• 去年私がIMTに応募した前後でも何度かこの話題に触れた。トレーニングプログラム採用の難易度が今年は過去最悪と言われた去年よりさらに上がっており、イギリスの医学部出身の医師でも業績がないとトレーニングプログラムに乗れないどころか仕事もない可能性がある、と懸念されている。

    Eligibility for IMT

    改めてIMTの応募要項を確認しておくと、

    1. foundation competences:CREST formへのサイン。CRESTにサインできるのはGMCに登録されているコンサルタントか、それと同様の立場にある医師。
    2. experience:最低2年の臨床経験(GMC登録後最低1年の臨床経験を含む)。
    3. UK eligibility:2019年10月以降、医業は Shortage Occupation List in the UK に載っているので、全ての医師は Resident Labour Market Test (RLMT) を免除されている。
    4. English language skills: GMC登録を通じて確認される。IELTS academic overall 7.5 or OET B)
    5. GMC status:GMC登録済。

    なので、海外からでも要件を満たせば直接応募することができる。日本から直接応募することの難点は、(1)のCREST formにサインしてくれる指導医を探すこと(多分医籍登録の英訳コピーなどその指導医の資格を証明するものが必要になる)、そして書類選考を通った後の面接だろう。

    これまで

    準備が大変な上に、制度に乗ってからも苦労が多く規定時間内にトレーニングを終えられないことがあるため、少なくとも私がNHS Englandで働き始めた3年前の時点までは、まずはnon-training jobを見つけて、そこで6-12ヶ月ほどNHSの制度を学んでからIMTやそれと同等のトレーニングに応募することがIMGの間で推奨されていた。

    過去の記事に書いた通り、少なくとも3年前の時点では、少し時間をかけて対策を練ればIMGがnon-training postを見つけるのは難しくなかった。

    現在

    1 IMTの難化:足切りの上昇

    面接の足切りを決める書類選考にはApplication self-assessmentという評価シートが用いられる。今年はAdditional AchievementsとLeadership and managementの項目が削られたので、「QIPをやれば4点なのにオリンピック選手になっても0点」というような冗談を時々目にする。

    足切りの決定は現在進行形で行われているので、具体的な数字が公式に発表されたら記事をアップデートするつもりだが、今のところは15点らしいという噂がある。

    例えばF1の1年とF2の4ヶ月(応募は毎年11月)でそこそこ頑張って達成可能な項目としては、

    • 2 cycles of QI (4 points)
    • 3 months of teaching experience (5 points)
    • Teach the Teacher Course (1 point)
    • Local Presentation/Poster (2 points)

    で、たったの12点しかない。もう少し頑張ってMRCPを受けると、

    • MRCP Part 2 Written合格・PACES未 (2 points)
    • MRCP PACES合格・ Written 未 (6 points)
    • MRCP Part 2 Written + PACES 合格 (8 points)

    と試験の進行具合によって点数が加算されるので、応募者はPACESまでで頑張るか、あとは論文を発表する・修士課程を修了することでしかトレーニングに乗ることができない。

    この辺の理由で、新しい点数マトリックスでは論文発表経験があったり一時臨床を離れて博士課程に在籍していたりする医師の方が有利となっている。「ふつうの」若手医師が研修に乗れないでキャリアが積めないというのは一大スキャンダルだと思うのだが、まだ若手医師や教育に関心のあるコンサルタントの間でしかこの問題は語られていないように思う。

    2 医師の絶対数の増加:non-training postがない

    研修に乗れないで溢れてしまった医師の受け皿となっているnon-training postだが、これを見つけるのも昨今の医師の絶対数増加によりなかなか厳しい状況となっている。

    医師の絶対数増加の背景には、医学部の拡大と、IMGの急激な増加が、そしてポストの競争率上昇の背景には、医師の絶対数増加及びACP (Advanced Care Practitioner)など「医師と同等の立場で」働く非医師スタッフの増加がある。この辺は以前の記事でも触れた。

    Medical Workforce Report 2024 によると、GMC登録したIMGは、UKの医学部出身者の年間GMC登録数を去年から上回っているようだ。2023年は登録者のなんと68%がIMGだったらしい。

    英国インド出身医師の会(BAPIO)はPLABに合格したIMGの数とNHSの求人数との乖離について懸念する記事を出した。

    In 2023, 9,884 doctors passed the PLAB 2 exam, an increase of approximately 70% compared to 2019, while the pass rate decreased by 4% to 63%. Despite the increasing number of doctors completing their PLAB exams, there are limited number of jobs currently available for doctors in the UK, with the scarcity of suitable jobs being more marked for IMGs. Bearing this in mind, BAPIO would like to advise any IMGs contemplating moving to the UK to fully research the UK job market and have a realistic understanding of the likelihood of finding a job in the UK prior to committing their finances and time towards the PLAB exam.

    初期研修2年終了後は、1-2年オーストラリアで働いたり、世界中を旅行したり、バイト医として普段の2倍の給与で気ままな生活をしたりするのがイングランドでは人気なので、F2後にすぐにトレーニングに乗りたい人は多数派ではないのかもしれないが、ここ2-3年の医師の労働マーケットにおける急激な変化で、将来の不安から「気ままなF3」の選択肢を選べる人が減っているようだ。

    医師の就職難なんて聞いたことがなかったが(少なくとも日本出身の医師には無縁の概念だろう)イギリスではそれが結構現実的なものとして存在している。将来安泰だと言われがちな医学部を卒業しても2年後にトレーニングにも乗れずnon-training jobにも就けず路頭に迷う可能性のあるイギリス医学部卒業生は不憫だと思う。

    3 anti-IMG sentiment

    上記の理由によりIMGを敵対視する声がネットでは高まっていて、私がNHSの仕事を始めた3年前とはがらっとインターネットの様相が変わっている。これからやってくるIMGを制限すべきだという意見には、「でもそれでは既にいるIMGが追い出せない」と既に国内にいるIMGも追い出したそうな人の意見が続く。ちょっとこわい。

    IMGの規制の方向としては、

    1. トレーニングのEligibilityにそれに見合ったNHS勤務年数を義務付ける(例:IMTなら2年、ST4なら3年など)
    2. RLMTの再導入、またはそれに類する、ILRや出身医学部による選別(例:応募の1st roundでは英国医学部出身者>英国ILR保持者>その他IMGの順で応募をかけ、IMGは最終的に空きのあるポストにのみ応募可)
    3. application self-assessmentに、英国医学部出身者にだけデフォルトで5-10点くらい点数を付与する
    4. CREST formへのサインは英国内で現在進行形で働いているコンサルタントしかできないようにする
    5. 精神科やGPなど現在IMGが渡英に「利用」しがちなトレーニング科でインタビューを再導入する。IMGの中には、non-training jobが得られないので、興味はないものの試験だけでトレーニングに乗れる精神科やGPのコースを利用してビザを取得して渡英し、1-2年ほど働いたのちに本命の科に切り替える、という人が結構いるようで、それが倍率の上昇に寄与しているとして大変な批判を浴びている。

    があるようだが、どれも差別に厳しいイギリスでは実現が難しいようだ(5つ目は人手が足りず不可)。以前書いたように、イギリスは英語圏で唯一、外国医学部出身者を本国医学部出身者と同じように扱う国である。他の国にできるのだからイギリスでできないことはないだろうと思ってしまうが、法律との兼ね合いでどうにも難しいらしい。

    英国医学部出身者によるアンチIMGロビー活動をしよう、という意見も散見されるが、これも既存の労働組合にはいろんな理由でできないようだ。BMAなんて積極的にIMGをリクルートしていたし。ストライキで医師の給与が上がっても、仕事がなければ何にもならない、として、次のストには参加しない・BMAは脱退した、とまでいうFoundation Yearの医師も見かけた。

    なので、増え続けるIMGは問題視されている一方で、制度としてはIMGにオープンな状態がこのまましばらく続くと思われる。

    これらを踏まえて日本の医学部出身医師におすすめすること

    基本的にTraining positionでもNon-training positionでも点数が得られる項目(書類選考を通過するために必要)は同じなので、上記を踏まえてのアドバイスは以下の通りである。既にイギリスで働きたい科が決まっている人はその科の募集要項やself-assessment formにも目を通しておくと良い。

    • Presentation/Posters: 日本の国内学会または国際学会で第一または第二演者として口頭発表すること(IMTなら6点)。ポスター発表なら4点、地方学会なら2点もらえる。(この中で一番高い点数がPresentation/Postersに対する得点となる。)
    • Publication:pub-med cited research publicationでfirst authorだとIMTなら8点、joint / co-authorだとIMTなら6点、など高得点が得られるのでできればあると良い。
    • Teaching:3ヶ月にわたるティーチングを組織するのは日本語でなら英語でより簡単だと思うので、日本にいるうちに、自分より若い医師や医学生向けに3ヶ月のティーチングの予定を組むと良い。フォーマルなフィードバックが必要なので、JRCPTBにあるフィードバックフォームを参考に、適切な型のフィードバックをもらっておく必要がある。
    • QIP:これは英国で研修を受けた人はデフォルトで点をとるところだし、Presentation/Posters/Publicationほど大変でもないので、やっておくと良い。やり方は検索すれば親切なガイドがいくらでも見つかる。

