• Med regとしての初夜勤を終えた。忘れないうちに日記に残しておきたい。

    • チームがパニックになって上げてくる内容がどれも私が対応できる事柄だったので自己効力感が上がった。
    • 最も達成感があったのは、当日朝に二次性緊張性気胸で入院になった患者さんの酸素化低下の症例だ。この話を聞いたときに「げっ…絶対モタモタできない急変だ………私には対応無理かも…」と思いつつ救急科のCubicleからResusに移動になった患者さんをみるや否や、「まずはUpright positionにするからみんな手伝って」「ドレーン位置のずれかre-expansion pulmonary oedemaと思うからレントゲン呼んで」「ドレーン内に血が溜まってる、フラッシュ持ってきて」とぽんぽんとアイディアが浮かんできて、フラッシュするや否や急に酸素化の数値がよくなった。私に状況をエスカレートしてきた1年生と2年生が尊敬の目で見てくれて大変気分が良かった。
    • 勤務交代から最初の3時間くらいは、常にリファラルやアドバイスを求める電話とブリープで仕事を中断され続けるので、1人の患者さんのsenior reviewを書き始めてから終わらせるのに2時間くらいかかることもあってストレスだった。
    • Senior review自体は結構楽しい。仲良しのIMT3が「信用できるアセスメントとできないアセスメントはすぐにわかる」と言っていて、それはあなたにそういう能力があるからでしょう…と思っていたのだが、本当にすぐにわかる。IMT1-2のカルテは大体信用できるのだが、F 1-F2や救急科ジュニアのアセスメントは正しい診断や治療ではなく内科にリファラルすることが目的になっているカルテもあって、フラストレーションが溜まった。どうせレジがレビューするから適当でいいや、と考えている人が結構いそうだ。
    • 初診から当院専門科リファラルまで全て救急科ACP(看護師)が担当した患者さんが夜勤帯に当院到着したので私がSenior reviewをしたのだが、病歴から疑い診断から何から何まで間違っていて、医師が見ていたらこの人は当院に搬送されなくて済んだのに、医師が見ていたら私のこの時間を別のことに使えたのに…と残念に思った。
    • Referral Pathwayにはまだ馴染みがないのでそれが今後の課題だと思った。例えば、日中のレジ(本来はSenior regとIMT3の二名体制のところ、Senior regが病欠でIMT3のみで回していた)が血液内科外来からアクセプトした腹部蜂窩織炎の患者さんが夜勤帯に入院となったのだが、腹部蜂窩織炎は当院では全例有無を言わさず外科入院なので、「日中のレジが間違えてアクセプトしたけどパスウェイを見ると腹部蜂窩織炎は全例外科なのでよろしく」という作業があった。ちなみに下腿蜂窩織炎は内科、上肢蜂窩織炎は形成外科での入院ということになっている。こういう細かな棲み分けに気をつけないと、朝のカンファレンスでコンサルタントに火炙りにされるので注意が必要だ。
    • お看取りも何件か経験した。7月までは、この人は今 actively dyingだ、と思っても、Med regの承認を待ってから看取りに移行していたのだが、今年からは私がMed regなので誰かの承認を待つ必要がない。初めの1件だけはチームのSenior regに相談したが、その人以降は自分の判断でsupportive careに移行した。死が近づいている人や家族とのコミュニケーションや症状緩和など自分の強みを活かせて嬉しい。
  • 仲の良い友人が、医師向けのカウンセリングをしています。

    私自身、この10年ほど、国境を越えたキャリア形成や、それに伴うアイデンティティの変化について悩むことが多く、彼女には何度も相談してきました。

    いつも話を丁寧に聞きながら、状況を客観的に整理してくれて、必要なときには的確なアドバイスもくれる。私にとって、とても信頼している医師の一人です。

    たとえば、

    「今後の進路、どうしよう」

    「仕事はできているけれど、なんとなくしんどい」

    「医局や上司にはちょっと相談しづらい」

    「医師として、このままでいいのかな?」

    そんなモヤモヤを抱えている方には、一度こうした第三者に話してみるのもいいと思います。

    私のブログを読んでくださっている方は、イギリスでの臨床に興味がある方や、将来的に海外に拠点を移したいと考えている方も多いと思います。

    海外に出ることは、もちろん大きな環境の変化になります。日本の労働環境そのものに不満があるのであれば、より自分に合った環境を求めて、イギリスやオーストラリアなどに拠点を移すのも一つの選択肢です。

    一方で、「環境を変えればすべて解決する」とは限りません。

    自分が何にモヤモヤしているのか、何を大切にして生きたいのか、どんな働き方をしたいのか。そこを整理しないまま環境だけを変えると、新しい場所でも似たような悩みに直面することがあります。

    だからこそ、海外に出る・出ないにかかわらず、まず自分自身の価値観や人生の指針を整理しておくことは、とても大切だと思っています。

    「別に病気というわけではないけれど、なんとなく行き詰まっている」
    「誰かに相談したいけれど、身近な人には話しにくい」

    そんなときに、利害関係のない第三者と話してみるのは、思っている以上に役に立つかもしれません。

    興味のある方はこちらからどうぞ。

  • ブライトンは4月頃からずっと、気持ちの良い天気が続いている。海辺のサイクルロードを通ると、ただの通勤も少し気持ちが明るくなる。仕事帰りや休日には浜辺でピクニックや読書や日光浴をして、ブライトンで過ごす時間を存分に楽しんでいる。

    ローテーション

    私は今期は2科が合併したローテーションにいるので、呼吸器内科と感染症内科を2ヶ月ずつ回っている。慣れたと思ったらあっという間に次の科に移るので忙しい。

    呼吸器内科は結構楽しかった。強く心に残る終末期の患者さんも担当させてもらった。IMT3でも呼吸器内科を第一希望にすればよかったなと少し後悔している。

    感染症内科では、感染性心内膜炎や椎体炎のようなコモンな感染症とともに、マラリアや結核など日本では珍しい感染症もよく診る。イングランドの都市部は国際的な人の往来が多いので、こういう感染症が意外と多い。教科書でしか見たことのない珍しい感染症もどんどん検査する。肉を食べるF2は「感染症内科をローテーションしたせいで暑い地域にある発展途上国で豚肉が食べられなくなった」といっていたし、私も入院を要するほど副作用や合併症でこじれた結核のケースや渡航歴多数の不明熱のケースを診て、旅行の意欲が低下した(まあ猫を飼い始めてからはあまり旅行に行かなくなったが)。

