    突然の予期せぬ出費に真っ青になったけれど、オックスフォード大学はさまざまな雑誌とAPCを無料とする契約を結んでいるようで、おかげさまで学生でも(‘Affiliated’に学生は含まれないかもしれないと秘書さんに言われたけれど)無料でオープンアクセスの記事として投稿できた。良かった。

  • 忙しくてあっという間に時間が過ぎてゆく。帰国して旅行者気分なのも束の間、仕事と大学院のリーディングリストやエッセイに追われる日々で、楽しみにしていたハイキングも未だできていない。再渡英まで4ヶ月を切った。これから大学授業や病院での仕事と並行して、卒論の計画書を提出したり卒論に関係する論文を読み始めなくてはならない。

    ところで。PLAB2に合格する鍵は、「ICE」を尋ねることだそうだ。ICEはIdeas, Concerns, Expectationsの略で、「思い当たる原因は?」「心配していることは?」「期待していることは?」を病歴聴取の最後に必ず質問する必要がある。日本語を話す患者さんにもこれを試しているのだが、自分の診療に組み込んで良かったなとしみじみと思う。患者さんが診断にたどり着く鍵を握っている場合もあれば、適切な説明方法について示唆をくれることもあるし、できるだけ希望に沿った(でも一般的な診療から解離しない)治療や方針について、相談して決めることができるからだ。

    昨今の医学部事情は知らぬが、少なくとも私の頃は、患者さんとの交渉の方法や妥協点の見つけ方、話し合いの方法については学ぶことがなかった。なのでPLAB2の勉強を通じてこういう知識を身につけられることは非常に嬉しい。

  • 今日読んだのは、Thomas Douglasの書いたThe dual-use problem, scientific isolationism and the division of moral labourという論文だ。簡単にいうと、科学者は自分の発見・開発した技術の用途に無関心で良いのか?科学と社会は完全に独立した存在なのか?という問題について、科学者にも責任があるということを論じている。

    デュアルユース問題

    デュアルユース問題は次のような場合に起こる:

    1. 対象がPーPは政策あるいはプロジェクトで、Pを追い求めることで(i)新しい科学技術の創生または(ii)既存の科学知識の広範な流布が起こることが予測されるーを追求するかどうかの問題に直面し、
    2. 創生される知識、または流布される技術が倫理的に好ましいようにも好ましくないようにも使われる可能性があり、
    3. この知識が悪用される危険性が十分に深刻なので対象がPを追求して良いかどうか不明確である。

    こういう場面に直面した研究者は、状況を無視するという選択肢の他、負担を軽減させるために(1)リスクアセスメントをするか、(2)状況を変えることで問題を避けるという選択肢もある。しかしながら、歴史的な研究者たちはしばしば、無視する道を選んだ。その理由として彼らが挙げるのは、科学孤立主義(scientific isolationism)である。

    科学孤立主義

    これは、知識そのものの追求に(実用性・実際の使われ方とは無関係に)価値があるという考え方である。科学者の仕事は知識の追求であり、その実用性の検討は社会や政治家の仕事の範疇だ、というのだ。こうして、科学とテクノロジーの間に、研究と開発の間に、明確な線を引こうとした者もいた。倫理が関わってくるのは、テクノロジーと開発に於いてのみである、と言おうとしたのだ。

    これの意味するところは、どの科学知識を追求し促進するかというのは純粋に科学的考察のみに基づいて行われということである。この、倫理や非科学的な事柄を考慮しないで科学的な事柄を決定するやり方を、著者は科学孤立主義と呼ぶ。

    科学孤立主義を採用するならば、科学者はデュアルユース問題を回避することができる。ただし、それは本当に擁護可能な姿勢なのだろうか?

    ここから先へ論を進める前に、著者はいくつか定義の確認をしている。一つ目は、科学孤立主義(Scientific Isolationism)と科学自由主義(Scientific Liberalism)との違いである。ポスト啓蒙主義の時代には、科学が政治や社会かとは自律した(Autonomous)存在であることへの期待があり、両者は実は社会と科学の関係性についての表裏一体の立場ではないかという誤解がある。しかしながら、詳しく見れば、科学孤立主義は倫理的自律を認めている一方で、科学自由主義は政治的自律を認めていることに留意する必要がある。ここで扱われているのは、科学自由主義ではなく科学孤立主義のあり方である。