    日本で専門医をとってからイギリスに来る方が、イギリスで研修をするよりおすすめの時代が来たかもしれない。内科系専門医はイギリスなら初期研修後5年はかかるところが日本だと3年で済むので、日本の資格を持ってからコンサルタント同等として渡英して、SASまたはシニアクリニカルフェローとして働くのが手っ取り早いし競争も少ないだろう。コンサルタントになりたいならCESRルートを取ると良い(ただ監督を受けるコンサルタントによっては茨の道になるようなので興味がある人は自分で調べて欲しい)。この路線の欠点としては、イギリスでのジュニア生活を経験していないので制度に疎い・制度がよくわからないまま多大な責任を負ってしまうところにあると思うが、この辺は病院と交渉して勤務開始日の2-3週間前から本気でシャドーイングする等で頑張ってカバーするしかない。

    おまけ

    *Leave as quickly as you can

    **If you can’t leave, look for any escape routes – it’s difficult with family and school going children, hence make the move early

    ***The NHS has already sunk. Don’t bother or believe anyone can save it. Take private healthcare cover.

    ****And most importantly, look after yourself. Find an alternate way to make money. This system won’t look after you.

    TDLR – GET THE FUCK OUT OF HERE BEFORE IT IS TOO LATE

    Advice to resident doctors from a consultant

    My experience of IM residency in the USA:アメリカに渡って、死ぬほど忙しくワークライフバランスどころかワークしかないが、総合的に見てアメリカに行って良かったよというイギリス出身医師の話。以前に別の記事で、アメリカに行って後悔したイギリス出身医師の話をシェアしたが、向き不向きはやっぱり仕事に何を求めるかとかアメリカ国内の地理的なものも関係するんだろう。

    Why does everyone assume IMGs would be against changes to the recruitment process? :これはIMGの多くが同意するところだと思う。IMGのせいで!と言われるが、個々人としてはそれぞれの人生と理由があって、利用できる制度を利用してイギリスに来ているわけで、利用できるから利用しているけれど制度には変更が必要だと思っている人が個人的に話した人でもオンラインで見かける意見でも多い印象がある。

    様々な科の倍率

  • イングランドでは10年ぶりに積極的安楽死の法制化に関する議論が活発化している(法案が成立すれば、イングランド・ウェールズ・北アイルランドで施行されるのだが、私がイングランドに住んでいるので以下イングランドのみ記載する)。

    直近の投票は2015年で、その時は法改正反対派が賛成派を3倍ほど上回り法改正に至らなかった。その前の投票はここからさらに20年遡るらしい。

    前回の議論活性化の裏には、自らが積極的安楽死を受ける権利を主張するアクティビストや、家族(すでに亡くなっている場合も含む)の意思を実現するために活動するアクティビストの存在があった。

    今回の議論活性化には、Esther RantzenというBBCテレビのアナウンサーが大きく関わっている。彼女は積極的安楽死法制化に関わる前には、子ども向けヘルプラインや孤独を感じる高齢者をサポートするヘルプラインの設立をしたことで知られている。彼女は自らがステージIVの肺がんを患ったことにより、かねてより賛成していた積極的安楽死への思いがより強くなり、がんと戦いながらも積極的安楽死法制化への政治的活動を続けてきたようだ。彼女が、労働党党首キア・スターマ、保守党党首リシ・スナクの二人と、7月の選挙が落ち着いたら積極的安楽死法案について議会で話し合うことへの約束を取り付けていたことから、今回10年ぶりに法制化に向けた議論が起こることになった。

    消極的安楽死と積極的安楽死

    ここで少し用語について説明しておくと、安楽死は大きく消極的安楽死と積極的安楽死に分けられる。

    消極的安楽死とはいわゆる治療の差し控えや中断で、これはイングランドでも認められている。日本と違って、人工呼吸器の抜管や胃ろうからの栄養中止も状況によっては認められていて、日本よりも適応や実施の範囲が広い。

    たとえば短期間で増悪を繰り返すCOPDで本人がBiPAPの使用を望まない場合などは、「再入院なし」の方針で緩和ケア薬を処方で退院とし、次にCOPDが増悪した場合には自宅看取りの方針で症状緩和薬を投与することもある。症状緩和薬;Just in case Medsとか Anticipatory medsと呼ばれる薬には基本的に、(1)疼痛、(2)せん妄や落ち着きのなさや呼吸苦、(3)嘔気嘔吐、(4)気管分泌物 に対する皮下注射の薬各1剤ずつが含まれる。これらを退院時に「事前処方」しておいて、その時がきたら患者さんや家族がDistrict NurseやCommunity Palliative Care Nurseに連絡をして、薬の投与を受ける。

    がんで予後3ヶ月以下の見込みの場合や、複数の重大な既往があって入院加療をしてもさほどQOLの改善の見込みがなく本人も入院を嫌がっている場合などにも、本人と家族に説明した上で、Anticipatory Meds処方で自宅または介護施設に退院となることがある。病院に来たくないこと以外にも、内服薬ならどうか、などおおまかに希望を聞いておいて、自宅や介護施設でできる範囲の治療なら実施するという場合もある。

    積極的安楽死とは、死にいたる薬物の投与により直接的に死をもたらすやり方で、これはイングランドでは認められていない。日本でももちろん認められていない。

    現在の状況

    イングランド在住者が積極的安楽死を受けたい場合は、今のところはスイスに旅行をする。ただし、家族を連れて行くと、本人の死後に家族が「自殺幇助」として警察に捜査される場合もあるので、基本的に一人旅行となる。イングランドで緩和ケアに関わっている医師や看護師に聞くと、必ず過去にスイスでの積極的安楽死を選んだ患者さんと関わった経験があるので、少数派ではあろうがどこの地域にも一定の割合で積極的安楽死を選ぶ人がいそうだ。

    ただ積極的安楽死を希望する患者さんをスイスへ旅行させることの問題点はもちろん多い。積極的安楽死はかなり高額な処置なので、裕福な人しかこれを選べない。予後が短い状況にありながら、身体の自由が効く状況でなければならない(介助者を連れて行くと「自殺幇助」とみなされる場合があるので)ため、window of opportunityが限られている。それから、家族に見守られながら死にたいと思っていても、これは叶わない。

    法制化反対なのは、宗教家のほか、積極的安楽死はslippery slopeで次は障害者が対象となると考えるDisability Rightsのアクティビストや、その他NHSの現状を知っている医療者が主だろう。現在の逼迫したNHSでは不十分な緩和ケアにより積極的安楽死が「選択」ではなく「強制」となってしまう人が一定数存在するに違いない、という理由で法制化に懸念を示す声がある。積極的安楽死を導入した他国の失敗を検討する前に導入するのは時期尚早だという声もある。

    個人的には今回は法制化しそうな気がしている。動向を注視したい。

    Assisted Dying for Terminally Ill Adults Bill [HL] :議会での法案議論の進捗


    MPs to get historic vote on England and Wales assisted dying bill

    MPs to get first vote on assisted dying for nine years

    Assisted dying bill leaves much unanswered


    2/12/24 追記

    このたび法案がHouse of Commons (日本でいう衆議院にあたる)を賛成多数で通過した。今後数ヶ月の期間を経て、House of Lords(日本でいう参議院にあたる)で再度話し合われたのちに法施行となる。

    十分なSafeguardingがあるとの触れ込みだったが、蓋を開けるとあまりにお粗末なSafeguarding案だったので、以前からPADに賛成していた政治家やPADに複雑な思いを抱いていると言っていた臨床家までもが反対に回った法案だったのだが、PAD肯定派の強力なロビー活動もあって可決となった。

    Then, when the bill was released, it turned out that Leadbeater’s world-beating safeguards were about as useful as a chocolate teapot. The bill says that assisted dying will require sign-off from two doctors, the second of whom is meant to be ‘independent’. In reality, the first doctor will be allowed to pick and choose the ‘independent’ doctor. If the independent doctor disagrees about going ahead, the first doctor can simply pick another. 