    私は感染症にまったく興味がないので次の科に移動するのが待ちきれないのだが、オフィスにコーヒーとプリンターとウォータークーラーがある労働環境には感謝している。

    病棟はID (Infectious Diseases) とGUM (Genitourinary Medicine) で共有しているのだが、イギリスではIDとGUMは別の科なので、GUM入院しているHIVや神経梅毒の患者さんの治療とは直接の関わりはなかった。

    MET call

    来月からレジストラになるので、先週の夜勤中はMET callを指揮した。勤務開始時のHuddleで「サポーティブな環境でMET callを指揮したい」と宣言していたためか皆非常にサポーティブで、MET callのリードは思ったより楽しかった。思いついたことを口にすると他の人が実行に移してくれるので、雑用は他人に任せて大事なことだけに集中できるのが良かった。

    Pimm’s

    イングランドの夏はピムズに尽きる。この夏は、呼吸器内科の会、感染症内科の会、それからIMT2でトレーニングを終えてHSTに進む同僚たちとのピクニックに友人宅でのガーデンパーティーなど結構お酒を飲む機会が多くて、私は毎回ピムズを選んでいた。ジンベースのお酒をレモネードで割ったカクテルで、そこにいちごやミントやきゅうりなど季節の果物やハーブを入れて飲む。ブライトンの夏はとりわけ、ピムズが似合うなあと思う。

    ブロンプトン

    1年ほど悩んでいたのだが、とうとうブロンプトンを買ってしまった。Cycle to work schemeでほぼ半額とはいえ高い買い物なので、8月からの他院への通勤に必要だから…という言い訳で自分を誤魔化して購入に踏み切った。どうせ買うならと、値段が中くらいのp line 4 speedにした。c lineより数キログラム軽い。

    買ってみて思ったのは、「もっと早く買えばよかった!」ということ。

    小型タイヤとは思えないほど速く走る。イングランドだと大抵の場所へは持ち込めるので、駐輪の手間がない上に盗難の心配もない。これまで、カフェ、レストラン、小売店、スーパー、病院、ショッピングモール、眼科、船、電車、バス…に持ち込んだが、特に咎められることはなかった。私にとってのブロンプトンは、足が悪い人のモビリティスクーターのような立ち位置で、あると出来ることが格段に増えると感じる。

    電車では荷棚にもテーブルの下にも、また座席と座席の隙間にも収まるので、自転車ラックが空いていない時でも自転車保持のために立ちっぱなしでいる必要がない。さらには、これまで通勤時は、自宅から駅(徒歩20分・自転車7分)、駅から駅(15分)、駅から職場(バスで15分だが待ち時間が結構ある・徒歩30分・自転車10分)で合計1時間から長い時には1.5時間ほどの時間を移動に費やしていたのだが、ブロンプトンのおかげで最短40分で関連病院と自宅を往来できるようになった。これは駐車時間も考慮すると車を持つ同僚たちより早いくらいだ。

    もっと早く買えばよかった!と思う一方で、このタイミングまで待ったからこそ大幅なアップグレード品・好きな色を買えたので、まあ今で良かったなとも思う。大切に使いたい。

    扇風機

    扇風機をとうとう買った。例年は買おうか買うまいか迷っているうちに数日で酷暑が落ち着くので、結局購入まで至らなかったのだが、今年はいよいよ暑さが大変なので100ポンドの少し良い扇風機を買った。これがあると意外と便利で、思った以上に使っている。猫も意外と扇風機は大丈夫なようで、胸毛をひらひらさせながら扇風機の前でくつろいでいる。ブロンプトンと同じで、一旦手に入れるともう手放せない。こうして荷物が増えていくんだと思った。

    PACES

    PACESはあいにく落ちてしまったので、次のダイエットで再試験だ。Overallは合格点だったのに、2ドメインで1点ずつ足りなかった。試験にはうんざりだが、これを乗り越えなければIMTは終了できないので何とか終わらせたい。(私の1つ上のレジは、各試験を複数回受けていて、PACESに至っては6回受けたので実はIMT3を3年やっているそう。前回のダイエットで無事PASSしてIMTを終了できることになったようだ。私もその二の舞にならぬよう頑張ろう…)

  • Med reg ready courseという名前のSIM講習を受講した。これはその名の通り、SHOがRegistrarになる前に受講することを推奨されている勉強会だ。このところ、夜勤やon-callのたびにacting up をしているので、ここまでで学んだことをここにまとめておく。

    1. You don’t have to be loud/dominating/someone else to be a med reg
    2. ABCDE approach
    3. 思考を言語化する
    4. タスクを割り振る
    5. 信用できるアセスメントと信用できないアセスメントの見極め
    6. 困ったら誰かを頼って良い

    Med Reg(Medical Registrar)はしばしば「院内で最悪の仕事」と形容される。医師5〜9年目頃(Group 1 Specialtyをストレートに進んだ場合)に相当する内科医であり、日中はコンサルタントの指導のもとで専門診療科の病棟管理や外来診療を行い、夜間は病院内のほぼすべての内科入院患者、そして時には急変した外科患者の診療責任を担う。

    夜間のMed Regの主な生息地は救急外来である。

    NHSでは、救急科は来院した患者を原則4時間以内に評価し、入院が必要な場合には暫定診断をつけて適切な診療科へ振り分けなければならない。その過程で内科へ紹介された患者を、F1、F2、IMT1、IMT2、あるいは同等のClinical Fellowがclerking1する。Med Regの仕事は、その評価にSenior Reviewを加えることだ。診断や治療方針を修正したり、追加検査を指示したり、ときには入院を取りやめて帰宅の判断もするする。

    もう一つの重要な役割が、MET Call(Medical Emergency Team Call)の指揮である。

    NHSの病院では、2222へ電話すると院内急変対応チームが招集される。当院では、Med Reg、内科オンコールのF1/SHO、Critical Care Outreach Team(CCOT)看護師、ITU SHOが呼び出されるが、病院によっては麻酔科医も参加する2

    MET Callの理由は、Reduced GCS, Tachycardia, NEWSing3 high, Agitated, Seizure など様々で、急変した患者を評価し、優先順位をつけ、チームを指揮するのがMed regの役目だ。

