9ヶ月目の日記

On-Call

久しぶりに内科On-callと内科の連続夜勤をしたので、あったこと・思ったことを書きたい。

スタッフ

「採血できない」という看護師が時々いる。トレーニングなどの問題でやってはいけないことになっているそうで、大抵の場合ローカムとしてバイトで派遣されている看護師なのだが、英国は看護師のコンピテンシーに関して非常に厳しいなと思う。産婦人科医の指示で退院後に再来院した16歳の女の子を、産婦人科医の指示通り外科の病棟に案内すると、「われわれは小児を看るトレーニングを受けていないので小児は看られない、小児の対応をすると免許を剥奪される」と受付の看護師がいうのでA&Eに連れて帰ったということもある(結局産婦人科医がA&Eまで降りてきて診察してくれた)。コンピテンシーを積んだ看護師は、処方したり自分の専門科外来を持っていたりする一方で、コンピテンシーの低い看護師は採血もできない(してはいけない)ので、一口に看護師と言っても仕事内容は全然違うように感じる。まあ医師もそうなので当然と言えば当然かもしれない。

性別に関わらずパートタイムで臨床をしている医師をよく見かける。最近話した人は臨床4割・アドミン業6割で仕事をしているレジで、アドミンの時間で病院の経営者会議に参加して提言するなどしているらしい。レセプトの話は英国にもあるようで(英国ではCodingというらしい)、例えば↓Kと書くと点数加算がないがHypokalaemiaと書くと加算がある、Dehydrationでは加算がないがAcute kidney injury on chronic kidney diseaseと書くと加算がある、など細かいことが全体の収入に影響するそうだ。

こう言っては悪いが年配のIMGsの先生たちをみているとPLAB2が現在のようになった経緯がわかる気がした。イギリスも昔は患者さんの気持ちを蔑ろにする医師が多かったようだが、英語が母語であるためか、英国人の中高年の医師に対してはひどいなあと思うことは今のところない一方で、IMGsの中高年の医師に対しては、その言い方・説明はないのではと思うことが時々ある。心配性の患者さんに腰椎穿刺するかどうかの決断を丸投げするとか、患者さんと医師であまり話が噛み合っていないとか。英語力が低いことに起因すると思われる舌足らずな説明もままあるので、私も気をつけようと思った。

患者さん

Kingのcoronationについて、患者さんの意見を色々耳にするのが興味深い。ある人は「私はダイアナが好きだから」とキングチャールズにdisapprovingなことを言っていたし、またある人は、せん妄のため、われわれがcoronationのためにそこにいると思っていて、「楽しみですね」みたいに適当なことを言う私に「別に…」と答えていてそれも面白かった。随分と正直だ。

救急科で一夜を明かした94歳の女性が「私が死んでないか人が確認に来るので全然眠れなかった。寝かしてくれないと本当にくたばってしまうよ。」と文句を言っていて確かになと笑ってしまった。この人は救急入院前に94年間で初めて転倒しただとか、洋服が多いけど最近少し足腰が弱って洋服箪笥の上の方の服に手が届かなくてお気に入りの服が着られないとか(救急外来でも淡い黄色のカーディガンに水色のワンピースを着ておしゃれな格好をしていた)、長く入院するなら来週誕生日のXに誕生日カードを送れるように人を遣わすから早めに教えてちょうだいとか、色々と生活のことを教えてくれて、楽しいpost-takeだった。

コーヒーとタバコで生きているという80代の独居男性も話せてよかった。何年も家族がケアラーを導入しようと頑張っているが、何しろ人を家に入れるのが嫌なので、コーヒーとタバコと身体に悪い食べ物だけで生きているらしい。

緩和ケア科

久しぶりに患者さんに会ったら「Dr Peeって呼ばれた」(コンサルタントの名前はPから始まる)とコンサルタントが嘆いていた。確かにDr Peeはちょっと嫌かもしれない。