    History will not be kind to the MPs who backed assisted dying. Yuan Yi Zhu

    緩和ケア医の多くは、これがイギリスにおける緩和ケアの終焉ではないか、今後どんどん緩和ケアへの資金が削られていって、不十分な緩和ケアのもと安楽死を選ばざるを得ない人が増えるのではないか、と懸念している。緩和ケアに関わる医療従事者は、自分の希望よりも長く生きてしまった患者さんのサポートをしたのちに「あの時に死なないで良かった」と「余分な」時間に満足して亡くなる患者さんを担当したことが一度はあると思う。安楽死法案が可決されると、そういう時間もなくなっていくのかもしれない。

  • IMT1 2ヶ月目の日記

    病院に随分と慣れてきた。道に迷うことが減ったし、普通のドップラーはICEからオーダーするのに上肢だけはレファラルからオーダーすることなど院内謎ルールもわかってきた。

    そういえばこの頃は同僚に紅茶を淹れることがない。前勤務先では同じチームで1年働いたため、私はチーム全員の紅茶の好みを把握していた。「ミルクを少し、ダイジェスティブビスケットの色になるまで」「かなり濃いめで」「できるだけ薄く、ティーバッグを一瞬つけたくらいの濃さで」「ミルクたくさん、砂糖は1杯で」などそれぞれに好みがある。何十年も前の企業には紅茶を淹れるだけのスタッフがいて、何十・何百という数のスタッフの紅茶の好みを覚えていたらしい。今は毎回違う人と働いていて、みんなが好む飲み物を知らない。たまにコンサルタントが回診中に温かい飲み物を買ってくれるのだが、誰が何を飲んでいたか忘れてしまった。病棟のティートローリーがどこにあるのかもまだ把握していない。

    血液内科の回診中にコンサルタントが”Will you marrow him?”と言ったのを私は”Will you marry him?”と空耳して、それにレジが “Yes, will do. tomorrow.” と答えたのものだから、「えっ!このレジとあの患者さんはそんな関係だったのか?!年齢が全然違うけど!?そんな親しくは見えなかったけど…?!」とびっくりしてしまった。その後の文脈から、marryではなくmarrow (bone marrow biopsy/aspirationの略)だったとわかった。

    レジ10年目くらいのレジと会った。血液内科ではフルタイムのレジだと5年でトレーニングが終わるようなのだが、たぶんこのレジはLTFTの50%で働いているか、育休や産休を挟んで60-80%くらいで働いているのだと思う。

    今月はGPとdistrict nurseがどちらも退院予定の患者さんのリファラル受諾を断って大変な目にあう事件が会った。どちらも「それはうちじゃない」と言い続け、また私を介さないで直接話し合うことも拒否するばかりで、全く話が進まなかったので、コンサルタントに介入を依頼した。この時点でこの件の解決に3時間ほど費やしていたのだが、責任がコンサルタントに移ってからもたくさんの人を巻き込んだメールのtrailがどんどん長くなり、事件発生3日目の夕方になってやっと解決した。我々下っ端はコンサルタントの手先として動いているのに、SHOの依頼には頑なにNoと言い続けるGPやDistrict nurseがコンサルタントの依頼は了承するというのがちょっとよくわからない。ともかく、前の病院にいた時から薄々感じていたが、GPとDistrict nurseは協力関係というより対立関係にある場合もよくありそうだと思った。

    生活が落ち着いたらジムに登録しようと思っていたのだが、1回だけのつもりで行ったヨガ教室が随分と気に入ってしまったので、週4くらいのペースでヨガに行き始めた。ヨガや編み物(運動・手作業全般)などうつ病に効くと言われていることはNHSで働くストレスにもよく効く。

    Cycle to work scheme で良い自転車と頑丈なロックを買った。これは税金を引かれる前の給料から自転車代が天引きされる制度で、私の買った自転車だと手取りの給料から買うより£300くらい安くなるらしい。届くのが楽しみだ!

    隣の家の猫が遊びにきてくれる。猫と暮らせるように早く自分の持ち家がほしい。(犬も好きだけれど、コンサルタントになるまではLTFT = less than full time 勤務にしない限りは犬と暮らすのは難しそうだ。)

    イギリスでは日本と違って、一人暮らし用のフラットでもまずは購入して、それからライフスタイルに合わせてどんどん大きな家に買い替えていく、というのが一般的だ。病院で働いていると立ち退き命令(eviction notice)を受けて数ヶ月以内に家を見つけないといけないのに病気でそれどころではない人と数ヶ月に1回くらいの頻度で会うのだが、持ち家があると少なくともこういう事態は防げる。今は賃貸ですら良い物件を探すのがかなり難しくて、それなりの物件に住むには高額な家賃を払わねばならなかったり、良クレジットスコアのひとでも契約に際して連帯保証人を要求されたりするなど、大家の力が非常に強い。公営住宅は待ち時間が長くてなかなか入れない。こういう環境では持ち家があることがセーフティーネットの一つになるので、こちらの人は投資の感覚で家を買うらしい。

    En-suiteのハウスシェアに戻ってみて、たまに不便を感じることはあるが(ハウスメイトがうるさいとか、誰かが夜中に乾燥機を回しているとか)、今のところは生活費が引っ越し以前と比べて£500ほど安く上がっているので、貯金して自分の家を買うためにもこの程度の不便なら我慢できそうだと思っている。ちなみに周りのSHOレベルの人の多くは一人暮らしかパートナーと二人暮らしをしていて、知らない人との同居は珍しい。これからイギリスに来る人は自分にとっての優先事項を考えて賃貸の形態を選ぶのが良さそうだ。

  • ついにイングランドの医師の完全なる賃金回復(Full pay restoration)を求めるストライキが終結した。

    時々ブログに書いていたように、イングランドのジュニアドクター(コンサルタント・SASを除くすべての医師を指す用語なので、日本のそれとは意味合いが違う;ストを通じて市民がジュニアドクターを学生かのように勘違いしていることが判明したので、今後BMAは「ジュニアドクター」の代わりに「レジデントドクター」を使うことに今月決まった)は2022年の3月から2024年の6月くらいまで、毎月ストライキをしていた。1日から初めて、最長で4日か5日ほどのwalkoutがあったと思う。

    ストライキはBMA(British Medical Association;医師の労働組合)主導で行われた。BMAがまず組合員に投票でストの意向を問い、組合員の少なくとも50%が投票し、そのうち過半数がストに賛成の票を投じることでストが始まる。一回の投票は6ヶ月有効なようで、最初の投票以降は2回ほど追加でストの意向を問われた。

    一番最初の投票は、労働組合の運動が盛んな英国ですら歴史的とも言える圧倒的多数のYesが集まったことで話題になった。

    Turnout: 77.49%  

    Number of individuals who were entitled to vote in the ballot: 47,692 

    Number of votes cast in the ballot: 36,955 

    Yes votes: 36,218 – 98.06%

    No votes: 716 – 1.94% 

    Spoiled or otherwise invalid voting papers returned – 21

    ストライキ開始当初に与党だった保守党は賃上げに全く乗り気ではなく、ストライキ期間中の病院の経営難の補填に賃金回復にかかる以上のお金を費やした。ちなみに、NHSで働き始める前は、パンデミックで色々と問題を起こしたボリスジョンソンをみても特に個人的に何かを感じることはなかったのだが、ストライキが始まってからのほとんどの期間で首相をしていたリシスナクについては、声を聞くだけでも怒りや嫌悪の感情を抱くようになっていて、自分がイギリスの労働者になったことを実感した。

    それが労働党に変わると2週間ほどで議論がまとまり、BMAがオファーを組合員に提示して、我々組合員はアクセプトとリジェクトの2択で投票をした。私はリジェクトで投票したのだが、投票の次に理由を問うページでは、「Full pay restorationではないからリジェクトした」「Full pay restorationをするという約束がないこれっきりのオファーなのでリジェクトした」「アシスタント(Physician Associates)より安い賃金で働いている医師がいる限りその給与体系は許されない」などかなり具体的で、組合員がリジェクトの理由をこんなにはっきりと知っているのに何故このオファーを俎上に載せたのか?ととても不思議に思った。

    BMAが推奨していたレートカードを取り下げるというのもオファーアクセプトの条件の一つで、そこも気になっていた。BMAは病院が一般的に提示してくる時給の2倍近い時給を推奨していて、これを元に病院と交渉して一般レートの2倍で働く医師がいたのだが(Locum rate自体が普段働いている時給の2倍くらいなので、BMA提示のLocum rateは破格の時給だった)、今後はそれは難しくなるかもしれない。

    その後、ストライキを主導していたリーダーのひとりであるGPのRobが Medics Money Podcast で、なぜこのオファーをアクセプトすべきなのかを話しているのを聞いて、アクセプトにしたら良かったかもな〜と思っているところに、アクセプトの結果が出たので、これで良かったように思う。

    このオファーの前は、Pay restorationの金額も少なかったし、Back payの案もなかったし、賃上げをトレーニングプログラムに載っている医師に限る案だった。BMAの幹部はその辺の交渉を頑張ってくれたようだ。

    この図にあるように、イングランドのレジデントドクターの給与は、スト開始時点だと2008年と比べて31%も少なかった。この15年の間に、医療はより複雑になり、勉強することやできなければならないことが増え、パンデミック期間はパンデミックの最前線に立たされ、当時より31%多い給与をもらってもいいくらいなのに!

    オファーアクセプトの影響

    Full pay restorationには程遠いけれど、アクセプトによって色々と利点もある。

    Back Pay

    2023/24年の給与が4.05%上昇し、これが遡って2023年4月から適応となるので、かなりの額が振り込まれることになる(ただしここから税金が引かれる)。

    新しい給与体系とwork-life balance

    これで次の給与はこんな感じになる:

    Nodal Point 1: FY1, 2: FY2, 3: CT1-2, 4: ST3-4?