    You don’t have to be loud/dominating/someone else to be a med reg

    こう言われたのが講習での一番の収穫だったと思う。

    もちろんMed Regには静かな人もいて、私はそういうMed regと働くのが好きなのだが、社交的で声が大きい人やDominatingな人が目立つので、自分にもそんな振る舞いが求められているように感じる場面も時々あった。なので、この助言を忘れず、目標設定を間違えないようにしようと思う。

    ABCDE approach

    “Med reg jobs can be very protocoled, Follow the protocol first, then think beyond it.” 急変の基本であるABCDE approachを忘れなければ、どんな場面もとりあえず乗り切れるので、いつもここに立ち返ること。

    思考を言語化する

    MET callの間は、考えていることをそのまま口にすることで、チームに情報共有したり他のアイデアを募ったりできる。何が起こっているかわからない状況でも、とりあえず考えていることをそのまま口にしてみるのが大事だ。

    タスクを割り振る

    良いリーダーはスタッフの良いところを最大限に引き出すことができる。タスクの適切な割り振りはその一環で、誰が何に長けているのかを見極めてタスクをふる。

    仕事の多いMET call、例えばCardiac arrestの場合、タスク(時間管理、記録、気道確保、胸骨圧迫、など)をチーム内で割り振る人と、4Hs & 4Ts の原因検索をする人、で分けることもできる。

    特にMET callにおいては、自分がやるのが早い場合でも絶対に自分は手を動かしてはいけない。全体が見渡せる患者と向かい合うポジションに立って、パワーポーズで、あるいは手を組んで、常に指揮官としての立場を崩さないこと。

    信用できるアセスメントと信用できないアセスメントの見極め

    Med regは救急外来やGPや111など様々なソースからリファラルを受ける。その際に、信用できるアセスメントと信用できないアセスメントを見極めて、必要があればMed regがリファラルをブロックして他科への割り振りを勧める必要がある。「急性胆嚢炎は手術適応外でも腹部外科」「上肢の蜂窩織炎は形成外科(下肢の蜂窩織炎は内科)」「肋骨骨折があれば他に内科的疾患があっても整形外科」など、外科医が一旦断った症例でも院内ルールに従って内科入院を拒否すべきケースがあるので、リファラルのクライテリアを把握しておくことが重要だ。

    困ったら誰かを頼って良い

    自分がSHOの時には頼る相手がMed regなので、自分がMed regになると突然頼る相手がいなくなるかのように錯覚するが、実はMed regもコンサルタントを頼って良い。

    当院のセッティングだと、関連病院に1-2人はレジストラがいるので、コンサルタントに電話するか迷うならまずは同僚のレジストラに電話するという選択肢がある。それでも解決しない、もしくはより高度な判断が求められる場合には、夜中でもコンサルタントに電話して良い。それから救急科には夜間もコンサルタントがいることが多いので、手技などで困ったら救急科のコンサルタントに相談する選択肢もある。

    ⚫︎

    他にも何か学んだことがあれば随時追加したい。

    1. Clerkingとは、現病歴、既往歴、内服薬、アレルギー歴、社会歴、身体診察所見、検査結果、暫定診断および治療方針などをまとめる初期評価のことである。 ↩︎
    2. 当院でより大規模なチームを招集したい場合には、MET CallではなくCardiac Arrest CallやAnaesthetic Emergencyを要請する。その他にも救急外来に外科医が集結するTrauma call、Cord red trauma call、Obstetric Emergency、Major Haemorrhage Callなどがある。 ↩︎
    3. NEWS (National Early Warning Score) はNHSで共通に使用されているバイタルサインの重症度の指標。 ↩︎

  • ついに、当院の救急外来でも電子カルテで処方ができるようになった(病棟ではもともと電子カルテ処方)。

    関連病院のDGH (district general hospital) では数か月前からすでに電子カルテ処方へ移行していたが、ほぼ三次医療を担っているにもかかわらず当院救外ではいまだに紙ドラッグチャート文化が残っていた。そのため、患者受け入れ時には、DGHの電子カルテで処方された内容を救急外来でわざわざ医師が紙ドラッグチャートに書き写し、さらにベッドに空きが出て病棟へ上がる際には、今度はそれを再び電子カルテへ入力し直すという、かなり非効率な作業が発生していた。診療とは直接関係のないところで時間と労力を取られ、地味に大きなストレスだった。

    紙から電子カルテへの移行は先週の月曜日。初日はかなり混乱していたらしい。

    「処方したいのに空いているパソコンがない」「パソコンに慣れていない医師が処方できない/看護師が投薬できない」が予想されていた問題だったのでそれを解決するために追加で20台(!)のラップトップと複数のITスタッフが配置されていたようで、実際に起きたのは、

    「パソコンはあるけれど、台数が多すぎてWi-Fiにつながらない」

    だったそうだ。いかにもNHSらしくて笑ってしまった。

    それでも、1週間ほど経った今では大きな混乱もなく、かなり円滑に回り始めている。人間は意外とすぐ慣れる。

    おまけ

    入院時サマリーの一部、内服薬一覧の箇所に書かれた6つの薬剤。いくつ読めるか試してほしい。

    正解:

    1. Bumetanide 2 mg OM
    2. Spironolactone 25 mg OM
    3. Creon 25000
    4. Bisoprolol 1.25 mg
    5. Omeprazole 20 mg
    6. Dapagliflozin 10 mg

    私は手描き文字の判読は慣れたもので、もう困ることはあまりないが、これからNHSで働く人には難しいかもしれない。薬剤名を読むコツは、「最初のアルファベットと最後のアルファベットから薬剤名を推測する」「薬の容量から薬剤名を推測する」「既往歴から内服薬を推測する」「読める薬から併用している可能性の高い薬を推測する」こと。

    2は [S]と[tone]がかろうじて読めるのと他の薬剤との整合性から、Spironolactone?と思いながら読むと、 28mg… に見える数字が25mgだとわかる。

    3はGrennに見えるが、容量 25000 なので Creon に違いないとすぐにわかる。

    5は[M]から始まっているようにも見えるが、[zole]の語尾と 20mg で Omeprazole だとわかる。Metronidazoleと一瞬迷うが、20mgからOmeprazoleで決まりだ。

