Apricot Jam
by an expert of the apricot grove
Tag: PACES
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NHS England主催のDeveloping English for Clinical Practiceというコースに先日参加した。このところ英語力が頭打ちだと感じており現状の打開策があればと思い参加したものの、目新しいことは特になかった。でも私がNHSで働いた3年半でなんとなく体得した英語が実はコミュニケーションを円滑にする上で大事な表現だと判明したので、ブログに記録しておきたい。 Adjusting language to context 言葉遣いは、Relationship, Level of imposition (high, medium, low), Sensitivity (personal, private), Level of urgency で決める。 日本語と同じでイギリス英語では、直接的な物言いは避ける: Making polite requests: Direct Polite / softened 1 I have to examine you now I’d like to examine you. Is that all right? 2 I will see you again in…
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4日間のPASS PACESコースを受けてきた。 PACESとは、Royal Colleges of Physiciansのメンバーシップ試験で、内科後期研修に進む前に合格しなければならない。試験には実際の患者さんが登場して、その人たちから病歴聴取をしたり、身体所見から疾患を推測してコンサルタントにプレゼンテーションをしたりする。 ロンドンで有名なコースはPASS PACES と PACES AHEAD らしく、前者は指導医の厳格さ、後者はフレンドリーさで有名なようだ。こういう評判を知らずに、最近PACESに合格した友人に言われるままに私は前者に参加した。参加費は£1650と高額なのだが、トレーニング期間中の医師(F1, F2, IMT 1-3)はNHS Englandが全額負担してくれる。 コース参加者は主にIMT(内科中期研修医)だったが、IMGで後期研修医同等ポストに就いている人たちや、外国からきている人たちがいた。シンガポールやオマーンやマルタといったコモンウェルズの国々では、PACESに合格してMRCPを取得することが箔付けになるのだと聞いた。ちなみにこれらの国々にはPACESと似たような試験があって、2人いる試験官の1人はイギリスから派遣されるらしい。 毎日1.5-2時間ずつのスケジュールが組まれていて、100人ほどの参加者が6人ずつのグループに分けられ、6人全員で病歴聴取やコミュニケーションのステーションに参加したり、身体所見のステーションではそこからさらに2人ずつのチームに分かれて各患者さんのブースを5分ごとに回る感じで進んでいく。 評判通り、コース代表はいかにもold school consultantsという感じの厳格な先生だった。服装に厳しく、かつては運動靴やチノパンを履いてきた参加者たちが近くのショッピングモールまで革靴を買いに走らされたり、家に追い返されたりしたらしい。また、以前は患者さんの前で “What’s wrong with him? Does he look normal to you?” と参加者を挑発したコンサルタントが患者さんの気分を害して、患者さんが二度と来てくれなくなったケースもあったそうで、こういうところもold school consultantという感じがする(ちなみにこのコンサルタントは解雇されてコースには来なくなったらしい)。身体診察のステーションの前には、講師自らが患者さんを前に身体所見の取り方を見せる時間があって、100人超で1人の患者さんを囲んで見つめるところが、ヴィクトリア朝時代の医学を彷彿とさせる、と一緒に参加したイギリス人の友達が話していた。 この4日間はかなりのストレスを感じたが、勉強にはなった。恥ずかしながら今まで大動脈弁狭窄症以外のheart murmurを聴診できたことがなかったし聴診器のベル型も使ったことがなかったが、コース後は日常的に異常心音が聞こえるようになった。幸い仲良しの友達と、話したことのある同期と、それから8月にロンドンの病院へ移動した別の同期も同じ回に参加していて、ストレスがある中でも見知った存在があるのはありがたかった。 身体所見は、これまで聞いたことがない症候群の患者さんや、変化球の所見をもつ患者さんがたくさんいた。PACESの患者役をしたことがある人もいて、この人が試験にやってきたら私は試験に落ちるだろうなあと思った。(試験では、症候群の名前を挙げる必要はなく、正しく所見を取って正しく言及することが大切なので、症候群は知らなくても良い。)変化球事例の例えを挙げると、私がプレゼンテーションをした、右側にthoracotomy scarがあるのに左肺底部で肺音がdullの患者さん。私はこの所見は正しく取れたのだが理由がわからないので自信がなかった。この自信のなさに負けて、目にみえる身体所見(right thoracotomy)に合わせて聴診所見を改変する(dullness in the right lower lobe)のがよくあるPACESの落とし穴らしい。実はこの患者さんは、食道がん→食道破裂の手術で緊急手術を受け、手術の合併症として左側の横隔膜がうまく機能せず、本来肺があるところに腸などの腹腔内臓器がめりこんでいるので、手術痕は右側だが肺の音は左側に異常所見がある。この人に会うまでは、thoracotomyは肺の手術…と思い込んでいたので、そうでない例が記憶に焼きついた。 日本の医学部出身だと口頭試問があるケースは珍しいと思うので、第二言語の英語+ストレス下で口頭で質問に答える、というのがかなり大変だと思う(私はかなり大変に感じる)。コースに参加して、全然うまく答えられず恥ずかしい思いをして、それで覚えたことがたくさんあったので、必要以上に厳格に感じる講師たちのアプローチにはこういう意図があるのかもしれない。私の最終試問の講師はケンブリッジの病院に勤めている医師で、発音や立ち振る舞いがいかにオックスフォード/ケンブリッジの医師という感じで、ああ私は今イギリスで働いててイギリスの試験を受けるんだなあと感慨深かった。 当面は日常の仕事の中で異常所見だけをピンポイントで集めながら、試験を控えている同期たちと身体所見をとる一連の流れの復習をしつつ、家ではフラッシュカードで口頭試問に備える、という形で練習しようと思う。試験の日程が決まったら、他の医師たちがやっているように病院中を所見を求めて歩き回る日々になりそうだ。 2日目と4日目の後に同期たちと飲みにいって、4日目はマルタから参加していた人も加わり、マルタの医療事情を色々聞いた。マルタは小さな島国なので、マルタで働くと必ず近隣の国へのヘリ搬送の仕事があるらしい。医師同士は大体知り合いなのだそう。それからかなり厳格なカトリックの国なので、避妊方法を学校で教育せず、避妊方法もそんなに選択肢がなく、結果としてティーンエイジャーの妊娠がかなり多いそうだ。こういう国ではもちろん中絶はできないので、出産に至るのだが、ティーンで妊娠出産すると、村八分のような感じで地域社会から白い目で見られ後ろ指をさされながら生きていくことになるので、かなり大変らしい。 あと彼女がぼやいていたのが、空港での滞在時間。マルタ語はアラビア語に似ているので(以前はイタリア語に似ていると聞いたのだが…)、女性一人で飛行機に乗ろうとするとテロリストだと思われて別室に連れて行かれることが結構あるのだそうだ。 NHSイングランドは多国籍だがマルタ人はなかなか見かけないので面白い話が聞けた。