    医師の役職名についてはMisc.にある語彙集を参照してほしいが、私(一般内科、トレーニング1年目)に関連のあるところでいうと、年俸£40,257 がストにより£49,909 に上昇する。

    現在のポストに就いた時の給与概算では、Basic Pay £43,923(なぜ国の指定するBasic Payより少し高いのかは知らない。物価の高い地域だからだろうか?)に夜勤・休日・時間外手当がついて、年収£54,557(1045万円)となっていた。これを加味すると、オファーアクセプト後の実際の年収はBasic Payより£10,000から£15,000 ほど高くなり、年収は£60,000 – £65,000くらいになる。年収が£50,000を超えると超えた部分だけ税金が40%かかるので(そこまでは20%)、手取りは月£3700 – £4000(70万円から76万円)くらいだろうか。日本とイギリスでは物価が違うので日本円換算だけで判断はできないが、これくらいの手取りがあるとイングランド(ロンドンを除く;ちなみにロンドンではロンドン手当がある)でも生活に結構ゆとりがある。

    日本の卒後3-4年目くらいの医師の手取りもこれくらいだろうか?日本の医療を離れてしばらく経つし、記憶がNHSで塗り替えられているのでもう曖昧にしか覚えていないことも多いが、福利厚生はイングランドの方が格段に良いのは間違いないので、イングランドでは日本より少ない労働時間で同じくらいかそれ以上の給与がもらえる感じだと思う。

    土日祝日を除いて年休27日(NHS勤務5年後以降は35日)、育休(私が知る限りNHSイングランドでは男性医師もよく取得する)や産休やcompassionate leave制度も充実している。夜勤は3-4連勤で、明けの日とその翌日は休みの決まりとなっているし、1回の夜勤が12時間勤務なので、3-4日も夜勤をすると1週間に42時間以内(NHS Englandではレジデントドクターを48時間/週まで働かせることができるが、当院では43時間の決まりになっている)という労働時間制限(興味のある人はDoctors and the European Working Time Directiveを参照)により前後1週間でそんなにシフトを入れられないことになっていて、その辺も合わせると夜勤のある月は勤務表がすかすかになる。IMTだと年に30日のStudy Leaveも得られる。Study Leaveは家から受講するオンライン講習に使ったりポートフォリオを整理するのに使ったりできるので、病院の喧騒から離れられて1日の疲労度が全然違う。Study Leaveの予算は病院ごとに決まっているようなのだが私の病院ではなんと無制限に申請できるようなので、Study Leaveを使い切るようにたくさんオンラインの勉強会に出ようと思っている。

    私は今週、この病院で勤務を始めて以来2回目の週5勤務の週を経験した。基本的に週3-4勤務の日が多いので、久しぶりの週5勤務は流石に疲れてしまったが、今日から10連休が始まったので大丈夫だ。バーンアウトしそうな予感は今のところない。

    Bank and Build strategy

    上記の賃金上昇分を貯金して、次のストに備えることができる。

    これまでのストでは、経済的不安のあるレジデントドクターがストをできるようにするための緊急ファンドを募金で賄っていた。レジデントドクターのストを支持するコンサルタントたちが、 ローカムレートで働いて、その収入分を全てファンドに寄付するという形でなんとか回っていたのだが、過去1年半以上の効果があるストをするためには、今後はより多くのレジデントドクターのスト参加が不可欠で、医師個人がBank and buildをしている間にBMAとしてもより安定した資金供給が得られるような体制を整える手筈らしい。

    2027/28までにFull pay restorationを達成するのがBMAが目指すところのようで2025年4月5日までに政府との交渉が決裂したら再度ストをするらしい。最終目的はあくまでFull pay restorationなのだ。

    Exception Reportの簡易化

    時間外労働分は給与を申請することができるのだが、時間外申請の際に働いた理由を細かく説明しなくてはならなかったり上司の承認が必要だったりするのがネックで、面倒くさくてまたは気を遣って申請できないトレイニーがいることが問題となっていた(多分勤務1年目のどれかの記事にも書いたが、「俺たちが若い頃は連続x時間勤務も普通だった」「最近の若手はだらしがない」という上司のもとで空気を読んで申請しない傾向が外科では特に強いようで、空気を読む文化が日本のそれと重なってみえる)。

    それが今回のオファーをアクセプトすることにより、

    • スーパーバイザーをプロセスから外す
    • 申請締め切りをなくす
    • 時間外労働正当化の要項をなくす
    • 2時間以内の時間外労働についてはscrutinyの閾値を下げる

    ことが決まったので、気軽に申請できるようになりそうだ。

    トレーニングポストの増加

    トレーニングポストを増やすことも今回のオファーの一部である。


    2016年のスト失敗で求心力を失っていたBMAだけれど、2022年からのストでは支持が戻ってきているし、今回のオファーを受けた後も”Bank and Build”ののちにFull pay restorationまでは政府との交渉及び必要があればストを再開すると言っているので、給与はこれからも上がり続けると期待している。

    参考:Offer from Government for resident doctors in England – Your questions answered

  • 寄稿:PLABについて AUさんを書いてくださった先生のイギリスでの仕事が決まったので、お願いして経過の記事を書いていただきました。私の散らかったブログ記事までまとめていただいて、とてもありがたいです。日本の専門医を活かしたシニアポジションでの就活ですので、専門性を活かした移住を考えてる方にはとても参考になると思います。


    【仕事を得るまでのスケジュール】

    2024年2月 PLAB2受験

    2024年3月 PLAB2合格通知、日本の大学院卒業

    2024年4月 EPIC verificationを申請、仕事探し開始

    2024年6月 GMC full registration、日本の専門医試験

    2024年7月〜8月 面接→8月に合格通知

    2024年9月 ビザ申請中(今ここ)

    【GMC registration】

    (管理人さんのページまとめ)

    ↑費用は、医学部卒業後5年以上経過した場合は2024年4月から£455に値上げされました・・・

    • ポイントはEPIC registrationを早めに終わらせることです!
    • パスポートの他に、学位記の英訳(翻訳会社に依頼した正式なもの)、初期研修施設から何科を何ヶ月回ったという記録、厚生労働省から「医師等医療関係資格者の英文証明書申請」を手に入れる必要があります。私は追加で、卒業試験の合格日の証明を卒業大学から取得するよう指示されました(これはあったりなかったりのようです)。
    • IELTS/OETの期限が切れている(2年以上3年未満)場合はPLAB2合格日より3ヶ月以内に登録を完成しないと再度OET/IELTSの受験の必要性があるので注意です。

    https://www.gmc-uk.org/registration-and-licensing/join-the-register/before-you-apply/evidence-of-your-knowledge-of-english/using-your-oet-certificate

    *以下は日本に住んでいて手続きをする場合です。

    (1) epic registration

    • まずはEPICで登録作業を行います。アカウント作成→notaryをオンラインで行う→支払い→final medical diplomaをアップロードする→卒業大学に連絡が行き認証作業→承認、という流れです。これに1-2ヶ月程度かかります。EPICの有効期限はないため、PLAB2の受験前もしくは遅くても受験が終わったら取り掛かることをお勧めします。
    • *notary:公証、本人確認作業。EPICはアメリカの認証機関ですが、GMC含め多くの国/機関が使用しているようです。Zoom/teamsのようなもので、オンラインで行われます。アメリカの時間で動いているようですが、予約が取れれば指示に従い申請すればよく、10分くらいで終わります。
    • 管理人さんのブログにもありましたが、final medical diplomaは学位記です。これを翻訳会社に英訳してもらい、翻訳とともにアップロードします。翻訳会社は栄古堂を利用しました。翻訳自体は問題ないのですがお高いです(9000円くらいでした、但し他の会社もこれくらいかかるようです・・・)。私はstandard planにしたところ”営業日で”2週間(つまり実際は3週間)かかりました。ただし+4000〜5000円払えば1週間以内に作ってくれるようです。思ったよりも早くEPICの認証が進み、翻訳を手に入れるのが律速段階になってしまったので、これを利用すればよかったと思います。

    https://www.legal-translation.jp

    • final medical diplomaが認証されると卒業大学への確認作業が行われます。これも律速段階になると考え、私は卒業大学の教務課に直接電話して逐一状況を確認しました。幸い(私が在籍した時と状況が異なるのか?)事務が迅速に処理してくれ、こちらは連休を挟みながらも3週間ほどで認証を終えました。
    • 費用ですが、最初のアカウント作成からnotaryを受けるまでが130USD、GMC用に認証作業を行うために追加で100USD (メールで卒業大学が認証してくれない場合は郵送代30USD、不要だった場合は返金される)で230 USDかかります。

    (2) GMC registrationに必要な書類に関して

    • full registrationの場合は初期研修で何科を何ヶ月回ったという書類の提出が必要です。登録を進めていくと雛形をダウンロードできますが、自由書式でも大丈夫でした。(管理人さんのブログをご参照下さい)
    • 厚生労働省からの返信は意外と早く2週間ほどで届きました。
    • 卒業試験に関しては聞かれる人、聞かれない人がいるようです。

    【仕事を得るまでの過程】

    (管理人さんのまとめページ)