    6は D…g…zin と 10mg で Dapagliflozin だとわかる。Doxazosinと迷うところではあるが、10mgが決め手となる。

    これは薬剤の部分だが、紙カルテもコツは同じで、1年も働くとだんだんと文脈から出てくるキーワードが判読できるようになる。

  • こんなに放置気味のブログでも毎日誰かしら訪問者がいるのはありがたいことだ。12月にローテ先を移動したのに、その科で働いたのはこの2ヶ月で2週間ほどで、いつもオンコールか夜勤に駆り出されている。

    英医大卒業生優先採用法案

    日本語にするとなんだか仰々しいが、1月13日に the Medical Training (Prioritisation) Bill、いわゆる UK-grad prioritisation bill の議論が始まった。これは昨今のトレーニングポストの競争率増と若手医師の失職を受けて、その原因の一端を担うIMG (international medical graduate) がトレーニングポストに就くのを阻止するための法案だ。このへんのことは、以前にストライキの記事で詳述したので興味のある人はそちらを参照して欲しい。また具体的な適応対象などはこちらのBMAの記事がわかりやすい。

    この案が実は二転三転していて、なかなか先行き不透明だ。IMGの最大の心配事は、法案に登場する ‘significant NHS experience’ という表現が具体的に意味する内容である。BMAはこれを(ポストの性質に依らず)2年以上のNHS勤務歴とするよう政府に圧力をかけているが、政府はというと、現時点でトレーニングポストに就いている医師のみを対象としたいようだ。

    また今年の時点ではILR (indefinite leave to remain; 永住権のようなもの)がある者は優先採用の対象だとされているが、来年以降はILRは対象外になるという話もある。一刻も早く法案化しなければトレーニングに入れない英国大学卒の医師数が雪だるま式に増えるので、今年度(既に面接も終わっていて、1-2ヶ月以内にオファーが出る)はとりあえず、 ILRをsignificant NHS experienceの証拠として扱うが、実際のところILRはNHS勤務歴がなくとも取れるので(配偶者ビザなど)、Significant experience を明確に規定することで来年以降はILRを対象外としたいようだ。

    私には、現時点で非トレーニングポストに就いているILRまであと1-2年のIMGの友人が何人かいて、法案の先行きをとても心配している。法制化の話が出た当初は「既にUKにいるIMGはgrandfatheringする」「NHS2年以上の勤務歴で英大卒生とequal-footing」という噂が飛び交っていたのだが、実態は思ったよりも厳しそうだ。ILRが対象外ともなれば、たとえ英国人のパートナーと結婚して滞在権の問題が解決したとしても、今後友人たちがイギリスで臨床に携わるのは限りなく難しいだろう。もちろん英国人ではないパートナーのいる友人たちもいて、そうなるとUKに残ることすらできない。

    こういった、個人の力ではどうにもならない不測の事態で生活の基盤が崩れ去るのが外国に住むということだ、と言われるとそれまでだが、英国で生活を築こうと世界各地からやって来た友人たちの状況は憂慮に堪えない。そもそも政治不安で帰国できない人もIMGには多いのだが、そういう人はどうなるのだろうか。

    IMG(まだイギリスに来ていない人も含むようだが…)は現行案に猛反発していて、MP (議員) にロビーイングをしている。その影響か、はたまたBMAの意向が通ったのか、優先対象者を少し広げるという話もここ数日出てきた。生活がかかっているのでUKMGもIMGも皆、自分の主張を法案に反映させることに必死だ。

    日本の医学部卒業生への影響

    法案は間違いなく通るし、現在の焦点はSignificant NHS experienceをどのように定義するかなので、現在イギリスにいない日本の医学部卒業生がイギリスで働ける可能性は残念ながらほとんどなくなってしまった。トレーニングポストに就けないのはもちろん、そこから溢れたNHS経験のあるIMGたちと非トレーニングポストを奪い合うことになるので、仕事を得られる可能性は限りなく低い。また非トレーニングポストを運よく見つけても、永住権を得るまで苛烈な就活を4回繰り返さねばならず、一度でも失職すれば帰国せざるを得なくなるため、現在の若手医師以上に生活の見通しが立たないだろう。

    昨今の様子を見るに、日本から唯一可能性のあるルートは、日本で専門医をとって、SAS/コンサルタントとして渡英することだと思う。コンサルタントポストのrecruitment freezeもここ1年ほど話題になっていて、コンサルタント不足かつ働きたいコンサルタントがいるにも関わらず病院がコンサルタントを雇えない状況なのは留意されたいが、コンサルタント以下のポジションよりはまだ可能性があるだろう。

    このブログには、どうしてもイギリスに住みたい理由がなければイギリスへの臨床移住はそんなに勧めない、と何度も書いてきたが、とうとう「勧めない」から「できない」の段階に入ってしまい、非常に残念に思う。この頃はどこの国も排他的になっているが、アメリカは大統領が弾劾されたらビザが取りやすくなるかもしれないし、オーストラリアは変わらず臨床移住できるはずなので、いつかは英語圏で臨床を、と思っていた人たちはそちらの道も模索してみて欲しい。

    ストライキ NHS England と NHS Scotland

    BMAのNHS England支部では、2月に今期2度目の、ストライキの是非を問う投票があった。

    投票率は53%で、そのうち93%がストライキの意思を表明して、無事BMAによるストライキの権限が8月まで延長となった。50%以上の投票率でなければ、どれほどストを希望する声が大きくてもストはできないので、今回はかなりギリギリで危なかった。ギリギリだった理由は、ストの大義が複数あって、組合員の中でもどれをストの中心に据えるかで意見が割れたからだ。しかし8月までに労働組合とストライキに関する法律が改正されるらしく、今後は50%以下の投票率でもストに対する賛意が優勢なら労働組合はストライキの権限を1年間保持できるようになったので、今後は「ストができるかできないか」を心配する必要がなくなって一安心だ。ストに参加する・しないは個人の自由ではあるが、mandate for industrial actionがなければストライキを組織することが許されないので、選択肢があるのは良いことだと私は思う。

    一方で、 BMAのScotland支部はストライキを武器にScotland政府と交渉の末、無事合意に至り、スコットランドの医師(コンサルタント以下)は来年度から9.4%の賃上げが決まった。前回のストでもスコットランドのBMAはイングランドより有利な条件で政府とディールを結んでいたが、これはスコットランドの地域性なのかはたまた規模が小さいからことできることなのか、背景に少し興味がある。(※NHS ScotlandとNHS Englandは別の組織だ。)

