去年私がIMTに応募した前後でも何度かこの話題に触れた。トレーニングプログラム採用の難易度が今年は過去最悪と言われた去年よりさらに上がっており、イギリスの医学部出身の医師でも業績がないとトレーニングプログラムに乗れないどころか仕事もない可能性がある、と懸念されている。
Eligibility for IMT
改めてIMTの応募要項を確認しておくと、
- foundation competences:CREST formへのサイン。CRESTにサインできるのはGMCに登録されているコンサルタントか、それと同様の立場にある医師。
- experience:最低2年の臨床経験(GMC登録後最低1年の臨床経験を含む)。
- UK eligibility:2019年10月以降、医業は Shortage Occupation List in the UK に載っているので、全ての医師は Resident Labour Market Test (RLMT) を免除されている。
- English language skills: GMC登録を通じて確認される。IELTS academic overall 7.5 or OET B)
- GMC status:GMC登録済。
なので、海外からでも要件を満たせば直接応募することができる。日本から直接応募することの難点は、(1)のCREST formにサインしてくれる指導医を探すこと(多分医籍登録の英訳コピーなどその指導医の資格を証明するものが必要になる)、そして書類選考を通った後の面接だろう。
これまで
準備が大変な上に、制度に乗ってからも苦労が多く規定時間内にトレーニングを終えられないことがあるため、少なくとも私がNHS Englandで働き始めた3年前の時点までは、まずはnon-training jobを見つけて、そこで6-12ヶ月ほどNHSの制度を学んでからIMTやそれと同等のトレーニングに応募することがIMGの間で推奨されていた。
過去の記事に書いた通り、少なくとも3年前の時点では、少し時間をかけて対策を練ればIMGがnon-training postを見つけるのは難しくなかった。
現在
1 IMTの難化:足切りの上昇
面接の足切りを決める書類選考にはApplication self-assessmentという評価シートが用いられる。今年はAdditional AchievementsとLeadership and managementの項目が削られたので、「QIPをやれば4点なのにオリンピック選手になっても0点」というような冗談を時々目にする。

足切りの決定は現在進行形で行われているので、具体的な数字が公式に発表されたら記事をアップデートするつもりだが、今のところは15点らしいという噂がある。
例えばF1の1年とF2の4ヶ月(応募は毎年11月)でそこそこ頑張って達成可能な項目としては、
- 2 cycles of QI (4 points)
- 3 months of teaching experience (5 points)
- Teach the Teacher Course (1 point)
- Local Presentation/Poster (2 points)
で、たったの12点しかない。もう少し頑張ってMRCPを受けると、
- MRCP Part 2 Written合格・PACES未 (2 points)
- MRCP PACES合格・ Written 未 (6 points)
- MRCP Part 2 Written + PACES 合格 (8 points)
と試験の進行具合によって点数が加算されるので、応募者はPACESまでで頑張るか、あとは論文を発表する・修士課程を修了することでしかトレーニングに乗ることができない。
この辺の理由で、新しい点数マトリックスでは論文発表経験があったり一時臨床を離れて博士課程に在籍していたりする医師の方が有利となっている。「ふつうの」若手医師が研修に乗れないでキャリアが積めないというのは一大スキャンダルだと思うのだが、まだ若手医師や教育に関心のあるコンサルタントの間でしかこの問題は語られていないように思う。
2 医師の絶対数の増加:non-training postがない
研修に乗れないで溢れてしまった医師の受け皿となっているnon-training postだが、これを見つけるのも昨今の医師の絶対数増加によりなかなか厳しい状況となっている。
医師の絶対数増加の背景には、医学部の拡大と、IMGの急激な増加が、そしてポストの競争率上昇の背景には、医師の絶対数増加及びACP (Advanced Care Practitioner)など「医師と同等の立場で」働く非医師スタッフの増加がある。この辺は以前の記事でも触れた。

Medical Workforce Report 2024 によると、GMC登録したIMGは、UKの医学部出身者の年間GMC登録数を去年から上回っているようだ。2023年は登録者のなんと68%がIMGだったらしい。
英国インド出身医師の会(BAPIO)はPLABに合格したIMGの数とNHSの求人数との乖離について懸念する記事を出した。
In 2023, 9,884 doctors passed the PLAB 2 exam, an increase of approximately 70% compared to 2019, while the pass rate decreased by 4% to 63%. Despite the increasing number of doctors completing their PLAB exams, there are limited number of jobs currently available for doctors in the UK, with the scarcity of suitable jobs being more marked for IMGs. Bearing this in mind, BAPIO would like to advise any IMGs contemplating moving to the UK to fully research the UK job market and have a realistic understanding of the likelihood of finding a job in the UK prior to committing their finances and time towards the PLAB exam.