    • 仕事探しはGMC registration前(早い人だとPLAB2合格前)から開始できます。
    • コネを使わない場合は、インターネットの募集ページからnon-training jobを申し込みます。EnglandとWalesは共通です。アクセントや初めての仕事のこともあり、私はScotlandやNorth Irelandは除外しました。いくつかサイトはありますが、nhsjobs.comがお勧めです(https://www.nhsjobs.com)。というのも応募フォーマットにはtracを使う施設が大多数なのですが、このサイトだとtracのフォーマットを使った求人に限定してくれます。tracは使い回しが可能なのに対して、施設独自のサイトの場合は使い回しができないのと合否状況の確認も一括でできないので面倒臭いです。書き方の詳細は管理人さんのページに詳しいです。
    • 私は眼科の仕事に限定して探したので、検索エンジンで”medical and dental”を選択し”ophthalmology”と打ち込み、このうちconsultantとlocumを除外した職種を検索しました。主にはtrust doctor (ST1-3程度), clinical fellow, specialty doctorになります(後述)。
    • 眼科のプログラムの概要は以下のページに詳しいです。但しCovid-19前に書かれた記事で現在は変わっている箇所多数です。
    • 私は30件ほど申し込み、5件から面接をいただき、1件(もう1件は補欠で追加)から採用をいただきました。
    • 当初は各種条件(CESRのサポートがあるかなど)を連絡先にメールしてから応募していましたが、期日よりも早く締切になることが多いため、3日に1回くらい確認して新規募集がないか確認し、条件を確認してある程度当てはまっていたらすぐに申し込んでいました。
    • essential requirementもあまり気にしませんでした。特にauditは日本にいるとやったことがない先生が大半と思うので、近い経験はある、とだけ書いていました。資格に関してもFRCOphthの合格(もしくはPart1は必須)が書かれている求人もありましたが、多くの場合or equivalentと記載してくれるため日本の専門医で代用(日本の専門医試験合格の前は既に必要なレポートは提出しておりすぐに専門医になれるだろうとと記載していました)していました。
    • **これは私の推測ですが、応募が集まったらまず事務(human resource)でスクリーニングをかけていると思います。というのも、多くの面接で面接官が私のCVを読んでいるようには思えなかったからです。事務が仕分けしているのであれば細かい内容はわからないので、恐らくポイント制になっているのだと思います。イギリスで働ける資格があるか/住んでいるか、NHSでの経験はあるかの比重は高いと思います(たまたま面接に呼ばれなかった理由を教えてくれた施設があり、直接的ではなかったですが労働ビザを取得していないことを指摘されました)。次に経歴で、Ph.D.があるか、眼科の経験/手技はできるか、論文や学会発表はしているか、などが見られると思います。私は幸い日本の大学病院にいたので、ここら辺は埋めることができそれが高ポイントになったのだと思います。auditの経験は大抵必要事項になっていることがあります。近年junior doctorの仕事はPA (physician associate)やnurseに取られているという指摘がありますが、まさにその影響を受けてjunior doctorの仕事が得づらいのだと思います。

    【私のスペック】

    • 眼科6年目で、ほぼずっと大学病院勤務でした。
    • 卒業大学とプログラムの関係で眼科6年目の年に眼科専門医取得。大学院も同時期に卒業しました。
    • 白内障手術は1人でできるくらいで、ハイボリューム施設の先生の同学年と比べると手術はできない方だと思います。

    【面接に関して】

    • 管理人さんのブログにありますが、自己紹介、take me through your CV、臨床に関した質問、人間関係に関する質問、他に聞きたいことないか、という流れです。
    • その他の部分では、今回の仕事がどのような仕事かの簡単な説明および質問があります。臨床メインか/研究メインか、手術はできるのか/できないのか、専門性が高いのか/一般眼科なのか、です。clinical fellowだと研究メインで、専門性高め(緑内障、medical retina, surgical retinaなどに分かれている)で、specialty doctorだとより幅広い印象です。当直はあったりなかったりです。あった方がお給料は高くなると思います。
    • 面接内容の詳細をご覧になりたい方は私のnoteに記しましたのでそちらをご参照下さい。

    https://note.com/japan_uk_ophth/n/n40ac8ea590fa

    【最後に】

    • 4月末から応募を開始しましたが1ヶ月半ほど面接に呼ばれなかったので、いつまで応募すればいいのだろうかと焦燥感とやるせなさがありました。しかし他国の医師のFacebookページや噂を聞くと100-200件は応募していたこと、たとえしばらく募集に呼ばれなくても日本での仕事はあったので生活の心配をしなくてよかったことは強みでした。
    • 外科系の場合は、何が(特に手技)できる/できない、というのが割とはっきりしているので内科系よりもアピールポイントがあると思います。
    • 管理人さんの影響もあり、私もnoteで日常を綴ってみようと思います。もしよかったらご覧ください。

    https://note.com/japan_uk_ophth/


    少し補足ですが、記事に書かれている通り、書類選考ではCVに基づいて下の写真のように点数をつけられます(E=essential, D=desirable)。Shortlistingするのは必ずしも医療者ではないと思うので、然るべき点数をもらえるようなわかりやすいCVを書くのが大事だと思います。

    日本在住で30件の応募で仕事が見つかったのは本当にすごいことだと思います。おめでとうございます👏北の眼科医の弟子さんとイギリスでスープカレー会をするのが楽しみです!

  • IMT1 1週間目の日記

    新しい病院での勤務が始まった。8月第二週目の水曜日が多くの医師にとっては新年度の初勤務日となっていて、私はその週の月曜日まで前勤務先で働いた後にバタバタと引っ越してきた。

    IT

    inductionでは相変わらずそんなに実用的なことは教えてもらえなかったし、翌木曜日の勤務は1日ITのトラブルシューティングに費やすことになった。Supranumeraryのシフトで通常より2人多く配置されていたので、幸い病棟業務に大きな支障はでなかったが、2年前の初めてのNHS勤務日(ITのせいで仕事にならず苦い思いをしたこと)を思い出して絶望的な気持ちになった。

    ITの問題がどれくらい大変かというと、現勤務先も(2年前の勤務先よりはマシだが)診療に使うアプリが複数あるタイプの典型的なNHS病院なので、バイタルサインの確認、書類閲覧、退院時レター作成、処方、患者リスト、検査オーダー、GP記録確認、救急外来記録、などあらゆることにいちいち個別のアプリとそれに付随するログイン・パスワードがある。前勤務先よりマシなのは、これらがパンダというまた別のアプリで接続されていて、一旦コンピュータにログインしてしまえば自動的にそれぞれを繋いでくれる点だ。

    パンダに言及すると絶望があまり伝わらないと思うので具体例を書くと、たとえば事前に送られてきたメールによると、一旦コンピュータにログインするアカウントを作ってしまうとPACSへのアクセスとログインはパンダ経由で自動で可能になるはずなのだが、実際はエラーが出て接続できなかった。ITに電話すると「それはITの問題ではないのでXXに電話しろ」と指示され、XXに電話すると「それはITの問題だ」と突き返される。なんとか人づてに担当者のメールアドレスを探しだしてメールをすると、自動返信で「メールでのPACS申請受付は終了したのでこのページのフォームから申請せよ」とリンクが送られてくるのだが、リンクはエラーで繋がらない仕様になっている。どうしようもなくてまたITに電話をすると、今度は別のスタッフが「ITオンラインサービスデスクのフォームに入力してアクセス申請しろ」というので、ITのページを覗くと申請ページがあって、やっとこれでPACSにアクセスできる…と思いきや、今度はPDFがメールで送られてきて、「これに名前と立場と仕事内容を細かく記載してLine Managerのサインをもらってから送ってこい。Line Managerのサインは必須だ。」と言うではないか!これは病棟勤務初日のことなので、もちろん私はLine Managerが誰なのか知らない。なんなら1週間経った今ですら、Clinical/Educational Supervisorが誰になるのかまだ連絡を受けていない。腹立たしいので、起こったことすべてが事前メールの内容に反すること、それが仕事に大きく影響していることへの抗議をPACSチームに送ると、なぜか申請書を提出していないのにアクセスできるようになっていた。

    また、別のアプリのログインに困っていた際には、担当者が休暇中だったというのもあった。8月第2週なんてITのスタッフが最も必要とされている時期なのに…。ともあれ1週間以内に全てのIT関連の問題を片付けることができてホッとしている。

    IMT1

    当院のプログラムにはIMT1が全部で20人ほどいるようだ。当院のロータはIMTがburnoutしないように色々考慮して作られているそうで、「我々のヘルスロタ(勤務表のアプリ)はあなたたちをオーストラリアに行かせないためにある!」とinductionでえらい先生が豪語していた通り、ふつうに生活していてもポートフォリオの要件を満たせるよう色々と配慮されてあるし、結構すかすかなので趣味や勉強に使える時間がありそうだ。

    ポートフォリオはチェックリストを埋めていくのが結構大変そうで気が滅入るけれど1年後に後悔しないように定期的に記録していきたい。ちなみに1年目の終わりの時点で可能なのはOutcome1,2,5のみで、1年目の時点では「トレーニングが不十分。研修期間延長。」の選択肢が選ばれることはないようなので、少しだけ心に余裕がある。