  • NHS England主催のDeveloping English for Clinical Practiceというコースに先日参加した。このところ英語力が頭打ちだと感じており現状の打開策があればと思い参加したものの、目新しいことは特になかった。でも私がNHSで働いた3年半でなんとなく体得した英語が実はコミュニケーションを円滑にする上で大事な表現だと判明したので、ブログに記録しておきたい。

    Adjusting language to context

    言葉遣いは、Relationship, Level of imposition (high, medium, low), Sensitivity (personal, private), Level of urgency で決める。

    日本語と同じでイギリス英語では、直接的な物言いは避ける:

    Making polite requests:

    DirectPolite / softened
    1I have to examine you nowI’d like to examine you. Is that all right?
    2I will see you again in two weeks.I’d like to see you again in two weeks. How does that sound?
    3Breathe deeply, please.Could you just take some deep breaths for me?
    4Look at the light, please.Can I just ask you to look at the light for me, please?
    5I’m going to look at your mastectomy scar now.Would it be OK for me to have a quick look at your mastectomy scar?
    6The policy of the surgery is that you wear a maskI’m afraid I need to ask you to wear a mask.
    7Please wait outside while I speak to your mother.I wonder if I could ask you to wait outside while I speak to your mother?
    8You need to sign the formIf you’re OK with that, can I just ask you to sign the form.
    9Lift up your shirtIf you could just lift up your shirt a moment.
    • ‘would’ ‘could’ ‘might’
    • Minimisers
      • Can I have a quick look? → quick が minimiser として働いており、会話を和らげる効果がある
      • Can I just take your name please?
      • その他の例:for me, a moment, a bit
      • Pop (イギリス英語では pop を非常によく使う)
    • 医療英語と日常英語との違い
      • Positive – “The test is positive” と言われると患者さんは「癌じゃなかった」など好意的に解釈してしまうことがある。
      • Pee/Poo – faecesやurineの代わりに使うdown-to-earth language. NHSのサイトでも数年前の大幅な改訂以降 pee/poo と平易な単語を用いることが多いが、10人に1人の割合でこれを侮辱的だ(patronising, simplistic, vulgar)と感じる人がいるそうで、その辺は使い分けが大事だ。余談だが一緒に講習を受けていたウクライナ人医師曰く、ウクライナでは医師は患者さんの理解できない難解な単語を使うことが推奨されており、さもなくば医師としての資質や知性を疑われてしまうらしい。患者さんもそれを求めているというのだから、文化の違いは面白いなと思う。
      • Low health literacy を甘く見てはいけない。食事としてのdiet を、”on a diet”のいわゆる日本語のダイエットと同じ意味でしか理解しない人たちがいたり、fibre(食物繊維)が何を意味するのか知らない人たちがいたりする。
      • Chronic – 医療英語では「慢性的な」だが、日常英語では “very bad” の類語として用いられることがある。
      • Treat it locally – 三次医療機関まで行かないでここで治療しますよ、くらいの意味なのに、”Treat it locally – at my GP surgery down the road?” と local の意味を医師が意図するより限定的に捉える人がいる。
      • Trauma – 医師が「外傷」の意味で使っていても患者さんはいわゆる日本語のトラウマとして捉えることがある。
      • Aggressive treatment/ Conservative treatment – これも医師と患者さんとで理解が食い違うことがある。

    • I will see you in two weeks v I’ll see you in two weeks → I will を I’ll に短縮しないと口語では権威的に聞こえてしまう。
    • I’ll see you in two weeks v We will see you in two weeks → Weは inpersonalなので I を使う方が良い(もちろん時と場合によるが)。

    Observed differences in UK practice identified by IMG focus group

    UK doctors are expected to:

    • Spend more time on explanation
    • try to persuade, rather than instruct patient
    • be less categorical in conveying diagnosis and treatment
    • be more confident about conveying uncertainty

    Source: Roberts and Atwell, Words in Action

    Examples of being less categorical in giving a diagnosis and treatment

    • Your headaches are caused by stress
      I wonder if your headaches might be caused by stress?
    • Further tests won’t help
      I’m not sure that further tests are going to help
    • You’re overweight, you should do more exercise and change your diet
      Have you thought about ways in which you could do more exercise or make changes in your diet to lose weight?
    • I will refer you for counselling
      What are your thoughts about trying some counselling?
    • You need to go to hospital now
      I think the safest thing would be to get you to the hospital as soon as possible

    このへんも働いていると自然と身に付く表現だし日本語とそう大差ないように思うのだが、インド人とパキスタン人の参加者によるとこのような表現を使うと患者さんの信頼を失うそうだ。

    Language of certainty and uncertainty

    Examples of language of certainty and uncertainty

    • It’s highly unlikely that this is cancer
    • The examination was completely normal
    • That condition is extremely rare
    • The referral will very probably take several months, unfortunately
    • It’s almost certainly a much less serious condition
    • I’m not entirely sure what’s causing this
    • Your increased blood pressure is possibly due to high levels of stress at work

    Language techniques that provide structure

    • Signposting language and transitions
      • So, let’s see what we can do about this.
        (indicate transition to mgmt. phase of consultation)
      • Just to recap, …
        (indicate you will summarise what has just been said)
      • Just a few questions about the medications you’re taking
    • Headlining with sentence starters
      • The likely cause of this is, …
      • The key thing to remember is, …
    • Rhetorical questions
      • So, what other options are there? Well, ….
    • Linking language
      • however / although / but
        (indicate a contrast between 2 ideas or points)

    勉強方法

    どれもNHSで働き出した頃から実践していることだったので拍子抜けして特にメモも取っていないが、

    1. 家事をしながらの聞き流し(ポッドキャストやニュースなど)
    2. 同僚が使っていた良い表現をメモして自分のものにする
    3. 英語での読書や映画鑑賞
    4. Lexical approach; コロケーションで覚える

    などが推奨されていた。ちなみに私の最近のお気に入り表現は “Barking up the wrong tree” と “bleak” (シフトの表現として)だ。イディオムが好きな同僚と働くと今でも新しい表現にいろいろ出会えて楽しい。