    科学孤立主義が擁護できない立場であるというために、まず著者はFull Isolationismという極端な立場を扱う。これは、

    いかなる政策やプロジェクトPにおいても、Pを追求するかどうか熟考している倫理的存在は検討されている科学知識の考えうる使い方についての評価を行う倫理的な必要はない(つまり、その知識の獲得や拡散はその倫理的存在がPを追求するかどうかに左右される)。

    という立場である。留意したいのは、この「倫理的存在」は個人でも団体(政府など)でもありうるという点と、このような倫理的存在はいつも倫理的問題を無視することが許容される、という点である。

    科学知識の非道具的価値

    科学知識の非道具的価値についての主張を、著者は次のように分析する:(1)科学知識は非道具的に価値がある(少なくとも価値を持ちうる)、(2)非道具的価値が、科学的知識を生み出すであろうある計画や政策を推し進める上での唯一の決定打である。そして、(1)から(2)は導けないと主張する。(1)から(2)を導くためには、科学知識の非道具的価値に他のどのような価値も上回る価値がなくてはならない。でも世界はそのようになっていなくて、科学以外にも我々は、教育や医療や福祉に予算を割いている。それは、科学知識の非道具的価値以外にも我々にとって大切なことが存在していることに他ならない。

    ・・・このようにしてまずFull Isolationismを否定した後に、政治哲学で用いられるmoral labourという概念を提示する。これは、ジョンロールズが提唱した概念で、正義を実現するために意思決定のフレームワークや責任を分散するやり方である。例えば、政府は医療資源の適切な配分を考える役割を担う一方で、医師は目の前の実際の患者さんの治療に全力を尽くす、といった具合である。これは資本主義社会における常識的な考え方ともいえる。著者は、moral labourの概念を用いてもなお、弱いタイプのisolationismすら擁護できないと主張する。

    ちょっと長くなったし疲れたのでこの辺でやめようと思うけれど、鮮やかに論理が展開されていてとても刺激的な論文だった。哲学の論文を紹介したり内容をまとめたりするときに、核となる定義の紹介などをどのくらい細かくするべきか、省くべきか、まだ感覚がつかめてない。

  • 日本に戻ってきた初めの2週間は、非常に辛い食生活だった。COVID-19のためQuarantineが必須とされていて、キッチンのないホテルで、出来合いのコンビニ食を食べていたのだが、コンビニには食べられるものがないに等しいほどだった。仕方なく生活3日目くらいからは、納豆(お醤油に魚エキスが入っている)なども食べるようになった。イギリスではずっと魚も食べていなかったため、臭いが鼻についた。既製品は何にでも魚介エキスや肉のエキスが入っていて、これからの生活を思うと気が滅入った。

    そんな生活に2週間耐えた後、自分のキッチンを持ってからは、生活の質が格段に上がった。食べたかった日本の食べ物ー車麩や美味しいお豆腐、きのこ類、海藻類、れんこん、大和芋、海苔・・・イギリスでは高級品だったものがこんなに安く手に入るなんてと感激した。

    ほとんど外食しない生活で、朝も昼も夜も自炊しているので、日本での食生活は非常に快適だ。日本にいる間に一生分くらいの和食を食べておきたい。

  • 人体を用いた研究には、数々の厳しい制限がある。医師が研究倫理について持つイメージの多くは、「手続きが煩雑」「面倒くさい」であり、場合によっては「やりたいことができない」かもしれない。そもそも、世の中にはより危ない行為がたくさんあるのに、なぜ研究だけにこんなに厳しい規制が敷かれるのだろうか。今日は、それに関して論じるJames WilsonとDavid Hunterの執筆したResearch Exceptionalism(研究の例外性)という論文と、それに対する反論をまとめたいと思う。

    研究倫理は規制が厳しすぎる?

    過去40年の間に、研究倫理は大幅に進化してきた。多くの国では、全ての医学研究に置いて、研究倫理委員会(Research Ethics Committee; REC)や機関ごとの委員会(Institutional review board; IRB)の承認を得なければならない。これは、後述する他の危険な行為に対する取り締まりより明らかに厳しい。この指摘に対して考えられる反応は次の3つである:

    1. 研究に対する規制と同じように、他の危険な行為も取り締まる必要がある。
    2. 他の危険な行為と同じように、研究に対する規制も緩める必要がある。
    3. 他のあまり規制されてない行為と同程度のリスクしかないが、研究を厳しく規制するべき倫理的な理由がある。

    著者はこの3つ目を擁護し、研究の例外性と呼んでいる。

    規制のパターンと弊害

    この論文において、著者はリスクを次のように定義している:

    (リスクとは)何らかの好ましくないイベントが起こる可能性があるが確実ではない状況

    研究が倫理的に問題なのは、それに何らかの(研究に参加しなければ起こり得なかった)新しいリスクが伴うからである。日常生活に規制はつきもので、その多くは好ましい結果をもたらすために行われているが、それらは次のように分類できる:

    1. Prospective regulation(前向きな規制):何らかの行為が行われる前にチェックする規制
    2. Reactive regulations(反応性の規制):1と対照的に、適切な基準が違反された場合に有効となる規制
    3. Licensing(免許制):何らかの行為が適切な水準を保って行われているかテストする規制
    4. Dipsticking:何らかの行為をしている人が適切な水準を保っているかランダムにテストする規制
    5. Financial incentives(経済的動機):好ましい選択が経済的により魅力的に感じられるようにする規制(例えば、ガソリンへ増税して電気自動車の購買を促すなど)
    6. Architectural Nudge:このましい結果になるように環境を変える(例:学校のカフェテリアで提供する食事を全て健康的なものにする)

    リスクに対して規制をすることが問題な理由の一つは、経済的なコストだ。何らかの行為を規制するために、規制のルールを作り、人々がそれにしたがっているかを監視し、それに従えるよう教育し、違反者を罰する・・・という行為には非常にコストがかかる。さらには、規制をすることは人々の自由を奪うことになりかねない。

    特定の規制Rが倫理的に許容されるのは、(1)目的が好ましく、(2)Rを用いる方が自由放任主義より倫理的に優れており、(3)Rが他のどんなR 1,R2,….よりも倫理的に優れている、の3つを満たす場合のみである。

    しかしながら、(3)は評価が非常に難しい。(3)を満たすためには、あるリスクが他のリスクと比べて良いか悪いかをいうための説明が必要になる。例えば、たくさんの人をごくわずかなリスクにさらすことと、たった一人を死ぬほどの重大なリスクにさらすことのどちらが良いかと問われて、簡単に答えを出せる人は少ないだろう。

    これを鑑みると、何らかのリスクを天秤にかけてどうこういうのは非常に難しい。

    (more…)
  • オリンピック委員会会長の森氏の発言があまりに無知で時代錯誤なのは事実だけれど、それを糾弾するときに結構使われている「海外では許されない」という言い回しは、置き換えた方が良いと思う。

    「海外(/先進国)では〜なのに日本では〜(/だから日本は劣ってる)」みたいな表現を見ると私はいつも渋い顔になる。こういう表現は、フェミニズムのほか、人権、動物倫理、環境問題に関する議論一般でもよく見かける言い回しで、「海外」が実質「北西ヨーロッパと米豪新加のリベラルな地域」を指してるのは分かっているし、実際は「〜の国では〜(人権や科学など)の理由に基づいて〜という政策が取られている一方で、日本では〜(人権や科学など)を無視して〜してるところがだめ」を短縮してそういう表現になってるのはわかっている。わかっているし、根拠が何であれ現状を変えたい気持ち(しかも「海外」が含意する国々が実践してる方向に)は私も共有しているのだから、そこだけ無視すれば良いのだが、見なかったことにできないくらいこういった類の表現をよく見かける。こういう議論の時に突然「海外」の定義からこぼれ落ちる国々のことがすっごく気になるし、ちょっと北西欧の価値観を手放しに賞賛してるように感じられて、もやもやする。


    日本に戻ってきて、人気の記事や大拡散されてるツィートには(そもそも身の回りにフェミニズムや菜食主義の話ができる人がいない)、「西欧ではこうだからこう」という表現が含まれてることが少なからずあって、その「〜国や〜国においついた先」のヴィジョンがないのが気になっている。別の国や地域を引き合いに出すことなく、理論を拠り所に理想の世界についての話がしたいなと思う。

  • オックスフォード大学は今Week0(ちなみにイギリス英語では0をnoughtと言う)と呼ばれる新学期の前週にあり、新入生向けのイベントが目白押しだ。もちろんそのほとんどは、ZOOMで開催されている。

    私が以前に属していたのは、修士・博士課程の学生だけが在籍する小さめの若いコレッジだったが、今年から属するのはかなり古くてメジャーなコレッジの一つだ。そのため、ZOOMで開催されたMCR(;Middle Common Room – コレッジに属する修士・博士課程の学生代表)のイベントでも、以前のコレッジでは考えられない数の運営員・参加者がいた。イベントの数も多い上に、後援会からの援助で無料になるコース(Mindfulnessだったりヨガだったり)もある。これは小さなコレッジに属していた頃にはなかった特典で、少し驚いた。