    夜勤

    勤務1日目はinduction、2日目は病棟、そして3-5日目は関連病院での夜勤だった。遠方の関連病院へバスか電車で1時間かけて移動しなければならないし、夜勤は1回が12時間勤務なので、仕事と移動を除くと自由になる時間が10時間しかなかった。NHS勤務1年目の時は病院から徒歩10分のところに住んでいて、夜勤後すぐにテイクアウェイのイングリッシュブレックファストやチップスのような身体に悪いものを食べて寝るのが好きだったのだが、自由時間が10時間しかないと、そして勤務先が遠いと、移動だけで疲れてしまって一刻も早く寝ることがプライオリティになったので不健康な食べ物は食べないで済み、勤務先が遠いことにもこんなメリットがあるんだなと思った。

    夜勤先の病院は、イギリスでDistrict General Hospital (DGH)と呼ばれるいわゆる二次病院なのだが、雰囲気は1.5次病院という感じで、日本の田舎の病院にいるような錯覚を覚えとても懐かしい気持ちがした。こじんまりした病院なので私でも院内でほとんど道に迷わなかったし、病棟から呼ばれるのも一晩に5回ほど、本当の急変も1回だけだった。イギリスにもこんな病院があるんだなと知った。

    反移民の暴動に対するデモ

    Inductionと時を同じくして、イングランド全土で起こっていた反移民のプロテスト(という名の暴動)がブライトンで起こることになっていた。これはリバプール近くの町で子ども向けのダンスイベントに参加していた女の子3人が刺殺され、他にも複数の子どもが刺されて重傷を負った事件の容疑者に関するデマが発端となった暴動だ。事件直後に、「犯人は半年前にボートでやってきたムスリムの不法移民、警察の要注意監視リストに載っていた」とのデマがSNSで流れ、それを信じた人たちがモスクを襲撃したり、近隣の店に押し入って強盗を働いたりした。それがイングランド全土に飛び火して、複数都市でさらなるプロテスト(を口実とした暴動)が予定されていた。名目上は不法移民反対の立場だが、実際は移民らしい見た目の人が存在するのが許せないのがプロテスト参加者なので、急遽シフトに入ることになった出勤中のフィリピン人看護師(もちろん合法移民である)が石を投げられて負傷する事件もあった。

    このような情勢の中、病院からは、inductionが終わったら寄り道しないで一刻も早く帰宅せよ・ブライトン駅以外の駅を使用せよとのメールが来たし、ブライトン駅から海へ続く通りではレストランやパブが早めに店じまいして店の窓ガラスを厳重に囲っていた。

    ブライトンと雰囲気の似ているブリストルでもその数日前に激しい暴動があったばかりだったので、とても心配していたのだが、ブライトンでは反移民のプロテストを大幅に上回る数のカウンターデモ参加者がおり、何事もなく終わった。カウンターデモの様子をみて、いい街に引っ越してきたなあと涙が出るほど嬉しかった。

    ブライトンはLGBTQ+のアクティビズムで有名な都市なので、そもそもファシストや極右思想を持つ人がほとんどいないようだ。「ブライトンはそういう人たちを何十年もかけて追い出した」と表現している人がいた。LGBTQ+のアクティビズムに起因する他者への寛容さという土台がある上に、経済的にもうまくいっている裕福な地域で、市民の教育レベルもUKトップ10に入るのだそうで、その辺の事情もあってこれだけの人がカウンターデモに集まったのだろう。

    イギリスの移民事情については下のスレッドにまとめられているので興味のある人は読んでみると良いが、イギリスでは全体的には移民にポジティブな人が多いようだ。

    ブライトンは人がみんな気さくで、私が外国人であることなど誰も微塵も気にしていないようで、居心地が良い。引っ越してきて本当によかったと思う。徒歩圏内に海があるのも幸せに寄与していると思う。

  • ネパール出身の同期の身の上話がかなり衝撃的だったので、思わずブログに書かせてもらう許可をとった。

    彼女は現在GPになるためのトレーニングコースにいる。GP traineeは3年のトレーニングの一部を病院で過ごさなくてはならないため、それで1年間、私の勤める科で週に2回だけ一緒に働いていた。

    次のポジションと引っ越しの話をしていて、私が節約のために渋々シェアハウスに戻ることを告げると、彼女は「私は渡英以来ずっと家族と一緒に住んでるから幸い他人とシェアしたことはない」と言った。夫とこどもがいることは知っていたが、父と母も一緒に住んでいることは知らなかったので驚いていると、家族の歴史を教えてくれた。

    彼女の父はグルカ兵(Gurkha)だったらしい。ネパール出身の兵士たちをグルカと呼び、イギリスとは200年ほどの歴史があるらしい。日本語のウィキペディアには、特定の山岳民族からリクルートされると記載があるが、現在はネパール全土で見込みのある若者がリクルートされているそうだ。

    ウィキペディアの記事は英語の方が詳細かつ面白いのでぜひ全て読んでほしいのだが、元々ネパールはゴルカ王国という地域から広がってできた国なのだそうで、グルカはゴルカから来ているそう。グルカ兵は国境線をめぐる東インド会社とゴルカ王国との戦いに起用されて以来、勇敢で強いことで知られるようになったらしい。宗教色やカースト意識が薄く食事の制限もないことも兵士として重宝される一因だったようだ。インドの独立戦争でもイギリス側として戦い、その後も数々の紛争地域へイギリス軍の一部として派遣された歴史がある。ちなみにイギリス育ちの人なら誰でもグルカ兵の存在を知っているそうだ。

    彼女の父はグルカ兵としてイギリスの軍隊に属していたので、ネパールに住んでいても不在のことが多かったようだ。兵士をやめてからも、父と母で外国へ出稼ぎに行っていることが多く(日本にも来たことがあるそうだが何をしていたかは知らないそう、技能実習生のようなひどい扱いを受けなかったことを願う…)、祖父母に育てられたのだと言っていた。

    ネパールでは教育が社会的移動を可能にすることを強く信奉する人が多く、彼女の両親もその例外ではなかったため、小さな頃から都会の寮に入れられて、勉強漬けで育ったらしい。こういう寮のことをネパールでは「ホステル」と呼ぶらしい。全寮制寄宿学校みたいな感じだろうか。それで両親との愛着が薄いように感じているので、こどもを持った今、息子は絶対に寄宿学校には入れないと彼女は意気込んでいた。

    ネパールではとにかく仕事がないので、絶対に子どもを海外へ、と思っている親がたくさんおりそれが教育熱に寄与しているのだそう。日本だとまだ仕事で外国へ行くような人はマイノリティで、一部地域を除くと私の世代かその一つ上くらいが第一世代の移民であることが多いと思う、というと、日本は裕福な国だから外国に行く必要がないんだと思うと彼女は言っていた。そうかもしれない。

    グルカ兵はイギリスのIndefinite Leave to Remain(いわゆる永住権)を申請する権利があるそうで、それで両親は彼女がイギリスに仕事を得たタイミングで一緒にイギリスに来たのだそう。お父さんは今は市のごみ収集の仕事を、お母さんは介護士をしていて、夫、こども、そして夫のお母さんと6人で一緒に暮らしているらしい。ちなみに彼女の夫の父もグルカ兵だったそうで、ネパール系の人だ。ネパールでは核家族は稀で、複数世代が同居するのが一般的なので、今も両親や義理母と暮らしていて別にストレスは感じていないそう。

    グルカ兵の話をする時に「我々みたいな顔」と言っていた。彼女は東アジア系の雰囲気があるネパール人で、いつも存在に癒されていたのだが、彼女も私を同じ系統の顔だと思っていたことが判明して少し嬉しい。

    色々な人生があるなあと彼女や彼女の両親の身の上話に驚かされっぱなしだった。日本にももちろん色々な人生があるのだが、イギリスだと日本では聞いたことのない経験をしてきたようなひとがたくさんいて、世界は広いなあと思う。

  • 24ヶ月目 総括と緩和ケアの話

    今の仕事を始めてから12ヶ月、NHSに勤務し始めてから24ヶ月が経つのだと思うととても感慨深い。

    1年間腫瘍内科で働けてとても良かったと思う。ロンドンのZone1にある病院の救急科からもオファーをもらっていたので、バースに越してきた当初は、友達もいないのにこんなに遠くに引っ越すなんて間違いだったと後悔することもよくあったのだが、今はこの病院のこの仕事を選んで本当に良かったと思う。(ロンドンの病院に勤めていたらそれはそれでその選択肢で良かったと思っていた可能性があるので、結局は自分の選択を自分の中でどのように解釈するかが大事なのだろう。)

    私の夢や目標が最大限叶うよう支援してくれるスーパーバイザーのおかげで、CVにかけるaudits/QIPができた。MRCP Part1も合格したし、希望地でのIMTのポジションも得たし、初めての一人暮らしも経験して、去年の今頃にやりたいと思っていたことは全部達成できたと思う。病院が変わっても付き合い続けたい友達ができたことも思わぬ収穫となった。