死ぬことの受容の速さは人それぞれだけれど、若い人は特に死が受け入れられないのかなと思うことが何度かあった。特にこどもがいたり、将来の夢があったりすると死につつあるという現実の直視がとりわけ難しいのかもしれない。緩和ケアの看護師や医師が、そういう人がそれでも家族と大事な話をしたり一緒の時間が持てたりするよう強すぎず弱すぎない言い方でうまく誘導する様子はとても勉強になった。

訪問診療で4人の患者さんのおうちを訪ねることができたのもとても心に残っている。これから私が緩和ケア科にいる間は私一人でこの患者さんたちのおうちを訪ねることもあるようで、とても楽しみにしている。

とある患者さんが、新しいケアエージェンシーのケアラーが全然話してくれないので寂しいと嘆いていた。よくよく話を聞くと、話しかけてくれるけど聞き取れないから会話にならないのだそうだし、相手も患者さんの言うことをあまりわかっていないのだそう。英国でケアラーの仕事に就いている人はほとんどが移民のようで、ケアエージェンシーを変えてもケアラーのほとんどが移民なのでおそらく状況は変わらないと看護師が言っていて、気の毒に思った。

英語

A&Eの小児科で働いていた時に、私がIs this painful?などと言うと保護者が Does it sore?と表現を変えて子どもに聞いていることがよくあったので、いつの間にか私も子ども相手にはSoreを使うようにしていたのだが、どうも知的障害のある人にもPainよりSoreを使うほうが伝わるらしい。他にも、知的障害のある人にPainkillersと言うと、killersに気を取られてこわい思いをするので、Would you like something to stop hurting?などの表現を使うほうがいいそうで、こういうのも気にして診療するようにしたいなと思う。

Public Health Funeral:お葬式の費用が払えない人に代わって市が執り行うお葬式のこと。年末に亡くなった方のお葬式が5月に催されたと聞いた。

Load bearing certificate:太りすぎて1階(日本でいう2階)の部屋から出られなくなった人の部屋の床が少し歪んできているそうで、床がその人の体重を耐えうるのか確認が必要だという文脈で出てきた証明書。

Banter:the playful and friendly exchange of teasing remarks — 緩和ケア科ではよく耳にする。とある患者さんの運転について看護師が、運転はだめだとはっきりいった上で、患者さんの冗談に「私は隣町に住んでます。あなたが運転する日は私は安全のために運転しないようにするから電話してくれなくちゃ…」と冗談で返していた。

Bonkers:madやcrazyと同義。英国人はよくbonkers!と言っている。

Indoctrinated to drink coffee: とある科の高齢の英国人コンサルタントの元で働く英国人研修医が言っていた。コーヒーは好きでないのだが、コンサルタントの” Would you like some coffee?”に結構ですというと、少し歩いたところで振り返って “Are you sure you don’t want coffee?” としっかり目をみつめながら強めに聞かれるのでNoといえずにコーヒーをもらうことが彼の日常になっているらしい。上司に礼儀正しくするためにしぶしぶコーヒーを受け取ってしまうところが日本人の気弱さ(ステレオタイプ的な意味で)と重なって見える。

Homeopathic dose: フロセミド 40mg OD IVについて老年内科のコンサルタントがこう表現していた。フロセミド 40mg OD IV はホメオパチックドースではないと思うのだが、表現が面白かったので覚えている。

Neutropenicky sepsis: neutrophilsが0.6 x 109/L だった患者さんについてレジがこう表現していて、もちろん正式な表現ではないが面白いので覚えている。

Swiss-cheesy:複数の人的エラーが重なって起こった出来事についてレジがこう表現していて、もちろん正式な表現ではないが面白いので覚えている。ところでこのレジは、誰もが間違えるという文脈で説教されている時に” But the problem is… your hole is bigger than everyone else’s.”と言われたそうで、つい笑ってしまった。

CIBH = change in bowel habit

3cm x 4cm in cross and 10cm in length 腹部大動脈瘤の短径・長径をこう表現するのだと知った

Author: しら雲

An expert of the apricot grove

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