  • IMT2年目の2期目はIntensive Care Medicineをローテーションしている。日本だと ICU (=Intensive Care Unit) と呼ばれる病棟は、イギリスでは ITU(=Intensive Therapy Unit)と呼ばれることが多い。そろそろローテーションも終わりに近づいてきたので、経験したことをいくつか記録しておきたい。

    治療中止

    イギリスのITUで働いていると、生命維持装置の中断の現場によく出くわす。

    例えば、重大な脳出血でITUに入院した場合、脳死判定の要件を満たし、かつ臓器移植提供の対象にならない場合には、家族に神経学的予後が悪いことを説明した上で、家族立ち合いのもとで人工呼吸器のチューブを外す。大きな基礎疾患がなく臓器移植のドナーになれる可能性がある場合には、抜管前にSpecialist Nurses-Organ Donation (SNOD) と呼ばれる看護師が患者さんをレビューし、ドナーに適切と判断された場合のみ家族に承諾を得た上で手術室で抜管・臓器摘出をする。ちなみにイギリスの臓器提供は、数年前に法律が変わって以降、オプトアウトの方針となっているため、GPなどで明確に臓器移植をしたくない旨を記録しておかない限りは、基本的に全員が臓器移植ドナーの対象者である。

    脳死状態でなくとも、神経予後が悪い場合には、one-way extubationといって、そのままお看取りになる可能性も視野に抜管することがある。

    透析中止も抜管ほどではないが何例か見かけた。ITUで見かける透析中止は、多発外傷や急性膵炎などで急性腎不全となり突然透析が必要となった人たちのケースが多い。多臓器不全で腎臓だけ救ってもどうにも状況が改善しない、という場合に、すべての治療の中止の一環として透析を中止する。

    患者さんの既往や入院理由疾患によっては「Vasopressorのみ。挿管やNIVなし。CPRなし。透析なし。」というTEP (Treatment Escalation Plan) でITUにやってくる。ITUにいると、最初は昇圧剤のみでもどんどん自動的に治療がエスカレートしがちなので、それを防ぐためのTEPだ。

    NHSの一般病棟で働いていると、For Best Supportive Care と治療方針が変わったらその回診直後から症状緩和に関係のない薬は一気に中止するのが普通だが、ICUだとそこまで大胆な方針転換は気が引けるようで、例えば血液がんや臓器がんの治療や治療の副作用の治療のために入院している人の場合、最大限の治療から数日かけてゆるやかに薬を中断してゆくコンサルタントが多い。

    ドラッグ・アルコール

    私の住む地域の土地柄、ITUの1/4くらいは常にドラッグ・アルコール関連疾患による入院が占めている(アルコール関連疾患は当地に限らずイギリス中どこのITUでも結構多いと思う)。感染性心内膜炎、上部消化管出血、意図的な・意図しない違法ドラッグのオーバードース、重傷膵炎、Intoxicationによる外傷(喧嘩、転落、交通事故など様々)のほか、定まった住所がなく生活が安定せず適切な薬の内服が難しいために悪化した既往症での入院もそんなに珍しくない。

    オアシスのシガレット&アルコールという曲が私は好きで、You gotta make it happen!と自分を鼓舞するために日本にいた頃はよく聴いていたのだが、なんというか歌に出てくる状況の現実はとても悲惨だ。きっと私が病院で出会う人の何十倍、何百倍もの人がカジュアルなドラッグをやっていて特に問題なく生活していると思うのだが、カジュアルなドラッグからハードなドラッグまですべて地続きなので、ドラッグは手に出さないに越したことはないなと病院で働いているとしみじみと思う。

    ACCP

    Acute Critical Care Practitionerという職種がある。元々ITUで働くシニアナースがACCPになるための修士課程を卒業するとACCPになることができて、ACCPはほぼ医師のように働いている。処方もできるし、挿管やPICCライン挿入もできる。北の方にACCPのみで運営するITUができるらしいという記事を数年前に書いたが、小規模な・レベル2ケアくらいのところならACCPのみで仕事を回すのも十分に想像がつく。イギリスの医師は相変わらず実存の危機に陥っている…(これは現在進行形で起こっている5日間のストと関連づけていずれ記事を書こうと思う)。 

    Martha’s Rule

    確か去年くらいにできた、Martha’s ruleという規則がある。治療内容や患者さんの容態に懸念があって、かつ主チームが懸念を取りあってくれないと感じた場合に、患者さんや家族が直接の医療チームをスキップして別のチームにセカンドオピニオン目的に状況を相談できる制度で、当院ではITUコンサルタントおよびスタッフであるCCOT (Critical Care Outreach Team) ナースがこれを運用しているらしい。

    導入の背景には、マーサという少女が適切なエスカレーションを受けられずに亡くなった医療事故がある。かいつまんで話すと、マーサはイングランドの田舎で家族旅行をしていて、サイクリング中に転んでハンドルで胸部を強く打撲した。最初は近医で痛みどめ処方で帰宅となったが、マーサの様子がおかしいので夜間に両親はマーサを別の病院に連れていき、確かそこで外傷性膵炎の診断がついて、小児の膵炎ということで経過観察目的に専門センターであるロンドンのキングスカレッジ病院に搬送となった。数日後、腹痛の増悪や敗血症のサインがあり家族が再三にわたって医師や看護師に訴えたにもかかわらず対応されず、遅すぎるITUへのエスカレーションの末にマーサは亡くなってしまった。どうもこの病院のとある医師とITUは仲が悪く、この医師がITUに頭を下げたくないために患者さんをギリギリまで病棟に置いて粘るというのがよくあることだったようで、不幸にもマーサが亡くなる数日前に彼女を担当していたのがこの医師で、レジストラがマーサの病状について懸念を伝えたにもかかわらず無視した経過があるようだ。マーサの母はガーディアン上層部の仕事に就いているらしく、彼女の書いたガーディアンの記事が詳しいので、とても悲しい記事だが興味のある人は読んでみるといいと思う。

    いざマーサのルールの運用が始まって蓋を開けると、治療内容や容態悪化の懸念についての相談は極めて稀で、担当チームへの苦情が主なのでPALSのような働きをしているそうだ。ベッドの居心地が悪いと言っているのにベッドを替えてもらえない!という苦情には新しいマットレスを手配して対応するなど、仕事内容は当初予想していたより多岐に渡るらしい。