    スーパーバイザーとの最後のミーティングでは、「あなたは同期よりも経験のあるIMTになるのだから、その直感や知識は軽視してはいけない。あなたが他のIMTやレジストラにない視点を持っている可能性は十分にあるのだから、少しでも誰かのコンサルテーションに何か足りないと思ったら、思ったことは全部口にしなさい。それは不遜でもなんでもなくて、付け足された人もありがたく思うはずだ。」と言ってくれて嬉しかった。なんとIMT最初の仕事も腫瘍内科なので、将来同僚となるIMTより一足先に蓄えた(なんなら腫瘍内科勤務開始直後のST3レジよりも豊富な!)1年分の知識を思う存分ひけらかしていきたい。

    腫瘍内科の上司は誰もがとてもsupportiveで親切で、同僚もいい人たちばかりで、本当に楽しい1年になった。バースは病院全体の雰囲気がとても良く、無礼な人や意地の悪い人に会うことはそうそうなくて、前の病院で失った人間への信頼を取り戻したように感じる。ちなみに患者さんも親切で礼儀正しい人ばかりで、最近ここに移ってきたレジ2人は別々のタイミングで「ここには優しい患者さんしかいない…」とびっくりしていたし、MESS(若手医師の医局をこう呼ぶ)で知り合ったGPST1は「ここの患者さんはみんな退院時に『ありがとう』って言ってくれる…」と感激していた。

    この1年の安定した生活やキャリアにおける地道な前進、それから緩和ケア医になりたいという気持ちがさらに強くなるような刺激をたくさん受けて、まだ死にたくないなあと思うようになった。実存的な理由で生きることと死ぬことについて強い関心を持って生きてきた私には、イギリスの緩和ケア医はぴったりの仕事だと思う。もう日本の同期はのんびりした人でもとっくに専門医になっている頃なので、まあずいぶんと寄り道をしたなあという感じがするけれど、やっとこれだと思える科が見つかって良かった。

    ちなみにイギリスには6600万人の人口に600人の緩和ケア医がいる。日本では1億2500万人に300人の緩和ケア医なので、イギリスにおける緩和ケアの存在感は日本とは比べ物にならない。イギリスには家庭医も日本とは比較にならないほどいて、それもまた終末期医療や患者さんのQOLを大事にする医療に貢献していると思う。さすがは10年前にあらゆる指標で世界一を記録した医療制度を持っていた国なだけあって、これだけ医療崩壊が進んでいても、緩和ケアにはその片鱗がうかがえるのも、魅力の一つだと思う。

    I worry, I wish, I hope

    この1年、QIPやシャドーイングで大変お世話になった医師の一人が緩和ケア科のDr Presswoodだ。Presswood先生はオーストラリアで集中治療をされているご友人のポッドキャストでイギリスの終末期医療について説明されているので、興味のある人はぜひ聞いてみてほしい:

    この中にも出てくるのだが、先生が手軽に使えるとして緩和ケアをローテしてきた若手医師におすすめしているのが、I worry, I wish, I hopeの3つの言い回しなのだそう。

    I worry what would happen if you were to become more unwell など、切り出しづらい話しの前に I worryから始めると、確かに会話が円滑になる。患者さんが事実がそうでなければ良かったのに、という話をしている時にはI wishが、不確実なことについて患者さんが気を揉んでいるような場合にはI hopeが、会話の潤滑油として機能する。

    これは緩和ケアの文脈に関係なくかなり使える表現なので、覚えておくといいと思う。

    Dr Kathryn Mannix

    著名な緩和ケア医、Kathryn Mannix先生が書いた本が2冊あって、いずれも緩和ケアに関わりたい医療者のバイブルのようになっている。With the End in Mind と Listen、いずれもイギリスにおける緩和ケア医の仕事について理解が深まる本なので興味のある人は手に取ってみてほしい。

    三次病院の緩和ケア科

    最近三次病院の緩和ケア科を見学した。

    イギリスの三次病院にはその地域の難病の人が集まる病棟があって、私が見学したところはCystic Fibrosis (CF)の人向けの病棟があった。CFが悪化すると、最終的には肺移植か死か、の2択で肺移植が起こるかどうかわからない中で患者さんは最悪の場合に備えて色々準備をするようだ。

    私がシャドーイングをした緩和ケア医は、これまで会ったことがないタイプの緩和ケア医だった。Acute Medicineとかにいそうなタイプで、私の3倍くらいの速さで話し、5倍くらいの速さで頭が働いている。なので、初めて先生のコンサルテーションスタイルを見た時には本当にびっくりした。ご高齢の患者さん相手にものすごい早口だから、ちょっと聞き取れなくて患者さんが聞き返すことが何度かあったくらいだったし、横で聞いているだけでも少しoverwhelmingに感じるくらいだった。

    でもCFの若い人と話していた時には、先生のスタイルと患者さんのそれがぴったり合致したように感じられた。できるだけたくさんの情報を詰め込むスタイルに、患者さんは満足げだった。私はどう転んでも先生のようにはなれないけれど、斬新なコンサルテーションを見学できて参考になった。

    緩和ケアの関与=死期が迫っているという認識で、「緩和ケア」”Palliative Care”に恐怖を抱いている人は日本にもイギリスにも結構いる。なので医師の中にはあの手この手で”Palliative Care”という言葉を出さない人がいる。見学中にレジがコンサルタントに相談していた人もこのタイプで、急性期治療系の医師が「吐き気のコントロールのプロ」とぼかして緩和ケア対診の承諾を得たものだから、実際に緩和ケアレジが「緩和ケア医だ」と言って登場すると、狼狽した様子だったそう。このレジは元GPで、トレーニングに乗らないでレジのポジションで働いている(GPが病院勤務をするときは大抵の場合レジのポジションで働いている)。彼の名札には名前の下に Cancer Enhanced Supportive Care と書いてあって、科名で患者さんに誤解を与えた経験がきっとたくさんあってその肩書きにしているんだろうなと思った。(でも私が緩和ケアレジになる時には伝統的な Higher Speciality Trainee Palliative Medicine とか Palliative Care Registrar とかがいいなあ)

    そのレジが、「いい感じで症状のコントロールとか全体的なマネジメントの話をしてたのに、血液内科医が現れて積極的治療の話をしてから会話のダイナミックがガラッと変わってしまって、そこから緩和の話に戻れなかった」と嘆いていて、それに対してコンサルタントが、ボディランゲージを使うといい、と説明していた。「今の血液内科医の話で、こっち(両手で右側に小さい丸を描く)の話は解決しましたね。でもこっち(両手で左側に大きい丸を描く)の話はまだ残ってるから、また話しましょうか。」というふうに緩和ケア医との会話が重要であることを示唆したり、両手を天秤のように動かして何かをすることの利点と欠点を説明したりすることが、コミュニケーションの一助となるらしい。確かにそんな気がするので、今後積極的に使っていこうと思った。

    これから

    3年のIMTの間に、あと2つ試験に合格して、Palliative Medicine ST4に向けてCVも磨かなくてはならない。でもやりたいことがはっきりしているのはとても幸せなことで、仕事はまた忙しくなるけれど新生活がとても楽しみだ。

  • 最近仕事で新しくNHSにやってくるIMGの家探しの手伝いをしたり、自分の家を探していたりするので、知っておくといいことをここに書いておく。これからイギリスで家探しをする人は参考にしてほしい。

    予算

    お金の話の記事も参照してほしい。

    給与は税金込みで算出されるので、病院から契約書をもらったら “£○○○ after tax UK ” で検索するといい。家賃は大体1/3くらいに抑えられると良いと思う(50:30:20 ルールを参照)。

    病院の宿舎

    新IMGに一番おすすめなのは、病院の宿舎である。しばしば低価格で提供されていて、Council Tax(独居だと£90-110/monthくらい)もUtility Bill (Water, Electricity, Gas, Wifi) も含んでいるので、自らそれぞれと契約を結ぶ必要がないのもいいところだ。契約先の病院が斡旋しているので、やり取りしている病院のスタッフに聞いてみると良い。

    病院によってはかなりさびれた施設を提供しているが、イギリスではひどい大家に注意しなくてはならないので生活に慣れるまでは病院の宿舎が色々な面で安心だと思う。

    不動産屋さん (Estate agents, Letting agents)

    病院の宿舎以外で家を探すなら、以下のウェブサイトが一般的だ。

    Nestoria と Gumtree は上の4つには劣るように思うので私は上4つしか使ったことがない。地域によって人気のウェブサイトに違いがあるので、とりあえず上の4つには全て登録して、メールで通知が来るようにしておくと良い。

    いいところが見つかったらすぐに業者に電話するべきだ。メールは読まれるまでに数日かかるので、業者があなたのメールのViewing依頼を読む頃には、Viewingの予定が全て埋まってしまっていて断られるという場合が多い。

    Open rentは仲介業者を介さないので、いい物件がマーケットより安く掲載されていることがある。大家と直接交渉することになるので、具体的に自分の状況を書くとviewingを調整するという返事がくる確率が高くなる。

    これらはハウスシェア・フラットシェアの情報が載っているサイト。たまに大家の家に併設された小さな小屋や、家の一角を賃貸用に改造した独居向けのフラットの情報が載っているので、他人との共同生活を検討していない場合でも一応登録しておくと良い。