初期研修2年終了後は、1-2年オーストラリアで働いたり、世界中を旅行したり、バイト医として普段の2倍の給与で気ままな生活をしたりするのがイングランドでは人気なので、F2後にすぐにトレーニングに乗りたい人は多数派ではないのかもしれないが、ここ2-3年の医師の労働マーケットにおける急激な変化で、将来の不安から「気ままなF3」の選択肢を選べる人が減っているようだ。
医師の就職難なんて聞いたことがなかったが(少なくとも日本出身の医師には無縁の概念だろう)イギリスではそれが結構現実的なものとして存在している。将来安泰だと言われがちな医学部を卒業しても2年後にトレーニングにも乗れずnon-training jobにも就けず路頭に迷う可能性のあるイギリス医学部卒業生は不憫だと思う。
3 anti-IMG sentiment
上記の理由によりIMGを敵対視する声がネットでは高まっていて、私がNHSの仕事を始めた3年前とはがらっとインターネットの様相が変わっている。これからやってくるIMGを制限すべきだという意見には、「でもそれでは既にいるIMGが追い出せない」と既に国内にいるIMGも追い出したそうな人の意見が続く。ちょっとこわい。
IMGの規制の方向としては、
- トレーニングのEligibilityにそれに見合ったNHS勤務年数を義務付ける(例:IMTなら2年、ST4なら3年など)
- RLMTの再導入、またはそれに類する、ILRや出身医学部による選別(例:応募の1st roundでは英国医学部出身者>英国ILR保持者>その他IMGの順で応募をかけ、IMGは最終的に空きのあるポストにのみ応募可)
- application self-assessmentに、英国医学部出身者にだけデフォルトで5-10点くらい点数を付与する
- CREST formへのサインは英国内で現在進行形で働いているコンサルタントしかできないようにする
- 精神科やGPなど現在IMGが渡英に「利用」しがちなトレーニング科でインタビューを再導入する。IMGの中には、non-training jobが得られないので、興味はないものの試験だけでトレーニングに乗れる精神科やGPのコースを利用してビザを取得して渡英し、1-2年ほど働いたのちに本命の科に切り替える、という人が結構いるようで、それが倍率の上昇に寄与しているとして大変な批判を浴びている。
があるようだが、どれも差別に厳しいイギリスでは実現が難しいようだ(5つ目は人手が足りず不可)。以前書いたように、イギリスは英語圏で唯一、外国医学部出身者を本国医学部出身者と同じように扱う国である。他の国にできるのだからイギリスでできないことはないだろうと思ってしまうが、法律との兼ね合いでどうにも難しいらしい。
英国医学部出身者によるアンチIMGロビー活動をしよう、という意見も散見されるが、これも既存の労働組合にはいろんな理由でできないようだ。BMAなんて積極的にIMGをリクルートしていたし。ストライキで医師の給与が上がっても、仕事がなければ何にもならない、として、次のストには参加しない・BMAは脱退した、とまでいうFoundation Yearの医師も見かけた。
なので、増え続けるIMGは問題視されている一方で、制度としてはIMGにオープンな状態がこのまましばらく続くと思われる。
これらを踏まえて日本の医学部出身医師におすすめすること
基本的にTraining positionでもNon-training positionでも点数が得られる項目(書類選考を通過するために必要)は同じなので、上記を踏まえてのアドバイスは以下の通りである。既にイギリスで働きたい科が決まっている人はその科の募集要項やself-assessment formにも目を通しておくと良い。
- Presentation/Posters: 日本の国内学会または国際学会で第一または第二演者として口頭発表すること(IMTなら6点)。ポスター発表なら4点、地方学会なら2点もらえる。(この中で一番高い点数がPresentation/Postersに対する得点となる。)
- Publication:pub-med cited research publicationでfirst authorだとIMTなら8点、joint / co-authorだとIMTなら6点、など高得点が得られるのでできればあると良い。
- Teaching:3ヶ月にわたるティーチングを組織するのは日本語でなら英語でより簡単だと思うので、日本にいるうちに、自分より若い医師や医学生向けに3ヶ月のティーチングの予定を組むと良い。フォーマルなフィードバックが必要なので、JRCPTBにあるフィードバックフォームを参考に、適切な型のフィードバックをもらっておく必要がある。
- QIP:これは英国で研修を受けた人はデフォルトで点をとるところだし、Presentation/Posters/Publicationほど大変でもないので、やっておくと良い。やり方は検索すれば親切なガイドがいくらでも見つかる。
日本で専門医をとってからイギリスに来る方が、イギリスで研修をするよりおすすめの時代が来たかもしれない。内科系専門医はイギリスなら初期研修後5年はかかるところが日本だと3年で済むので、日本の資格を持ってからコンサルタント同等として渡英して、SASまたはシニアクリニカルフェローとして働くのが手っ取り早いし競争も少ないだろう。コンサルタントになりたいならCESRルートを取ると良い(ただ監督を受けるコンサルタントによっては茨の道になるようなので興味がある人は自分で調べて欲しい)。この路線の欠点としては、イギリスでのジュニア生活を経験していないので制度に疎い・制度がよくわからないまま多大な責任を負ってしまうところにあると思うが、この辺は病院と交渉して勤務開始日の2-3週間前から本気でシャドーイングする等で頑張ってカバーするしかない。
おまけ
*Leave as quickly as you can
**If you can’t leave, look for any escape routes – it’s difficult with family and school going children, hence make the move early
***The NHS has already sunk. Don’t bother or believe anyone can save it. Take private healthcare cover.
****And most importantly, look after yourself. Find an alternate way to make money. This system won’t look after you.
TDLR – GET THE FUCK OUT OF HERE BEFORE IT IS TOO LATE
Advice to resident doctors from a consultant
My experience of IM residency in the USA:アメリカに渡って、死ぬほど忙しくワークライフバランスどころかワークしかないが、総合的に見てアメリカに行って良かったよというイギリス出身医師の話。以前に別の記事で、アメリカに行って後悔したイギリス出身医師の話をシェアしたが、向き不向きはやっぱり仕事に何を求めるかとかアメリカ国内の地理的なものも関係するんだろう。
Why does everyone assume IMGs would be against changes to the recruitment process? :これはIMGの多くが同意するところだと思う。IMGのせいで!と言われるが、個々人としてはそれぞれの人生と理由があって、利用できる制度を利用してイギリスに来ているわけで、利用できるから利用しているけれど制度には変更が必要だと思っている人が個人的に話した人でもオンラインで見かける意見でも多い印象がある。