    こういう誰かの名前を冠した制度やmandatory training modulesはNHSにはいろいろあって、その一つ一つにこうして亡くなった患者さんがいる。

    Staff leaving abroad

    ここ数年、医師も看護師も海外へ移住するケースが相次いでいるらしい。私がきいた話では、コンサルタントは1名がカナダへ、もう1名がニュージーランドへ移住し、ナースは2名がカナダへ、1名がオーストラリアへ移住したらしい。とても親切で優しい私のお気に入りのシニアナースも、来年にはカナダへ移住することを決めているそうだし、別のシニアナースもボランティアとホリデーをかねてマダガスカルに1年ほど行くそうで、トレーニングを積んだスタッフの流出は止まらない。

  • 4日間のPASS PACESコースを受けてきた。

    PACESとは、Royal Colleges of Physiciansのメンバーシップ試験で、内科後期研修に進む前に合格しなければならない。試験には実際の患者さんが登場して、その人たちから病歴聴取をしたり、身体所見から疾患を推測してコンサルタントにプレゼンテーションをしたりする。

    ロンドンで有名なコースはPASS PACES と PACES AHEAD らしく、前者は指導医の厳格さ、後者はフレンドリーさで有名なようだ。こういう評判を知らずに、最近PACESに合格した友人に言われるままに私は前者に参加した。参加費は£1650と高額なのだが、トレーニング期間中の医師(F1, F2, IMT 1-3)はNHS Englandが全額負担してくれる。

    コース参加者は主にIMT(内科中期研修医)だったが、IMGで後期研修医同等ポストに就いている人たちや、外国からきている人たちがいた。シンガポールやオマーンやマルタといったコモンウェルズの国々では、PACESに合格してMRCPを取得することが箔付けになるのだと聞いた。ちなみにこれらの国々にはPACESと似たような試験があって、2人いる試験官の1人はイギリスから派遣されるらしい。

    毎日1.5-2時間ずつのスケジュールが組まれていて、100人ほどの参加者が6人ずつのグループに分けられ、6人全員で病歴聴取やコミュニケーションのステーションに参加したり、身体所見のステーションではそこからさらに2人ずつのチームに分かれて各患者さんのブースを5分ごとに回る感じで進んでいく。

    評判通り、コース代表はいかにもold school consultantsという感じの厳格な先生だった。服装に厳しく、かつては運動靴やチノパンを履いてきた参加者たちが近くのショッピングモールまで革靴を買いに走らされたり、家に追い返されたりしたらしい。また、以前は患者さんの前で “What’s wrong with him? Does he look normal to you?” と参加者を挑発したコンサルタントが患者さんの気分を害して、患者さんが二度と来てくれなくなったケースもあったそうで、こういうところもold school consultantという感じがする(ちなみにこのコンサルタントは解雇されてコースには来なくなったらしい)。身体診察のステーションの前には、講師自らが患者さんを前に身体所見の取り方を見せる時間があって、100人超で1人の患者さんを囲んで見つめるところが、ヴィクトリア朝時代の医学を彷彿とさせる、と一緒に参加したイギリス人の友達が話していた。

    この4日間はかなりのストレスを感じたが、勉強にはなった。恥ずかしながら今まで大動脈弁狭窄症以外のheart murmurを聴診できたことがなかったし聴診器のベル型も使ったことがなかったが、コース後は日常的に異常心音が聞こえるようになった。幸い仲良しの友達と、話したことのある同期と、それから8月にロンドンの病院へ移動した別の同期も同じ回に参加していて、ストレスがある中でも見知った存在があるのはありがたかった。

    身体所見は、これまで聞いたことがない症候群の患者さんや、変化球の所見をもつ患者さんがたくさんいた。PACESの患者役をしたことがある人もいて、この人が試験にやってきたら私は試験に落ちるだろうなあと思った。(試験では、症候群の名前を挙げる必要はなく、正しく所見を取って正しく言及することが大切なので、症候群は知らなくても良い。)変化球事例の例えを挙げると、私がプレゼンテーションをした、右側にthoracotomy scarがあるのに左肺底部で肺音がdullの患者さん。私はこの所見は正しく取れたのだが理由がわからないので自信がなかった。この自信のなさに負けて、目にみえる身体所見(right thoracotomy)に合わせて聴診所見を改変する(dullness in the right lower lobe)のがよくあるPACESの落とし穴らしい。実はこの患者さんは、食道がん→食道破裂の手術で緊急手術を受け、手術の合併症として左側の横隔膜がうまく機能せず、本来肺があるところに腸などの腹腔内臓器がめりこんでいるので、手術痕は右側だが肺の音は左側に異常所見がある。この人に会うまでは、thoracotomyは肺の手術…と思い込んでいたので、そうでない例が記憶に焼きついた。

    日本の医学部出身だと口頭試問があるケースは珍しいと思うので、第二言語の英語+ストレス下で口頭で質問に答える、というのがかなり大変だと思う(私はかなり大変に感じる)。コースに参加して、全然うまく答えられず恥ずかしい思いをして、それで覚えたことがたくさんあったので、必要以上に厳格に感じる講師たちのアプローチにはこういう意図があるのかもしれない。私の最終試問の講師はケンブリッジの病院に勤めている医師で、発音や立ち振る舞いがいかにオックスフォード/ケンブリッジの医師という感じで、ああ私は今イギリスで働いててイギリスの試験を受けるんだなあと感慨深かった。

    当面は日常の仕事の中で異常所見だけをピンポイントで集めながら、試験を控えている同期たちと身体所見をとる一連の流れの復習をしつつ、家ではフラッシュカードで口頭試問に備える、という形で練習しようと思う。試験の日程が決まったら、他の医師たちがやっているように病院中を所見を求めて歩き回る日々になりそうだ。


    2日目と4日目の後に同期たちと飲みにいって、4日目はマルタから参加していた人も加わり、マルタの医療事情を色々聞いた。マルタは小さな島国なので、マルタで働くと必ず近隣の国へのヘリ搬送の仕事があるらしい。医師同士は大体知り合いなのだそう。それからかなり厳格なカトリックの国なので、避妊方法を学校で教育せず、避妊方法もそんなに選択肢がなく、結果としてティーンエイジャーの妊娠がかなり多いそうだ。こういう国ではもちろん中絶はできないので、出産に至るのだが、ティーンで妊娠出産すると、村八分のような感じで地域社会から白い目で見られ後ろ指をさされながら生きていくことになるので、かなり大変らしい。