    家探しで気にかけること

    1. 家賃:家賃だけなのか、Council TaxやUtility Bill (Water, Electricity, Gas, Wifi) も含むのかを確認する。一般的に、フラットを一人で借りる場合には全て別だが、他人とのシェアハウス・シェアフラットなら、全て含んでいることが多い。他人との共同生活だとストレスがある分£300-500(9/11/24追記:ボロ家やトイレ・お風呂シェアでもよければ£700-900)くらい生活費が浮くことが多い。
    2. 場所:病院や駅からどのくらい離れているのか、近くにバスの路線はあるか、治安は大丈夫か
    3. 広さ:一人暮らしならStudio(ワンルーム)や One bedroom (居間とベッドルームがある)で十分だと思う。
    4. 何階か:
      • イギリスでは、日本の1階は Ground Floor、日本の2階は First Floorと呼ばれる。
      • イギリスの共同住宅は基本的にリフトがないので、上の方の階だと荷物の搬送が大変で引越し代が少し高くなることがある。日当たりがいいので階段の昇降に問題がないなら上階にするといいと思う。
      • Ground Floorは道路から家の中が見えるという問題のほか、防犯上の観点から夏場でも窓を開けて寝られないなどの問題があると思うが、気にならないならいいと思う。ちなみにイギリスではエアコンは一般的でないので、猛暑の夜は扇風機をつけて窓を開けて寝る感じになると思う。Ground Floorは小さな裏庭がついていることが多いのも利点だ。
      • 半地下 (Lower Ground Floor) は暗くて寒くて湿気がすごい、洪水で浸水する、という話が多いので、少し値段が安いことが多いが要検討だと思う。半地下も小さな裏庭がついていることがある。
      • 9/11/24 追記:現在は半地下に住んでいるのだが、大きな庭に面した部屋なので、日当たりや湿気は特に問題ない。道路側の部屋は壁が腐ってしまった(!)とかで、仲良くしていた精神科医のハウスメイトが引っ越してしまった。半地下でも部屋の場所によって結構違いがありそうだ。
    5. 一人暮らしの場合の設備:私が気にしたのは…
      • 窓:日当たりは大丈夫か。イギリスの冬は暗いので窓が小さい暗い部屋にいると気持ちも沈んでしまう。
      • オーブン:基本的についているが、安いフラットだとないことがある。
      • 洗濯機:ないなら徒歩距離にコインランドリーがあるかどうか。狭いスタジオなら乾燥機付きのものだとさらに良いかもしれない。
      • シャワー:温度調節が簡単なタイプかどうか;古いとお湯と水の蛇口で温度調節が必要
      • 浴槽:あると良いがない家ではビニールの簡易浴槽を使ってお風呂に浸かっていた。
      • 床:フローリングかカーペットか。カーペットだと上下階の生活音が静かだとか温かいというメリットがあるが、古い家だと汚かったり変なにおいがついていたりする。
      • かび:イギリスではかびの生えた部屋も普通にあるので、気をつけたい。結構湿っぽい部屋だと、健康のために除湿機を24時間稼働させるのがいいかもしれない。
    6. シェアハウスの場合の設備:私が気にしたのは…
      • 何人とシェアするのか:6人で1つのキッチンやトイレ・お風呂をシェアする場合はタイミングにかなり気を遣うと思う。
      • 冷蔵庫の大きさ:冷蔵庫が大きくても一人1段だとすぐにいっぱいになってしまう。4人暮らしなら大きい冷蔵庫が2つはあると良い。
      • 清掃業者の有無:1ー2週間に1回清掃業者の出入りがあるようなところがいいと思う。私が住んでいた病院の宿舎では、救急医と医学生が掃除をしなかったので私とインド人ナースがキッチンの掃除係・ごみ出し係になってしまっていた。
    7. 契約の長さ:最低3ヶ月からというところが多く、一般的には最低6ヶ月か1年の契約が求められると思う。その期間は引越しに違約金が生じるので注意。
    8. EPC:どのくらいエコロジカルなフラットなのかの目安だが、あまり参考にならないと聞く。double-glazing (二重窓)とか、比較的新しいフラットとかだと、少量のエネルギーで温かい部屋が楽しめるが、古い家だと部屋を暖かくするのに大量の電力が必要になる。Grade II listed の家なんかは要注意で、私がいま住んでいるところは隙間風がひどくて、風の強い日だと窓を閉めていてもカーテンが揺れるくらいなので、部屋を暖かくするのに大変なお金がかかる(なので冬は「着る毛布」を着て湯たんぽを抱いて生活していた)。
    9. Guarantorが必要かどうか:Guarantorとは連帯保証人のことで、イギリスに持ち家のある人でなければならない。Guarantorを必要とする物件の場合には、自分でGuarantorを用意するか(家賃の10%を手数料としてGuarantorになる会社を使う選択肢もある)、12ヶ月分の家賃を一括で支払う必要があるので、できれば避けたい。
    10. 大家が同居しているかどうか:live-in landlordだと、その人の家に仮住まいしていることになるので、関係性が対等でなく色々と気を遣うと聞いた(お皿の収納の位置とか、暖房の強さとか、シャワーやキッチンを使う時間帯とか、どれだけ理不尽な要求でも相手の家に住んでいる限り従う必要がある)。Spareroomだと、I’m looking for a lodger, not a housemate. とか書いている人はすでにそのパワーバランスを示唆してきているのでやめた方がいいかもしれない。あとSpareroomには、ハウスメイトを探しているというよりも恋人を探しているのかと思うようなメッセージ(「僕たちはここで一緒にご飯を食べます」「僕たちはここで一緒にコーヒーを飲みます」など、生活の一部を一緒に過ごすことを強調)で部屋の写真(あからさまに女性をターゲットにしている可愛い部屋)を投稿している人や、おかしな要求をする人(「安全上の理由から部屋のドアを閉めることはこの家では許されません」)がいるので、そういうのもやめた方がいいだろう。

    興味のある物件が見つかったら

    How to rent: the checklist for renting in Englandはすぐ読めるので一読しておいた方が良い。イギリスにはとんでもない大家がいて、制度に不慣れな外国人や学生と見るや搾取してくることがある。

    いつかの記事にも書いたが、何かおかしいことがあったらCitizens Adviceに相談すると良い。Citizens AdviceのStarting to rent from a private landlordも一読しておくと良いだろう。

  • イギリスでの専門医トレーニング期間

    時々質問されるので一覧表を作った。内科、マイナー科の一部を作ったところで疲れてしまったのでここでやめるが、この図で雰囲気は伝わると思う。

    CT=Core Training. 内科もかつてはIMTではなくCTだったのだが、カリキュラムが新しくなってIMTとなった。外科やマイナー科の一部では今も各科の基礎を築く期間をCTと呼んでいるようだ。

    ST=Speciality Training (ST4以降は Higher Speciality Trainingと呼ばれる)

    オレンジの科は最初のトレーニング開始前の選抜にMSRAという試験が必要な科で、入ってしまうとその後専門医になるまでずっと同じ科で働くことができる。科目によってMSRAの重要度は違っており、例えばGPではMSRAの点数が100%選抜に関与する一方で、産婦人科ではMSRAの点数は全体の1/3を占め2/3はインタビューの出来による。

    青は内科で、内科一般をローテーションするIMT1-3年の期間を経て、専門科研修に進める。専攻したい科目によって、IMTが2年(Group 2 Speciality)なのか3年(Group 1 Speciality)なのかが決まっているので、詳しくはこちらを参照してほしい。

    伝統的な名前(SHO、Specialist Registrar)がどのポジションに対応するのかを緑の枠で示した。

    枠の隙間は、試験や面接の存在を意味する。例えば内科だと、STに進む前に(つまりIMTの期間中に)MRCP1,2,PACESに合格した上で、STのための面接を受けなくてはならない。

    英国医学部卒の医師がnon-training job (/Clinical Fellow/ Trust-Grade Doctor/ Teaching Fellow/Locally Employed Doctor などの名称で募集がある)を選ぶのも、枠の隙間のタイミングだ。彼らがトレーニングを一時的に抜ける理由は以前書いたのでこちらの記事を参照してほしい。

    各科の倍率はここで見ることができる。どの科目も10年前と比べて軒並み倍率が上がっているのに、緩和ケア科は下がっている。元々緩和ケア科は、Higher Speciality Trainingに入ると内科レジ業をしなくても良かったのだが、2年前にカリキュラムが変わって以降はレジ業必須となったため、応募者が大幅に減ったようだ。ちなみに内科レジは院内で最悪の仕事と言われていて、IMT2年の科は専攻科のレジとしては働くが内科レジとしては働かないので、どうしても内科レジになりたくない人はGroup 2 Speciality (IMTが2年)の科に進むかその他GPやマイナー科に進んでいると思われる。

    ちなみに外科は以下のようなトレーニング制度らしい。

    General Surgery Curriculum; ISCP)

    専攻科を選ぶ時はトレーニングの長さや倍率(高ければ高いほどCVを磨く必要がある)も少し考慮するといいと思う。