    あと彼女がぼやいていたのが、空港での滞在時間。マルタ語はアラビア語に似ているので(以前はイタリア語に似ていると聞いたのだが…)、女性一人で飛行機に乗ろうとするとテロリストだと思われて別室に連れて行かれることが結構あるのだそうだ。

    NHSイングランドは多国籍だがマルタ人はなかなか見かけないので面白い話が聞けた。

  • お知らせ:

    Noteを始めました。今後は段階的にブログをそちらへ移行する予定です。また、日本語話者の日英医師のためのグループをDiscordで作りました。現在のメンバーは、日本の医学部を卒業してGMC登録した医師、英国の医学部を卒業して英国で働く医師、日本の勤務を希望している医師などさまざまです。今後イギリスで働くことを検討されている方は、情報交換の場としてぜひご参加ください。

    MRCP PART2

    MRCP Part2に合格した。7月のは去年の10月に続く2度目の試験で、Part2のことがIMT1の間中ずっと頭の片隅にあったので結果にホッと一安心している。

    1度目の頃は毎月のように重症の風邪をひいていて勉強時間がほとんどなく、Pastestを1周もできないまま試験に臨んだ。今回は、試験前に2ヶ月ほどかけてPastestを1周したのち、間違えた問題だけもう1周、そして模試も2-3個ほど解くことで合格したので、1度目の頃も勉強時間と体力さえあれば合格したのにと悔やまれる。

    勉強方法はPart1と同じで、とりあえず間違えた問題・覚えるべきことを簡単に付箋に書いて、各科目終了のタイミングで付箋内容をノートに整理し必要に応じてそこに肉付けをした。付箋は持ち歩いて、通勤時や散歩中にちらちら見ることにしていた。ちなみに1度目のPart2では、間違えた内容はただひたすら間違えた順にノートに書いていた。

    1度目のPart2に落ちたのがショックで、NHS England公式の「試験勉強の仕方」というような講習に参加してみて感じたのは、この「付箋を自分でまとめ直す作業」が記憶の定着に一役買っていたことだった。Q bankをひたすら解くのは落ちる勉強法らしい。

    Part1に合格した人なら同じように勉強すればPart2は合格できるので、何だかここで無駄に足踏みしたように感じている。通常はPart1から半年以内にPart2を受けるのに(リンクする内容がある)、そこを1年も開けてしまったことも後悔している。残るは実技試験のPACESで、こちらは試験代も£750くらいと高額なので、一度で受かるよう万全の対策をして臨みたい。

    ストライキ

    7月の5日間にわたるストライキ以降、ストライキの話が全く出ておらず、スト賛成派はやきもきしている。たまにアップデートのメールが届くが、特に内容はない。一度のストライキ投票で結果が有効なのは6ヶ月なので、このままでは追加のストをしないまま期限が来てしまうと焦る声も増えてきた。

    今回のストでは話題にのぼった争点が複数あり、Full Pay Restorationをスローガンに一丸となって戦った前回とは雰囲気もだいぶ異なっている。

    例を挙げると、

    1. トレーニングのボトルネック:Foundation TrainingからCore Training, Core TrainingからHigher Speciality Trainingに入るためのボトルネックが年々悪化しており、若手医師が過度に競争的な環境に置かれている。これの改善策として、政府にトレーニングポストの増加を要求している。ここは誰もが同意するところだが…
    2. IMG制限の是非:上記を増悪させているのがIMGと言われていて、去年度に至ってはGMC登録したIMGがGMC登録したUKMG (UK Medical Graduate)を上回ったようだ。それで、IMGの数は今後制限すべき、UKMGを優先すべき、という声が大きい。
    3. IMG制限の方法に関する意見の相違:「NHSで2年働いたIMGはUKMGと同等に扱うべき」という人もいれば、「IMGは永遠にIMGである、あらゆるポストの分配はUKMGのあとだ」という人もいる。また少し脇道にそれた意見として「ILR(永住権みたいなもの)があればIMGでもUKMGと同等に扱うべき」という人もいる。BMA幹部内には2年の勤務でIMG=UKMGの意見が多いようで、実際に政府への提出案にもUK-grad prioritisationの要項に加えてgrandfathering of IMG(既存のIMGを保護しUK-gradと同等に扱う) & 2-year rule(2年働けばIMGはトレーニングジョブにUKMGと同じ基準で応募できる)が盛り込まれたのだが、ツイッターやRedditではIMGとUKMGは永遠に対等にはなり得ないという人が結構いて、かなり対立を生むトピックだ。
    4. UKMGのunemployment:今年のFY2の就活事情はかなり厳しく、トレーニング・ノントレーニングポストに就いたのは優秀なごく一握りで、残りはローカムで不安定な生活をしたりオーストラリアに移住したりしているようだ。そういう状況に置かれている人は、医師のFull Pay Restorationが達成されたところで自分はその恩恵に預かれないので、ストなんてどうでもいい・むしろ直近の収入がストによって減るならストはしたくない、という人もいた。
    5. IMGのMohitという医師が、自らBMA representativeの一人でありながら(=本来ならストを決起する立場)、ポイント3のIMGの扱いについてBMAが信用ならないとして、なんとストに反対票を投じるようIMGに呼びかけていた。私個人の感想を言うと、信頼できないのはBMAより政府なのだが…。

    こんな事情で、結局ストに賛成票が多数だったこともストが決行されたことも私は驚いたのだが、複雑な状況なのでおそらくなかなか次のストにも踏み切れないのだろう。

    労働環境

    ちなみに現在の医師の待遇だが、私の現在務める病院・診療科・レベル(SHO)では、週2-5勤務(シフト制)だ。8月に5%の賃金上昇があったほか、1度の勤務時間が9-12時間と長く時間外手当が多いので、私がNHSで働き出した頃の給料を思うと随分と貰えている気がするが、これでもインフレ上昇率には足りず、Full Pay Restorationには程遠いらしい。

    労働環境と待遇は病院によってまちまちのようで、今の病院はかなり良いので、冬の診療科以降は、たとえ一度の勤務時間が長く濃くてもその分しっかり休みがあってバーンアウトとは縁遠い生活をさせてもらえていてありがたく思う。